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JASMINE 『THIS IS NOT A GAME』 インタビュー
感覚と衝動。なんだかロック然とした言葉を並べているが、JASMINEの音楽はこのふたつによって生み出されていることが、今回のインタビューを通してよく分かった。叫びたい想いをリリックに乗せ「これは面白い」と思ったモノを感覚的に音へ変換していく。そのスタイルで、ましてや新人で彼女ほどの人気を集めるアーティストは非常に希だと思うのだが、故にメディアやリスナーがJASMINEをカリスマ化しようとするのも必然と言えよう。2010年代のシーンは面白くなる、そんな確信をこのテキストを通して感じてもらえたら嬉しい。
あの人たちはきっとヒップホップ聴いて育ってない
--今日はhotexpress初登場なので、まずはJASMINEが何に魅了されて、こうして今音楽を発信しているのかっていうところを聞いていきたいんですが、音楽が好きになったキッカケは何だったの?
JASMINE:家族が全員音楽好きで、お父さんはギターがすごく上手いんですけど、昔は歌手を目指していたんです。で、お母さんも最初は歌手になりたくて、でも楽器の方が得意だと気付いていろんな楽器を弾いてきて。ピアノの先生とかもやってるんですよ。なので家にいれば自然と音楽が流れてくるので、気付いたらもう好きになっていました。だから普通に「将来は音楽しかないんだ」と思っていて、音楽に関わることなら何でも良いからやろうと。でも私、面倒くさがりなんで、勉強とか嫌いなんで、音符を読むのが嫌だったんですよ。それで「音符を読まなくてもできるのは歌しかない」と思ってゴスペルを始めました。
--いわゆる娯楽やアート、エンターテインメントで最初にハマったのは音楽?
JASMINE:興味が音楽にしか行かなかったんですよ。小さいときから、いろんなテレビを観てたけど、記憶に残るのが音楽プロデューサーとか歌っている人の裏側とかを追っかけている番組ばかりで。「こんな風になってんだ~」って感心しながら観てました。あとテレビを観ていて憶えているのはウド(鈴木)ちゃんぐらいで。
--音楽とウドちゃんだったんだ(笑)。
JASMINE:ウドちゃんにファンレター書いたりしました。出せなかったんですけど。
--そんな女の子が音楽を作ったり発信していくことになったキッカケは何だったんでしょう?
JASMINE:何をやっても誰も認めてくれなくてグレる時期ってあるじゃないですか。「全員敵!」みたいな。そのときに「あなたは音楽をやりなさい」って言ってくれる人がいて、その言葉がちょっとずつ染みていって。で、そういう言葉を言ってくれていた人がひとり亡くなってしまったんです。その人は亡くなる直前に私のことをすごく口にして気に掛けていてくれたみたいで。それで「何でもいいから何かやんなきゃ」と思っていたときに、友達が「俺の先輩ラップやってんだけど、おまえ一緒にやってこいよ」って言ってくれて。「やる!」って言ってクラブに行って、その先輩に会ったら「この日までに曲作ってきて」って。それで何も分からないながらも無理やり作ったのがキッカケ。
--どうやって作ったの?
JASMINE:トラック流しながら鼻歌で。「こんなんでいいのかな?」とか思いながら。でもゴスペルをやっていたのでニュアンスとかハモりとか、何となく分解の仕方は分かっていたので、それだけを頼りに曲を作りました。
--今はどんなスタイルで曲を作ってるの?
JASMINE:なんだかんだでそのときと変わらない。でもそのときは「これでいいのかな?」って不安になりながら作っていたけど、今は「これでいいんだ!」と思って作ってます。
--初めて曲を作ってからデビューに至るまではどんなストーリーがあったんでしょう?
JASMINE:クラブで歌ってるときに「おまえはクラブで歌うより、ちゃんとメジャー行ってプロ目指した方がいいよ」って言われて、それで「そうするつもりッス。言われなくても」みたいな。で、そのときはライバルの存在が大きくて、ラッパーの中に入っていって「おまえなんかには負けないから」みたいな剥き出しな世界でどんどん意欲を燃やしていって。「こいつら、絶対見返してやるからな」みたいな感じだったんですけど、その中である日「CDをレコード会社に送りつけよう」と思って、送り……、叩き付けました。
--(笑)。それがソニーさんだったと?
JASMINE:他のところに入ろうとは思わなかった。好きなアーティストのCDを見てみると大体ソニーミュージックで。
--デビューが決まったときはどんな気持ちに?
JASMINE:フェードインしていく感じだったので「決まった!」って実感する瞬間がなくて。気付いたらデビューすることになったなっていう。ただ、私は常に外を歩くときにiPodで音楽聴いてるんですけど、レジか何かに並んでいるときにヘッドホンを外したら自分の曲が流れてきて「おぉ~!あ、そっか」ってデビューしたんだってことに気付いて「やべぇ!みんなこっち見てる?」みたいな感じにはなりました。
--ちなみにJASMINEのオフィシャルサイトのプロフィール欄には“弱冠20歳にして、間違いなく時代を変える驚異の存在”と書かれていますが、そういう意識を自らも持ってデビューした感覚ってあるの?
JASMINE:意識しても時代は変えられないです(笑)。逆にそれを見て「そういう意気込みか!」って。
--では、自分がそういう取り上げ方をされる要因って何だと思います?
JASMINE:テンション。ヴァイヴスですかね。クラブでけちょんけちょんにされた経験があるから、そのサヴァイヴな感じというか、ヴァイヴスが周りにそう感じさせるのかもしれない。
--僕はもう単純に他とは違うからだと思うんです。JASMINEと同世代でR&BやR&Bテイストのある音楽をやってる女の子たちとは一線を画す歌をうたってるから。
JASMINE:デビューするまではそういう女の子たちの曲は全然聴いてなかったんで、後からそういう風に言われてみんなとは違うんだって気付いた感じですね。それで「あの人たちはきっとヒップホップ聴いて育ってないなぁ」とか思ったことはあります。でも確かに私は小さいときから「友達とはかぶらないようにしよう」とか思っていたりはしました。洋服にしても「あの子が着てるようなのは絶対に買わない」とか。
Interviewer:平賀哲雄
実はあの曲はお父さんに向けて書いてるんです
--巷では着うた(R)世代を中心にセツナ系ラブソングが大流行していますが、JASMINEの声からは切なさに止まらない、情念みたいなモノを感じます。
JASMINE:声についてはいろんなことを言われるんですけど、生まれついたときからこの声なんで。これが普通というか。でも子供の頃はこの声で大人にバカにされたりはしました。風邪ひいてないのに「おまえ、いつも風邪ひいてんじゃねーか」とか。
--いや、声質も確かに個性的なんだけど、好きとか嫌いとか、切ないとか嬉しいとか、そういうひとつの感情では語れない想いをその声ひとつで表現してるじゃないですか、JASMINEって。
JASMINE:それだけを考えながら歌ってます。ゴスペルがそういう音楽だから、そういう風に歌うのが癖になっちゃってます。逆に何の感情も入れないで歌う方が疲れちゃう。もちろん感情が入ってない歌なんて「なんだよ、これ」って思うし。
--ちなみに「様々な感情がその声に入り交じっているな」と僕が最初に感じたのが『sad to say』だったんですが、あの曲はどんな背景や想いから生まれたモノなんでしょう?
JASMINE:今まで言わなかったんですけど、実はあの曲はお父さんに向けて書いてるんです。リリースした当初はそれは言わないでいたんですよ。きっと失恋ソングとして聴く人の方が多いから、それを言って聴く人の自由を妨げるのはイヤだなって話になって。でも私的にはお父さんのこと。お父さんっ子で小さい頃は「お父さん、お父さん」っていう感じだったんです。で、お父さんがいけないんですけど、お母さんと別れて「はぁ~」ってなったときに書いたのがあの曲。
--なるほど。ただ、今の話を知る前から「クソくらえ」とか「本当はなぐりたい」とか「ムカつくから」とか、これらのワードを詞に乗せてしまうところに、JASMINEがJASMINEとして歌を発信する意味があるように感じていて。
JASMINE:そういうことはあんまり考えてないんですけど、でも「Fuc○」は使いたかった。アンダーグラウンドの友達とかが「メジャーは良いよな、嘘ばっかり言ってりゃいいんだもんな」って言ってきて、それで頭来て「じゃあ「Fuc○」使ってきてやるよ、見てろよ」ってずっと思ってたんです。あと「なぐりたい」は本当になぐりたかったから使ったし、本当に「クソくらえ」と思ったし。綺麗な言葉では収拾がつかなかったし、もう「クソくらえ」も「なぐりたい」も言いたくて仕方なくて言っちゃった感じです(笑)。
--吐き出したい言葉をすべて吐き出した歌だ?
JASMINE:そうですね。でもそうやって歌にしたらスッキリするのかと思っていたら、そうでもなくて。普段から言いたいことは言うんですけど、一番言わなきゃいけないことに限って素直に言えない。で、お姉ちゃんは両親が別れるときにお父さんを叩いたんですよ。でも私はできなかったし、何も言わなかったからそれを歌にしたんだけど……。
--そんな『sad to say』がリリースされてヒットしました。どんなことを感じました?
JASMINE:みんな、わりと短気なんだなって。
--この曲に共感するってことはね(笑)。
JASMINE:リリースする前は「これ、ただアンチを生むだけじゃない?」と思って、自ら潰されに行くみたいな(笑)感じだったんだけど、男の子も女の子も問わず「良いと思った」って言ってくれたから。そんなに心配する必要なかった。
--そうしたリスナーの感想を聴く中で『sad to say』への印象は変わっていったりはしました?
JASMINE:変わりました。いろんなことを考えてお父さんのことは言わないでリリースしたんですけど、私と同じように親を想いながら聴いてくれる人もいたり「自分の同世代の女の子がこの曲で世に出たことが勇気になった」って言ってくれる人もいて。家出少女が「この曲を聴いて家に帰ろうと思いました」っていうのもありましたね。だから全然聴く人によって音楽って本当に違うんだなって。みんな自分のことのように聴いてくれるのが面白いな~って思いました。
--家出少女がこの曲を聴いて家に帰ったって、完全にその人の人生変えてるじゃないですか。でもそれってJASMINEがお父さんに対しての本気の想いを出したからだよね。この曲から浮かび上がるシチュエーションはみんな違うけど、ひとつの感情では表現できない生々しさが家出少女の心に刺さったっていう。
JASMINE:そうですね。そうやって曲を聴いてくれる人が何かちょっとでも変わったんだとしたら、成功です! 全然自分のことしか考えないで作った曲だったからビックリはしましたけど。でも自分もそういう風に音楽を聴いていたなぁ~って。作った人のことを考えて聴くんじゃなく、その言葉を自分なりに捉えて聴いていたし。「音楽が繋げる」ってそういうことかって思いました。
--そこでの世の評価も後押しをしたと思うんですが、気付いたらNe-Yoのジャパンツアー【NE-YO The Collection LIVE 09】に参加。普通に驚きました。
JASMINE:あの……、人生において三大イベントに入る。いや、もはや人生最大です!
--(笑)。
JASMINE:ビックリしました。最初に聴いたときは「そういうこともあるんだ~。面白そ~」ってちょっと他人事みたいに捉えていたんですけど、時間が近付くにつれて「てゆーか、歌うんじゃん!」って。
--しかもそれが初ライブでしょ? さいたまスーパーアリーナ、デカイし。いくらでも緊張する要素はあったと思うんですが、実際にステージに立ってみたらどうでした?
JASMINE:結局、緊張でした。緊張する要素がありすぎて頭の中が追いつかないんですよ。だからヒートするしかないっていう。「緊張はするさ!緊張だよ!緊張!緊張!わぁ~~~~~~~!」みたいな(笑)。でもひとつだけ冷静だったのは、緊張を顔に出すのだけはダメだと思って。それだけは自分に言い聞かせました。その結果、最初は本当に倒れるかと思ったんですけど、最後はもう気持ちが良すぎて「はぁ~~」ってなっていました。
--そんなビッグニュース連発中のJASMINEですが、2010年はこのシングルでスタートします。『THIS IS NOT A GAME』、自身では仕上がりにどんな印象や感想を?
JASMINE:アクセル全開です!ベタ踏み。今話したライブのことがあったので、最初は『STAGE』っていうタイトルにしていたんですけど、でもそれだと私事になりすぎてしまうので、もうちょっと伝えていく感じにしようと思って『THIS IS NOT A GAME』になりました。
Interviewer:平賀哲雄
自分で赤い布持って、自分でそこに向かって突っ走る
--過去2作品に比べてダンスミュージックとしての機能性が高いナンバーになっています。
JASMINE:断然ライブの影響です。この曲を作った時期は自分が出た【NE-YO The Collection LIVE 09】もあったし、別のアーティストのライブを観に行ったりもしていたので、テンション的にはクレイジーだったんですよ。それで「何で人は狂うのか?」って考えたんですけど、それは狂いたいからじゃないですか。自分のブログのコメントとかファンレターに書いてあった言葉たちを見てみると、みんな音楽で狂いたいんですよ。普段の自分を忘れたい。失恋した人、精神的に病気がある人、将来に思い悩んでいる人、今がよく分からない人、いろんな人がいて、でもみんな音楽に狂いたいんですよ。私もそうで、音楽に狂っちゃってるんですけど、ステージってまさにそういうもんだなって思ったんです。私が狂った分、聴いた人も狂うことができるじゃないですか。そこへ突進しようっていう。
--リリック的にもかなり攻撃的というか、ワガママというか、感情が抑えきれない感じになっていますが。
JASMINE:最初はライブっぽい感じにしようと思ったんですけど、押し付けがましいモノであっても意味がないし、共感できない曲でもよくないと思ったので、恋愛の要素も入れたりして。まぁ結局押し付けがましいんですけど(笑)いろんな人に聴いてもらえる歌詞だし、曲になったかなって。
--そして最終的に『THIS IS NOT A GAME』というタイトルにどんな意味や想いを込めたの?
JASMINE:中途半端じゃない感じ。「うわぁ~~~~~~!」ってなるんですよ、私。その「うわぁ~~~~~~!」感です。
--いや、分かるけどさ(笑)。活字になったらよく分かんないよ。
JASMINE:「うわぁ~~~~~~!」を大きめに表示してください。
--分かりました(笑)。ちなみにこの曲における“This is my stage”っていうのは、JASMINEの中ではどこを指しているの?
JASMINE:聴く人の多くはきっと下ネタとしか思わない。でも何かに狂っている人は、これを聴いてもっと狂っちゃうかも。でも『THIS IS NOT A GAME』は歌詞が……とか、音が……とかより「ここの中どう!?」みたいな(胸を叩きながら)。水牛なんです。
--え?
JASMINE:あ、闘牛なんです。
--……。
JASMINE:最初は野獣だったんですよ。いや、カミナリ。
--(笑)。
JASMINE:イントロにズドドドドーン!ってやつを入れたかったんですけど、実際に入れてみたらバイクふかしてる音にしか聞こえなかったんで、虎の鳴き声を入れて野生感を出して。その声が聞こえてきた瞬間に、牛と闘牛士が戦う競技あるじゃないですか。あれが始まるイメージ。だから私はあれの赤い布を作ったんです。
--そこへ聴いている人たちが突っ走ってくる訳だ。
JASMINE:まぁ私が突っ走るんですけど。
--めちゃくちゃ忙しいね!
JASMINE:自分で赤い布持って、自分でそこに向かって突っ走る。
--(笑)。
JASMINE:それを観てれば、さすがにみんなも居ても立ってもいられなくなる。でも本当にそれをこの曲では表現したかったんです。
--あと、今作にはカーク・フランクリンのカバー『MY LIFE, MY LOVE, MY ALL』が収録されていますが、今回このカバーを収録しようと思ったのは?
JASMINE:「ゴスペルって何だ?」って人に聞いたら「たくさんの人で歌ってるやつでしょ?」とか「神様に向かって歌ってるやつでしょ?」って答えるんですけど、私からするとそうじゃないんですよ。そういう要素を無くして、海でひとりで歌ってゴスペルの本当の意味を表現したかったんですよ。でも海で歌うってなると、風の音がごわごわするからダメだってことになり「じゃあ、ギター1本と私で」って言って。
--JASMINEにとってゴスペルって何なの?
JASMINE:大事なのは、信じること、愛すること。自分がどんなことをしてしまったとしても、自分のことを見捨てないでいてくれるモノが絶対にあるってこと。
--それをギター1本と自分の声で表現した『MY LIFE, MY LOVE, MY ALL』の仕上がりにはどんな印象を?
JASMINE:街で歌ってる人。伝えたいこととギター1本だけを持って上京してきた人。それだけの人なイメージです。
--この曲をライブとかで生披露したら、JASMINEの印象がまたひとつ変わると思います。それこそリスナーの年齢とか関係なく感動を与えられるんじゃないかと思うんですが、今後もこういう曲は歌っていきたい?
JASMINE:そうですね。でもやっぱり私はビートを愛してるから。ビートがあるモノの上でゴスペルが伝えられたら、なお良い。
--さて、またひとつふたつと新たなJASMINEを表現した今回のシングルですが、ここから始まる2010年はどんな1年にしていきたいですか?
JASMINE:アルバムを出したい。アルバムを出した後に何があるのかが「ふぅ~っ!」って感じです。何があるか分かんないけど、楽しみ。早く知りたい。
--アルバムのイメージは自分の中では固まっていたりするの?
JASMINE:今はそれを考えるのが楽しい。でも手榴弾を投げつける感じが良いです。「行くぞ!」って言ってリスナーの方に向けて投げる。
--それはサウンド的なこと?それとも相手に与えるインパクトとして?
JASMINE:ダメージとして。
--楽しみにしてます(笑)。あと、最後にベタな質問をしたいんですけど、JASMINEはこれから先、どんなアーティストになっていきたい?
JASMINE:自分探しの旅。どんなアーティストになっていくかを探します。だからどんなアーティストになるかは死ぬときになんないと分かんない。死んだら分かりますもんね。
--その答えを知りたければ、それまで付き合えと?
JASMINE:そうです!
Interviewer:平賀哲雄
THIS IS NOT A GAME
2010/03/03 RELEASE
AICL-2089 ¥ 1,068(税込)
Disc01
- 01.This Is Not A Game
- 02.MY LIFE,MY LOVE,MY ALL
- 03.(エンハンスド)sad to say (LIVE ver.)
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