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ホセ・ジェイムズ X 黒田卓也 インタビュー
天賦の美声と圧倒的な歌唱力で国内外で絶大な人気を誇るシンガー、ホセ・ジェイムズ。ジャイルス・ピーターソンにその才能を認められ、独特のスモーキーな歌声とジャズの名曲の秀逸なカヴァーで一躍注目を浴びる。2013年には、NYの名門ジャズ・レーベル、ブルーノートから最新作となる『ノー・ビギニング・ノー・エンド』を発表。そして今作に参加し、ホセのバンド・メンバーとして活躍する気鋭トランぺッター、黒田卓也。世界が認めるテクニックと“ソウル”を持つ彼は、日本人初となるブルーノート契約を果たし、2月12日にホセ完全プロデュースの下制作されたアルバム『ライジング・サン』をリリースした。『ノー・ビギニング・ノー・エンド』を携えたワールド・ツアーのツアー・ファイナルで再び日本の地を訪れたジャズ界の未来を担う2人に話を訊いた。
とにかくスゴイ演奏で、圧倒された
アメイジングとしか言いようがないね―ホセ・ジェイムズ
??ホセの最新作『ノー・ビギニング・ノー・エンド』を携えたツアーを約1年ほど行っていますが、これまでのハイライトは?
ホセ・ジェイムズ:沢山ありすぎるよ。アムステルダムでロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と15,000人の前で演奏したのはアメイジングだったね。100人編成のオーケストラ。ロンドンも凄く良かったよね。
黒田卓也:そう。ロンドンは、XOYOとヴィレッジ・アンダーグラウンドで演奏した。
ホセ・ジェイムズ:後は、パリのソウル・ウィリアムズとやったショーも良かった。インディ・ザーラが一緒に歌ってくれて、アメイジングだったな。
黒田卓也:あぁ、そうだね。iTunesフェスティヴァルも。
??私も映像観ましたよ。
ホセ・ジェイムズ:あの時は、ピノも参加してくれたんだよね。とてもいいツアーになったと思ってる。色々な国に行きすぎて、記憶するのもままにならないくらいだよ。
??そして今夜はストリングが加わったスペシャル編成ということで。
ホセ・ジェイムズ:うん。とてもスペシャルなショーになるよ。
▲ 「Promise In Love feat. Jose James」 / DJ Mitsu the Beats
??では、少し遡り、2人の出会いについて教えてください。お互いのパフォーマンスを初めて観たのはいつ頃ですか?
ホセ・ジェイムズ:出会ったのは、NYにあるニュースクール大学のジャズ科。初めてタクが演奏をしているのを観たのは、彼が大学でロイ・ハーグローヴと一緒にプレイした時。とにかくスゴイ演奏で、圧倒された。アメイジングとしか言いようがないね。でも一緒に音楽を初めてやったのは、それから少し経ってから。DJ Mitsuのアルバムの為に「Promise In Love」を作ったんだ。君が僕を初めて観たのはいつだっけ?
黒田卓也:あのピアノ・プレイヤーの名前は何だっけ?リサイタルの。
ホセ・ジェイムズ:ノリ?
黒田卓也:そう、ノリだ。あの時が初めてだったね。
??因みに、場所は?
黒田卓也:同じくニュースクール大学。友人のリサイタルで、同じステージに上がったんだ。
ホセ・ジェイムズ:そうそう、いつも忘れちゃう(笑)。
リリース情報
ノー・ビギニング・ノー・エンド
来日記念デラックス・エディション
- ホセ・ジェイムズ
- 2013/12/04 RELEASE
- ユニバーサルミュージック
- [TYCJ-60022/3 定価:¥2,940(tax in.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
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Live Photo: Masanori Naruse
普通のジャズ・アルバムじゃつまらない
何か特別なものが作りたいと思っていた―黒田卓也
??ホセのアルバムに参加したり、一緒にツアーをしたりと、長年活動を共にしてきましたが、今回黒田さんの最新作『ライジング・サン』のプロデュースを手掛けたいと思ったきっかけは?
ホセ・ジェイムズ:彼が作る音楽、そして彼のバンドの大ファンなんだ。僕が思うに彼が作る音楽には、2つの異なるスタイルがあって、1つはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズぽいハード・ボップな、アグレッシヴでマスキュリンなトランペットのスタイル。そしてもう一つが、ロイ・ハーグローヴ、ディアンジェロを彷彿とさせるグルーヴィーなネオ・ソウルぽいスタイル。これまで彼が作ってきた作品は、ハード・ボップの要素が強いものが多かったから、ソウルよりの作品が聴いてみたいなと思ってね。だから、試してみようってタクに話したら、快諾してくれた。
??今回ホセが制作に加わったことにより、プロダクションの面がより細やかで、探究されているな、と感じました。
黒田卓也:そうだね。ツアー中に、ホセとベーシストのソロモンとどういうアルバムにしたいかという話をよくしてた。でも普通のジャズ・アルバムじゃつまらない。今は2013、2014年だし、何か特別なものが作りたいと思っていた。ただ演奏して、それを録音するだけではなくて。仕上がりには、とても満足しているよ。
??制作過程で、新たな発見や驚きはありましたか?
黒田卓也:どうかな?これまでと同じように曲を書いて、演奏したけど、ホセがプロデューサーを務めてくれたことで、自分のパートに集中できたというのはある。コントロール・ルームで色々指示してくれてたから。「休憩5分」とかね(笑)。
ホセ・ジェイムズ:僕が驚いたのは、曲を聴いた時だね。コンセプトについては話し合っていたし、ロイ・エアーズ、『ヴードゥー』、RHファクターだったり参照にするアーティストや作品、それとレコーディングに参加するバンドについても熟知していた。でも実際に曲がどんなものになるかは、まったく知らなかったから。
Live @ Billboard Live TOKYO / Photo: Masanori Naruse
▲ Trouble (Live from KCRW Los Angeles)
??それ以前から、曲は書いていたのですか?
黒田卓也:何曲か書いてたね。コンセプトが決まったのが、ツアーが始まる直前だったから、移動中の飛行機やホテル、ショーの合間にコンピューターで曲づくりをして、少しづつホセに聴いてもらって、意見を訊いたりしてた。
??ツアー中に曲づくりすることを嫌がるアーティストも多くいるので、その点スゴイじゃないですか。
黒田卓也:本当はしたくないけどね(笑)。
ホセ・ジェイムズ:その過程で、ロイ・エアーズの「グリーン・アンド・ゴールド」のカヴァーをやろうって決めたんだ。実は、あれがアルバムに入れようって最後に決めた曲でもある。スタンダードだし、ディアンジェロのアルバムには、いつも1曲カヴァーが入っているから、同じようにカヴァーを入れようって提案したんだ。それと「エヴリバディ・ラヴズ・ザ・サンシャイン」のカヴァーだね。
??ロイの曲をセレクトしたのは、2人にとって疑問の余地なくという感じだったのですか?
ホセ・ジェイムズ:うん。ロイはすっごくジャズなんだけど、ファンクでもあって、ソウルでもある。
黒田卓也:そうそう。
ホセ・ジェイムズ:僕にとって彼はこの3つの中心にいるんだ。
??ジャンルを超越している。
ホセ・ジェイムズ:その通りだよ!
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ノー・ビギニング・ノー・エンド
来日記念デラックス・エディション
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- 2013/12/04 RELEASE
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Live Photo: Masanori Naruse
ジャズだけじゃなくて、未来の音楽シーンが
こうあって欲しいという願いが感じ取れる―黒田卓也
??実際のレコーディングは、どれぐらいで行われたのですか?
黒田卓也:4日間ぐらいだね。
ホセ・ジェイムズ:プリプロダクションをかなり入念にやったからね。デモを作って、色々チェックしたり、アイディアを出しあったり。サウンド面においても、明確なヴィジョンがあった。ドラムのサンプルにアウトキャストの曲を使ったりしたね。一緒に沢山音楽も聞いたし。スタジオでは出来るだけそういうことはしないで、レコーディングに集中したいから。
??プロデューサーとしてのホセの仕事ぶりはどうでしたか?
ホセ・ジェイムズ:聞きたくないよ(笑)。
黒田卓也:プロデューサーを起用したのは今回初めてだから、正直何を求めたらいいのかわからなかった部分もある。これまでに自分のアルバムをセルフ・プロデュースした時は、参加するミュージシャン、予算、書き上げた作品の量、時間の制限だったり考えることがたくさんありすぎて、かなりクレイジーだった。1日でアルバムを作らなきゃいけないこともあったから、プレイバックを聴くことさえ出来なかったこともある。1曲3テイクづつ録って、10時間で10曲を仕上げたり。だから翌日に初めて聴いて、「あぁ、これイイね。」って具合だった。今回は、自分がやるべきことに集中できたね。自分が演奏する側だと、他のミュージシャンに指示することを忘れてしまうこともある。「ここは俺のソロで、次は君のソロ。」って順序を決めたり。自分でやる時は、成り行きに任せようって感じだったけど、ホセは「それじゃ、ダメだ。ここはタク、それからクリス、コーリー。」って。こういうのは実はとても重要で、時間が限られてるし、“新鮮味”が失われるから何度もやり直すことはしたくない。その点で、すごく助かったね。
??なによりも自分の演奏にも集中できますしね。
黒田卓也:その通り。だからこのアルバム以前のレコーディングのことはまったく記憶がないんだ(笑)。ホセには、スタジオに入る前に、明確な完成図のヴィジョンが見えていたけど、曲を書いたり、演奏したり、とにかく色々なことを頭に入れてないといけなかったから、自分にはそれがなかった。ディテールの部分を作っていると、完成図が見えなくてしまうことがあるから、その部分をホセがプロデューサーとして見てくれたのは素晴らしかった。プロセスが楽になったよね。
ホセ・ジェイムズ:まるでコーチのような存在だよね。彼が主役で。
Live @ Billboard Live TOKYO / Photo: Masanori Naruse
??アルバム・タイトルにもなっている“Rising Son”は、ホセが黒田さんにちなんで付けたものということですが、逆にホセのことはどう表現しますか?
黒田卓也:“ミスター・ヴァレンタイン”。
一同:(大笑)
??因みに、“ミスター・ヴァレンタイン”の今年の予定は?
ホセ・ジェイムズ:東京のみんなへ“愛”を送る予定だよ(笑)。
??晴れてレーベルメイトになりましたが、ブルーノートというレーベルが2人にとって意味するものは?元々前衛的なレーベルですが、時代の変化に柔軟で、新しいことをやろうという姿勢のアーティストを支援していますよね。
黒田卓也:素晴らしいと思うね。今回作ったアルバムも8割はオリジナル楽曲で、カヴァーは2曲だけ。それも単なるカヴァーじゃなくて、“生きてる”いいカヴァーだと思う。こう言う内容のアルバムを聴いて、ブルーノートが契約してくれたということから、彼らがジャズだけじゃなくて、未来の音楽シーンがこうあって欲しいという願いが感じ取れる。名を連ねることが出来て、とても光栄だね。この世代がまさに“ニューウェーヴ”で、その一員に自分がなるなんて思ってもいなかった。これまでもとても特別なレーベルだったけれど、今は過去以上にそうで、それはドン・ウォズのおかげだと思うね。日本でもそれが評価され始めていて、この新たな波が雑誌やインタビューでよく取り上げられている。まだまだ変わっていくと思うから、今後どのようになっていくか待ちきれないね。その新たな動きの一員になれて、本当に光栄だね。
ホセ・ジェイムズ:僕も彼と同じ考えだよ。ほぼ無名のアーティストと契約するという自身のルーツへブルーノートが戻っているのは、重要だと思う。セロニアス・モンクやコルトレーンだって、当時はあまり知られてなかった。今はレジェンドだけど。特定のNYのシーンでは名前が知れてたけど、その頃はインターネットもなかったし、今とは全然違うよね。これはどのブランドに関しても言えることだと思うけど、自身の強みを再認識することは大切だと思う。それはまさに今ブルーノートが、タクやグラスパーのアルバムもそうだし、一人ながらも様々なスタイルと持ち味があるアーティストを通じてやっていることだと感じるね。
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ノー・ビギニング・ノー・エンド
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ビリー・ホリデイの生誕100周年だから、
彼女の楽曲を歌うツアーを1年間やるんだ―ホセ・ジェイムズ
??そんな歴史あるブルーノートの膨大なカタログの中から、この1枚は外せないというものは?
黒田卓也:『ノー・ビギニング・ノー・エンド』日本盤のデラックス・エディション(笑)!
ホセ・ジェイムズ:あ~、難しいね。僕は、エリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』が一番好きかな。
黒田卓也:イイね~。リー・モーガンの『サイドワインダー』はブルーノートだっけ?
ホセ・ジェイムズ:そうだよ。
黒田卓也:それと、ハービー・ハンコックの…。
ホセ・ジェイムズ:『処女航海』?
黒田卓也:そう。『処女航海』。
ホセ・ジェイムズ:1枚だけ選ぶのは大変だよ(笑)。
黒田卓也:沢山あるすぎるね。
Live @ Billboard Live TOKYO / Photo: Masanori Naruse
▲ 「Yesterday I Had The Blues (The Music of Billie Holiday)」
??最後になりますが、お2人の今後の活動について教えてください。2人によるコラボは、今後も継続的に続きますよね。
ホセ・ジェイムズ:もちろん!ホリデイ・プロジェクトも控えてる。
??ホリデイ・プロジェクト?
ホセ・ジェイムズ:ビリー・ホリデイの生誕100周年だから、彼女の楽曲を歌うツアーを1年間やるんだ。
??おぉ、楽しみですね。そして黒田さんは、5月に再びビルボードライブに戻ってきてくれますね。
黒田卓也:そう、5月25日と27日にね。ビルボード・ファミリーだ(笑)。
??ホセとのツアーとは、また雰囲気が少し変わった感じで楽しみですね。
黒田卓也:昨日渋谷のタワーレコードでインストアがやったんだけど、いい反響だったね。
ホセ・ジェイムズ:うん、アメイジングだった。
黒田卓也:すごく楽しかったね。その時に話した人達もみんなライブに来てくれるみたいだから楽しみだよ。色々な国にライブをやって、アルバムを広めなきゃ。
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