武瑠くんの曲「愛おしさと、切なさと……心強さと（笑）」

▲私立恵比寿中学　『大人はわかってくれない』

たむらぱん：面白いなと思ってます。自分のものじゃないものを作れるのは楽しいし、それは自分のものに対してもすごくプラスになっていく。より何かになりきるっていうのは、すごく楽しめてるかな。

－－そのなりきり作業。アイドルの私立恵比寿中学は分かりやすいですが、武瑠くんの曲とかを作るときは、どういうなりきりを？

たむらぱん：武瑠くんの曲は、なんとなくファンの娘の気持ちになって書きましたね。武瑠くんは彼女たちにとっての王子様というか、ヒーローだから、そういう愛おしさと、切なさと……心強さと（笑）。

－－篠原涼子が出てきました（笑）。

たむらぱん：でもそういう感じで作ったところはありますね。あと、豊崎愛生さんのときは、彼女がステージでみんなに対して歌うっていうイメージで作ったり、トミタ栞さんのときは、tvk『sakusaku』でご一緒したときの印象＋表面だけじゃない部分の強さとか決意も含めて作ったり。

－－今挙げた人たちが全員集まるフェスとかアルバム、実現できたら面白いですよね。やってみたくないですか？

たむらぱん：やってみたいですね。本人たちの他の曲を聴きたいっていうのもあるけど、それぞれに「自分が手掛けた曲を披露してもらう」という統一テーマのあるイベントには興味があります。

－－たむらぱんプレゼンツ、もしくは“たむらぱんファミリー”と銘打って実現できたら、それで一気に広がりますよね。たむらぱんの存在って。

たむらぱん：私もそうですけど、みんなもほぼ繋がりがなさそうですよね。そういう人たちが一同に会すのは面白いと思う。

－－松平健、豊崎愛生、私立恵比寿中学、トミタ栞、浮気者、確実にファンは被ってないでしょうね（笑）。

たむらぱん：それぞれのファンの人たちが「たむらぱんって何なんだ？ 何なのか？」って方へ向かうのも面白いですよね。たむらぱんをどう解釈するのか。

－－ちなみに、新たにプロデュースやコラボレーションしてみたい人って誰かいたりしますか？

▲Mother Falcon - Dirty Summer

たむらぱん：まだ日本では有名じゃない外国の人たちなんですけど、Mother Falcon（マザー・ファルコン）。弦楽器メインの大所帯グループで、歌も一応入っている人たちなんですけど、初めて聴いたときにコラボレーションというか、私の曲をリアレンジしてみてほしいと感じました。あと、バンドをプロデュースしてみたい。各メンバーにフレーズとかも全部渡して、それを演奏してもらうっていうプロデュース。男バンドで、エフェクターが好きなバンドがいい。私は自分で演奏するのがそんなに好きじゃないので（笑）、演奏するのが好きな人たちに私が考えるフレーズを弾いてほしいんです。でも昔みたいに逃げちゃうとな……

－－逃げちゃう？

たむらぱん：昔、私が考えたフレーズを演奏させようとして、何人ものドラマーが逃げていったので。

－－それだけ無茶な演奏を強制したってことでしょ（笑）？

たむらぱん：だから最初は超支配力のあるプロデューサーみたいな人に立ってもらって、その人の権力だけお借りして、素材は私が提供する（笑）。

－－じゃあ、オーディションしますか。あ、でもオーディションから権力は居てくれたほうがいいですよね？

たむらぱん：そう。やっぱり権力が居てくれないといろいろ難しいし。

－－じゃあ、権力担当を探すところから始めないと（笑）。あと、逆にプロデュース業を生業としている人とコラボするのもアリですよね。小室哲哉とか中田ヤスタカとかヒャダインとか。

たむらぱん：たしかに。作り方も知りたいし、一緒に作る感じとか興味あります。ヒャダインさんを見る度に何か思うんですけど、歳も近いし、時代の知識の感覚っていうのは似てるかも。アニメの時代とか、世の中の流行的なものとか。

－－「たむらぱん的にヒャダインの楽曲構成って親近感湧いたりしません？」という質問を用意していたんですが、やっぱり気になりますか？

たむらぱん：うん。やっぱり凄いなって思うし、自分がまだ出来ない部分だなとも思うし。音の作り方とか、作業の速さとか。

最近のJ-POPシーン「踊ってる」「バンドメンバーが少ない」

▲でんぱ組.inc「W.W.D」

－－彼が手掛けてきたももクロとかでんぱ組.incの曲って、組曲的だったり、J-POPの限界への挑戦だったりするじゃないですか。その面で近しいのかなって。

たむらぱん：そうですね。歌の部分とかも“面白い”という部分をイメージしている人だなと思うし、エンターテインメント意識がちゃんと強い。そこは私も意識しているつもりなので、そういうところは勝手に親近感というか、良いところだなって思いますね。ちゃんとそこを理解してるからいろんな人の曲を手掛けてるんだろうし。あと、彼もすごく苦労してここまで来たんだなって……『情熱大陸』とか観ると（笑）。

－－たむらぱんが耳にしている範囲で、最近のJ-POPシーンにはどんな印象を持たれていたりしますか？

たむらぱん：えーっと……………みんな踊ってる（笑）。

－－なるほど。

たむらぱん：踊ってるものが多い。そういう人たちをメディアで目にする機会が多いのかな。

－－それは中島美嘉さんも言ってました。「最近の音楽シーンは、アイドルとか明るくて楽しい曲が求められている。でも私は自分が好きな切ない曲を歌っていきたい」って。あと、アイドルはもちろん、ゴールデンボンバーとかも分かり易い例ですよね。

たむらぱん：たしかに。あとは、バンドメンバーが少ない。昔はサザンとか米米CLUBとか、そういう大所帯のバンドが結構出てきていたけど、最近は3人とか、最小限でやってるイメージ。

－－それって不況だからですよね、きっと。バンドメンバーが多いと、一人当たりの稼ぎも減るし。

たむらぱん：多分そう、賄いきれないんだと思う。

－－あと、米米CLUBとかの時代に比べて子供が少ない。

たむらぱん：アハハ！ そもそもの話（笑）。

－－さて、さっきの話じゃないですが、各コラボでたむらぱんを知った人にも聴いてもらいたい、6枚目のオリジナルアルバム『love and pain』について。今回はどんな音楽を目指して制作していったんでしょうか？

たむらぱん：音を削ぎ落とした作品にしようっていう。前作の5枚目を作って以降、自分が好きな音楽は言葉が乗っている音、歌詞がある音楽なんだと気付いて。それに納得できた。だから今まで手をかけてきたアレンジに対しても、必要最低限にするイメージで作ったし、今回は“想い”のほうが強くて。本みたいな、読む音楽にしたかった。これまでの習性で、音と音の隙間に何かを落としたくなったりはしたんですけど（笑）その音の鳴っていないところの高揚感をすごく意識したり、常に“景色”っていうものを考えて。レコーディングのときも「この曲は神話で、だんだん魂が空に上がっていく」とか「これは大地の音で」とか、そういうノリ。各楽器も自然のものに当てはめて作ったんです。

－－『love and pain』というタイトルにしようと思ったのは？

たむらぱん：最近、人間のことばかり考えてて（笑）、今回のアルバムの曲を並べてみたら人間のことばかり言ってて。それで「love and pain」っていう楽曲ができたときに、世の中のものが基本的にすべて対になっているとしたら「人の対はこれ（love and pain）かな」って自分なりに思って。愛も痛みも両方ないと成り立たない。で、アートワークを海外の人と一緒にやったのも、自分が感じた「人は、愛と痛みだ」っていう感覚が、今日本にいる自分の状況だけで感じることじゃなくて、どの国でもどの人でも感じられるものだといいなと思って、それが共有できるのか確認する為に海外の人にも携わってもらったんですよね。

－－結果、どうだったんですか？

たむらぱん：私、歌詞がほとんど日本語だし、伝わらない部分もあったとは思うんですけど、それでも“love and pain”の意味はすごく理解してもらえて。私個人じゃなく誰もが共有できる感覚なんだと、確認できた。

－－昨晩、めちゃくちゃ寒い中でこのアルバム聴いていたんですけど、救われ感が過去最大級で。ド頭の表題曲「love and pain」から「だって愛なんだ 人間は愛なんだ そして人間が痛みなんだ 痛みと愛だ love and pain」って、もうジョン・レノンかたむらぱんかっていう。

▲love and pain / たむらぱん

たむらぱん：アハハハ！

－－ジョン・レノンとかが歌ってきたことに対する、たむらぱん……というか、2013年を生きる人たちからのアンサー的な意味合いもあるのかなって。

たむらぱん：しっかり説明すると大袈裟な話になっちゃうんですけど（笑）、私はあまのじゃくというか、「愛だ、愛だ」と言っていることに対して「じゃあ、何をもとにしてその愛が生まれているのか？」って疑問に思ったりして。それはただ単にひねくれた精神の表れでもあるかもしれないんですけど、でもやっぱり私は今まで自分が生きてきた中で“嫌なことを知っている人のほうが優しい”と思ったし、“辛いことあった人のほうが強い”と思ったし、そういう人のほうが信用できると思ったし。だから両方がきちんとなきゃいけない。痛みと愛を持ってなきゃいけないのかなって。

－－で、その曲の後に「くそったれ」っていうね。

たむらぱん：（笑）

－－「誰かに愛されることは 空の端を探すことみたいだけど 誰かを愛することは ありがとうさよならいつもするぐらいのこと」。しみじみそう思います。

たむらぱん：これも対というか、享受の形。自分から何かを発信しなきゃ、受けることもできないなと感じたりして。何かをされるよりも、するほうが行動的には絶対に早い。でもされるほうがラクだから……何もしないっていうのが“くそったれ”なんですよ（笑）。あと、この曲は、最後のアウトロのところで“ラララ”みたいな感じになるんですけど、私はあそこまで行ったときに「ヘイ・ジュード」しか思い浮かばなくって！ ああいうみんなで声を合わせている感じって、最後の最後に団結！みたいになるじゃないですか。本当に孤独なところから最後は浮上できるので、私も好きな作品です。

ひとつの到達を見る曲「これは神話。始まりか、終わりかの曲」

－－このアルバムって全体的に“しみじみそう思う”が多くて。そう思わせてもらえたことで涙が出たり、救われたりする。で、優しいんだけど、ジョン・レノンの「ラブ」的な重さもあって。到達してしまった感がありますよね？

たむらぱん：いろいろ考えちゃってどっぷりハマり込むと言うよりも、いろいろ考えちゃうことがだんだん面白くなってくるような（笑）。そういう到達感はあるかも。「ウケる」みたいな。だから怖さに向かっていったり、想いがどんどん閉じていくイメージではない。どちらかと言うと、蒸発？

－－浄化ですかね？

たむらぱん：あ、そっちかも。綺麗になるっていうかね。

－－で、昨夜、寒空の下で聴きながら最も泣けたのが「手が目が」で。曲の質感や方向性としては「ぼくの」に近しいと思うんですけど、後半の「きっと良かったんだろう きっと正しかったんだろう 間違いなんてなにもない 間違いなんてあるはずがない」の破壊力が凄くて。

▲ぼくの【short ver.】 / たむらぱん

たむらぱん：この曲はそこがポイントだと自分も思ってます。歌詞の雰囲気で言ったら、他の曲よりもシンプルだなと思ってるんですけど、何よりも核心はそのブリッジのところで。そこがこの曲のすべて。

－－これこそ“想い”メインですよね。本来のたむらぱんなら“間違いなんてなにもないかもしれない”と歌っているところを“間違いなんてあるはずがない”と言い聞かせている。

たむらぱん：自分に言い聞かせてますもんね。

－－後ろで鳴ってるサウンドエフェクト的なコーラス。あれを取り入れたセンスも凄いし。

たむらぱん：この曲は音に関して言ったら、怖いというか、空気の歪みに潰れてしまいそうなイメージはありますね。いろんなものが歪んでる。

－－で、アニメ『京騒戯画』主題歌としてリリースしたシングル曲「ココ」が全く別の曲として収録されていて。シングルでは完全にアニメソングのフォーマットに乗せておいて、こちらはかなりウェットなミディアムナンバーになっている。これは意図的ですよね？

▲テレビアニメ「京騒戯画」オープニングテーマ「ココ」

たむらぱん：アルバム自体がほぼほぼ完成していて、そのタイミングではシングルを出す予定がなかったんですけど、アニメのお話を頂いて、曲調は求められているものがあって。さらにはそれをアルバムにも入れる話になったので、最初はどっちにも行けない半端な曲を作ってたんですけど（笑）、シングルとは別バージョンを作ってもOKになったので、今回のアルバム用のサウンドとしての「ココ」も作ることにして。結果、同じ言葉を残したまま音がどう変わっても存在できる曲として成り立たせることができたかなって。

－－このアルバムのコンセプトに沿う曲へと変化しました。

たむらぱん：不思議なことに。自分の曲をリアレンジすること自体も初めてだったので、どうなることかと思ったんですけど、作業として新しい発見もありましたし、思い掛けずいろんなことを示してくれる曲になったなって。歌詞の内容も自分の存在感を問うようなものになっているので、今回のアルバムにも良い状態で収まったなと思います。

－－今作はこの「ココ」も含めて孤独感も半端ないですよね。ちゃんと独り。だから純度も高いし、独りで聴いている人の心を揺さぶると思うんですけど、自分ではどう思います？

たむらぱん：イチ人間っていうところばっかりをイメージしていたので、単体としての孤独感は常に感じられると思っていて。でも個人を感じれば感じるほど、やっぱり繋がりを求めたくなるんじゃないかとも思ったし、自分が一人でもあればあるほど二人っていうのをよりイメージする。そういう繋がり、広がりが出るといいなって。

－－「only lonely road」なんて「いつだって一人きり」って歌っちゃってますからね。しかも音が切ない、トム・ウェイツ的なフォークソングになってて。

たむらぱん：結局は一人で歩いていかなきゃいけない。それを繰り返していく。でも一人だと思っていた状態に意外と＋αがくっついていると気付いて。影とか音とか風とか、自分に触れるものっていうのは絶対にあって、本当に一人には成り得ないんじゃないか。っていうところをイメージしてる曲ですね。

－－そして最後に「やってくる」。このアルバムを嫌いな人は音楽が嫌いな人、そう断言できるぐらいの流れだと思います。自分ではどう思いますか？

たむらぱん：この曲は最後にしたいとずっと言っていたんです。何故ならみんなに願いとか祈りがどんどん重なっていって、ひとつの到達を見る曲なので。だから録るときもメンバーに「これは神話。始まりか、終わりかの曲なんだ」って伝えていて、要はそういう状況を切り取った曲なんですけど、本当に爆発できそうなギリギリの瞬間を最後に持ってきたかったんですよね。

－－SF大作映画を観終えた感覚になりました。

たむらぱん：崩壊か誕生か。光の中に生まれたのか、全部無くなったのか、どっちか。なんとなく登場人物がふたりいる感じなんですけど、それはアダムとイヴでって思ってたりとか（笑）。

－－ACIDMANにインタビューしているみたいです（笑）。

たむらぱん：で、1曲目「love and pain」の冒頭に出てくる“十階”って、私の中ではモーセの“十戒”なんですよ。人の戒められる状態から始まり、最後は神話へ繋がっていく。

－－でもちゃんと今の話ですよね。十戒も神話も現実世界への歌として昇華されている。だから決して難しくはないんです。やっぱりしみじみよく分かるアルバムになっている。

たむらぱん：たしかに。

－－ただ、気になるのがこれだけの作品を創っちゃって、次はどうするんだ？っていう。

たむらぱん：そうなんですよね。それこそ画期的なことで言ったら、自分のバンドを組むとかなんだろうけど、別にそんなにやりたくないし、コラボレーションも機会があればやりたいけど、すごくそこに興奮して求めている訳でもないし、なんですかね……。ギターを弾けるようになるとか（笑）？

－－そんなひとつの到達点『love and pain』。どんな人に聴いてほしいですか？

たむらぱん：人間だったら誰でも聴いてほしい。

一同：（爆笑）

－－でもそういうアルバムですもんね。

たむらぱん：そういうアルバムなんです。