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永六輔×中村八大 「初夏の出会い」
1963年、坂本九さんが歌った「上を向いて歩こう」が「SUKIYAKI」としてビルボード・チャートで1位を獲得してから50年。
その記念すべき年である2013年に[ビルボード・ジャパン]は、その偉業を振り返りながら、時代を超えてつながる音楽を探るプロジェクトを様々な形で展開してきました。その締めくくりに作曲家である中村八大さんの息子さん、中村力丸さんが特別寄稿。ビートルズにもつながる音楽の出会いの物語です。
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1959年の初夏のある日、まだ作曲家としての実績は無かった父が、渡邊晋さんからチャンスをいただきました。映画用の新曲を8曲、翌日までに書きあげるようにと日比谷の渡辺プロダクションで打ち合わせを終えた父は、作詞のパートナーのあてもなく通りに出て交差点を渡ります。そこは有楽町の日劇の前、通りの向こうから歩いて来た永六輔さんとの出会いが待っていました。
半世紀以上も前のこの出会いの瞬間が、今では必然であったと感じられるのは、その後の二人が生み出した楽曲の内容や実績によるものだけではないと思います。作詞の経験の無かった永さんをその場で口説いて、「黒い花びら」や「黄昏のビギン」を含む楽曲を一晩で書きあげたことから、ソングライター・チームとしての「68コンビ」はスタートしています。戦中から戦後にかけて多感な時期を過ごし、自らの存在と可能性を表現の場に託すことを決意していた二人の若き情熱が、雑踏の中にあっても輝きとなり、お互いの気配を感じ取らせて引き寄せあった結果だったと強く思います。
それから2年後の1961年7月21日、第三回中村八大リサイタルにおいて「上を向いて歩こう」が誕生しています。歌ったのは当時19歳の坂本九さん。さらには2年後の1963年6月15日、米国ビルボード誌の総合チャートで「SUKIYAKI」として1位を獲得します。その1週間前、全米チャートで2位に上昇した日に、僕はこの世に生を受けました。その日、NHKのTV番組「夢であいましょう」では「上を向いて歩こう」の特集を生放送していました。
僕が小学校にあがった頃には当たり前のように、ラジオから洋楽曲が頻繁に流れていて、流行りの歌謡曲と同じように皆が口ずさんでいました。父の仕事柄、色々なアーティストのレコードやカセットテープが身近にありました。ぼくが小学校4年くらいに聴き出して、すぐに夢中になっていったのは、すでに解散をしていたビートルズでした。
父が持っていて聴かせてくれたビートルズのレコードは『ミート・ザ・ビートルズ』と『ラバー・ソウル』、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の3枚。当時はレコードの盤面が赤いことや、レーベル面にOdeonとあることの意味も、『ミート・ザ・ビートルズ』が日本で編集されたアルバムであることも、全く知らずにただただ聴いていました。当然ですが他のレコードも聴いてみたくなりました。何しろ高価なものだったので、誕生日やクリスマスのプレゼントにお願いしたり、小遣いをつぎ込んだりして揃えていきながら、彼らの総ての曲を聴ける日が来ることを楽しみにしていたものです。 中学そして高校と進むにつれて、街には多くの洋楽のヒット曲が流れ、来日アーティストも増えていきました。僕も随分とロックに深入りして、あれやこれやと聴くようになっていきました。でもビートルズはビートルズ、シングルのB面にしか収録されていない数曲以外は、一通りのバイオグラフィーが揃うようになっていました。
高校生活も終わろうとするとき、本屋さんで『ビートルズ・レポート』なる本を目にしました。1966年のビートルズ来日公演のルポルタージュの復刻版は、いささか生意気な気分で音楽に向かうようになっていた中途半端な高校生の興味を引くには十分でしたが、家に帰って読み始めるとやや手に余る内容であったことを覚えています。それでも読み進めているうちに、父の発言が音楽関係者のコメントとしてトップに掲載されていました。これには不意を突かれる思いでした。
「切符が手にはいったので、あまり気が進まないままに公演にでかけた。でも公演をきいて感動した。本当のものが確かにある。それでいまビートルズの音楽を分析しているところですが、作品は相当すごい。歌も常識とはかなり違っている。音楽も、ポピュラーとはいえ、教会音楽、それに長いヨーロッパ音楽の伝統が生かされ、非常に高度だと感じた。とくに最近の音楽は誰れにでもやれるというものはない。あの音楽は、楽しく陽気なものとはまったく逆のもの。深刻で本質的なものをもっている。(略)」(『ビートルズ・レポート』話の特集社)
当時、権威があるとされていたお歴々の方たちが、いかに安直にビートルズのことを捉えて蔑んでいたのかがよく判る記録の中で、このクールで深い分析は、僕の記憶に深く刻まれました。同じ頃でしたが、休み時間に同級生から突然、「お前の親父って凄いな」と声をかけられました。「昨日ラジオで『上を向いて歩こう』は昔の曲だけれど、なかなかイカシタ曲なんだって清志郎とCHABOが言ってたぜ!」
永さんと父の楽曲を巡る物語は、僕たちの日々の生活や希望から離れることなく現在も続いています。しかも国境を超え、習俗を超えて、多くの方々に歌われ、演奏していただいています。僕にも楽しいこと、悲しいこと、嬉しいこと、口惜しいことが沢山あって、で「出会いたいな」と願っていたような方々と出会うことが叶い、力をお借りしながら、物語に携わることが出来ています。
それは遠く初夏のリバプールの教会での出会いから始まったビートルズの物語にも通じる、音楽を縦糸にした若者たちの群像劇の香りを、それぞれの物語が生まれる瞬間に感じ取ることが出来るからだと思えるのです。
プロフィール
中村力丸 / Rikimaru Nakamura
1963年 中村八大の長男として東京に生まれる。音楽出版社勤務を経て、現在は多くの「68コンビ」の作品のプロモーション・管理を中心に、コンサート、音楽パッケージ,書籍等のプロデュースを手がけている。。
6×8 Song Book Vol.1~上を向いて歩こう~
2013/06/15 RELEASE
TOCT-29165 ¥ 2,934(税込)
Disc01
- 01.上を向いて歩こう~beyond the time~
- 02.SUKIYAKI
- 03.SUKIYAKI
- 04.黄昏のビギン (モノラル)
- 05.黄昏のビギン
- 06.黄昏のビギン
- 07.上を向いて歩こう
- 08.SUKIYAKI
- 09.遠くへ行きたい
- 10.遠くへ行きたい (モノラル)
- 11.遠くへ行きたい (モノラル)
- 12.上を向いて歩こう
- 13.上を向いて歩こう
- 14.上を向いて歩こう
- 15.夢であいましょう
- 16.夢であいましょう (モノラル)
- 17.上を向いて歩こう
- 18.上を向いて歩こう
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