台風と地震。幕開けは波乱に

▲黒板には在学生からのメッセージが

Silent Sirenが出演する“芸能祭”は予定通り行われることになったが、前日深夜に福島県沖でマグニチュード7.1の地震が発生。東北地方ほかで津波注意報が出された。26日早朝に注意報は解除となり、台風も進路を北東に取り始めたが、あらゆる面で予断は許されない状況だ。

▲頭にぬいぐるみを乗せてチェキを撮るゆかるん

そんな中、サイサイのメンバーを乗せた新幹線が郡山駅に到着したのは12時前。日本大学工学部までの道すがら、ベースの弦を買うために楽器店へ立ち寄ったあいにゃん（山内あいな / b）は、Silent Sirenを知っていた店員からサインを求められたそうだ。

彼女たちは前シングル『ビーサン』でオリコン初登場10位、Billboard JAPAN週間シングルチャート“Hot Singles Sales”でも8位とシングルでは初のTOP10入りを果たし、注目株のガールズバンドとしてその名を全国へグッと広めた。この日、FLOWとの共演でおくる学園祭ライブ“芸能祭”も、チケットのセールスは順調だったという。

▲あいにゃんはベースの練習。ひなんちゅはお休み中

13時ごろ、メンバーとスタッフが構内に到着すると、用意された楽屋の机には大量の色紙が積まれ、黒板には在学生からのメッセージが一面に描かれていた。廊下ですれ違う運営スタッフの学生の表情も、みんな嬉しそうだ。

石油ストーブが置かれた楽屋でリハーサルを待つ間、メンバーはリラックスできたようだ。ひなんちゅ（梅村妃奈子 / dr）は英気を養うように机に突っ伏し、あいにゃんは黙々とベースの練習を続けている。すぅとゆかるん（黒坂優香子 / dr）はプレゼント用のチェキ撮影をしながら笑いあってと、和やかな空気だ。リハに向かう頃には雨が上がり始めており、薄くなった雲には所々晴れ間も覗いていた。

▲私服姿でサウンドチェックする4人

リハではディレクターやスタッフらと共に、真剣な表情でサウンドチェックや照明演出などをチェック。この日のあいにゃんは、久しぶりに青のベースを使用するようだ。私服でステージに上がった4人は、演奏を予定している楽曲を適度に続けて音のバランスを確認していった。

リハが終わって楽屋へ戻ると、福島出身のすぅのもとに家族がやってきた。両親や兄姉とは他のメンバーも面識があるようで、楽屋はワッとにぎやかに。本番が迫っていたため、会合はあっという間だったが、すぅの母が作ってきたというおにぎりを頬張るメンバーの表情はやわらかい。本番前の良いリラックスになったようだ。

▲本番直前、気合のポーズで出陣

一方、会場はすでに客入りが始まり、Silent SirenのタオルやTシャツを着たファンが次々とやってきた。動員は前売りの段階で1,000人に届いていたようで、ステージ前方からみるみる観衆で埋まっていく。グッズエリアもすでに大きな人だかりだ。

この日のSilent Sirenの出演は先手。開演15分前、衣装に着がえて楽屋を出た4人は、カメラの前でおどけて見せたが、その表情は一様に明るい。開演前は色々と危ぶまれた一日だったが、どうやら良い状態で本番を迎えられそうだ。

すぅ単独インタビュー「毎日一緒にいるのに飽きない」

▲YouTube「「I×U」MUSIC VIDEO short ver.」

－－昨晩（10月25日深夜）、東北地方で大きな地震がありましたね。

すぅ：びっくりしました。ライブができるのかもそうですけど、みんなだいじょうぶかなって……。郡山は実家から本当に近くて昔からよく来てたんですよ、やっぱり地元というか出身の県でライブができるのは嬉しいし、ここは本当に近いから家族とか友だちも来てくれるんですけど……。

－－地元と近いこともあって、いつものライブとは違った意識があるのではないでしょうか。

すぅ：もちろんいつもと同じ気持ちで臨みたいと思っていますけど、より感情が入りやすい所はありますよね。「福島から出て行った女の子が東京でがんばってる」「すぅを見て励まされてるよ！」って言ってもらうこともあるので、今日はみんなのためにもがんばりたいです！

▲すぅ（吉田菫 / vo,g）

－－ちなみに今回の密着で痛感したのがメンバー4人の仲の良さで、楽屋でもずっと楽しそうに話してますね。

すぅ：本当にほとんど毎日一緒にいるのに飽きないし、楽しい時間が多いですね。サイサイの良さ……、仲が良いって言うと“言わされてる感”があるかもしれないですけど（笑）、そういう空気はライブをやっていてもお客さんに伝わりますよね。
私、メンバー同士の仲が良いバンドが好きなんですよ。自分たちのお客さんにもそう思ってもらいたいし、うらやましいって思ってもらいたいですね。

－－今日は日本大学工学部の学園祭でのライブになりますが、今年は積極的に学園祭へ出演しています。

すぅ：やっぱり学園祭は普通のライブとはノリも違うし、年齢層が若いですよね。学校によって盛り上げ方も変えてるし、「女の子が多いときはこうしよう」とかメンバーと話し合うのも楽しいですよね！ 私たちは同世代の子目線で書いている曲が多いし、飾っていない言葉が多いので感情は入りやすいと思いますし、伝えたい想いも多くなりますね。

すぅ、ニューシングル『I×U』を語る

▲すぅ（吉田菫 / vo,g）

－－そのステージではニューシングル『I×U』を披露することになりますが、本作はシングルでは初のバラードナンバーになりました。

すぅ：冬はバラードにしようって前から話していたんですよ。でもサイサイらしさを残したかったので重くしすぎず、キャッチーさがあって、ピアノでかわいらしさや切なさを表現できる曲にしました。
これまでのシングルではポップでキャッチーで楽しめる曲が多かったので、新しい一面も知ってもらいたいという想いはありましたね。最初は「シングルでバラード。……だいじょうぶかな？」って気持ちもありましたけど（笑）、自信を持って出せる曲ですし、みんなの期待に応えられるんじゃないかと思ってます。

－－前作『ビーサン』がオリコン初登場10位、Billboard JAPAN週間シングルチャート“Hot Singles Sales”でも初登場8位とSilent Siren史上初のシングルTOP10入りを果たしました。注目度が非常に高まってきているだけに、今作に対する期待は大きいです。

すぅ：「ビーサン」は勢いでガーッていける曲でしたけど、「I×U」は曲以外にも実力や盛り上げ方が問われてくるので、練習でもメンバーと色々話し合いますね。やっぱり期待の声には応えなきゃいけないと思っているので、みんなで色々試行錯誤してます。

－－「I×U」は歌詞も特徴的で、“あなたに会いたい”、や“あなたが恋しい”と直訳できるこの曲の歌詞は、個人の失恋に限定された内容ではありません。

すぅ：聴いてくれた人の過去とか感情が入りやすいように、具体的なことは書いてないんです。聴いて読んでくれた人の中にスッと入って、自分を重ね合わせられるように、ストーリーを広げられる歌詞にしました。
あと、いつもは女の子目線の歌詞が多いんですけど、この曲は男性にも響いて欲しいなって思っていて、ライブでも「男性にも響け！」って思って歌ってます（笑）。

▲すぅ（吉田菫 / vo,g）

－－歌詞や曲を作る上で男性目線を意識することはありますか？

すぅ：大体は女の子目線になることが多いんですね。ただ、私たちは読者モデルをやっていて、「いつもかわいい想いばっかり……」とか思われているかもしれない。それでも一生懸命やっているし、ツラいときもあればむしゃくしゃするときもある。「そういう面もあるんだぞ？」って想いでハードな楽曲を作るときもありますね。

－－そしてカップリングの「LOVE FIGHTER！」はひなんちゅさんが作詞された楽曲です。

すぅ：サイサイっぽい曲になりましたね。この曲は凄くライブ映えすると思うんですよ。振り付けもあるしかけ声もあるから楽しめると思います。
それに歌詞も凄く共感できるんですよ！ 同世代の女の子って、ちょっとでも好きになってもらいたくて髪をセットしたり、チークの色を変えたりするんですよ。そういう気持ちはすぅも一緒だから共感できたし、かわいい曲に乗せて表現できるのが嬉しいです！

－－では、今日のライブでは「I×U」をどのように響かせたいと思いますか？

すぅ：……お父さんに聴かれるのがめちゃめちゃ恥ずかしいんですよ！ 「I×U」は親の前で歌うのが恥ずかしい！ そればっか気にしてます（笑）。……ってそれは冗談ですけど、やっぱりサイサイを初めて見る人にも響いてもらいたいですし、次のライブに行きたいと思ってもらえるステージにしたいです！

日本大学工学部 第63回 北桜祭“芸能祭”ライブレポート

▲両手を挙げて会場を扇情するSilent Siren

迷彩柄のトップスに、それぞれ違う色のパニエを身にまとった4人がステージに上がると、会場となった大講堂に若々しい歓声がこだました。先に記した通り、台風の影響で屋外の模擬店や一部イベントが中止になってしまったこともあり、彼女たちのステージを待ちわびていた学生は多いだろう。

オープニングナンバーとなった「Sweet Pop！」のキュートなイントロに呼応して、客席が一斉に揺れ始めた。郡山はすっかり秋の気候となっていたが、夕暮れ時よりグッと冷え込んだ空気を吹き飛ばす熱気に、ステージ上の4人も嬉しそうだ。

▲会場を盛り上げるあいにゃんとゆかるん

序盤にアッパーチューンをたたみかけていった彼女たちが、この日、最初に選んだシングル『I×U』収録曲は、カップリングの「まだ見ぬ明日を」。エネルギッシュなギターリフから突き進んでいく攻撃的なサウンドもさることながら、ゆかるんによるエフェクトボイスのコーラスが面白かわいい1曲だ。
また、シリアスな歌詞の世界観は、それまでに演奏してきた楽曲との対比が利いていて、ライブに良い変化を与えている。「サイサイならではのかわいさとかっこよさがあるステージにしたい」。すぅの言葉を体言するかのような、見事な展開である。

そして次の曲にセレクトされたのがお待ちかねの「I×U」だった。冬を連想させるベルの音が静かに鳴り響く中、ゆかるんが美しいピアノの音色を奏でれば、徐々に高まっていく熱量に合わせて、あいちゃんが爪弾く低音も迫力が増していく。
そこに切ないサビのメロディが織り重なったとき、雪の降り積もる真冬の情景が脳裏に浮かんだ観衆も少なくなかっただろう。サイサイの新たな武器として、「I×U」は強烈な存在感を示した。

▲最後は「ビーサン」で大盛況に

さらに、続いて同シングルの2曲目に収録の「LOVE FIGHTER！」が披露された。恋に戦う女の子の本音を描いた同曲は、ひなんちゅが歌詞を担当。彼女はドラマーとして、ポップな音色が弾ける同曲の軸を支えているが、メジャーデビューからの1年で最も成長したのは彼女のドラムテクニックかもしれない。疾走感をキープしながら丁寧に奏でられていくそのリズムで、この後に出演するFLOWのファンをも巻き込む盛況を生み出し、会場はこの日一番の一体感に包まれていった。

最後はこの夏にスマッシュヒットを記録した「ビーサン」で大団円を迎え、終演後にはシングル予約者を対象としたハイタッチ会などを実施して、ファンとの交流をはかった彼女たち。会場には楽器を背負った女の子の姿も見受けられたが、Silent Sirenはローティーンが憧れるガールズバンドとしての地位も着実に築いており、夏に発売した初のバンドスコア『Silent Siren/サイサイ バンドスコア』は早くも増刷が決定したという。

▲ライブ後は予約特典会でファンと笑顔に

“サイサイのライブに来てくれた人がモヤモヤを抱えているのなら、うちらが吸収してあげなきゃって思うんです。吸収した想いを私たちは音で発散して、それをお客さんに吸収してもらう。そうやっていければ、良いサイクルになるんじゃないかって”

着実な活動を続ける中で、バンドとしての地力を培ってきた今のSilent Sirenには、より幅広いリスナーから共感を得られるサウンドが身につき始めている。4人が本格的にブレイクする日は、すぐそこまで来ているのかもしれない。