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オータム・ディフェンス 来日インタビュー
2001年にリリースされたデビュー作『The Green Hour』以降、色褪せることのない良質な作品を生み出してきたジョン・スティラットとパット・サンソンによるオータム・ディフェンス。元々友人だった2人の70年代ロックの愛好?ジョンが書き溜めていた曲をレコーディングするということから発展していったこのプロジェクト。豊かで情緒的なソングライティング・センス、様々なバンドやセッションへの参加から培った巧みなアレンジ能力、そして2人が織りなす珠玉のヴォーカル・ハーモニーは唯一無二。ウィルコのメンバーでもあることもあり、多忙なゆえアルバムの制作ペースは2、3年おきとゆっくりめだが、近年ではレーベルメイトでもあるニック・ロウのアメリカ・ツアーの前座を務めるなど、単なる“サイドプロジェクト”ではなく、着実にバンドとして前進している。
そんな彼らが2013年4月に行われたウィルコのジャパン・ツアー後に、オータム・ディフェンスとして初となる日本公演を鎌倉 Cafe Goatee、そして下北沢ラ・カーニャにて行った。2公演とも即日ソールドアウト、集まった熱心なファンをも唸らせる“これこそアコースティック・ライブの醍醐味”という素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。公演終了後「ライブより終わった後のサイン会の方が長かったね。でもこんなに多くの人が残って待っていてくれて嬉しい。」と笑顔を見せていた2人。そんな優く温かみのある人柄も彼らが多くのファン、さらにミュージシャンから愛される理由なのだろう。今回はマルチ・インストゥルメンタリストとしてジョセフ・アーサー、アンドリュー・バードやライアン・アダムスの作品に参加、さらにはウィルコの最新作『ザ・ホール・ラヴ』の共同プロデューサーも務めているパットが、ジョンとの出会いや9月にリリース予定の約2年ぶりとなるニュー・アルバムについて語ってくれた。
テーマやコンセプトに沿って制作することに挑戦してもいい時期なのかも
――昨日、鎌倉にてオータム・ディフェンスとして初となる日本公演を行いましたが、いかがでしたか?
パット・サンソン:今君が座っている位置に観客がいるような小さな会場で、雰囲気もとても良かった。来てくれた人々も熱心に演奏に聴き入ってくれて、とても親密で特別なライブになったよ。
――ウィルコのメンバーとして何千人の前で演奏するのとは、大きな差ですよね。
パット:まさに正反対だよね。知っているとおり、ウィルコのライブは6人の個々のミュージシャンが複雑に織りなすサウンドで構成されていて、観客もそうだけど僕自身も吸収するものが多くある。昨日のような環境でのパフォーマンスの利点は、より音に集中でき、観客との"距離"や反応を直に感じられること。その反面、無防備でもある。そこにあるのが自分の声とギターのみだから。
――一つ一つの音、そのニュアンスなどもフィルターを通さずダイレクトに伝わってしまいますからね。
パット:そうなんだ。だから緊張感をもって演奏しなければならない。たまに綱渡りをしているかのような感覚になるよ(笑)。
――現在オータム・ディフェンスはニュー・アルバムの制作を行っているそうですが、どのような流れでアルバム制作を開始するのですか?たとえばあるアイディアがあって、それを形にしていく…それとも自然な成り行きで?
パット:自然な流れで出来上がっていく方が多いかな。ジョンも僕も、個々でいつでも曲は作っている。1stアルバムに関しては、ほとんどジョンが書いたもので、1枚のアルバムが作れるぐらいの曲が既にあった。ほぼ完成されていたけれど、アレンジや曲の焦点をさらに絞る手助けが必要ということで僕がプロダクションの面を引き受けた。アルバムのリリースごとにソングライティングの比重は同等になっていて、今では満足できる曲がお互いある程度書けたら、タイミングがいい時に制作し始める感じかな。
――大体アルバムは2~3年ぐらいのスパンで制作されていますよね。
パット:そうだね。一番の理由は知っているとおり、他のバンドやプロジェクトで忙しいということ。"完璧主義者"という言葉は極力使いたくないけれど、2人とも細部までこだわりたいタイプなんだ。サウンドはもちろん、特に僕はアレンジメントの部分を掘り下げ、追求したいので、大体それぐらいの時間がかかってしまう。せっかく作るものだから、中途半端な内容のものはリリースしたくない。でもそれを次回作のコンセプトにするのも面白いかもね。2年じゃなくて、3週間でアルバムを作るっていう(笑)。この次のリリースは、テーマやコンセプトに沿って制作することに挑戦してもいい時期なのかも、というのは感じているよ。
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クリエイティヴであって建設的ないい関係性を築けている
▲ The Autumn Defense New Record Promo
――今話にあったように多忙なのもあると思いますが、今作はかなり断片的にレコーディングをしている印象を受けました。
パット:何週間か集中的に作業をして、時間をおいてから再度作ったものを聴き返してみると新たな発見がある場合が多い。1年中何らかの形で必ず音楽に携わっているから、他のプロジェクトから影響を受けることもある。今度リリースされるアルバムが、そんな風に制作されたのは確かだよ。一番最初のセッションが行われたのは2年前で、その3か月後に再びセッションして、そのまた3か月後、そして6か月後という具合にセッションを重ねていった。すべて終了し、出来上がったものを聴いてみた時に初めてどの曲が作品に合うかを考えた。今思い起こしてみると、最終的にアルバムに収録された曲の中には、意外と思えるものもあるね。
――アルバムはすでに完成しているのですか?
パット:レコーディングは終了しているよ。95%完成していると言ったらいいかな(笑)。あとはタンバリンやシェーカーの音を加えるぐらい。シカゴに帰ったら、早速ミキシングを始めるんだ。
――今作に参加しているミュージシャンは、前作と変わらず?
パット:そうだね。変わったのはライブで演奏しているベーシストが、レコーディングに初めて参加しているということかな。今までオータム・ディフェンスが、バンドとしてスタジオに入る機会はあまりなかったので、いい経験だったよ。大体僕とジョンの2人に、ミュージシャンもう一人という形だったけれど、今回全員でレコーディングすることで"バンド"としての一体感が高まった。今のライブ・バンドは凄く気に入っているメンバー達だから、一緒にレコーデイングできて楽しかったよ。
――では制作パートナーとしてのジョンとの関係性についての話を聞かせてください。10年以上、共に作品づくりを行っていますが、彼との繋がりは直感的でしたか?それとも時間とともに構築されていったもの?
パット:直感的だね。二人の好みや感性が似ているというのは、このプロジェクトを始めた大きな理由でもある。それは出会った時に瞬時に肌で感じとれたことで、99年に初めて一緒に音楽を作った時にも、お互いがどのような作品づくりを目指しているのか感覚的に理解できた。彼とは波長が合うんだ。同時期に同じレコードを聴いていたり、レコード・コレクション自体も共通している。それに好きな服や映画も(笑)。兄弟のような感じだよね。もちろんたまには意見が食い違うこともあるけれど、話し合うことはいい関係性を保つ上で大切だと思う。それはスタジオに入っても同じで、僕のことを信頼してくれているけれど、彼自身も素晴らしいアイディアの持ち主である。お互いの意見を尊重しながら、クリエイティヴであって建設的ないい関係性を築けていると思うよ。
今回のアルバムには、僕がここ何年か作品づくりを一緒に行っているジョシュア・シャピーラ(Joshua Shapira)が共同プロデューサー、そしてエンジニアとして参加してくれている。僕がプロデューサー目線で細かく気を配る必要がなくなったことで肩の荷が下りたし、制作過程において大きな変化に繋がった。ジョシュアがいることで、より客観的に物事を判断できるし、細かい部分を任せられる。結果、パフォーマーとしてジョンと一緒に心置きなく音楽を作ることに集中できたんだ。
――そしてオータム・ディフェンスの最大の魅力は、2人の唯一無二のヴォーカルの相性とコーラスワークですよね。
パット:2人ともニューオーリンズに住んでいた頃に、街ですれ違うことが増えて、そこから音楽の話をするようになった。次第に彼のアパートでレコードを聴いたり、軽くギターを弾いて歌う…いわゆるジャムるようになった。その時によく演奏してのたが、ラヴの『フォーエヴァー・チェンジズ』。あのアルバムには素晴らしいハーモニーが詰まっている。後はサイモン&ガーファンクル、クロスビー、スティルス&ナッシュだったり。そういうレコードを通じて、2人のヴォーカルの相性がいいことに気づいた。これは僕達のサウンドにとって必要不可欠で、活動当初からその部分を活かせるような曲作りを心がけてきた。声も似ているから、お互いを相互補完的に引き立てたてることが可能だしね。
▲ "Huntington Fair"
(Black Sheep Sessions)
――ヴォーカルを引き立てるという部分では、曲のアレンジメントも巧みで、派手ではないものの秀逸で、ヴォーカルとの絶妙なバランスを保っていると感じます。
パット:そう言ってくれると嬉しいね。2人とも力いっぱい歌うタイプではないから、曲にアレンジを施す時に僕が意識的に気をつけていることでもある。ヴォーカルを引き立てる面白いアレンジであるとともに、そこばかりが目を引かないように仕上げる。成功する時もあれば、やりすぎてしまうこともあるけれど、最終的にはそのバランスが完璧な曲作りを目指すように努力しているよ。僕が個人的に好きなアルバムは、シンプルでありながら複雑な要素も持ち合わせているものが多いからね。
――ではパットにとって"いい曲"の定義とは?
パット:う~ん、難しい質問だね。色々な要素がありすぎるし、言葉で表現するのが難しいから。なにか惹きつけられるような"魔法"がある曲かな。自然と惹かれるメロディ構成というのはもちろんあるけれど、ふと聴いた詞や奏法に心を奪われることもある。そのキーポイントというのは、僕にすらまだ理解出来ないことなんだ(笑)。
――何かミステリアスな要素がある曲。
パット:それは言えてるかも。どうやってこんな魅力的な曲を書いたんだろうって、思えるもの。「好きな曲は?」って訊かれると、迷ったあげく最終的にいつも辿り着くのはビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」なんだ。だからこの曲だって言うことを今後ためらう必要もないのかもしれない。すべてにおいて完璧だから。歌詞も美しくミステリアスで…真実味がある。奇妙な詞と思うかもしれないけれど、書き手の真意が真摯に伝わってくる。曲自体も"魔法"みたい。グルーヴィーだけど、サウンドはヘンテコで不思議。僕にとっては、21世紀に作られた偉大なるアート作品のひとつなんだ。
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一番大切なのは、自分が聴きたいと思える作品を作ること
――現代の音楽シーンでは、何かとジャンル分けをしたりその細分化が進む中、オータム・ディフェンスは、どのカテゴリーに属すこともなく"タイムレス"な曲を作り続けている稀有なグループだと感じます。
パット:自分たちの音楽が"タイムレス"だと言われるのは褒め言葉だと思っているよ。よく言われるけど、別に"レトロ"だったり、1972年特有のドラム・サウンド、ビーチ・ボーイズそっくりのヴォーカル・ハーモニーやある年代に作られたサウンドを再現しようとしているわけではないんだ。もちろん参考にはしているけれど、それ以外にも様々な影響を受けている。一番大切なのは、自分が聴きたいと思える作品を作ること。年相応のね(笑)。それに特定のカテゴリーにはまらないというのも個人的にまったく気にならない。
――むしろいいことだと思いますよ。
パット:そうだよね。プロモーションの面においては、大変だけど(笑)。僕たちは、もう若くもないし、あるジャンルの伝統を継承しているようなベテラン・グループでもない、微妙な世代にいると思うんだ。興味深いのは、フリート・フォクシーズのような僕らより若い世代で同じような感性を持っているバンドが近年増えてきていること。彼らのようなサウンドが若い"ヒップな"人々に受け入れられ、評価されているのはとてもクールだよね。
――その反面、ここ10年間で音楽を聴くという行為に劇的な変化が起っていますが、レコードを聴きながら育った世代としてはこの変化についてどう感じていますか?
パット:アルバムを聴くという行為が、死に絶えつつある…という表現はあまり使いたくないけれど…その行為の価値が薄れ、意味がなくなってきているという風には思うね。もちろんアーティストは今までどおりアルバムを作り続けるし、まだ人々がこの文化を完全に手放したいわけではないことは確かだ。最初から最後まで順番に曲を聴き、その世界観や連想されるフィーリングに浸るという行為は価値あることなんだ。日本の現状には詳しくないけれど、アメリカでは若い人たちがそれを経験する機会が少なくなっているのは残念だね。
▲ "The Swallows of London Town"
(Amoeba Green Room Session)
――たしかに、そのアーティストの代表曲や自分が選んだ好きな何曲かしか聴かないという若者は最近多いですよね。
パット:そう、それをiPodに入れて、さらにシャッフルしてしまう。もちろん中にはアナログ盤を買って、家でゆっくり聴くという人もいると思う。その経験は人生の財産になることなので、僕はいつまで経っても手放したくない文化だと感じている。同時に、自分が作った曲を一瞬で世に出せるというのは、エキサイティングでもあるよね。昔のようにアルバムがリリースされるまでに3年間待っているような余裕がない人にもチャンスがある。
――では最後に、6月に行われるウィルコが主催する【Solid Sound Festival】にオータム・ディフェンスとしても出演しますが、その後のツアーの予定は?
パット:まだ「ツアーを計画しよう」と計画している段階(笑)。アルバムは9月上旬にリリースされる予定で、その時期にウィルコはほぼ活動をしない。なのでそこでツアーを組みたいと、今マネージャーやレーベルと相談しているところだよ。
――日本にも是非来てほしいです。出来ればフル・バンドで。
パット:僕もバンドと一緒に戻ってきたいよ!さっきも言ったけれど、ライブ・バンドのメンバーのことは大好きだから。
――それにアコースティックとバンドでは、また曲の印象も大きく変わってきますしね。特に初期の作品はバンドで演奏する方が向いているのかなと思って。
パット:1stアルバムは特にポップな感じだからね。まだあまり詳しくは言えないけど、ニュー・アルバムにもその要素が再び表れている。もちろんアコーステック・デュオで演奏するのもいいけれど、今回の作品はバンドで演奏した方が曲が映えると思うんだ。
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