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DJ HASEBE 『The Ultimate Mixtape』インタビュー

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 一時代を築き上げ、いまなお不朽のレーベルとして歴史を刻み続けるモータウンが2014年、生誕55周年を迎える。

 すでに、かつて在籍したアーティストの名盤から、CD化が切望されていたレア音源などを網羅した『MOTOWN R&B BEST COLLECTION 1000』シリーズをはじめ、コンピレーション・アルバム『ゴーイング・トゥ・ア・55(ゴーゴー)』など、数多くの記念タイトルがリリースされているが、その中でも極めて画期的なオフィシャル・ミックスCD『Michael Jackson / Jackson 5 -The Ultimate Mixtape-』の発売が12月4日に控えている。

 タイトルの如く、マイケル・ジャクソンとジャクソン5の音源をノンストップでミックスしたディスク1と、ジャクソン5「I Want You Back」「ABC」「I'll Be There」のエクスクルーシブ・リミックスを収録したディスク2の2枚組で、手掛けるのはご存知DJ HASEBE。彼とモータウンの接点とはどのようなものだったのか。“DJ”という視点から考察するモータウンの魅力、そして新作について話を聞く。

『The Ultimate Mixtape』の制作は
自分のキャリアを見つめ直すきっかけになりました

――来年でモータウン・レーベルが生誕55周年を迎えますが、HASEBEさんは55年前、何をされていましたか?

DJ HASEBE:そうですね、まだ生まれていなかったと思います。

――そうですよね。早速ですが、HASEBEさんとモータウンの出会いを教えてください。

DJ HASEBE:モータウン所属アーティストで初めて聴いたのは、マーヴィン・ゲイの「What's Going On」で、高校生くらいだったと思います。もちろん、当時から「これがモータウンというレーベルに所属するアーティストのサウンドか!」という意味合いで聴いていたわけではないんですが、ヒップホップやR&Bに傾倒していくなかで、後追いで聴き始めた形ですね。「これがモータウンか!」と意識し始めるのは、もっと後になってから。今回『The Ultimate Mixtape』を制作する上で、マイケル・ジャクソンやジャクソン5の過去の映像を見返していたんですが、その映像の端々から「すごい影響力を持っていたんだろうなあ」という印象を受けましたね。

――お気に入りのモータウン・ソングは?

DJ HASEBE:「What's Going On」ですね。同じようなアレンジで淡々と続いていくのに、どこか物語的で不思議と引き込まれていったのを覚えています。「ああ、これがグルーヴってやつなのか」と思いました。あと、1960年代のスティーヴィー・ワンダーや、最近では“ライオネル・リッT”が人気のライオネル・リッチーも好きでした。

――DJ的視点から言うと?

DJ HASEBE:間違いなくジャクソン5「I Want You Back (88 Remix)」です。いまの時代で言うとメガミックスというか、エディット・ヴァージョンのようなミックスなんですが、伝統あるレーベルの歴史的名作を、こんな遊び心溢れるミックスでリリースしてしまうなんて、と衝撃を受けたのを覚えています。1969年にリリースされて定番化したクラシックを、さらにフロア仕様にしてリリースした、ということが当時、DJだった僕にはすごい刺激的で、その存在があったからこそ「死ぬまでにDJ/プロデューサーとしてジャクソン5のリミックスをやりたい」と思ったんですよね。オリジナルの素材を使用して、どうリエディットして自分のカラーを作品に落とし込むか、という意味では、「I Want You Back (88 Remix)」から学んだことはたくさんあって。それまでは当たり前に存在していたヒップホップやR&Bを好んで聴いていたんですが、「音楽は素晴らしい」と思わせてくれたのは、その作品のおかげだったと思います。そもそもモータウンが掲げていたスローガンが「黒人のみではなく、白人層にも受け入れてもらえるR&Bの良さを伝えたい」ということもあって、モータウンのサウンドはパッと聴きで伝わるキャッチーさがずば抜けていたと思うんですよ。今回ミックスを作るために過去の音源をジャクソン5の年表と照らし合わせながら聴いていたんですが、マイケル・ジャクソンの変声期なども克明にわかって面白かったですよ。

――では、今回ミックスを担当した新作『The Ultimate Mixtape』について聞きますが、これはどういった経緯からスタートした作品ですか?

DJ HASEBE:TSUTAYA限定販売のオフィシャル・ミックス『LazyBoy』シリーズ第二弾のエクスクルーシブ・トラックとして、ジャクソン5「I Want You Back」の僕自身によるリミックスを制作したことが大きな引き金になったんですが、そのきっかけも先に述べた「I Want You Back (88 Remix)」の存在だったわけです。過去にもたくさんのクリエイターがジャクソン5の名作をリミックスしてきましたが、個人的には納得できる作品に出会えていなくて。「もっと面白いことができるんじゃないかな」という気持ちがあって、いつかできないかな、と思っていたんですが、それが『LazyBoy』をきっかけに「I Want You Back」のリミックスを制作することができ、モータウン生誕55周年というタイミングでオフィシャル・ミックスの話をもらい、「ABC」と「I'll Be There」のリミックスを自ら提案した形ですね。

――確かにこれまでにオフィシャル/アンオフィシャルも含めれば、数え切れないほどのジャクソン5作品のリミックスが存在しますが、例えばどんな部分でその完成度に首を縦に振ることができなかったのですか?

DJ HASEBE:1970年代初期くらいまでは16チャンネルのオープンリールで録音していたと思うんですが――その後24チャン、48チャン、いまではチャンネル数も無限になりましたが――その16個の素材をうまく使いこなせていなかったと思うんです。ジャクソン5時代の音源は打ち込みじゃなく生バンド・スタイルなので、常にBPMが固定じゃなく揺れているんですよ。それを無視してBPMが固定されたトラックの上に素材を乗せれば、微妙なズレが生じてしまう。なので、まずその16チャンネルに録音されたすべての素材を自分自身でエディットする作業から入りました。それにかなりの時間を要するんですが、これまでジャクソン5のリミックスをしてきたクリエイターのほとんどが、その作業をやっていなかったと思うんですよ。僕が今回担当した3曲は、絶対世界で一番凝った作りだと胸を張って言えます。

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Interviewer:佐藤公郎

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