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藤原ヒロシ 『manners』インタビュー
藤原ヒロシが「歌う」。かつては誰も想像し得なかった出来事である。自身が作詞作曲を手掛けたオリジナル曲から、過去にプロデュースを手掛けたUAのデビュー曲「HORISON」まで、収録曲の全てに自らの歌声を吹き込んだ話題作『manners』を発表した藤原ヒロシ。DJ、音楽プロデューサー、さらにはストリート・カルチャーの牽引者、大学客員教授etc…無限の肩書きを持つ彼に、シンガー・ソングライターという新境地から新作発表までのプロセス、さらに現在の音楽シーンやファッションについて語ってもらった。
曲ごとに違う誰かになりきって、その人の恋愛観や心情を歌う
▲藤原ヒロシ「この先に」Music Video ‐Digest ver.‐
--これまでDJやプロデューサーとして音楽活動を行ってきた藤原さんが、「歌うこと」に向き合うに至った経緯を教えてください。
藤原ヒロシ:7年前にDJを引退してから、「ギターを弾いて歌う」ということを始めたんですが、やっぱり2011年にYO-KINGとユニット(AOEQ)を組んで、作詞の楽しさやライブで歌うことの楽しさを教えてもらったことが大きいですね。それ以降、ソロでもそういった活動を行うようになって。
--DJとしてフロアを踊らせることと、シンガー・ソングライターとしてステージに立つことは、ご自身の中では全く別のものという認識ですか?
藤原ヒロシ:元々ステージ上でDJをやることも苦手で、隠れたDJブースから音楽で人を踊らせることに徹していたので、コール&レスポンスがあるライブとは全く感覚が違いますね。なので、シンガー・ソングライターとしての活動は全く新しいこととして楽しんでいます。
--では、シンガー・ソングライターとしての初となるフルアルバム『manners』について聞かせてください。まず、歌詞について、曲ごとに異次元の世界が展開されているのがとても印象に残りました。たとえば、一人称も「僕」だったり「私」だったり、逆にまったく一人称が出てこない曲もあったりと。
藤原ヒロシ:自分が作詞するようになるまで、「自分が思っていることを人に伝える」のが歌詞で、それを歌うのが当たり前だと思っていたんですけど、実際は、絶対にそうである必要はない。曲ごとに違う誰かになりきって、その人の恋愛観や心情を歌ったって良いわけで。これもAOEQの活動で学んだことですね。だから、今作の歌詞についても、僕からのメッセージということではなく、「僕」や「私」という他の誰かになって歌っているんです。
--また、抽象的な言葉が並ぶ曲もあれば「ルブタンのヒール」「ナイキの紐」といった固有名詞が登場する曲もありますよね。
藤原ヒロシ:そう、あの「ルブタンのヒールを鳴らす」という言葉も、自分からは絶対に出てこないもので。スタッフだったか友人だったか、その時に近くにいた女性からその言葉が出てきて、ああ、そういう表現もあるのか、と。
--なるほど。では、楽曲についてですが、「この先に」は、震災を受けて作られたそうですが、収録曲の中で最も歌詞の乗せ方やメロディーラインがフォーク・ソングに近い印象を受けました。
藤原ヒロシ:「この先に」はちょうどAOEQとしてライブ活動をしていた頃、震災が起きた直後の報道を観て作った曲なんです。でも、それで、何かをしたいとか、具体的なメッセージを込めたものではなくて、この先どうなるんだろうという当時の率直な思いを歌にしたという。今回、アルバム収録用にアレンジし直していますが、元々弾き語りの曲なのでフォークの要素はあると思います。
リリース情報
manners
- 2013/10/16 RELEASE
- 初回限定盤[AICL-2590/2(CD+DVD)]
- 定価:¥8,400(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:多田愛子|Photo:杉岡祐樹
1万枚売れていたものが100枚になったとしても、
価値が無くなるわけではない
▲藤原ヒロシ「solfa(rehearsal session)」
--その他の新曲については、どのようなプロセスで?
藤原ヒロシ:プロセスは曲によって本当にバラバラですね。ギターだけではなく、ピアノで作った曲もあるし。歌詞が先に生まれた曲もあれば、同時進行の曲もあります。
--新曲以外でいうと、やはりUAのデビュー曲「HORIZON」をプロデュースを手掛けた藤原さん自らが歌う、というインパクトは絶大でした。しかも、アレンジャーに大沢伸一さんを迎えてという。
藤原ヒロシ:「HORIZON」は、たまにライブで演ったりはしていたんですけど、やっぱりみんな知ってくれていて、すごく盛り上がる曲なので、今回レコーディングすることにしたんです。それで、自分はアレンジを一度手掛けているので、今回は誰かにお願いしたいと思って。それで大沢くんに声を掛けたんです。
--アレンジも良い意味で意表をつかれました。
藤原ヒロシ:そうですよね。今回のアレンジは僕からは生まれないアイデアなので、良かったと思っています。
--今作を通じて、アメリカの東海岸を中心にブームになったChillwave(チルウェーヴ)やGlo-Fi(グローファイ)からの影響も感じました。そういった意識はありましたか?
藤原ヒロシ:確かに聴いていて、アレンジャーにも「こういう感じのバックトラックで」って話はしましたね。流行かどうかっていうよりも、聴いて良かったものは取り入れてみるといった感じですね。
--Chillwaveなどは90年代から存在していた音楽に近いともいえますよね。
藤原ヒロシ:ヒップホップのソースに似てるんですよね、アンビエントとか。
--今作の『manners』というタイトルやアートワーク、限定盤ボックス『box of manners』などのアイデアはどこから生まれたんですか?
藤原ヒロシ:実はアルバムタイトルが決まってない段階から、箱を作りたいという構想があったんです。一見CDが入らなそうなサイズの箱なんだけど、実際は入っている黒い箱。で、箱を作るなら、そこに何かを入れたいということになって、この箱の中に入るサイズのものは何かと考えて、ハンカチとちり紙を入れることにして。それで、子供の頃、出かける前によく母親に言われたよな、「ハンカチとちり紙持った?」って。だから、つまりこれはマナーの箱『box of manners』だってことになって、じゃあアルバムタイトルも『manners』でいいかなと。
--箱が先でアルバムタイトルが一番最後、というプロセスは非常に藤原さんらしいというか(笑)。そういったパッケージのアイデアやアートワークも含めてひとつの「作品」でありながら、一方では音楽配信が進んだことによって、ジャケット自体が重要視されなくなってきているという現状もありますよね。
藤原ヒロシ:それは確実にありますよね。でもゼロになることは絶対に無いと思うんですよ。アナログがまた売れているという話も聞くし、1万枚売れていたものが100枚になったとしても、価値が無くなるわけではないですからね。それはそれで楽しいのかなと。
--アートと並んでファッションもヒッピーやパンクに象徴されるように、かつての音楽史においては切り離せないものだと思うのですが、ここ最近のシーンにおいてファッションと音楽の関連性をどう捉えていますか。
藤原ヒロシ:全く無いと言って良いのではないでしょうか。あるとしたらコスプレのようなものになってくる。パンクやヒップホップのように、ファッションと音楽やアートがまとまったカルチャーみたいなものはもう存在しないですよね。
--かつてはその人のファッションを見れば聴いている音楽もなんとなく見当がついていたような。
藤原ヒロシ:そうなんですよね、今はそれが全然見えなくなってる。今、京都の大学で教えているんですけど、同じように音楽とファッションの関連性について話をしていた時に、レディー・ガガが好きだという学生に向かって、「全然ガガっぽい格好してないじゃん。」って言ったら「だって生肉ですよ?」って返されて。(笑)
--(笑)
藤原ヒロシ:「先生、生肉のドレスなんて着ると思います?」って言われて、確かにそうだなって。つまり、ライフスタイルではなくてコスプレになってしまうんですよね。
リリース情報
manners
- 2013/10/16 RELEASE
- 初回限定盤[AICL-2590/2(CD+DVD)]
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Interviewer:多田愛子|Photo:杉岡祐樹
「音楽シフト」で今までと変わらずに活動を続けていくつもり
--今は、ライフスタイルとダイレクトに繋がっているとされるジャンル、例えばヒップホップにしても「いかにも」なファッションをしている人は限られていますよね。だから、昔みたいにクラブで浮いちゃう、なんてこともなく。
藤原ヒロシ:クラブに行ってもそう感じますよね。あと、今年フジロックに出たんですけど、パンク・バンドのステージを、まるでお揃いのようにノースフェイスのパーカーを着て観ている光景を目の当たりにして「あぁ、変わったな」って思いましたね。確かにあそこは特殊なロケーションだというのもあるんだけど、昔だったら皮ジャンにモヒカン、みたいな人が居るのが当たり前だったから。みんな同じアウトドア・ファッションに身を包んでハードコアな音楽を聴いているのが、なんだかすごく不思議な感じでしたね。
--日本のみならず、世界各国に足を運ばれたり、情報のアンテナを張られていると思うのですが、かつてのそういったムーヴメントに近い現象が起きていると感じている国や場所はありますか?
藤原ヒロシ:それが、最近どこに行っても同じで、割と平たい印象を受けますね。そういえば、ボスニアやアルバニアあたりが高度成長期に入っていて、面白いという話をヨーロッパの友達に聞いて。行ったことのない場所に行くのが好きなので、今後コソボあたりに行ってみようかなと思っています。
--最近はどこかに行かれましたか?
藤原ヒロシ:つい先日までポートランド(アメリカ)に行ってました。ブルックリンに近い雰囲気を感じましたね。あとは、モデナ(イタリア)という町に行ったんですけど、ギャラリーがあったりとか、古いものがたくさん残っている町でした。
--さて、再び音楽の話に戻りますが、今作の発表を受けての今後の活動について教えてください。ライブなどのご予定は?
藤原ヒロシ:アコースティック・ライブは何本か予定しているんですが、このアルバムのためのライブというのはまだ決まってはいないです。ただ、自分としては今「音楽シフト」なので、何かしらやりたいとは思っていますよ。
--次のステップとなるプロジェクトなどは?
藤原ヒロシ:基本的には、今までと変わらずに音楽活動を続けていくつもりです。今回のアルバムには全曲ヴォーカルが入っていますが、僕の作るアンビエントっぽい音を好きでいてくれる人もいるので、アルバム音源をベースにインスト盤も作りたいなと思っていたり。
--今後、楽曲に様々なアレンジが施されていくのが楽しみです。
藤原ヒロシ:アレンジにしても、今は比較的簡単に色んなことが出来ますからね。
--さらにそれを簡単に、全世界に向けて発信する手段も増えましたよね。それはアーティストにとってプラスなことだと考えますか?
藤原ヒロシ:敷居が低くなったという意味では、プラスの面はありますよね。ただ、無料配信やフリーライブと、世の中が少し無料になり過ぎて、それに慣れ過ぎている気はしています。それ自体が悪いこととはもちろん思わないし、僕もそういった活動をすることはあるけど、やっぱり対価を得ることや支払うこと、というのも必要。そういう習慣と意識はそれぞれが日常の中で持っているべきなのではと思いますね。
--確かにフリーライブとチケットを買って観に行くライブでは期待値や求めるレベルは変わりますし、それはアーティストにとっても同じこと、さらに楽曲に対しても同様のことが言えますよね。
藤原ヒロシ:そうですね。対価を払うこととそれに答えること、そこに阿吽の呼吸が存在するのが両者にとって一番の理想的な関係だと思います。
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