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クリス・ハート 『Heart Song』インタビュー
日本の音楽は世界一のヒットになれる。
幼少より日本語とJ-POPに慣れ親しみ、2012年に日本テレビ系『のどじまん ザ! ワールド』に出演して話題に。“天才ソウルシンガー、奇跡の歌声”と賞賛されるシンガー クリス・ハートが、日本の魅力やJ-POPの凄味を語り尽くす。
若いころはヴィジュアル系だった?
--デビューから1か月ほどが経ちましたが、テレビやラジオへの出演やイベントなど、忙しい日々が続いていますね。
クリス・ハート:想像よりも忙しいのが嬉しいですね。昔ロックをやっていたころはレコーディングとかライブが一番楽しかったけど、今はファンと直接話すことが一番好きになりました。
--クリスさんはご両親が音楽をやっていたこともあって、音楽に触れるのは早かったんですよね?
クリス:両親はバンドで知り合って、お互いに音楽やアートをやってたけど、子どもができてからは普通の仕事をがんばっていたから、音楽は楽しむためのものだったみたいで。だから僕が子どものころから家にはいろんな楽器があったし、自由なペースで音楽を楽しめていたから、音楽のない生活は想像できないですね。
--アメリカでバンドをやっていたころは、ヴィジュアル系にも挑戦された過去があるとか。
クリス:ヴィジュアル系の影響を受けたハードロックをやっていました(笑)。アメリカではJ-POPよりもアニメとかヴィジュアル系のシーンの方が人気があったので、J-POPだけだとライブをする場所があんまりないんですよ。
だからJanne Da ArcさんとかL'Arc~en~Cielさんとか、たまにスピッツさんのカバーを混ぜたりとか。若いころって、ワイルドなことをやりたいじゃないですか?(笑) でも、歳をとって大人になって日本に住めるようになって結婚して……、今はJ-POPが一番自然かなって思います。
--ヴィジュアル系をやっていたころのファッションは?
クリス:最初はメイクとかもちょっとやってみたんですけど、結果がすごい微妙で(笑)。それからはハードロックの格好でやってました。ヴィジュアル系はハマッてたし好きなんですけど、もっと日本のことを知りたくて日本人がよく聴いている音楽を聴いていくうちに、段々ポップスになってきましたね。日本に来て紅白とかを観て、ゆずさんとかコブクロさんの歌にみんなが泣いているのを観て、“何で泣いてるんだろう?”って知りたくなったんです。
--では、アメリカのヒットチャートにあるポップスとJ-POP、一番の違いは?
クリス:歌詞ですね。アレンジャーはJ-POPでも外国人を使うことがあるけど、真似することができないのは日本語の歌詞。言葉やメッセージが違うし、伝え方が違います。
アメリカのポップスはまっすぐでストレートな感じで、リズムとかかっこよさの方が大事だから意味のない言葉を使ってもだいじょうぶ(笑)。でも、J-POPだと微妙な歌詞では聴く理由がなくなるというか。良い歌詞に対して、アレンジや曲を合わせていく作業をしていくから、理由のない曲はないと思います。
--今、日本ではAKB48やEXILEが人気になっています。
クリス:見ていると“何でこんなに人数が多いんだろう?”って普通に考えるけど、それはグループでがんばりたいっていう日本の文化に繋がっていると思います。この前アメリカに帰ったんですけど、地元のサンフランシスコを歩いていても何となく思ったのは、やっぱりアメリカは楽しむために働くんですよ。日本は働くために働く、みたいな所があって街のリズムが全然違う。
それは音楽も一緒で、アメリカは楽しんだりリラックスするために音楽を作っているけど、日本ではAKB48さんでも“がんばって”とか“ひとりじゃないよ”ってメッセージがありますよね。
--そういう違いはお客さんを前に歌っていても感じますか?
クリス:アメリカは知らないアーティストでも簡単に盛り上がるけど、日本はしっかり聴いてくれる。じっとしたまま聴き終わって拍手をする感じだから、最初は“微妙だったのかな?”って思ったんだけど、しっかり聴いてくれているって気づいてからは“(音楽を)100%エンジョイしたいんだな”って分かるようになりました。
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
日本の音楽は世界一のヒットになれる
--ついにリリースとなったアルバム『Heart Song』にはJ-POPの名曲カバーが収録されていますが、6曲目の「僕が一番欲しかったもの」は、かつて槇原敬之がイギリスのボーカルグループ BLUEに提供した英語詞の楽曲「THE GIFT」を、槇原さんが日本語でセルフカバーした楽曲です。これをクリスさんがカバーするという構図は面白いですよね。
クリス:うちの奥さんのお母さんが、槇原さんのことをすごい好きなんです(笑)。まずは「僕が一番欲しかったもの」を聴いてすごいと思っていたんですけど、その後にBLUEさんのバージョンを聴いて、日本の音楽は世界一のヒットになれる。アレンジをちょっと変えたら、どんな曲でも海外でヒットすると思ったし、J-POPが世界中にヒットしたらいいな~って思いますね。
--クリスさんの「僕が一番欲しかったもの」は、アメリカンポップスを感じられるコーラスワークが印象的でした。
クリス:自分のルーツを使って歌ったけど、アレンジ自体は原曲に近いですよね。何よりもJ-POPの雰囲気がなくならないように考えていました。若い人たちがどれくらい槇原さんを聴いてるかはわからないけど、スティーヴィー・ワンダーさんみたいな感じでソウルもあるし元気になれる曲もある。絶対に聴いた方がいいと思っているので、自分の声を使って国際的なアピールができたらいいなって。
--実は僕はJULEPSが歌った「旅立つ日」を知らなくて、今回のカバーで初めて聴きました。
クリス:たぶん、聴いたことはある……くらいの人は多いのかもしれないけど、すごく良い曲だから! ポップスなのにここまで深い曲があるんだってびっくりしたし、アレンジはそんなに重くないしライトで前向きな感じなのに、家族や死について歌っていることがすごいと思いました。
--また、クリスさんは昨年ご結婚されましたが、福山雅治の「家族になろうよ」をはじめ本作にはご自身の人生とリンクする歌ばかりが収録されていますよね。
クリス:今の僕にぴったりな曲ばっかりですね。若いころはロックをやって、一生懸命に楽しみたい!って気持ちだったけど、大人になって結婚して、子どももいつか作りたいし、自分の未来を作れる力が湧いてくるというのかな。誰かと結婚すればこれからの家族を自分で作れる。そういう夢を持ってがんばれるから、「家族になろうよ」はすごい曲だと思います。
--Kiroro「未来へ」では母の愛情について歌いますが、結婚されたことで歌詞の印象が変わった部分はありますか?
クリス:「未来へ」は昔のこと、現在のこと、未来のことが全部入っているんですよね。ただ、この曲では子どもとして、母への感謝を歌えたことが嬉しいんです。たとえ家族を作ろうとしていても、まだまだ誰かの子どもだし、子どもの気持ちもまだ持ってる。お父さんやお母さんのおかげで今の僕がいるから、感謝の気持ちを伝えたいなって思ってます。
J-POPは歴史が深く、ルーツやストーリーを知ってから歌いたい
--どの曲もカバーでありながら、しっかり自分の歌にして歌えている点もすごいと思いました。
クリス:外国人として、こんなに名曲をカバーできて本当に嬉しい! 僕の大好きなJ-POPをこんなに歌わせてもらえて……。本当にJ-POPには名曲がありすぎる! 今回のアルバムには、12歳でJ-POPを好きになった僕の16年分のストーリーが入っているけど、もしよければこれからたくさんカバーしたいなって思います。家族以外のストーリーもけっこうあるし、何回も何回も歌いたいです。
--リスナーとして、クリスさんに歌って欲しい曲もいっぱいありますよ。
クリス:J-POPは歴史が深いから、どんな曲を歌えばいいのか悩みますね、70~80年代の曲もたくさん歌いたいし。でも、歌う前にルーツやストーリーをちゃんと知りたいんです。歌うだけっていうのはちょっと微妙。歌を聴いて歌詞を読んで、ヒストリーを勉強する。今回のアルバムに入っている曲はそれをわかっているからこそ歌えたけど、知らない曲は巧く歌うことよりも、ちゃんと歌いたいんです。
--ということは、選曲してから実際に歌うまでには長い時間が必要?
クリス:そうですね。名曲は、聴いている人の中に思い出がついてますよね。その大事な思い出を守って歌いたい気持ちがあるし、オリジナルの良さも守りたい。外国人として日本の歌をうたっているから、日本人の力になれない状態だったら意味がない。だからこそ、ちゃんと理解しなきゃいけないんです。
それは知らない言葉もそうですけど、何よりも日本人はどういう気持ちになるのか。どんなストーリーや思い出があるのかを考えなければいけない。それをしないと曲が軽くなってしまう。それは絶対にダメ。それはオリジナルのアーティストに申し訳ないですよね。
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
母の料理のようになれたら嬉しい
--森山直太朗「さくら(独唱)」は、シンプルなアレンジの楽曲ですし、日本を象徴する樹木である桜がテーマだけに難しかったのではないでしょうか?
クリス:「さくら(独唱)」は本当に日本のイメージが強いですよね。お別れとか卒業、離れていく人へのイメージがあるけど、簡単に歌ったら心にあるストーリーに響かない。若いころからの桜の思い出もあるだろうから、日本人のライフストーリーを考えながら……。僕が日本人だとして、こういう時に聴いたらこんな気持ちになるだろうから、こんなセッティングで歌った方がいい、とか考えましたね。
--クリスさんは2009年に日本に移住してから、自動販売機の営業の仕事をして生計を立てていたそうですが、そういう経験があるからこそ日本人の生活が理解できる所もあるのでしょうか?
クリス:日本に来て、できる限り日本人らしい生活をしたいと思っていたから、毎日日本語で話していましたね。たとえば「home」も、仕事をやりながら“もう疲れちゃったな……、家に帰りたいな……”って思った経験を使って歌いました(笑)。
12歳でJ-POPを好きになりましたけど、12歳のころって自分のアイデンティティを作る時期ですよね? そこからずっと日本の影響が大きくあって、ずっと日本に住みたいと思ってたんですよ。それに最初は歌手になりたいっていう気持ちよりもミュージシャンになりたい気持ちだったんだけど、日本に来て文化を知って、歌手になりたくなった。日本の文化が好きだからもっと知りたいし、もっと良いこと、力になれることをやりたい。だからこそ歌手になりたいって気持ちができたんです。
--では、今抱いている歌手としての目標や夢は?
クリス:日本に住んで日本人と結婚したけど、まだ日本の文化や心を100%まで理解できていないから、100%理解できるまでがんばりたいです。僕は歌手としての夢よりも、リスナーや応援してくれる人の夢を応援したいって気持ちがあります。聴いてくれる人を増やすことよりも、聴いてくれる人のために良い曲を作りたい。金持ちになるためとか有名になるためじゃなくて、ちゃんと理由を持って歌いたいんです。
もちろん、武道館や大きいステージで歌えるようになれば嬉しいけど、あたたかい感じで応援してくれる人はファミリーみたいな感じだから、みんなと一緒にエンジョイしたいなって思うし、僕はみんなの夢を応援しているからがんばってください、っていうメッセージを優先したいですね。
--日本の文化で難しいと感じるものはありますか?
クリス:やっぱり敬語の使い方が難しいですね(笑)。敬語も日本の文化と繋がっていて、相手の立場や気持ちを考えている所がすごい。だから歌でもそんな風に、聴いている人の立場や気持ちを考えて、良い曲を作りたいんです。
--最後の質問になりますが、今、日本で一番興味を持っていることは?
クリス:いっぱいありますね! ん~……(真剣に考え込んで)……、もっと和食を作りたいなって思いますね。料理はするけど和食は作ったことがないんです。外国人の友だちは寿司や蕎麦は知ってるけど、細かい所までは知らない。日本のいろんな料理を紹介したいと思うから、まずは自分で勉強して作れるようになって、みんなに食べさせたいんです。
だから自分が食べることよりも、料理することが面白いんですよ。“何でこんな味が好きなのか?”とか、“この土地でこの食べ物が人気になった理由はなんだろう?”とか、そういうことを考えているから、もっと詳しく知りたいんです。
それって歌と一緒だと思うんですよね。僕の音楽は、高い店のおしゃれな高級料理じゃなくて、お母さんが作ってくれた料理のようになれたら嬉しい。本当に心があたたかくなる音楽がいいです。
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
Heart Song
2013/06/05 RELEASE
UMCK-1448 ¥ 3,204(税込)
Disc01
- 01.ありがとう
- 02.LOVE LOVE LOVE
- 03.家族になろうよ
- 04.home
- 05.たしかなこと
- 06.僕が一番欲しかったもの
- 07.未来へ
- 08.旅立つ日
- 09.奇跡を望むなら...
- 10.瞳をとじて
- 11.楓
- 12.涙そうそう
- 13.さくら (独唱)
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