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楽園おんがく Vol.6:金城恵子インタビュー
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。Vol.6は沖縄を代表する女性民謡歌手の金城恵子を訪ね、沖縄県宜野湾市にあるスナック「おとめ」へ。
沖縄民謡を深く掘り下げていくと、誰もが必ず「想い(ウムイ)」という楽曲に出会うことになる。土着的な民謡とも違うし、カチャーシーが似合う派手な曲でもない。淡々と好きな人への想いを綴ったいわゆるラヴソングだ。沖縄音楽史における名曲のひとつといってもいいだろう。
この楽曲を歌って世に出た歌手が、今回紹介する金城恵子。「想い」に代表されるような情歌を歌わせたら右に出る者はいない彼女が、最新アルバム『想い』を発表した。表題曲の新録ヴァージョンをはじめ、「義理ぬ苦りさ」や「恋忍心」といった情歌をメインにしながらも、得意の三線早弾きを聴かせる「ヒヤチカミ節」や「嘉手久」なども披露。田場盛信や徳原清文といった名手を迎えてのデュエットなど、ヴァラエティに富んだアルバムになっている。ありがちなウチナー・ポップスじゃ物足りないと思ったら、ぜひ手にとって欲しいアルバムだ。
さて、そんな金城さんを訪ねて、宜野湾市にあるスナック「おとめ」に伺い、貴重なお話を聞かせてもらった。
――やはり幼い頃から歌は身近にあったんですか。
金城恵子(以下、金城):父がラジオののど自慢番組によく出ているような人だったから、常に民謡は聴いていました。
――お父様は有名人だったんですか。
金城:そうですね。プロだったわけじゃないけど、あの頃の嘉手苅林昌さんや登川誠仁さんなんかはよく知っていたと思いますよ。
――歌い始めた頃のことを覚えていますか。
金城:本当に小さい頃から歌っていたと思うんだけど、覚えているのは小学校5,6年くらいかな。もうその頃から民謡一筋ですね。あと、情歌は小さい時からずっと好きで歌っていました。
――最初に人前で歌ったのは。
金城:いつ頃かはあまり正確に覚えてないけど、結婚式場で歌いましたね。自分なりにけっこうよく歌えたなと思いましたよ(笑)。やっぱり人前で歌うのが好きだったんでしょうね。
――その後、本格的にやり始めたきっかけは何だったんですか。
金城:具志川(現うるま市)から那覇に出てきて、最初はパーマ屋で働いてたんです。その時に、大城志津子先生に三線を習い始めたのがきっかけです。今、那覇の国際通りに三越があるけど、あそこは当時、大越百貨店だったんですよ。その地下に「ビアホール TAIHO」というお店があって、習い始めたらすぐそこのステージに立ちました。
――じゃあ、もうその頃にはすでにプロ意識はあったんですね。
金城:まあ、好きだったからね。あの頃の憧れはフォー・シスターズ(沖縄の女性グループの原点といわれる4姉妹)ですよ。テレビにもよく出てたから。その後、川田松夫先生に「想い(ウムイ)」という曲をいただいて、デビューすることになったんです。
――デビュー曲「想い」は1971年に発売されましたが、いよいよという感じでしたか。
金城:いや、自然な感じでしたよ。最初はステージで歌っていたから、その流れで録音して。実は、客席に下りて歌った歌手はわたしが初めてなんです。「想い」を歌う時もお客さんと接触しながら歌うという演出をしたんですよ。
――金城さんみたいなきれいな人が近くで歌ってくれたら、そりゃレコードも買いますよ。
金城:あの頃はわたしも可愛かったですから(笑)。
――いやいや、今もおきれいです(笑)。それで大ヒットするわけですが、何か変化はありましたか。
金城:初めてのレコードだったから売れるかなあって心配でした。だから嬉しかったですね。聴きに来てくれるお客さんも増えたし、今まで歌い続けられているのも、この曲のおかげですから。今でもこの曲の印象が強いといわれますね。
――「想い」だけじゃないんだぞ、とは思いませんでしたか。
金城:わたしは三線の早弾きもできるんですけど、やっぱり「想い」のイメージが強いから、早弾きするとお客さんがびっくりしますね。だから、今回のアルバムにも入れてみました。
▲アルバム『想い』
――このアルバム『想い』のレパートリーは、その頃から歌っている曲が多いんですか。
金城:そうですね。長い付き合いの曲ばかりです。もちろん情歌も多いんですが、いろんな曲を選んでみました。自分で歌いたいと思った曲ばかりです。
――とくに「想い」は、当時と今では歌っていて違う気持ちですか。
金城:やっぱり、人生を積み重ねているから違うとは思いますよ。人生経験は大切ですね。その時のことを思い浮かべたりして歌います。わたしはフラれっぱなしの人生ですから(笑)。
――そのあたりの話は、また今度ゆっくり(笑)。他にも、いろんな人が歌っている曲もあると思うのですが、どう個性を出すかということは考えましたか。
金城:あまり考えないですね。自分で気持ちいいと思って歌うだけです。他人のことはあまり気にしませんから(笑)
――実際の出来上がりはどうですか。
金城:全部テイクワンでやったからね。聴きながらやれば良かったんだけど、2日間で一気に録音したから、あとから聴くと失敗したなあと思ったり(笑)。でも、最初から最後まで、ここまで三線を弾いて歌ったアルバムはないから貴重ですよ。あと、太鼓も自分で叩いています。自己流だから雑な演奏ですけど(笑)。
――気持ちいい太鼓ですよ。歌う方ならではのリズムというか。
金城:そう、太鼓も歌うつもりで叩いていますからね。録音できて良かったと思っています。
――共演者はどういう基準で選んだんですか。
金城:箏を弾いている安慶名久美子は、実の妹なんですけど一緒に演奏するのは初めてだったんですよ。だからいい記念になりました。徳原清文さんも、今回初めての共演です。前から一緒にやってみたいと思っていたんです。田場盛信さんはずっとコンビを組んでいたので長いですね。
――情歌もいいんですが、さっきも話に出た「ヒヤミカチ節」などでの早弾きがすごいですね。
金城:やっぱり早弾きの曲を入れたかったんです。「ヒヤミカチ節」がよかったものだから、スタジオで「嘉手久」もやろうってことになって、急遽追加しました。
――沖縄民謡というと「安土屋ゆんた」はみんな知っているんですが、次に何を聴けばいいかわからない時に、金城さんのアルバムを選ぶといいですね。
金城:とくに、中テンポの情歌は聴いて欲しいですね。いい歌がいっぱいありますから。ぜひこのアルバムを聴いてください。
――このCDで金城さんを知って、生の歌を聴いてみたいという人がたくさんいると思うのですが、このお店に来れば聴けるんですか。
金城:はい、もちろんです。毎週日曜日が民謡ショーの日なんですけど、それ以外の曜日も歌います。気軽に遊びに来てください。大きなステージでも客席のそばでも、同じように気持ちを込めて歌います。宜野湾で、ぜひお待ちしています。
Information
スナック「おとめ」
〒901-2215 沖縄県宜野湾市真栄原1-5-9
Tel: 098-897-7685
※民謡ショーは毎週日曜。
出演:金城恵子とおとめメンバー
Writer
栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
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