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蟲ふるう夜に 『ホウセキミライ/最果ての近い星』インタビュー
2013/12/14。まだブレイク前のインディーズバンドながらフェスを主催した“蟲ふるう夜に”というバンドの女性ボーカル 蟻が、自身のアクトで「本当に価値がないと思ってたの。……だけど、誰かと出逢って、やっと自分っていう物語のオープニングロールが流れたなって……思う瞬間があったんですよ。みんなにもあるよね?」と語り、涙を溢れさせながら歌い叫んでいた。
今時、誰かと出逢えて、人前でライブが出来る歓びを泣きながら表現するバンドマンも珍しいと思ったが、その一昔前の青春映画のワンシーンみたいなMCと、感情的過ぎる歌から一切の嘘を感じなかったことと、そこで披露された2つの新曲「ホウセキミライ」「最果ての近い星」に“世界を変えたい”という決死の覚悟を感じてしまったせいで、気付けばこっちも涙ぐんでしまっているという。かの命懸けだった青春時代を思い起こさせる、今時、よそではなかなか体験できない瞬間と遭遇してしまった。
以前、異端児アイドルグループ BiSのプー・ルイ、BiSや蟲ふるう夜にのサウンドプロデューサーである松隈ケンタ、そして彼らの三つ巴対談を組んだことはあったのだが、今回は蟲ふるう夜にが今の音楽シーンにおいて如何に稀有な存在であるかを示すべく、蟻への単独インタビューを企画。恋人たちが行き交うクリスマスの夜、渋谷某所で実現することになった。
成績表を偽装。ケンカは男女問わず。マイノリティな人生。
--メリークリスマス。満喫してますか、クリスマス。
蟻:結構イベントは好きなんで、昨日はラザニアを作りました。街中を行き交うカップルに対しては「爆ぜればいいのにな」って思いますけど(笑)。
--蟻さんはいつから屈折した女の子になっちゃったんですか?
蟻:屈折(笑)。子供の頃は純粋でしたよ。小学校のときに両親の離婚があって、そこで深い傷を負ったんでしょうね。おかげでちょっと強くなってしまったかもしれない。
--両親が離婚するまではどんな女の子だったの?
蟻:まず髪の毛がすごく長くて、腰ぐらいまで伸ばしてたんですよ。で、いつも絵を書いてて。人にそれを見せて喜んでもらえるのが好きで、絵本を書いたり。少し大人しめの女の子でしたね。女の子らしい女の子。母親の為に花を摘んだりもしてました。
--家族にはどんな風に育てられていたんでしょう?
蟻:勉強に関しては厳しかったです。成績表が5段階になってて、ひとつ上がると親からお小遣いもらえるシステムになってて。だから成績表の数字をカッターで表面だけ薄く剥がして、消しゴムで作ったハンコで“5”って押してました。それでお小遣いをもらう。
--犯罪じゃねーか!
蟻:(笑)
--さっき、屈折した理由を両親の離婚にしましたけど、その前から完成してるじゃないですか。
蟻:そういう偽装精神は結構強かったです。
--なんですか、偽装精神って(笑)。そんな蟻少女が音楽に興味を持つようになったきっかけは?
蟻:中学2年生のときに交通事故に遭ったんですよ。それで運転手がろっ骨を折って、大怪我で入院したんですね。私は無傷だったんですけど、車も大破してしまっていて。私、その車でドライブに行くのが大好きだったから……それでもし私が車だけでも治してあげられたら、その運転手が喜んだのかなと思って、それをきっかけに「あ、もう整備士になろう」って思ったんですよ。で、高校3年間、機械科で、39人の男の中、女子ひとりで過ごし。
--それもまたマイノリティな人生ですね。
蟻:でも高校3年の夏に「車のこと勉強してきたけど、自分がやりたいことなんだっけ?」って思ったんですよ。罪の意識でずっとやってたんじゃないかと。で、そのときに軽音楽部の部長をやってて、中学校もずっと合唱をやってたから「多分、歌がやりたいんだろうな」って気付いて。それで整備士になる夢を捨てて、歌をうたって食べていくことを目指し始めました。
--敬愛しているアーティストとかっているんですか?
蟻:それがいないんですよね。普段の生活の中で音楽を聴かないぐらいなんで。
--それで歌いたいと思ったって珍しいよね。
蟻:整備士もそうですけど、好きなものがやりたいことに繋がるとは限らないんだなって。車は物凄く大好きだったけど、車を洗車したり、修理したりすることは好きじゃない。で、音楽は歌うことに生き甲斐を感じるというか。好きとか楽しいっていうより、自分が生きてるっていう感じがするからやってる。
--そうして歌うことに魅了されていく一方で、格闘技もやっていたと。なんで始めようと?
蟻:男に負けることが嫌だったんですよね、ずっと。ずるいじゃないですか、男の子って。何にもしなくても女の子より力があるから。だから格闘技じゃなくてもよかったのかもしれないけど、そういう負けん気があったんでしょうね。
--一貫して“ナメられなくない”みたいな気持ちがある人なんですかね?
蟻:ずっとありますね、それは。ナメられるの、大っ嫌いですね(笑)。だから空手を始めて、柔道をやって、それで骨を折ったんですよ。で、キックを始めて、それは今もたまにやってるんですけど。体を動かすのは嫌いなんです。でもそれよりナメられなくない気持ちが勝つから。
--いわゆる不良とは違ったんですか?
蟻:自分は不良だとは思ってないんですけど。でもなんか、よく「怖い」って言われます。
--まぁ今の話聞いてるだけでも怖いからね(笑)。ちなみに何人ぐらいとケンカしたことあります?
蟻:ケンカは……結構……男女問わず。でも顔を見ればケンカ的なことではないんですよ。仲間を守りたい意識が強いんですよね。だから仲間を傷付けられたときに怒りのピークが来る。あと、自分が築き上げたものとか、作ってきたものが壊される……まぁ昔にそういうのが壊れた経験もあるから、多分怖いんでしょうね。もう壊したくない、みたいな気持ちが強くて。だから自分の周りを傷付けようとする者に対して攻撃的なのかも。
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Interviewer:平賀哲雄
腐女子への目覚め。世界一不幸な青春時代。価値のない自分。
--守る為か。ただ、そういうバイオレンスな一面もある一方で、あの萌えキャラのイラストセンスはいつ培ったんでしょう?
蟻:萌えキャラは……人を書くのが好きなんですよ。だから物も人にしちゃうんでしょうね。
--この蟻とバイオレンスな蟻って同一人物じゃないもんね。イメージが一致しない。「私は上手に描けてると思うんだけどなぁ!」ってセリフが出てくる感性も含め(笑)。
蟻:言ってもらいたかったんでしょうね。あの消しゴムの娘は、歌詞で物凄い行き詰まったときに生まれたんです。今回の新曲「ホウセキミライ」の歌詞についてプロデューサー(蟲ふるう夜にプロデューサーの蟲P)と殴り合いのケンカもして、それで消しゴムに「私は上手に描けてる(書けてる)と思うんだけどなぁ!」って言ってもらおうと。
--誰も言ってくれないから……
蟻:自分で生み出した(笑)。
--無駄に描いてる訳じゃなく、理由があって生まれてるキャラなんですね。
蟻:そうです。過去に殴り合いのケンカで怪我したとき(編集部注:実際は一方的に蟻が蟲Pを殴ったらしく、怪我したのは蟲Pだけだったそうです)に、絆創膏を擬人化させて「あなたは走り続けるのよ!」みたいな。だから言ってほしいんでしょうね。
--あと、この前の打ち上げで知りましたけど、蟻さんは腐女子的な要素も満載じゃないですか?
蟻:腐女子っていう言葉がよくないですよね。
--なんて言いましょう?
蟻:なんて言おう……赤裸々、キララ女子?
--(笑)
蟻:私は『幽遊白書』が大好きで、私の青春の半分を占めていたと言っていいほど好きだったので、サントラとか、キャラクターが歌ってる曲とか、そういうのを全部買い漁っていた時期があったんです。で、本屋に『幽遊白書アンソロジー』みたいな本が置いてあって。ファンとしては全部逃さず買いたいので、買ったんですよね。そしたら『幽遊白書』のキャラの男の子同士が……なんかちょっと絡み合い出した、みたいな。
--同人誌的なものだったんですね。
蟻:そうです。それでどんどんそっちの世界へ行っちゃった。面白いなと思って。で、それを部屋に隠しながら……いっぱい持ってたんで。
--男子がエロ本隠しているのと同じ(笑)。
蟻:そう。だから男の子がエロ本を隠す性質を理解できる。おそらく変態なんでしょうね。何か極められていくものが好きというか。
--自分を「変態なんでしょうね」って言う女性に初めて会った気がします。それにしても多面性が過ぎますね。バイオレンスでボーイズラブ。
蟻:(笑)。ひとつひとつへの拘りが強すぎて、多趣味すぎる。器用貧乏とかよく言われたりしますけど、何にでも興味があり過ぎて。ロックやってる人って若くして死にたいとか言うじゃないですか。そういう人たちが大嫌いなんですよ。私は100歳になっても200歳になっても自分のしたいことをしたい。だから足りないんですよね。宇宙にも行ってみたいし、たくさんのことを極めたくていつまでも生きていたい。おばあちゃんになってもやりたいことをやってたい。
--異様に好奇心が旺盛なんだ?
蟻:家からは出ないですけどね。
--家出ないと、いろんなことできないよ(笑)。
蟻:だから家の中ですることが多いかも。絵を描くこともそうだし、歌うこともそうだし、歌詞書くこともそうだし。あと、趣味で熱帯魚もずっと飼ってるんですけど。
--ずっと今の感じで生きていたい人ですか?
蟻:いや、変わらなくてもいいんですけど、研ぎ澄ましていきたいですね。磨かれた人になりたい。最近『バガボンド』を読んでて、宮本武蔵は刀で日本一になれるのに、敢えて田植えを始める。そういう人間としての研ぎ澄まされ方に「そうだなぁ」って思って。
--でも今の自分は、斬って斬って斬りまくって、敵じゃない奴も敵に見えちゃうぐらいの時期?
蟻:そうです(笑)。そうなる自分は蒼いんだろうなって思いながら生きてる。
--先日【MUSHIFEST 2013】で蟻さんは「本当に価値がないと思ってたの」と言いました。なぜそんな風に思ってしまっていたのか、教えてください。
蟻:生きてる意味がないって思ってたんですよね。
--それはいつ頃の話?
蟻:小学校高学年ぐらいから高校半ばぐらいまで、ずっと世界一不幸だと思っていました。ポイントポイントでいろんなことはあって、みんなのうのうと生きてるなって思ってましたね。自分しか見れてなかったんでしょうね。だから殻に閉じ篭もってたし、周りが見えてないから、自分に価値がないって思ってた。楽しいことがあっても、嬉しいことがあっても、自分の殻で弾き返したりとか、壊したりしてたんですよ。自業自得なんですけど、しんどかったです。折り合いつかなくて、毎日がストレスでした。凶暴だし、狂犬病になっちゃった小さい犬みたいな。
--そんな狂犬病女子が、どうやって自分に価値を見出すんでしょう?
蟻:東京に出てきてモノクロだと思ってた世界に「色が付いてるんだ?」っていう風に気付いたんです。過去を捨てれた気分になったんですよね。新しくやり直せるって気分になって、それでバンドも組めたし……蟲ふるう夜にをすぐ組んだんですけど、それが自分の言葉の吐き場所になってくれたんですよ。そしたら「あ、世界って色があったんだ?」って思えて、それから過去を振り返ってみたら過去にも色があったんだって、過去も許せた。
--今が変わったから過去も変わったと。
蟻:そうです。本当にそうなんです。
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Interviewer:平賀哲雄
土下座をしてでも聴いてほしい曲。悲鳴が聞こえてる。
--じゃあ、あの日に「誰かと出逢って、やっと自分っていう物語のオープニングロールが流れたなって……思う瞬間があったんですよ」と涙を浮かべながら言ってましたが、あれはバンドメンバーやスタッフのことだったりするの?
蟻:そうですね。まずメンバーと出逢えて、世界に色があったことに気付いて。蟲Pにも出逢えて、音楽の世界の広がりも見れたというか。「クソみたいな音楽しか転がってねぇ」みたいに思っていたけど違って、音楽の可能性とか、無限大に広がってる世界を見れた。
--蟻さんにとって、蟲ふるう夜にってどんな存在なんですか?
蟻:移動する家。家って帰る場所だから常にそこに在ってくれるじゃないですか。でも進み続けてる家、みたいな。一緒についてきてくれる。で、閉じ篭もりたいときに閉じ篭もれる。でもだんだん最近は窓の多い家になってきたなって。開けてきたというか、日射しが入るというか。だから自分がやってることも丸見え。前はそれを見せたくなかったから、窓なし!だったんですけど(笑)。
--空気も入れ換えられない状態だ。
蟻:そう、牢獄みたいな感じでした。その窓のない部屋に閉じこもるときって、みんなあるのかも。世界に対してどうしようもない。自分なんか存在しても世界は変わらない。そういうどこへも行けない時期が。ただ自分で窓を開いてないだけなんですけどね。私はその狭い部屋から出てうたえる歌、その部屋にいていいんだよっていうひとときの優しさをうたうんじゃなくて、出れたから何をうたえるかっていうのを最近は考えてます。
--蟲ふるう夜には、サウンドプロデューサーに松隈ケンタ(中川翔子、柴咲コウ、BiS等)を招聘した後、明らかに世に自分たちの音楽を刺しにいく意思が強くなったと思うんですが、自分ではどう思います?
蟻:そうなったと思います。私、昔からそうなんですけど、陰に陰に閉じ込めていくタイプなんですよね。だから光があったとしても「ここにあるよ、私にあるよ」って言ってるだけの存在だったのが、松隈さんとか蟲Pの手を借りて、外にいる人たちのところまで届けられるようになったと思います。
--その状況で、2014年元旦にiTunesで新曲「ホウセキミライ」と「最果ての近い星」を配信します。まず暗さや重さが売りの蟲ふるう夜にが「ホウセキミライ」を、「数年数十年叶わない 大きな夢が君を苦しめるけど その手を伸ばしてみて」と歌えた要因って何だと思います?
▲蟲ふるう夜に NEW SINGLE 「ホウセキミライ」+「最果ての近い星」
蟻:そこの部分のフレーズって実は一番最後に出てきて。ずっと歌詞に思い悩んでて、どう書いても自分じゃなかったんですよね。人に対して優しく言おうとしている自分だった。私、歌で嘘つきたくないんですよ。なのに自分から出てくる歌詞が嘘っぽいって思えちゃって。でも「大きな夢が君を苦しめるけど」っていうフレーズが生まれて、やっと自分の言葉だって思えたんですよね。なので、相当この曲では悩みました。悩んで、苦しんで、殴り合いのケンカをしたので……。
蟲P:言っておくけど、俺は殴ってないからね。
--蟲Pが一方的に殴られた?
蟻:あ、そうでしたね(笑)。喚き散らしながら、吐き散らしながら出てきた歌詞。楽曲も開かれた感じになってると思うんですけど、歌詞は実はいつもより等身大というか、自分に近くて。そういうところでバランスが自分の中で取れた曲になったと思うんですけど。
--少し照れ臭いかもしれませんが、蟻さんの夢って何なの?
蟻:私、ナイアガラの滝で歌いたいんですよ。バァー!って滝の音がして、鳥が飛びながら啼いてて、その自然と共鳴するというか、歌として乗っかるみたいなことを想像してて。それが一番の夢なんですけど、まぁそれはそれとして(笑)、私は守りたい気持ちがすごく強くて、被災地で置き去りにされた動物たちとか、飼い主がいなくなった動物たちとか、今も保健所で殺され続けている動物たちを救いたい。殺処分ゼロにしたいんです。人間の手で死なせたくないというか。なので、説得力のある人間になりたいんですよね。自分の世界だけで突き通していくのもひとつの正義なんですけど、よりたくさんの人に音として耳に届くもの。でも伝えたいことは曲げない歌を発信したい。だから土下座をできる勇気が欲しくて。それがある意味「ホウセキミライ」なのかもしれないんですけど、土下座をしてでも聴いてほしい曲。この曲は私たちにとって大事な曲になると確信しているので。
--で、その「ホウセキミライ」と対を成す、絶望が歌われる「最果ての近い星」なんですが、こちらはどんな背景や想いがあって生まれたものなんでしょう?
蟻:「リアルを知りたい どんなに悲劇でも」の“リアルを知りたい”っていう言葉が一番に思い浮かんで。今、この想いが自分の中ですごく大きいんですよね。いろんなことが隠されてるし、知りたくないことも多いじゃないですか。例えば、スーパーに並んでる牛肉や豚肉がどんな風に育てられて、どんな風に殺されて、自分の口に入っていくのか。誰も知りたくないし、そんなことをテレビで流したら誰も食べなくなっちゃう。そういうバランスで隠されてることってたくさんあると思うんですけど、私はリアルを知りたい。本当にそう思って書いたんですよね。
--なんでそう思ったんでしょうね?
蟻:ひとりひとりの悲鳴が聞こえてると思うんですよ。だけど、歌にしたり、ニュースで流したり、ラジオで言ったりしないと、そういうことしないと、たくさんの人にその悲鳴って届かない。だから私がいろんな世間体を気にして、気持ちを押し殺してしまったら、何も変わる気がしないなと思って。そういう使命感みたいなものが「最果ての近い星」を作る頃に生まれ始めたんですよ。使命感って凄くエゴだったりするじゃないですか。誰も頼んでないよっていう。その誰も頼んでないにずっと逃げてきたんですよ。でも逃げてばっかりじゃ、本当に何も変わらなくて。動いてぶつかって間違ってもいいから行動に移したり、口にすることをやっていこうと思ったんです。
--そんな両極の新曲「ホウセキミライ」と「最果ての近い星」。どんな風に世に響いたらいいなと思いますか?
蟻:極端にこのふたつの曲調が違うんですけど、でも言いたいことっていうか、中の人は変わらないんですよね。私のメッセージ。そこに気付いてもらえたらいいなと思います。どんな手法でも言いたいことを言ってるんだなって。私も昔、好きなアーティストがメジャーに行って売れセンを出したときは、本当にガッカリしたんですよ。
--まぁ「ホウセキミライ」に対してそう感じるコアファンはいるかもしれないですね。
蟻:その気持ちはすごく分かるんですけど、ガッカリする人がいるかもしれないって分かっていながらも、やらなきゃいけない意味。それを「最果ての近い星」と合わせて聴くことでみんなに伝わってくれたらなって思います。
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Interviewer:平賀哲雄
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