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ナタリー・コール 来日記念特集
“忘れられない、どんなときも そして永遠に あなたは私のなかで生き続ける”
せつない言葉が甘いメロディに乗せて歌われる名曲「Unforgettable」。1951年にアーヴィング・ゴードンによって作られ、ナット・キング・コールの歌でヒットしたスタンダード・ナンバーだ。古き良きアメリカを感じさせるムーディーなこの曲は、古今東西様々な歌手によってカヴァーされている。しかし、その究極は彼女の愛娘ナタリー・コールによるものだろう。オリジナルの40年後である1991年に、レコーディング技術を結集して斬新なデュエット曲に蘇らせたのだ。すでによく知られていたとはいえ、さらに“Unforgettable”な名曲へと昇華させたナタリー・コール。もはや“父親の七光り”とは言わせない実力と風格を持つようになった稀代のシンガーに成長したといえる。ここでは来日公演を間近に控えた彼女の足跡を追ってみよう。
~ナタリー・コール 2014年来日公演~
日時:2014年3月5日(水)~8日(土) ビルボードライブ東京 ⇒詳細はこちら
1975年、デビューシングル「This Will Be」でグラミー受賞
ナタリー・コールは、1950年にロサンゼルスで生まれた。父はもちろん、ナット・キング・コール。母親はデューク・エリントン楽団の歌手として活躍したマリア・エリントン。両親がシンガーであれば、娘も自然と歌うようになるのは当然。コーラス・グループを組んだりしながら、幼い頃より歌手への道を歩んでいった。15歳の時に父親が亡くなったが、変わらず歌うことを続けていったという。
しかし、実際に本格的なデビューを果たしたのは1975年、25歳の時。アーシーなソウルを歌ったシングル「This Will Be」が、ビルボード・シングル・チャートで6位まで上昇するヒットを記録し、いきなりグラミー賞の最優秀女性R&Bヴォーカル・パフォーマンス賞と最優秀新人賞を獲得。この曲を含むファースト・アルバム『Inseparable』も大ヒットした。翌1976年にはセカンド・アルバム『Natalie』に収められたディスコ・タッチの「Mr. Melody」が東京音楽祭でグランプリを受賞。さらに1977年のサード・アルバム『Unpredictable』からカットされたブルージーなバラード・ナンバー「I've Got Love On My Mind」は、ビルボード・シングル・チャートで5位に輝いた。その後も『Thankful』(1977年)、『I Love You So』(1979年)とヒット・アルバムを連発する。
低迷期を経て、1988年「Pink Cadillac」で再び表舞台へ
しかし、一時の勢いは徐々に無くなり、80年代に入るとセールスも低迷。デビュー当時からのキャピトル・レコーズを離れるなど、レーベルも不安定になってしまう。『Don't Look Back』(1980年)、『Happy Love』(1981年)、『I'm Ready』(1983年)、『Dangerous』(1985年)と、ブラック・コンテンポラリー全盛期ならではの内容は今聴いても悪くはない。しかし、この80年代前半は身体が麻薬に蝕まれていき、おまけにデビュー当初よりサウンド面を支えてきた最愛の夫マーヴィン・ヤンシーが1985年に急逝するなどアクシデントが続いたこともあって、すっかり表舞台から遠のいた存在となってしまった。
再びナタリーに脚光が浴びたのは、1988年のこと。前年に発表したアルバム『Everlasting』に収められていたブルース・スプリングスティーンのカヴァー「Pink Cadillac」が、じわじわとチャートに上りスマッシュ・ヒット。エレクトリックな質感はそれまでのナタリーのイメージとは違ったが、それでも起死回生の一発としてはインパクトが大きかった。このヒットのおかげでアルバム自体もビルボードのR&Bチャートで8位まで上昇。さらに1989年のアルバム『Good To Be Back』からカットされた「Miss You Like Crazy」も全米で7位、UKでも2位という大ヒットを記録。日本でもたばこのCMに使われ、80年代を代表するバラードの名曲として長く愛され続けている。
1991年、偉大なる父へ捧げた名作『Unforgettable:With Love』を発表
▲「Unforgettable」-Live
[YouTube]
そして極めつけは、1991年のアルバム『Unforgettable:With Love』だ。亡き父親に捧げた本作では、プロデュースにトミー・リピューマやデヴィッド・フォスターを迎え、アレンジャーにミシェル・ルグラン、ジョニー・マンデル、マーティ・ペイチといったショー・ビジネスを支えてきたベテランたちが大集結。オーセンティックなサウンドに包み込まれた珠玉のジャズ・ヴォーカル・アルバムに仕上がっている。大きな話題を呼んだデュエット曲「Unforgettable」を筆頭に、「Mona Risa」や「Too Young」といった父親のレパートリーをふんだんにセレクトし歌い上げた。「Unforgettable」はグラミー賞で最優秀レコード賞と最優秀トラディショナル・ポップ・パフォーマンス賞、そしてアルバムは最優秀アルバム賞を獲得し、一躍トップスターの座に返り咲くことになる。
続く『Take A Look』(1993年)でもトミー・リピューマがプロデュースを手がけ、再びスタンダード・ナンバーに挑戦。前作に続きビルボード・ジャズ・チャートでは1位を記録し、その年のグラミーでは最優秀ジャズ・ヴォーカル・パフォーマンス賞を獲得した。『Stardust』(1996年)では再度ナット・キング・コールとのデュエットで「When I Fall in Love」を披露し、グラミーで最優秀ポップ・コラボレーション賞ヴォーカル部門を受賞。フィル・ラモーンがプロデュースしたポップ作『Snowfall On The Sahara』(1999年)、再びトミー・リピューマとタッグを組みジャズへ回帰した『Ask A Woman Who Knows』(2002年)、ダラス・オースティンのプロデュースのもとニール・ヤングやケイト・ブッシュなどを歌ったカヴァー・アルバム『Leavin'』(2006年)、そしてまたもや父親とのデュエット曲「Walkin' My Baby Back Home」を収めたスタンダード集『Still Unforgettable』(2008年)と、話題作を発表し続けてきた。
ジャンルを超越した数々のコラボレーション
▲José Carreras, Natalie Cole, Plácido Domingo「Amazing Grace」-Live
[YouTube]
ナタリー・コールは、「Unforgettable」のイメージが強いからかもしれないが、コラボレーションを得意とするシンガーでもある。グルーヴィーなソウルからジャジーなスタンダードまで歌える実力は、デュエット相手にとっては非常に魅力的なのだろう。1979年にはピーボ・ブライソンとのスウィートなデュエット・アルバム『We're The Best Of Friends』を発表しているし、三大テノールのうちの2人の歌手ホセ・カレーラスとプラシド・ドミンゴとともに1995年に行ったコンサートの実況盤『A Celebration Of Christmas』という異色作も存在する。
楽曲単位でいえば、父親のライバルでもあったフランク・シナトラとの「They Can't Take That Away From Me」(1993年、『Duets』収録)、カントリー歌手のリーバ・マッキンタイアとの「Since I Fell For You」(1994年、オムニバス・アルバム『Rhythm Country And Blues』収録)、ジェイムス・テイラーとのクリスマス・ソング「Baby, It's Cold Outside」(2006年、『James Taylor At Christmas』収録)、ウィル・アイ・アムがプロデュースを手がけたメイシー・グレイとの「Finally Made Me Happy」(2007年、『Big』収録)、ブラジルの巨匠セルジオ・メンデスとの「Somewhere In The Hills」(2008年、『Encanto』収録)、イタリアの人気歌手アンドレア・ボチェッリとの「The Christmas Song」(2009年、『My Christmas』収録)と、挙げるときりがないほど見事なコラボレーションを多数残している。
幅広い活躍で“Unforgettable”な存在へと
▲声優デビューを果たしたアニメ映画『キャッツ・ドント・ダンス』
[YouTube]
また、1997年にはアニメ映画『キャッツ・ドント・ダンス』で声優としてもデビューし、劇中でランディ・ニューマン作曲の挿入歌を歌っているほか、作曲家コール・ポーターの半生を描いた2004年の映画『五線譜のラブレター』でも1曲参加している。加えて、テレビドラマの『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』や『ザ・リアル・ハウスワイヴズ』シリーズではカメオ出演していたり、ラッパーのNasが「Unforgettable」をサンプリングしたナンバー「Can't Forget About You」(2007年)のヴィデオクリップにもちらっと登場するなど、その活躍ぶりはジャンルに捕われず幅広いのも特徴だ。
ナタリーは、今も果敢にチャレンジを続けている。2013年に発表した最新作『Natalie Cole En Español』は、なんと全編スペイン語によるもの。しかも、またも父親とのデュエット「Acércate Mas」を披露しているほか、ドミニカ共和国のスーパースターであるフアン・ルイス・ゲーラやトランペッターのクリス・ボッティなども参加し、彼女ならではのコラボレーションも充実した一作だ。ナット・キング・コールが亡くなったのは45歳の時だったが、ナタリーはその年令を超えてもなお、第一線で活躍し続けているのが頼もしい。もはや彼女の足跡は“Unforgettable”なものとして確固として存在し、今後も音楽ファンの心の中に生き続けていくことだろう。
text:栗本 斉
エスパニョール
2013/07/03 RELEASE
UCCV-1138 ¥ 2,724(税込)
Disc01
- 01.フレネシー
- 02.灯りを消して~あなたと
- 03.アセルカテ・マス
- 04.カーニヴァルの朝
- 05.ベサメ・ムーチョ
- 06.キサス,キサス,キサス
- 07.ただ一度だけ
- 08.オジェ・コモ・ヴァ~最後の夜~キエン・セラ~ヨ・キエロ・コンティゴ・バイラール~グアヒーラ feat.アーサー・ハンロン (メドレー)
- 09.アンド・アイ・ラヴ・ヒム feat.クリス・ボッティ
- 10.想いの届く日
- 11.薔薇のバチャータ
- 12.アマポーラ
- 13.ロンダの夜 (日本盤ボーナス・トラック)
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