Special
シカゴプードル 『HISTORY I』インタビュー
良質なポップミュージックを生んできた山下達郎やスキマスイッチの話も出しつつ、彼らが負けず劣らずメロディーマニアとして如何に素晴らしい楽曲を生んできたのか。改めて知ってもらう為の質問や提案をぶつけさせて頂いた。シカゴプードルはもっと評価されていい。
小学校2年生に「懐かしい」と言われるシカプー。
--自分たちではシカゴプードルってどんなバンドであると感じていますか?
花沢耕太(vo,piano):僕らってもう11年ぐらいやっているんですけど、バンドを作ったときから「良いメロディーとは何か?」っていうのを考えて、とりあえず耳で聴いて10年、20年、30年と残る曲をすごく追求してきたというか。それは今回のベストアルバム『HISTORY I』を聴いて「ブレずにやってきたな」と改めて思いましたね。
山口教仁(dr):メロディーマニアですよね。花沢が一番拘っているのはそこなんで。で、僕らも一番そこを重視してずっと曲を作ってきたんで。シカゴプードルを一言で表すのなら“メロディーマニア”なのかなって思いますね。
--では、逆に世間ではシカゴプードルってどんなバンドだと思われていると感じますか?
花沢耕太:……仲は悪くない。
一同:(笑)
辻本健司(b):多分なんですけど、ピアノのイメージもあって“真面目”じゃないですけど、“素直な良い子たち”みたいに思われてるんちゃうかな? だって、ウチの母親より年上のお客さんがいたりして、孫を見るような目で見てくれているんですよ。だからそういう風に見られているんじゃないかと。まぁ内実は全然違うんですけど(笑)。
山口教仁:“昔なつかしの味”みたいなイメージなのかなっていう。辻本くんが言ったように年輩の方もライブに来て頂けるし、結構「懐かしいね」っていうことも言われるんですよ。昔なつかし、でも安心できる味。そういうイメージなんかなって。世間的には。
花沢耕太:小学校2年生ぐらいの子に「シカゴプードルの良さは何?」って聞いたら、「懐かしいところかな」って言われたんで。
山口教仁:小2に!
--(笑)
山口教仁:何歳の頃と比較して「懐かしい」言ってんの? その少年は。
--でもあるんでしょうね。小2でも「懐かしい」と思う要素が。
花沢耕太:多分、知らん人が食べても「旨い」っていう味みたいな。そういう褒め言葉として捉えているんですけど。
--どう思われる、見られるのがシカゴプードルの理想なんでしょう?
花沢耕太:今のところは性別や年代に拘らず、どの世代にも受け容れられてもらえるような音楽。良いものって僕はそうだと思うんですよ。で、ファンの人とかを見ていたら、小学生から50、60代の人まで幅広いので、それは自分らのやっていることとマッチしている感じがしますけどね。
--シカゴプードルはかなり良質なポップミュージックをいくつも生んでいると思うのですが、意識としてはそういう音楽をひたすら届けていたいと。
花沢耕太:そうですね。ジャンルがジャズであれ、インストゥルメンタルであれ、ロックであれ、ポップスであれ、良いものには共通点があると思うんですよね。それが何かは具体的に言えないし、感覚でしかないんですけど。良いものは良いっていう感覚を僕は大事にしたい。耳で聴いて気持ち良い。そこをこれから先も追及したいし、それがシカゴプードルの核になるんじゃないかなと常日頃思っていますしね。
--その音楽のクオリティや楽曲の人懐っこさからすると、シカゴプードルってもっと評価されていいバンドだと思うのですが、自分たちの中ではどうですか?
山口教仁:評価されたいですね!
--(笑)
辻本健司:ずっとこうやって活動してきた中で、例えば「ワンマンライブをやりたい」とか「全国ツアーやりたい」とか、それがライブハウスで実現できたら「今度はホールでやりたいな」みたいな感じで、そのときどきで目標は立てていて。それをひとつずつクリアーしてここまで来ているんで、焦りがないと言えば嘘になりますけど、しっかりとやることをやっていれば結果は出るっていう自信もあるんで。次に目指すところへ行くにはこうやってベストアルバムも発表しますし、これから更に新しいシカゴプードルへ向かっていきたい気持ちはあるんで。……まぁ評価はされたいですけど。
一同:(笑)
辻本健司:でもファンの人は熱く、長く応援してくれているので、そこはホンマに嬉しく思っています。
花沢耕太:焦りはあるんですけど、そこに捕らわれるよりも「まずは良い作品を」って思うので。インディーズの頃は「この曲、もっともっといっぱいの人が聴いてくれたら、絶対売れるのにな」とか、そういう確信みたいなものがあったんですけど、その結果として結構「なんでやねん、なんでやねん」って悩んでしまって。根本である作品が書けなくなってしまったこともあるんで、そこに捕らわれていたらアカンなと。だからこのまま変わらずに良いものを目指して作っていくことが大事だし、その上で「絶対に僕らは行けるんだ」という想いを持っておく。そうすればいつか必ずもっともっと認知もされるようになると思っているんで。
Interviewer:平賀哲雄
まぁ生きているうちに評価されたいんですけど!
--なんで今の質問をさせて頂いたかと言うと、スキマスイッチがあそこまで売れるならシカゴプードルも同じぐらい売れてもいいと思ったからで。
花沢耕太:はい。
--スキマスイッチを引き合いに出したのは、彼らが『奏(かなで)』を作ったとき「いわゆる青春時代に聴いていた音楽ってやっぱり残っていて、その曲を聴くとその頃を思い出したりする。そういう曲を目指した」と言っていたからで。その考え方って、シカゴプードルと同じですよね。例えば『さよならベイベー』はそういうバラードだと思いますし。
辻本健司:まぁでもそういうヒットとかって、僕らだけで作れるものじゃないんで。時代とかタイミングとかある。でも花沢が何度も言っているような“良い音楽”というのは、そういうのを関係なしに評価されると思っているんですよ。究極的に言えば、そこは常に求められているし。
山口教仁:だから変に焦らないという。評価っていうのは遅れてやってくる可能性もあるんで。ゴッホが死んでから―――
辻本健司:すごいところ、出してきたな!
一同:(笑)
山口教仁:いやいや、それは極論ではあるんですけど、まぁ生きているうちに評価されたいんですけど!
花沢耕太:ハハハハ!
山口教仁:目先の評価に焦って、僕らの軸がブレたらとんでもないことになってしまうんで。
辻本健司:結局、評価される為には良い音楽を作るのが一番の近道だろう。そうみんな思っているんで。
山口教仁:時代に追いつこうとすると、時代も動いているからいつまで経っても追いつかない、みたいな話があるじゃないですか。でも同じところに変わらずいれば、時代は動いているからいつかアジャストする。それって良い表現やなと思っていて。だから自分らはそこに止まってやり続けるしかないと、自分らの音楽を。
--今、ヒットチャートを賑わしているような音楽ってどんな風に映っていますか?
花沢耕太:辻本くんはKARAが好き。
辻本健司:KARAはね、ナメたらアカンですよ。韓国で大ヒットを飛ばしているグループだから、曲もしっかりしているんです。花沢は何の反応もしてくれなかったですけどね……。
花沢耕太:いや、PVに反応しなかっただけで、楽曲のクオリティは半端ないなと想いますよ。僕も『ジャンピン』とかダウンロードして……
辻本健司:おっ! マジっすか! DVD貸してあげようか?
花沢耕太:まぁまぁ。曲の話を……
--本当に仲良いんですか?
一同:(爆笑)
花沢耕太:仲は良いです。曲がね、やっぱり残っているんで。少女時代の『Gee』も「凄いAメロやな」って勉強になるし。韓国の凄い才能を持っている人たちが作っているんだろうなと、それは曲を聴いていれば感じますよ。ちゃんと考えられている。
辻本健司:でも今はチャートのTOP10見たら、ほとんどジャニーズかAKB関連かK-POPになってますもんね。まぁでもいつの時代もメディアだけがすべてじゃないというか。バンドでも売れてる人はいっぱいいると思うんですよ。表に出てこないだけで。だからそんなに悲観的には見ていないというか。
花沢耕太:僕らがエンターテインメントに走っても……ね? 辻本くんが踊り出したりするのもね。
辻本健司:(笑)。妙に背が高くなってな、踊り出してもな。
花沢耕太:ただ、そのエンターテインメントからこっちへ振り向かせるぐらいの何かを提案することも必要かもしれませんね。
--先日、阿部芙蓉美というシンガーソングライターが「どこへ飛んでいってどこで咲くか分からないものである。というところに音楽の価値があると私は思いたい。僅かな可能性かも知れないけど、その為に曲を書いて、歌う。」と仰っていたのですが、その感覚ってシカゴプードルにも当てはまる部分ってありますか?
山口教仁:そうですね。ホンマにいつ芽が出るかは神のみぞ知るというか。でもその可能性がある限りは続けていくことが大事。
--要するに時代性に左右されるのではなく、こういう音楽が素晴らしいんじゃないかと思うものを発信し続けることがすべてということですよね。どんな規模であれ、花が開くと信じて。
花沢耕太:それに尽きます。
Interviewer:平賀哲雄
山下達郎さんの番組にベストアルバムを送ろう!
--そういう意味では、このタイミングでベストアルバムを発表するのは、改めてシカゴプードルの音楽を知ってもらう良いチャンスだと思うんですが、実際にはどんな経緯や想いから発表することになったんでしょう?
花沢耕太:今年7月に大阪の森ノ宮ピロティホールで、初のホールワンマンライブ【犬(one)フェス2011 in OSAKA ~僕らをつなぐもの~】をやったんですよ。そのセットリストを組み立てるときに、オフィシャルサイト上でファンの人からのリクエストを募集しまして。そしたら上位20曲にメジャー/インディーズ時代の曲がバランスよく入っていたんですよね。それが純粋に嬉しかったのがきっかけなんですけど、今年は音楽の意義について考えさせられることも多かったし、この時期にシカゴプードルの音楽をひとまとめにして、これまでのシカゴプードルを分かってほしいと思って。で、今まで作った86曲ぐらい全部入れたかったんですが(笑)選りすぐりの33曲を収めたベストアルバムを出すことにしたんです。
山口教仁:やっぱりメジャーからシカゴプードルを知ってくれた人の方が圧倒的に多いと思うんで、そういう方にとってはインディーズ時代の曲とか新鮮だと思うし。で、インディーズの頃からずっと応援してくれている人には、ホンマに一緒に懐かしんでもらって、新曲も楽しんでもらいたいなと。
--しつこいかも知れませんが、本当に良質なポップミュージックだらけで。FMでこのベストアルバムを丸ごと流す番組があっても成立すると思いません?
山口教仁:まぁねぇ……って自分で言うのはちょっとアレなんですけど(笑)。
花沢耕太:どこかやってくれないですかね?
辻本健司:ノンストップで。
--ふと思ったんですが、このベストアルバム。山下達郎さんの番組「サンデー・ソングブック」宛に送ってみません? 基本的にオールディーズを流す番組なんでピックアップされる確率は低いと思うんですが、達郎さんの気になるバンドにはなれるかもしれませんよ?
花沢耕太:今すぐ送りましょう!
一同:(笑)
花沢耕太:山下達郎さん、大好きですよ。僕はコーラスワークもやるんですけど、山下さんは凄いじゃないですか。そういうクオリティとか、どれだけ時間が経っても愛される曲の在り方とか、尊敬しているので。
--あと、今作にはインディーズ時代の楽曲も収録されていまして。入手不可能な自主制作盤からも『オーレオ』という楽曲がセレクトされています。この曲を入れようと思ったのは?
花沢耕太:シカゴプードルの歴史を語る上で『オーレオ』は欠かせなくて。初めてバンド合宿をしたときに生まれた曲なんですよ。で、その当時、僕らはこの曲をライブですごくよくやっていたんです。そういう意味でも「この曲は入れておかないとアカンやろ」っていう気持ちにもなったし、この曲を知らない人に「昔、こういうことをやっていたんやで」って知ってもらいたくて。
山口教仁:この音源は荒削りではあるんですけど、初期衝動が詰まったアレンジやなと思います。逆に新鮮でしたね。
--で、その『オーレオ』の後に新曲『太陽は知っている』が流れてきて、シカゴプードルの進化ぶりを一気にアピールするという。
辻本健司:(笑)
--この曲は歌詞もサウンドも熱量高い内容となっていますが、どんな想いや背景から生まれた曲なんですか?
花沢耕太:若者が聴いて盛り上がれるような軽快な曲を作ろうと思って。
山口教仁:キーワード的には“青春”というか、青春ソングにしたかったんでよね。でも僕の中での“青春”ってキャピキャピしたものじゃなくて、悶々としたものを抱えながらも日々過ごしているイメージで。そういう意味での青春ソングにしたかったので、こういう歌詞になったんですけど。
辻本健司:テンポもシカゴプードルの中で一番速いぐらいの曲で、夏場にライブで1回演奏したときは他の曲と違う反応があったんですよ。「これは良い感じやな」って思える反応が。で、こうやって『HISTORY I』というベストアルバムで一区切りして「更に上を目指していくぞ」っていうタイミング。そこで、今のシカゴプードルとして「ついてこいよ」と引っ張っていけるような曲を打ち出せたのは良かったなと思いますね。数年後に「『太陽は知っている』はあのタイミングでもう1回エンジンを吹かす、良いきっかけになったな」と思える曲になるんじゃないかと期待しています。
--あと、今回のベストアルバムのタイトルが『HISTORY I』であることにメッセージを感じていて。これは今後何があってもバンドを継続していくことの表れですよね?
全員:そうです!
花沢耕太:II、III、IV、V……最終的には『HISTORY of HISTORY』っていうアルバムを出そうかなと。
山口教仁:55年目ぐらいに。
花沢耕太:85歳だから誰か死んでるかもしれんけど。
一同:(爆笑)
Interviewer:平賀哲雄
関連商品