この段階で逃げてたらどうしようもないと思っていた

－－昨年は多くの新人女性シンガーソングライターが登場した1年でもありましたが、他のアーティストに対して「負けてたまるか」的な感覚ってあったりしますか？

新山詩織：これが良いのか悪いのか分からないですけど……そこまで意識はしてないかもしれないです。あんまり張り合ったりするのが得意なほうではないから、それぞれがそれぞれに音楽をやっているというのが一番良いんじゃないかなって。

－－では、2013年、新山詩織にとってのデビューイヤーはどんな1年間になったなと感じていますか？

▲新山詩織「ゆれるユレル」ティザーMV（歌詞入・1コーラス・WEB限定）

新山詩織：ひとつひとつが全部濃くて……その中でいっぱい泣いたりもしたけど、ちょっとずつ新山詩織っていうものが広がっていった1年でもあったし、またいろいろチャレンジ精神が湧いてきた1年でもあったし、ひとまとめにするのは難しいんですけど……いろいろ「ダメだ、ダメだ」と言いながらもやってこれているから、これからはもっと一歩ずつでもいいから前へ行きたいなって思う。

－－こういう取材ひとつとっても、最初は必死でしたよね。きっと。

新山詩織：インタビューだと、自分の言葉でどんな想いで曲を作ったか、どんな想いで歌詞を書いたかって伝えなきゃいけないけど、自分の思っていることを人に話すっていうのが、自分にとって一番難しいことだったから。でも今まで何回もやってきて……「こんな風に話せば絶対相手は分かってくれるはずだ」っていうことを考えながら話すようになったり。あと、普段でも人と接するときに自分の殻に篭もって、カベ作って話すっていうことは少なくなったから……徐々にちゃんと変わってこれたと思うし。

－－デビューする前はこんな風に話すこと自体、自分の中ではとんでもないことだったの？

新山詩織：人前で何かを喋るとか、それまで自分からやろうと思ってなかったことだし……でもギターを持ってストリートライブもするようになって、何よりも音楽が自然に手を引っ張ってくれたのは大きいと思う。

－－学校との両立とかも大変だったのでは？

新山詩織：2012年12月12日に自分の顔が世に出たとき、翌日の学校はかなり怖かったり……でも行ったら行ったでみんなが見ている訳もなく、普通だったんですけど。でも今思うと、何よりも学校が一番苦手な……大きい存在だったんですけど、音楽と学校とってなったときに、逆に学校が自分を落ち着かせる場所になっていたのかなって。新しい友達もたくさんできたし。でも時間に限りがあるから、両立は大変で。授業中、ギターの練習がしたくてたまらなくなったり、「この時間に歌詞が書けたらいいんだけどなぁ」って思ったりしてました。

－－そのタイトな状況下で、正直逃げ出したくなるときもあった？

新山詩織：……何回もあった。

－－でもなんで逃げずに済んだんでしょう？

新山詩織：やっぱり音楽が好きだから。この段階で逃げてたらどうしようもないと思っていたし、自分で決めたことだから、好きな音楽を素直にやっていきたいなって思ったのが一番です。

－－デビュー当時と今、自分の中で変わったと思う部分ってあったりします？

新山詩織：ちょっとずつ良い意味で前向きになれたこと。ライブをたくさん重ねてきて、どうやったらもっとお客さんに私の曲を届けられるだろうか、興味を持ってもらえるだろうか。っていう意識もどんどん高まっていると思うし。多分、自分の知らないところでいろいろ切り替わって今に至ると思うんですけど…………すみません。上手く説明できなくて。

新山詩織にとっての学生生活「あってよかった」

－－いえいえ。では、デビューして音楽は自分の中でどんな存在になっていきましたか？

新山詩織：音楽は常に私の体の中にずっと流れているもので。多分、今、音楽がなかったら何もないと思うので。音楽があるから、私、今、ここにいると思うから。

－－では、デビューできて良かったなと思う？

新山詩織：うん。思います。

－－あと、12月14日 新潟県 三条市中央公民館大ホールにて開催された初ワンマンライブ【第13回青少年のためのコンサート】は、自分の中でどんなライブになりましたか？

新山詩織：本当にたくさんたくさんお客さんも来てくれて、新潟の三条市まで遠くから来てくれた人もいたし、私を知らない地元の人もたくさんいて、その中で初のワンマンで、今までで最長の時間でやるということもあって緊張したんですけど、すごく良い雰囲気の中でライブすることができたんです。それでもっとたくさんの人に新山詩織の曲を聴いていってもらいたいなと思えたし、4月に決まった高校卒業後のワンマンライブに向けて良い経験になったなって。いろいろ目標とか課題が出てきた1日でした。

－－そして2014年。新山詩織は間もなく高校を卒業します。どんな気分？

新山詩織：わりとちゃんと前を向いてます。

－－卒業をどんな風に捉えてます？

新山詩織：高校の卒業は、子供と大人の境と言ったらまだ早い気もするけど、皮を破っていく感じ。

－－新山さんにとっての学生時代はどんな時間だったんだろう？

新山詩織：……難しいな。

－－たしかに一重にどうこう言えないか。でも新山詩織の音楽の基礎となった時代ですよね。

新山詩織：なので、あってよかったと思います。すごく。あの学生時代がなかったらこんな風にもなってなかったし、何にもない、ただの、ひとりの女の子ってだけだったと思うから。

－－デビュー前のアンジェラ・アキさんが「アンジェラの歌詞って15才で止まってるよね」って某レコード会社の人に言われて、それに腹が立って日本語もめちゃくちゃ勉強して1年で100曲以上作ったっていう話があって、結果としてデビューへ繋がっていくんですけど、そうなると普通は「あの日、あの人がああ言ってくれたから、今は感謝してます」ってなるじゃないですか。でも彼女は「今も思い出すと腹が立って仕方ない！」って言うんですよ。

新山詩織：（笑）

－－その怒りが完全に消え去ることはないから戦っていける。そこで生まれた曲をずっと新鮮な気持ちで歌えるっていう話なんですけど、それって新山詩織の音楽の在り方にも通ずるものがあるんじゃないかと思って。

▲新山詩織「ドキュメンタリーフィルム・ダイジェスト"Road To Stage" Vol.2」

新山詩織：そうですね。中学の時にいろいろあったから、家に帰ってギターを持ったし、それで「だからさ」（新山詩織が人生で最初に作った曲）が生まれたし。全部繋がってる。

－－学生生活から離れても、変わらずに新山詩織らしい音楽は生まれていくと思う？

新山詩織：卒業して自分の心境が一転しても、きっと自分は自分のまま曲を作って届けていけると思います。

－－ちなみに前回のインタビューでは「早く大人になりたい。早くみんなでお酒を飲み交わしながら、いろんなことを深く語り合いたい」と言っていましたが、そういう意味では学生生活から卒業することは嬉しくもある？ まだお酒は呑めないけど（笑）。

新山詩織：物凄く嬉しい気持ちもあれば、今になると寂しい気持ちもあって。でもなんだかんだ言っても「いろんなことがこれからもっと出来る」と思うと、楽しみな気持ちが強いです。

自分は今まで泣いて泣いて泣いてばっかりで、でも……

▲新山詩織「今　ここにいる」MV

－－では、社会人になっていくことについてはどんな感慨を持っていますか？ もう学生だからという言い訳はできなくなったりしますけど。

新山詩織：今の時点ではもちろんまだ子供ではあるけど、何か失敗しちゃったときとか、大人になればなるほど見逃してもらえる訳でもなく、時間の使い方も完全にひとりで区切りながら活動していかなきゃいけないと思うと……逆にすごく精神力がつくというか。かなりいろんな失敗もするだろうし、それが重なる分、成功したときに嬉しいっていう気持ちももっと大きくなるだろうし。ちゃんと自分自身に力をつけてくれると思うから、早く大人になりたいとは前から思ってます。

－－今日ここまで話してくれてたことは、今回のシングル『今　ここにいる』に重なる部分もたくさんあると思うんですが。

新山詩織：もちろん繋がるところはあるんですけど、今回はCMタイアップの話（クラレ企業CM「髙梨沙羅 登場」篇タイアップソング/同CMは、女子スキージャンプ 髙梨沙羅選手の幼少期から現在に至るまでの写真/映像をもとに、未来へ向けて羽ばたくイメージで構成）をもらってから歌詞を書いていったんです。自分と同じ歳の女の子が世界を目指している。その彼女がスキージャンプで飛んだ後にコメントしている映像を観てたら、すべての言葉に芯が通っててすごく真っ直ぐだったんです。この人はもうひたすら前を向いて進んでいく。もっと高く飛ぶんだっていう確固たる意思をちゃんと持ってる人なんだなと思って。でも結果を出すまでには良いことも悪いことも重ね重ねだったと思うんです。

－－そんな彼女に想いを重ねたのが『今　ここにいる』であると？

新山詩織：今回、髙梨さんが飛ぶときの気持ちを書けないかなと思って。普通に自分が髙梨さんに歌を書くってなると、どうしてもただ上から「頑張れー」とか言ってるように聞こえちゃう気がして、だから自分が彼女の目線になって歌詞は書こうと決めたんです。ちょうど周りの子たちも受験だったり、自分と同じようにこれから前へ進んでいかなくちゃいけない人もいっぱいいると思うから、その人たちの支えにもちゃんとなるような歌詞にできたらいいなって。

－－一番伝えたかったことは？

新山詩織：自分は今まで泣いて泣いて泣いてばっかりで、でもどんなことがあっても絶対私は次に行くんだ！っていう気持ち。背中をぽんぽん押せるような曲になれたらいいなっていう想いもありました。ゆっくりでもいいから一緒に前へ進んでいってみようよって。

－－また、今作では、満を持して大好きなThe Birthdayをカバーしています。

新山詩織：自分がイチファンとしてずっと聴いていた「ピアノ」をカバーさせて頂いたんですけど、チバ（ユウスケ）さんにもちゃんと届くように歌おうと思ったのはもちろんで、やっぱりThe Birthdayファンもきっとどこかで引っ掛かって聴いてくれると思うし、そのときに原曲の世界観を壊さずに自分らしさが出ている「ピアノ」を聴いてもらいたくて。だからドキドキ感がいっぱいあって、それがバァ！って溢れたのか、歌もスッとうたえたと思うし、実現できてすごく良かったと思ってます。

－－そんなニューシングルから始まる新山詩織の2014年、どんな1年にしていきたいですか？

新山詩織：戸惑わずちゃんと挑戦していきたい。今年は目標も課題もいっぱいある年なので、それに向かってひたすら突き進んでいきたいです。

－－個人的には「だからさ」のような、少しヒリヒリするぐらい純度の濃い曲が好きなんですけど、そうした曲も歌っていきたいと思いますか？

新山詩織：それはきっと消えないと思います。

－－その為にももっともっとライブを重ねていく必要があると思うんですけど、自分ではどう思います？

新山詩織：まだライブでは行けてない地方もたくさんあるから、とにかくいろんなところでライブをしてみたいとは思ってます。それでまたいろんな人と繋がっていけたらいいなって。ライブハウスツアーが早く出来るように頑張りたいです。

－－で、ライブを重ねて重ねて、その結果、敬愛するチバユウスケさんから「なんか、すげぇ歌うたう女がいるな」って思われたら勝ちですよね。

新山詩織：…………ですね（笑）。