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japan(finds) vol.4: Daniel Lanois
来日アーティストに様々なものを日本で探求、発見してもらう企画、japan(finds)!第4弾は、数多くのアーティストを手掛けてきた名プロデューサー、ダニエル・ラノワ。ブライアン・イーノに師事してキャリアをスタートさせ、ピーター・ゲイブリエル『SO』、U2『ヨシュア・トゥリー』、ボブ・ディラン『オー・マーシー』、ネヴィル・ブラザーズ『イエロー・ムーン』などの名盤をプロデュースし、1989年にリリースされた初のソロ・アルバム『アカディ』でも高評価を得た。
稀有の名プロデューサーが、自身のルーツを掘り下げながら、2度目の来日となる日本の印象やファンによって選ばれた“日本の名曲”を語る。
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−−今回は2度目の来日で、【FUJI ROCK FESTIVAL】では、初となる国内フェスティヴァル出演を果たしましたが、いかがでしたか?
ダニエル・ラノワ:とにかく自然が美しかった。山、谷、そして森は、故郷のカナダを思い起こさせてくれた。北ケベックは、湖や森がとても多いからね。【FUJI ROCK FESTIVAL】にはとても感心したね。ラインナップはとても充実していて、多種多様で。ステージごとのコンセプトも興味深くて、あと子供も遊べるエリアがあったり。私はバイクに乗るんだが、バイクのパフォーマンスも見たよ。
−−深夜にパレス・オブ・ワンダーでやっていたのですね。私も見ましたよ、凄かったですよね!
ダニエル:そうそう。すっかり忘れていたが、実は幼い頃ああいった類のものを見たことがあるんだ。その文化なんかを思い出させてくれて面白かったよ(笑)。
−−では日本の音楽やアートから連想するものについて教えてください。
ダニエル:連想するのは、ディテールへのこだわり…素晴らしいよね。それは私がそういう気質でもあるからだ。主にレコードを作る時に。とても小さなものから始め、美しく、壮大なスケールのものを作り上げていく。日本のアート文化はその部分が特質的だと感じる。生け花や浮世絵のようなイラストレーションなど、とても感心させられるよ。音楽に関しては、基本インストゥルメンタル・ミュージックが好きだけど、日本のアーティストにはあまり詳しくないから、これからもっと学びたいと思っているよ。
−−今回japan(finds)と称した企画で、ファンの方からダニエルに聴いて欲しい“日本の名曲”を募ったのですが、中でも特に気に入ったものはありましたか?
ダニエル:福岡史朗の「ラスク」がとても気に入った。レネゲイド的なサウンドが素晴らしい。
−−他にサウンド的に面白いなと感じたものは?
ダニエル:くるりの「ばらの花」。ゆらゆら帝国の「空洞です」のバッキング・トラックもいいし、ミステリアスなソロ・パートも最高だね。キリンジの「千年紀末に降る雪は」は、ストリングスとホーンのハーモニーが絶妙だ。
−−では曲の雰囲気やフィーリングにピンときたものはありましたか?
ダニエル:おおはた雄一の「SMALL TOWN TALK」は、ピースフルな雰囲気もいいし、素晴らしい要素が色々詰まっている。青山陽一の「炎とは何のことか」にはトラディショナルなフィーリングを受けた。
−−ヴォーカルが印象的だったものは?
ダニエル:七尾旅人の「サーカスナイト」のスモーキーなヴォーカル・トラックは良かったね。
−−ブラック・ダブでは、トリクシー・ウィートリーをヴォーカルに起用していますが、女性ヴォーカルの曲もいくつかありましたよね。何か惹かれるものはありましたか?
ダニエル:歌詞の内容は全く分からないけれど、「忘却」の鈴木祥子のヴォーカルは、感情を包み隠さず表現していて、とてもエモーショナルだ。福原美穂の「優しい赤」での歌声は…名前は忘れてしまったが、80年代に私がレコーディングした女性ヴォーカリストのものに似ている。彼女は今後が楽しみだ。
−−Billboard JAPANの編集部が選んだZAZEN BOYSの「本能寺」は、いかがでしたか?
ダニエル:人間味とメカニカルな部分が巧妙にブレンドされているね。
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若いうちに自分が情熱を注ぐことができるものが
見つかって幸運だと思っている
−−ダニエルはフランス系カナダ人ですが、フランスの音楽に影響を受けたりしましたか?私が拝見した初日2ndステージのアンコールでは、フランス語の曲も歌っていましたよね。
ダニエル:そうだね。主にストーリーを語りたい時に、フランス語の楽曲は書いている。
−−あの曲は、なんだか子守唄のような感じがして。
ダニエル:よく気づいたね。そう言ってくれると嬉しいんだ、なぜかいうといい曲はメロディが子守唄に似ているものが多いんだ。♪“Spoonful~、Spoonful~”♪ウィリー・ディクソンの「Spoonful」とか。彼は「自分の子供たちが、一緒にシングアロングしてくれるような曲はいい曲なんだ。」と言っていた。
−−確かに子供は直感的なので、いいメロディを持つ曲だと自然と憶えて歌っていますもんね。
ダニエル:そうだよね。TV番組のテーマ曲だったり。
−−ダニエル自身が、初めて音楽に触れたのは何歳ぐらいの時ですか?確かお父様かお爺様がフィドル奏者なんですよね 。
ダニエル:そう、私が初めて音楽に触れたのは家族が集まるような機会がある時。2人とも演奏をしていたけれど、私の父は祖父ほど上手くなかった。ひと世代通り越して、私のところへ音楽の才能が舞い降りてきたようだね(笑)。祖父はフランス語のカントリー・ミュージックのフィドル奏者だった。クラシック・ヴァイオリンを弾くような感じではなくてね。カントリーやフォークを基調としたメロディを主に奏でていて、それは幼い私の心に鮮明と残った。少し悲しげだが、アイルランドの伝統的な音楽のような軽快さもある。幼い頃に聴く音楽というのは、その人の人格にとても大きな影響を及ぼすと、私は信じている。まぁ、それから逃げることもできるが、私はそれを寛大に受け入れることにした。
−−なるほど。では本格的に音楽活動を始めたのは?
ダニエル:50年代後半~60年代初頭で、当時の音楽シーンは文化的に目まぐるしい発展を遂げていて、とても興味い時期だった。ロックンロールはもちろん、教会音楽がポップ・ミュージックへ変貌を遂げる過程、ソウル・ミュージック、リズム&ブルーズ、サイケデリック・ミュージックだったり、あの時代の素晴らしい音楽をすべて吸収した。学校に行かなくても、生きているだけでかなり勉強になったよ。カナダでも、ミシガン州デトロイトとバッファローの近くに住んでいたから、その地域のラジオをよく聴いていたんだ。それにアーティストがツアーを回る時に、よく公演を行う場所でもあったから、ライブも沢山観に行った。それらの体験は、私の音楽知識を培うのにとても重要な経験となった。スタジオで作業するのは大好きだし、ギターを弾くのも好きだ。若いうちに自分が情熱を注ぐことができるものが見つかって幸運だと思っている。
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これだけ繋がることができるのだから、
一丸となった音楽ムーヴメントが起きても
おかしくないと思う
−−この何日か前に【FUJI ROCK FESTIVAL】にてスパークスにインタビューをした時に、今音楽を作っているアーティスト達から野心が感じられなくて残念だ、と言っていたのですが、ザ・キラーズ、ファレルやトリクシー・ウィートリーなど若手アーティストとの制作も精力的に行っているダニエルはどう感じますか?
ダニエル:私は楽観的に考えていて…確かに昔は音楽の中だけではなく、文化や社会に影響を及ぼすような大きなムーヴメントが多数あった。特に70年代にはね。今は様々なジャンルが細分化されている。それは現代のマス・コミュニケーション システムとは矛盾していて、ある意味興味深い。なぜなら、これだけ繋がることができるのだから、一丸となった音楽ムーヴメントが起きてもおかしくないと思う。だが、とあるアーティストはエレクトロニカやハウス・ミュージックを作っていたり、あるアーティストはバンジョーを弾いたりと、結構メチャクチャな感じだ(笑)。一番重要なのは、自分が情熱を注げることをみつけ、それを“セレブレート”することだ。最近ではそれが少し困難になっている。なぜかというと情報が多すぎるため、何か一つを極めることに時間がかかりすぎるからだ(笑)。後、この時代の良い点というのは、誰かがYouTubeに上げた楽曲が、いい曲であれば、世界中の人々に広がっていく可能性を秘めているということだね。
−−そして待望の新作も完成したそうですが、どのようなアルバムに仕上がりましたか?
ダニエル:そうなんだ。“ラボラトリー”で多くの時間を費やし、音を追求した作品だ。そこで完成したサウンドの中で、とてもエキサイティングものがいくつかある。ブライアン・イーノとともにアンビエントな音楽を追求していた時期にいい意味で回帰した曲も1、2曲ある。この10年間を代表するような“ヘッドホン・レコード”になることを密かに期待しているんだ。本当は“ドラッグ”をCDに入れたかったんだが、オンラインでダウンロードするときに、問題になりそうだからそれはあまりいいアイディアじゃないと却下されてね(笑)。リスナーを旅に連れて行きたいと願っているよ。
−−レコーディングはどこで行われたのですか?
ダニエル:ジャマイカで、何曲かレコーディングして…。
−−たしかジャマイカに新しいスタジオを建てたんですよね。
ダニエル:そうなんだ。後で写真を見せてあげる。とても美しい場所だ。
−−ちなみになぜジャマイカに?
ダニエル:90年代にジャマイカでジミー・クリフとレコーディングしたんだ。
−−そうなんですね。ジミー・クリフは、とても知的で、素晴らしい人物ですよね。
ダニエル:うん。素晴らしいスピリットを持った人物だよね。それにクリス・ブラックウェルという旧友がいて、彼とは長年連絡を取り合っている。海辺はとても好きだし、充電するのには最適な美しい環境だ。音楽文化も素晴らしく、ジャマイカで生まれた音楽やビートは歴史的にも重要なものばかりで、カナダ出身の少年としては、あのようなエギゾチックな文化がとても魅力的なんだ。日常や人もペースもゆったりしているし。
−−カナダもある意味ゆったりとしているのでは?
ダニエル:他に国に比べると、確かに温厚だね。ペースがゆったりしていると、自身のおかれた環境を見回すことがより可能となり、結果としていいストーリーが生まれやすくなるので、曲作りには最適なんだ。そして話を戻すと、スタジオを所有しているトロントとLAでもレコーディングを行ったよ。リリースを楽しみにしていて欲しいね。
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アカディ: ゴールドトップ・エディション
2009/02/25 RELEASE
MSIG-555 ¥ 3,080(税込)
Disc01
- 01.スティル・ウォーター
- 02.ザ・メイカー
- 03.オ・マリー
- 04.ジョリー・ルイーズ
- 05.漁夫の娘
- 06.ホワイト・ムスタング2
- 07.ストーミー・スカイ
- 08.ホークウィンド・キルズ
- 09.シリウムの丘
- 10.アイス
- 11.聖アンの黄金
- 12.アメイジング・グレイス
- 13.ザ・メイカー
- 14.ザ・メイカー
- 15.スティル・ウォーター
- 16.ジョリー・ルイーズ
- 17.アーリー・ドゥラード・スケッチ
- 18.ザ・ソース・オブ・フィッシャーマンズ・ドーター
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