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ラリー・カールトン&デヴィッド・T・ウォーカー 来日特集
2014年2月、ラリー・カールトンとデヴィッド・T・ウォーカーという偉大なギタリスト二人の共演ライヴが行われる。サスティンを効かせたロング・トーンでジャズ/フュージョンの分野で大きな功績を残してきたラリーと、極上のオブリガートを武器にソウルの歴史とともに音楽シーンを歩んできたデヴィッド。卓越したテクニックやセンスで、どのようなステージを見せてくれるのか、今から非常に楽しみにしているというファンも多いだろう。ここでは二人の足跡を辿りながら、二大ギタリストの共演ライヴに向けて期待を膨らませてほしい。
▲ 『夜の彷徨』
ラリー・カールトンは、1948年カリフォルニア州生まれ。6才からギターを始め、ハイスクールの頃にはすでにブルースやジャズを弾いていた。1968年にアルバム『With A Little Help From My Friends / ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ』で初ソロ・レコーディング。1971年からはクルセイダーズに加入。その合間を縫って、ヴォーカルも披露したセカンド・アルバム『Singing/Playing / シンギング・プレイング』(1973年)をリリース。そして、クルセイダーズ脱退後の1978年にワーナーより発表した3作目のソロ・アルバム『Larry Carlton / 夜の彷徨』、及びその冒頭を飾る代表曲「Room 335」が大ヒットし、スーパー・ギタリストとしての確固たる地位を築いた。その後は続々とクロスオーヴァー~フュージョンの時代にまたがって話題作を発表し続ける。『Strikes Twice / ストライクス・トワイス』(1980年)や『Sleepwalk / 夢飛行』(1981年)といった初期の作品は、リー・リトナーと並んで当時のフュージョン・ギター・ファンを虜にした。
▲ 『アローン・バット・ネヴァー・アローン』
レーベルをMCAに移籍した後、1986年にアコースティックなジャズ・アルバム『Alone/But Never Alone / アローン・バット・ネヴァー・アローン』を発表。Billboardの全米ジャズ・チャートで1位を獲得する大ヒットを記録。1988年にレコーディング・スタジオの外で銃弾を受けるという衝撃的な事件が起こったが、奇跡的に回復し一線に復帰した。その後も話題作が続き、クリスマス企画の『Christmas at My House / クリスマス・アット・マイハウス』(1989年)、ブルース・アルバム『Renegade Gentleman / レネゲイド・ジェントルマン』(1993年)、ライバルであるリー・リトナーとの共演作『Larry & Lee / ラリー&リー』(1995年)などを残している。
▲ 「JAZZY BULLETS」/Larry Carlton & Tak Matsumoto
1997年には、スーパー・フュージョン・グループのフォープレイに加入。リー・リトナーの後釜ではあったが、ボブ・ジェームス、ネイザン・イースト、ハーヴィー・メイスンといった名うてのプレイヤーとのコラボレーションで、さらにギタリストとしての磨きをかけ、2010年にチャック・ローブへその座を譲るまでフォープレイの黄金期を支え続けた。もちろんその間にも自身のプロジェクトは同時進行しており、スティーヴ・ルカサー(TOTO)との共演盤『No Substitutions / ノー・サブスティテューションズ』(2001年)、久々のブルース・アルバム『Sapphire Blue / サファイア・ブルー』(2003年)、ジャム・セッション的なエッセンスも取り入れた『Firewire / ファイアワイアー』(2005年)などが続いた。そして、フォープレイ脱退直後には、B'zの松本孝弘とのコラボレーション作『Take Your Pick』(2010年)を発表してグラミー賞を受賞するなど、常に話題に事欠かないギタリストである。
▲ 『幻想の摩天楼』/スティーリー・ダン
ラリーの強みは、ヴァラエティに富んだジャンルに対応できるところだろう。流れるようにスムースなフレージングはもちろん、エッジの効いたハードなプレイからアコースティックなブルースまで多才としかいいようがない。また、その魅力はリーダー作にとどまらない。セッション・ミュージシャンとしても非常に魅力的なプレイを多数残している。とくに、ヴォーカル作品でのさりげないサポートは絶品だ。ジョニ・ミッチェルが初めてリズム・セクションを取り入れジャズに急接近した傑作『Court And Spark / コート・アンド・スパーク』(1974年)や、スティーリー・ダンの贅沢なスタジオ・ワーク『The Royal Scum / 幻想の摩天楼』(1976年)における「Kid Charlemagne / 滅びゆく英雄」のギター・ソロなど、挙げていくときりがない。
▲ 『エイト・タイムス・アップ』
また、ラリーの日本における影響力も特筆すべきだろう。70年代後半のフュージョン・ブームによって、狂信的なファンを多数生み出した。『MR.335 Live In Japan / MR.335 ライヴ・イン・ジャパン』(1977年)や、『Eight Times Up / エイト・タイムス・アップ』(1982年)といった日本でのライヴ録音盤が残っていることからも、その人気の程がわかるだろう。また、ミュージシャンに与えた影響も大きく、野口五郎はアルバム・タイトルに『ときにはラリー・カールトンのように』(1976年)と名付け、米国録音のアルバムでは実際に共演。また、高田みずえのヴァージョンで大ヒットしたサザンオールスターズの名曲「私はピアノ」(1980年)には、“ふたりして聞くわ ラリーカールトン”と歌われるほど、当時はオシャレなイメージで人気があったことが伺える。ここまで名実共に日本に浸透したジャズ・フュージョン系のギタリストは、他にはいないといってもいいだろう。
来日公演情報
Larry Carlton & David T. Walker
Billboard Live Japan Tour 2013
ビルボードライブ大阪:2014/2/20(木)~23(日)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2014/2/24(月)~28(金)
>>公演詳細はこちら
INFO: ビルボードライブ オフィシャルサイト
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Text: 栗本斉
さて、もうひとりの主役であるデヴィッド・T・ウォーカーは、1941年オクラホマ州生まれ。アフリカ系黒人の父と、ネイティヴ・アメリカンの血を引く母を持つ。幼少時から音楽に興味はあったが、実際にギターを始めたのは15才になってから。しかしその才能が開花するのは早く、ロサンゼルスを拠点に多くのスタジオ録音に参加していく。1968年に初のソロ・アルバム『The Sidewalk / ザ・サイドウォーク』を発表。イージー・リスニング風の『Going Up! / ゴーイング・アップ! 』(1969年)、ファンク色が濃厚な『Plum Happy / プラム・ハッピー』(1970年)などを経て、Ode Recordsから傑作『David T. Walker / デヴィッド・T・ウォーカー』(1971年)を発表。冒頭のジャクソン5のカヴァー「Never Can Say Goodbye」を筆頭に、ソウルフルなフレーズが満載されたメロウなギター・アルバムを作り上げている。このスウィートな路線は、『Press On / プレス・オン』(1973年)、『On Love / オン・ラヴ』(1976年)と続いていく。
▲ 『For All Time』
また、1978年にはクルセイダーズのジョー・サンプルと共演した話題作『Swing Street Cafe / スイング・ストリート・カフェ』を発表。しかしその後はスタジオ・ワークがメインだったため、再びソロを発表するのは1987年の『Y-Ence / イ・エンス』まで待つこととなった。ウォーム・ハートというバンド名がクレジットされた本作からは日本での原盤制作となり、『With A Smile / ウィズ・ア・スマイル』(1988年)、『Ahimusa / アヒムサ』(1989年)はアルファ・ムーン、『... From My Heart / フロム・マイ・ハート』(1993年)、『Dream Catcher / ドリーム・キャッチャー』(1994年)、『Beloved / ビラヴド』(1995年)は江戸屋からのリリースとなっている。また、この時期はソロ名義以外にも精力的に活動し、ジョー・サンプル、チャック・レイニー、ポール・ハンフリーとともに結成したソウル・フード・カフェ、90年代初頭にジェイムズ・ギャドソンや山岸潤史らとともに結成した日米混合バンドのバンド・オブ・プレジャー、ジェームス・ジェマーソンJr.やフィル・アップチャーチらも参加したモータウン・カヴァー企画バンドのスピリット・トラヴェラー、盟友チャック・レイニーとのレイニー・ウォーカー・バンドなどでもアルバムを残している。しばらくソロ作品は途絶えていたが、2008年に13年振りのソロ・アルバム『Thoughts / ソーツ』を発表。続いて、『Wear My Love / ウェア・マイ・ラヴ』(2009年)、『For All Time / フォー・オール・タイム』(2010年)と、70年代と比べてもひけを取らない力作を精力的に生み出している。
デヴィッドの仕事ぶりは、ソロだけを聴いて評価するのは困難だ。60年代以降の膨大なセッション・ワークスの中にも、彼にしか成しえないギター・サウンドが溢れている。その代表といえば、やはりモータウンが生んだ数々のソウル・クラシックスだろう。ジャクソン・ファイヴ「I Want You Back / 帰ってほしいの」の印象的なギター・フレーズは誰もが聴き覚えがあるはずだ。また、スティーヴィー・ワンダーのコンセプチュアルな傑作『Innnervisions / インナービジョンズ』(1973年)や、マーヴィン・ゲイのスケール感に満ちたライヴ盤『Live / ライヴ』(1974年)などは、彼のギターがなければ成立しないといっていいくらいだし、ダイアナ・ロスやスモーキー・ロビンソンの諸作でも重要な役割を担っている。モータウン以外でも参加した作品は数知れず、ドナルド・バード『Black Byrd / ブラック・バード』(1972年)、ビリー・プレストン『Everybody Likes Some Kind Of Music / エブリバディ・ライクス・サム・カインド・オブ・ミュージック』(1973年)、キャロル・キング『Fantasy / ファンタジー』(1973年)、バリー・ホワイト『Can't Get Enough / あふれる愛を』(1974年)、ボズ・スキャッグス『Slow Dancer / スロー・ダンサー』(1974年)、クインシー・ジョーンズ『Sounds ... And Stuff Like That!! / スタッフ・ライク・ザット』(1978年)、ボビー・ウーマック『Poet / ポエット』(1981年)など、歴史的名盤への貢献度は計り知れない。
▲ David T. Walker Performing at Dreams Come True Wonderland 2003
また、デヴィッドは日本びいきとしても有名で、邦楽アーティストのセッション・ワークも多く残している。井上陽水の『二色の独楽』(1974年)、小椋佳の『夢追い人』(1975年)、吉田美奈子『愛は思うまま』(1978年)、上田正樹『No Problem』(1981年)、阿川泰子『Gravy』(1984年)、角松敏生『Touch And Go』(1986年)、SMAP『007 Gold Singer』(1995年)などが代表的なところだ。近年では、DREAMS COME TRUEとのコラボレーションが記憶に新しい。
▲ 『クルセイダーズ1』/ザ・クルセイダーズ
さて、ジャズ・フュージョン寄りのラリー・カールトンと、ソウル・ミュージックを支えてきたデヴィッド・T・ウォーカーの両者は、それほど接点があるわけではない。しかし二人のプレイを一枚で楽しめるアルバムもいくつか存在する。そのひとつが、クルセイダーズの『Crusaders I / クルセイダーズ・I』(1971年)だ。このジャズ・クルセイダーズからクルセイダーズへとマイナー・チェンジした記念すべき第一作目では、ラリーのギターはゲストながら準主役といっていい活躍振りで豪快にソロを披露している。一方のデヴィッドはそれほど派手ではないが堅実なカッティングで参戦し、タイトなサウンドを構築する要素のひとつになっている。この路線での2作目『2nd Crusade / セカンド・クルセイド』(1972年)も、同様に二人の個性が生かされたアンサンブルが印象深い。
▲ 『フー・イズ・ジス・ビッチ、エニウェイ?』/マリーナ・ショウ
しかし、なんといってもこの二人が絡み合う名盤といえば、マリーナ・ショウの『フー・イズ・ザ・ビッチ・エニウェイ』(1975年)に尽きるだろう。全編がソウルとジャズが交差した斬新なサウンド・プロダクションと、マリーナの深みのある歌声に彩られた屈指の名作だ。なかでも、躍動感に満ちたファンキー・チューン「Street Walkin' Woman」とロバータ・フラックの名唱でも知られるメロウな「Feel Like Makin' Love」の2曲では、左右から彼らだとすぐわかるフレーズが飛び出し、至福の時間を堪能出来る。ヴォーカルを引き立てつつ自らの個性を打ち出すという意味において、バッキング・ギターの最高峰といっても過言ではない。
今回の共演ライヴもおそらく、ありがちなギター・バトルのようにはならないだろう。きっと、ギターという楽器とお互いの個性を熟知したうえで、セッションを重ねひとつのアンサンブルを作り上げるに違いない。それまでは、彼らが残した膨大な音源を、少しでも予習代わりに聴いてもらいたいと思う。
来日公演情報
Larry Carlton & David T. Walker
Billboard Live Japan Tour 2013
ビルボードライブ大阪:2014/2/20(木)~23(日)
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ビルボードライブ東京:2014/2/24(月)~28(金)
>>公演詳細はこちら
INFO: ビルボードライブ オフィシャルサイト
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Text: 栗本斉
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