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クラレンス・カーター 来日インタビュー
アラバマ州モンゴメリー出身の盲目のソウル・シンガー&ギタリスト、クラレンス・カーター。60年代初頭より音楽活動をスタートさせ、グラミー賞ベストR&Bソングを受賞した「パッチズ」をはじめ、「スリップ・アウェイ 」、「トゥー・ウィーク・トゥ・ファイト」、「バック・ドア・サンタ」など数々の名曲を生み出してきた。のちにRUN D.M.Cが「バック・ドア・サンタ」がサンプリングするなど、その普遍的な作品は現代のアーティストにも多大なる影響を与えて続けている。27年ぶりの来日を果たしたチャーミングな御年77歳のソウル界の至宝が、同行していたジョイス夫人が見守る中、自身の過去や現在の音楽業界などを自由奔放でユーモアたっぷりに語ってくれた。
マッスル・ショールズで確立された音楽のスタイルは
現代の音楽にとても大きな影響を与えている
??まずは音楽的なバックグラウンドについてお聞きしたいのですが、学生時代は音楽を専攻していたそうですね。
クラレンス・カーター:そうなんだ。様々なアーティストの音楽を聴く機会を与えられたから、もちろんそれは私が演奏している音楽を形成するのに役立った。特にブルースをよく聴いていて、レイ・チャールズには多大なる影響を受けたし、アレサ・フランクリン、ジミー・リードなど40~50年代ぐらいに活躍していたアーティストの楽曲を聴いたね。彼らから学んだことは、とても多かった。
??卒業後は、クラレンス&カルヴィンというデュオで活躍してましたね。解散後ソロ・アーティストとしてFAMEからリリースしましたが、FAMEの第一印象というのは?
クラレンス:そう。60年代中盤にFAMEからリリースして、その後アトランティックと契約をしたんだ。私はアラバマ出身で、FAMEもアラバマを拠点としていた。リリースが決まった時に、彼らを訪れ、働いている人々と会ってみたら、自然と気があった。音楽に対する情熱も感じとれたし、それと同時にビジネス面でも長けていた。彼らも私の才能を評価してくれていたから、とてもいい関係性を築けた。お互いにとって申し分ないパートナーシップだった、と感じているよ。
▲ 「Muscle Shoals」Official Trailer
??そのFAMEが拠点としたアラバマ州マッスル・ショールズを題材とした今年リリースされたドキュメンタリー『Muscle Shoals』にも出演なさっていましたが、当時のことを振り返ってみていかがでしたか?
クラレンス:歳をとるにつれて、学ぶことも多いし、忘れてしまうことも沢山あるから、「1965年には何をしてたんだろう?」と、ちょっと思い出すのが辛いと思ったこともあったけれど…(笑)、とても貴重な経験になったと思うね。私以外にも、素晴らしいアーティストが大勢出演しているから是非観てもらいたい。アメリカでは、10月頃にリリースになったと思うよ。
??FAMEでレコーディングされたクラレンスの楽曲のコンピレーションなどはロング・セールスを続けていますが、長く愛され続ける理由は何だと思いますか?
クラレンス:マッスル・ショールズで確立された音楽のスタイルは、現代の音楽にとても大きな影響を与えている。その影響は、今作られている音楽にも明確に表れている。もし、あの場所がなかったとしたら、今聴かれている音楽はまったく違うものになっていたと思うね。
リリース情報
Live Photo: Masanori Naruse
実はレコーディングの時に、曲を全く憶えていなくて、
耳元で詞を囁いてもらわなければならなかったんだ(笑)
??50年以上音楽活動を続けてきて、数々の名盤をリリースしてきましたが…
クラレンス:そう!まだ50年は頑張れるよ(笑)!
??(笑)。中でも、一番思い出深いレコーディングについて教えてください。
クラレンス:やっぱり一番最初にスタジオで行ったセッションだね。いい物になるか、ならないか…まだ経験のないことだったので、どうなるか見当もつかなくて、とても心配していたんだ。でも実際にスタジオに入って、セッションが終了し、みんなが音源を気に入ってくれたら、一気に安心したね。その時は、自分がしたことの何が良かったのかも分からなかった。でもみんなが気に入ってくれたから、素質はあるんじゃないか、って自信に繋がったんだ(笑)。
??では、思い出深いライブは?
クラレンス:もうライブをやりすぎてて、境目が分からないような状態だけど…まぁ、今は昔ほどは演奏していないけれど。何故かと言うと、昔は様々な国を訪れるのが楽しかったんだ。もちろん、今でもキャリアを重ねていきたいという想いがあるから演奏はしているし、ライブをすることが楽しいとも思っている。昔は、車で何キロも何キロも運転してツアーを行ったけど…。
??特にアメリカではそうですよね。
クラレンス:うん。今は飛行機でブーンとちょっと飛べば、すぐに着いてしまうからね(笑)!
??ライブと言えば、数々の名曲がある中、やはり「スリップ・アウェイ 」や「パッチズ」は外せないですよね。
クラレンス:「パッチズ」について面白い話をしてあげよう。実はレコーディングの時に、曲を全く憶えていなくて、耳元で詞を囁いてもらわなければならなかったんだ(笑)。そのことだけ鮮明に記憶しているのは、曲を憶えずにレコーディングしたのが、それが最初で最後だったからだ。なんせ、曲について教えてもらった10分後に、すぐレコーディングを始めたんだよ(笑)!事前に聴いたこともなくて、その時が本当に初めてで、詞もその時に誰かが読んでくれた。あれには、たまげたね。
??わぁ!そうだったんですね。ちなみに何テイクぐらい行ったのですか?
クラレンス:それでも、3テイクぐらいしか録っていないんだ。スゴイ話だよね。自分でもどうやったのか、不思議なぐらいさ!でも短時間で曲を習得できたのは、私の人生についてではないが、普遍的な魅力を持っていて、誰もが共感できるものだったからだと思うね。
??では、話を戻して…「パッチズ」は、ライブでは必ず演奏している曲で、ファンからもとても支持されていますよね。
クラレンス:そうだね。今年の3月ぐらいに故郷のアトランタで賞を貰った際に、とても不思議な感覚に陥った。というのは、その時にある女性が、まるで詩のように曲の歌詞を読み上げたのだが、一つのストーリーとして聞いたら、演奏されたものよりも素晴らしく感じたんだ(笑)。それが、あの曲の魅力なんだ。誰もが共感できる詞。私の存在が後世に伝えられる時に、名前が挙がり、みんなの記憶の残るのがこの曲だと思っているよ。だからと言って演奏する度に感情的になったりすることはないね。ショーの一部であると認識しているから。昔は、毎回演奏する度に詞について考えながら歌っていたけれど、もう何百回、何千回と演奏しているからね。
ある時イギリスでこの曲を演奏したことがあって…その頃は当て振りすることが許されなかったから、バッキングを務めたフル・オーケストラと歌わねばならなかった。でもヘッドフォンの具合でまったくオーケストラの音が聴こえなくてね…。とても興味深かったのが、オーケストラが別の部屋にいたということ。それでも曲を熟知していたから、きちんと歌うことが可能だったんだ。
??時が培ってくれた経験ゆえに、と言う感じですかね。
クラレンス:本当にそうだよ。いつもはギターを手にしているけれど、その時はオーケストラがすべて演奏してくれたから何も持たなくて良かった。急に手持無沙汰になってしまったから、その点もいつもと違って不思議だったね。
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Live Photo: Masanori Naruse
この5年間の内に、私が聴いて育った音楽が
カムバックを果たすと信じているよ
??ではデビュー当時からアーティストとして貫いている信念やその頃から変わっていないことはありますか?
クラレンス:音楽について学ぶべきことを身につけ、自分のスタイルを確立し、ヒット曲を何曲かリリースしていた頃、私は既に30歳だった。20~22歳ぐらいでデビューしていたアーティストに比べ、人生経験がいくらかあったから、ツアーをし始めた時には、自分なりの信念を持っていた。自分の目的を明確にし、しなくてはならないことをきちんとする。時間に遅れたり、ドラッグは絶対にやらない。特にドラッグには全く手を付けてないね。でも、それはそれを理解するだけの人生経験があったからなんだと思う。
??常に目まぐるしい変化を常に遂げているシーンの中で、音楽的にも断固としたスタンスを貫いていますよね。
クラレンス:その時に流行っているものによって、コード進行、詞、メロディなど…様々な要素に影響を及ぼし、変化していく。でも私は60年代からやってきたことを、今でもずっと続け、それなりにうまくやっていると思っている。急に私がラップをし始めたら、どう考えても変だろう(大笑)?
??確かにそうですよね(笑)。最近の音楽は聴いたりするのですか?
クラレンス:う~ん。あまり聴かないかな。何故かと言うと、私が暮らしているアトランタでは難しくてね。ラジオでかかっているのも昔の音楽ばかりで、あまりそのような機会自体がないんだ。だからアトランタの人々は、最近の音楽をダウンロードして聴いていることが多いみたいだね。
??クラレンス自身は、音楽をダウンロードするのですか?
クラレンス:うん、するよ。最初の頃は、私が幼い頃に聴いていた古い曲をiTunesからダウンロードして聴いていたね。最近では、ダウンロードはしないが、今の若いアーティストがどのような音楽を作っているのか試聴しているよ。
??興味深いですね~。ちなみに感想は?
クラレンス:悲しい曲が多いという印象だね…。アップテンポなものが少なくて、泣きそうになりながら歌っている。よく妻と、このアーティストは泣きすぎだから、「次の曲に!」なんて言いながら聴いているよ(笑)。
??近年では、ブルースやフォークなどに影響を受けた若いアーティストも増えていて、このようなジャンルの音楽にも再び焦点があたっていますよね。
クラレンス:そうだね。音楽のトレンドにはサイクルがあって、70年代中盤~80年代中盤にかけてディスコが流行って、一世風靡したけれど、ブームが終わると、レコード会社はその担当部門などを早急に閉めた(笑)。君が言うように、ブルースなどを再び聴く人が増えたことは喜ばしいことだ。この5年間の内に、私が聴いて育った音楽がカムバックを果たすと信じているよ。
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Live Photo: Masanori Naruse
次の来日はまた27年後になるよ!その時、私は104歳だ
??そして今回のビルボードライブでの公演は、27年ぶりの日本でのライブということですね。
クラレンス:そうなんだ。前回来た時に何を演奏したか、思い出そうとしたが無謀だったよ(笑)。
??逆に記憶していたら、凄いですよ!27年前だと、私はまだ赤ちゃんでしたよ。
クラレンス:ワハハ!そうなんだね。実は同じようなことが、昨年南アフリカのヨハネスブルグに行った時にもあったんだ。その前に訪れたのは、確か84年だった。だから昨年行ったライブを観に来てくれていた観客はほとんど生まれてなかったが、彼らの親の世代の人々に私の音楽について聞いていたそうだ。その時に私がTVインタビューを受けた女性は、以前訪れた時にライブを観に来たかったそうだが、幼かったので母親に許してもらえなかったという話をしてくれたよ(笑)。84年当時は幼すぎてライブを観に来れなかったのに、今では私をTVでインタビューしているなんて。素晴らしいことさ。
??さきほどの話に戻りますが、それも30、40年前に書かれたクラレンスの楽曲が、世代や国境を超え愛され続けているという証拠ですよね。
クラレンス:その通りだね。たとえばビートルズが作っていたような曲は…今ではあまり作られないが…同じことが言えると思うね。あの時代に作られていた、彼らのような音楽は私も評価している。曲も詞も素晴らしくて、音楽にとっていい時代だったと感じている。こう見えても昔はブルース以外にも様々な音楽を聴いていたし、ビートルズは大好きだったんだ。
??とてもタイムリーな話題で、今ポール・マッカートニーも日本で11年ぶりのツアーを行っているんですよ。
クラレンス:そうなんだね!それは知らなかったな。私のように長く活動をしてきたミュージシャンだったら、引退する必然性がないからね。地元の友人などは、はやく引退して旅行がしたいなんて言っているけど、旅をするのは私にとって仕事の一部だからね。
??ミュージシャンの持つ特権のひとつですもんね。
クラレンス:そう、だから私は引退しないよ(笑)!
??では最後に日本ファンへのメッセージをお願いします。
クラレンス:次の来日はまた27年後になるよ!その時、私は104歳だ(大笑)。なんてね。次はもっと早く戻って来れることを願っているよ。そしてもっと多くのファンの前で演奏したいね!
リリース情報
Live Photo: Masanori Naruse
ザ・フェイム・シングルズ VOL2 70~73
2013/11/20 RELEASE
PCD-17645 ¥ 2,970(税込)
Disc01
- 01.PATCHES
- 02.SAY IT ONE MORE TIME
- 03.IT’S ALL IN YOUR MIND (Mono)
- 04.TILL I CAN’T TAKE IT ANYMORE (Mono)
- 05.THE COURT ROOM (Mono)
- 06.GETTING THE BILLS (BUT NO MERCHANDISE)
- 07.SLIPPED, TRIPPED AND FELL IN LOVE (Mono)
- 08.I HATE TO LOVE AND RUN (Mono)
- 09.SCRATCH MY BACK (AND MUMBLE IN MY EAR) (Mono)
- 10.I’M THE ONE (Mono)
- 11.IF YOU CAN’T BEAT ‘EM (Mono)
- 12.LONESOMEST LONESOME (Mono)
- 13.BACK IN YOUR ARMS
- 14.HOLDIN’ OUT (ON ME BABY) (Mono)
- 15.PUT ON YOUR SHOES AND WALK (Mono)
- 16.I FOUND SOMEBODY NEW
- 17.MOTHER-IN-LAW (Mono)
- 18.SIXTY MINUTE MAN
- 19.I’M THE MIDNIGHT SPECIAL
- 20.I GOT ANOTHER WOMAN
- 21.LOVE’S TRYING TO COME TO YOU
- 22.HEARTBREAK WOMAN
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