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We❤アメリカ南部音楽!ドクター・ジョン/アラン・トゥーサン and more
ニューオーリンズ、メンフィス、ナッシュビル…音楽ファン、とりわけルーツ・ミュージック愛好家なら、誰もが一度はその地に思いを馳せたことがあるだろうアメリカ南部。素晴らしき音楽と、それにまつわる幾多の伝説がそこで誕生し、各時代の名手たちによりそれらが脈々と受け継がれている特別な場所だ。そんなアメリカ南部の音楽史の“生き証人”ともいえるレジェンドたちが、この秋~冬にかけてビルボードライブに立て続けに登場する。ニューオーリンズからドクター・ジョン、アラン・トゥーサン、ファンキー・ミーターズ、アラバマからはクラレンス・カーター。彼らの来日を記念し、3つのキーワードとともにアメリカ南部の音楽文化を紹介したい。
大自然が作り出す、南部特有のランドスケープ
乾いた風、果てしなく広がる空と大地。アメリカ南部といえば、日本の原風景とは一味違うダイナミックな景色が思い描かれるだろう。広大な自然が作り出すランドスケープは、地元ミュージシャンたちの誇りであり、その素晴らしさ、美しさを歌ったナンバーは多い。
60年代からニューオーリンズの音楽史に寄り添い続けるアラン・トゥーサンが1975年に発表した名盤『サザン・ナイツ』のタイトル曲「サザン・ナイツ」は、まさにそんなアメリカ南部の美しい空と情景について歌われたナンバーだ。キラキラと輝く星空のような美しいピアノ・イントロに続き「南部の夜を感じたことがあるかい?」と、エフェクトのかかった幻想的な歌声で優しく語りかける、この土地への愛情がたっぷり詰まった珠玉の名曲である。
サザン・ロックの雄 レーナード・スキナードのセカンド・アルバム『セカンド・ヘルピング』収録の「スウィート・ホーム・アラバマ」も、そのタイトル通り、美しい青空に象徴される地元アラバマへの愛が歌われている。ちなみに同曲は、「サザン・マン」や「アラバマ」といった自身の曲の中で南部の人種差別を痛烈批判したニール・ヤングに対し「ニール・ヤング、覚えおけよ 南部男はお前のことなんて誰も相手にしない」といった反撃のフレーズも歌われている。レーナード・スキナードは、この曲に代表されるように南部色を強く打ち出した音楽スタンスで1970年代に地元南部で圧倒的な人気を誇った。
また、サザン・ロックの代表格 オールマン・ブラザーズ・バンドの楽曲の中にも南部の地名や自然が織りなす光景が数多く散りばめられている。『イート・ア・ピーチ』収録の「ブルー・スカイ」は、“南部の空”などといった直接的な表現はないものの、流麗な川の流れ、乾いた風と青空といった美しい自然を存分に感じさせてくれる、カントリー・タッチの明るく陽気なラブソングとなっている。同曲はデュアン・オールマンとバンドの両翼を担ったギタリスト ディッキー・ベッツによって書かれたナンバーで、ファンの間では彼の代表曲とされており、先日ビルボードライブで行われたディッキー・ベッツ&グレイト・サザンの来日公演でも披露された。
ニューオーリンズ伝統のマルディグラとセカンド・ライン
アメリカ南部の都市の中でもジャズ発祥の地=“音楽の都”として特別な存在なのがルイジアナ州ニューオーリンズ。この町を象徴するもののひとつに“マルディグラ”がある。ネイティブ・アメリカンの伝統的な衣装をまとい、部族(トライブ)で、歌い、踊り、太鼓を叩きながらパレードをするニューオーリンズのマルディグラは、昔も今もこの街の名物。リオのカーニバルなどと並び世界最大級の謝肉祭だ。
1940年代末から地元を拠点に活躍し、ロックの殿堂入りも果たしているニューオーリンズを代表するピアニスト プロフェッサー・ロングヘアの代表曲「マルディグラ・イン・ニューオーリンズ」「ビッグ・チーフ」などは、今でもマルディグラの定番曲となっている。
また、ドクター・ジョンがニューオーリンズに古くから伝わる音楽を再構築した1972年発表のアルバム『ガンボ』の中で歌った「アイコ・アイコ」は、伝統的なマルディグラ・インディアンの戦いの様子を歌ったものである。さらに、マルディグラ・インディアンの衣装を身に纏ったトライブのいでたちで、伝統的なサウンドにファンクなど近代的なエッセンスを加え、よりポピュラーな音楽へと昇華させたワイルド・マグノリアスもニューオーリンズを代表するアーティストとしてメンバーチェンジを繰り返しながら、40年以上活動を続けている。これらの伝統的なパレードのためにブラスバンドによって奏でられる音楽“セカンド・ライン”のリズムは、ニューオーリンズの音楽を構成する上で、欠かすことの出来ない大切な要素となっている。
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