Special
新山詩織 『ゆれるユレル』インタビュー
いつ泣き出してもおかしくなさそうなか弱い女の子。でも何かを伝えたくて仕方ないムードは全身から溢れており、熱量高いバンドサウンドが鳴り響いた瞬間、不器用ながらにもガムシャラにギターを掻き鳴らし、その風貌からは想像のつかないスモーキーボイスを放ち、観客の度肝を抜く。
これは彼女のライブを初めて体感したときの印象だが、彼女は繊細ゆえに鋭く心を刺す声。臆病ゆえに胸を掴む言葉、表情、動き。計算でも演技でもない、剥き出しで戦える女性シンガーソングライターである。弱冠17歳の女子高生が、如何にしてこのような存在になり得たのか。話を訊いた。
関係をちょっとでも崩したら次の日から大変なことになる
--こうした取材はもう慣れました?
新山詩織:まだ……。何かを聞かれてその場で答えるっていうこと自体、日常生活でなかったから。自分が思っていることを話すっていうのは、すごく難しいです。
--元々人と話すのは苦手? それとも好き?
新山詩織:自分でも訳がわからない。好きなこととか話すのは好きだと思うんですけど、普段、普通に会話する面でも“喋る”っていうのが難しくて、たまに分からなくなる。だから苦手なんだろうけど、でも話すのは好きなんだろうなって。曖昧な感じ(笑)。
--では、自分のペースで話して頂ければと思います。今日は新山詩織が一体どんな人なのか。みんなに知ってもらうインタビューにしたいなと思っているんですが、まず自分では自分をどんな人だと思いますか?
新山詩織:……面倒くさい。
--(笑)
新山詩織:何かを誰かに「これどう思う?」って聞いて、相手から「これが一番良いんじゃない?」って返ってくると、「でもこっちの方がさ」って思う。自分の質問に対して答えてくれたのに、それに対してまたこう言い返すっていう。それをずっと繰り返して、最終的には「もういいよ」っていつも言われるから。……面倒くさい。
--友達とコミュニケーションを取ることに凄く気疲れすると、ドキュメンタリー映像でも語っていましたが、なんで気疲れしてしまうんだろう?
新山詩織:「今、こう言ったら相手はどう思うんだろう?」とか、勝手に先に考えちゃう。だからどう言うべきかすごく考えるし、「最後はきっとこうなるだろう」っていう結果を最初に自分の中で想像して話したりするから、それで疲れたり。自分のことより相手のことをまず第一に考える。自分のことは、その次っていう。
--なんでそんな風になっちゃったんだと思いますか?
新山詩織:「相手にどう思われるか」っていうのを一番大事に考えてきたから、それがどんどんどんどん強くなっていって。
--そこには恐怖がある?「嫌われたらどうしよう?」みたいな。
新山詩織:「嫌われたらどうしよう?」っていうのは、とにかくあります。
--では、変なことを言われたら言い返してやろうとか、その胸に抱えたモヤモヤを吐き出す選択肢は選べない?
新山詩織:友達とかに対してはできない。本当に嫌いだった子とかもいたけど、からかわれている気がして、何かを言い返したいときもいっぱいあったけど、「でもそんなこと言ったらもう終わりだ」と思ったから、そんなことも言えずに溜めていっただけ。本当は言いたいんだけど、言えない(笑)。
--そうした感覚って、今の若い人であれば誰もが抱えていると思います?
新山詩織:そのとき思っている本音を直接目の前にいる人へ言うことは、そんなに簡単にできる訳ないし。本音がバンバン言える人なんて本当にいるのかな? 多分、ほとんどいないと、自分は思うんですけど。
--それは学校や教室という空間がそうさせるの?
新山詩織:学生は毎日決められた時間に学校へ行って、そこでほとんど1日を過ごすから、その中の関係をちょっとでも崩したりしたら、もう次の日から大変なことになるから。関係は本当に崩さないように大事にしていかないと、マズイっていうのはあると思います。嫌われたくないし、悪く思われたくないから。
--デビューシングル『ゆれるユレル』では、「変わりたいよ 変われない 湧き上がる劣等感が 人目さえも逆らうことを許してくれない」と歌っていますが、そもそもどうして劣等感が湧き上がってしまうんだと思いますか?
新山詩織:「この人が悪い」とか「あれがいけないんだ」とかそういうことじゃなくて、自分が上手く話せなかったり、本当に言いたいことを言えなかったり…………本来は普通に過ごせばいいだけのことなんですけど、頑張って過ごしている自分に対して嫌気がさしてくるというか。それに対して劣等感みたいなものがどんどん増えてきて、「もう今日はダメだ」ってなることもいっぱいあったし。頑張って過ごすっていうのは変なことだし、「普通に毎日過ごせばいいじゃん」って言われるし、自分もそうしたいんだけど、やっぱりできないから。
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
チバユウスケとの出逢い~
音楽から得た少しの自信「音楽凄い」
--唐突ですが、新山さんはどんな街や家で生まれ育ったんでしょう?
新山詩織:パッとしない街なんですけど(笑)、お父さんが高校時代からバンドをやっていたりして、洋邦問わず昔の古くさいロックが家の中で流れていて。幼稚園のときとかは音楽が何なのかも分かっていなかったけど、それが小さいときから流れていたことは、自分が自然と音楽に興味を持ったことに繋がってるんだなと思います。クラスの人が聴いてる音楽とかじゃなく、「自分の好きなバンドが好きなバンドはどんなんだろう?」って遡ったり、それは最近さらにヒートアップしちゃって抜け出せなくなってるんですけど。今の新しい音楽より、昔の音楽を探して聴くようになってます。
--お父さんが流していた音楽って、具体的にはどんなものだったの?
新山詩織:ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)とか山口冨士夫とか、とにかく昔のロックがいっぱい。
--それを知らず知らずに聴きながら、新山さんは何をきっかけに音楽へハマっていくんでしょう?
新山詩織:最初にBUMP OF CHICKENを好きになって、それだけしか聴いてなかったんですけど、チバユウスケさんが作ったROSSOというバンドの「シャロン」の動画を観て、その瞬間には「お、これはハマった」っていう感じではなかったんですけど、次の日になってまだ気になっていたみたいで、他の曲もいっぱい調べたりして、チバさんがTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTで歌ってたこと、The Birthdayで歌ってることとかも知っていって。そしたらチバさんがどんな音楽を聴いてきたのかも気になるようになってきて、どんどん聴く音楽のジャンルも広がっていった。
▲新山詩織「ドキュメンタリーフィルム・ダイジェスト"Road To Stage" Vol.2」
--チバさんにハマったのは、お父さんが流していた音楽の影響でしょうね。お父さんはどんな人なんですか?
新山詩織:ウチの両親はいたって普通の父親と母親なんですけど、お父さんも昔は学校の中で一匹狼だったらしく、絶対に人を寄せ付けない。「こっち来んな」みたいな感じだったらしくて。お母さんも私の中学1年生のときみたいな感じだったらしくて、血は繋がってるんだなぁって。だからすごく嫌なことがあったときは、親相手にとにかく泣きながらガーッ!て愚痴って愚痴って。親に言いたいことを言えないっていう友達も結構いるけど、自分はすべて親に話せるから、家族と一緒にいるときが一番安心する。美味しいごはんも毎日作ってもらえるし、お父さんとは音楽の話で盛り上がれるし、本当に良い家の中で過ごしていると思います。
--家は安息の地なんですね。ちなみに幼い頃はどんな子だったんですか?
新山詩織:今と正反対。小さいときは何も無駄なこと考えなくていいから、本当に明るかったし、写真撮られるのが大好きで、自分でポーズ決めたりもして……凄かった(笑)。
--それだけ活発だった女の子に劣等感が芽生え、人に気を遣うようになってしまったきっかけって何だったと思いますか?
新山詩織:小学生高学年ぐらいになってから、学校の中でのリアルな雰囲気を感じ取ったのか…………何かが変わった。
--音楽をやるようになってからはどう?
新山詩織:こうやって音楽活動をするようになって、弱かった自分の気持ちを歌詞に書いたり、ライブやレコーディングで歌ったりすることで、一歩前に出られるようになった。音楽を通して強くなったなって自分でも分かるし。まだ全然だけど……ちょっとずつ自分に自信を持てるようになってきたから、音楽凄い。
--音楽を聴きながら「いつかは私も」的なことはずっと思っていたの?
新山詩織:最初は自分に対して歌っていたから、みんなにこの気持ちを共感してもらいたいとか、届けたいとか、そういう感覚はハッキリはなかったかもしれないけど、オーディションでグランプリを獲って、ひとつずつ自分の楽曲を作っていって、それが出来上がっていろんな人たちに聴いてもらえる訳だから、今はどう歌ったらこの気持ちを届けられるんだろう?とか、考えるようにはなってきた。
--新山さんが最初に作った曲は「だからさ」なんですよね?
新山詩織:そうです。普通に中学校へ行って、いつも通り家に帰って、いつも通り玄関のドアを開けたら「あー、嫌だった」ってその日嫌だったことを親に聞いてもらおうと思っていたんですけど、その日は誰も家にいなくて。すごく嫌なことがあったから今すぐ誰かに言いたいのに言えないから……とにかく紙に今の気持ちを書いてみようと。で、最後まで書いて、アコギが近くにあったから持ってきて、「こういうコードにしよう」とか細かいことは全く考えず、そのときの気持ちをそのときの音で一気に書いて歌った。そうやって一瞬で出来た曲なんです。
--そこから人生が変わり始めていった?
新山詩織:「だからさ」が出来る前は、自分で自分の曲を作るなんて無理だと思っていたので、その場で「だからさ」を弾き終わった瞬間は、「あ、今、自分の曲が出来た」っていう感覚になって。その次の日から「自分だけの曲を作りたい」っていう気持ちが出てきた。
--例のドキュメンタリーで「音楽がなかったら、多分、本当に何もなくなる」と涙ながらに語っていましたが、音楽がなかったらどう生きていけばさえ分からなかったぐらいだったんですかね?
新山詩織:ギターを弾いて歌うようになってなかったら、ただ下を向いて。見た目からは分からなくても、心の中ではずっと落ち込んでいるような、平凡な女子高生みたいな感じになっていただろうけど…………歌っているときに「今、解放されてるな」ってハッキリ分かるようになってきたから。その自由に解放させてくれるものが無くなったら……終わりだろうと思って。だから今はもう「無い」っていうのはあり得ない。
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
……自分の隣に、いつも音楽だけは絶対にあるから
▲新山詩織「ドキュメンタリーフィルム・ダイジェスト"Road To Stage" Vol.8」
--では、ビーイングによる全国オーディションでグランプリを受賞したときは、どんな気持ちになりました?
新山詩織:有名になりたいとか、売れたいとか、そういう願望みたいなものは一切なかったし、まさか受かると思っていなかったから、家で弾いて歌ってるみたいにいつも通りにオーディションでは歌ったし。でもこんな自分でも、自分の歌をちゃんと聴いてもらえたのかなっていう気持ちにはなりました。
--それまで学校では周囲に気を遣っていた女の子が、大人たちに囲まれながら活動していくことへの恐怖はなかったの?
新山詩織:いきなり関わり出した人たちがみんな大人で、友達とか同級生と話す内容も全く違うし、今まで聞いたことがないことだったり、難しいことだったり、分かんないこともいっぱいあったから、結構いっぱいいっぱいになっちゃって、気持ちをひとつずつ分けるにも分けらんなくて、大変でした。最初は。でも歌っていく中でだんだん気持ちが強くなっていったし、柔らかくなっていったことによって、学校と音楽の両立もできるようになってきた。本当に自然に前を向けてきている。
--先日も「音楽活動を始めるようになってから、周りの人とのコミュニケーションの取り方とかも、すごく安心できるようになったし、自分でも…………今だと前の、すごく弱かった自分が、ものすごく遠く感じるようになりました。」と仰っていましたが、変われる自分がいて嬉しかった?
新山詩織:自分がとにかく好きなことで、自分がちょっとずつ変われることは、すごく嬉しいことだと思う。嫌なことで変わっても嬉しくないし。
--では、今は前より生きやすくなった?
新山詩織:本当に。発言もゆっくりちゃんと自分のことも考えつつ言えるようになったから、とにかく何でも楽しくできればいいっていう気持ちが出てきたから、今は充実しています。
--学校での自分も変わってきてる?
新山詩織:自分の雰囲気が変わったのか分かんないけど、今まで上手く話せなかったこととかも普通にいっぱい喋れるし。今、クラスの女子もみんなすごく良い人たちだから楽しいし。自分で自分のことを客観的に見るのは難しいけど、「自然に自分が変われてて、自分の周りも柔らかくなってきたところはあるんじゃない?」って友達とか親に言われたときは、今までになかったことだったからすごく嬉しかったし、本当に自分は変わったんだなと思いました。
--そんな新山詩織がメジャーデビューシングルとして放つ「ゆれるユレル」は、何を届けたくて作ったものなんでしょう?
新山詩織:今、私は高校に通ってるんですけど、自分の中で一番嫌だったどうしようもない時期は中学時代で。今日お話させて頂いた通り、いろいろと気にしながら毎日学校で過ごしていた。でも卒業したから嫌なことは忘れて、終わったことはもう考えなくていいって自分に言い聞かせて。で、高校入学するときは、あのときみたいにならないようにとにかく明るく、新しい気持ちで、新しい自分で行こうって決めていたんですけど……そうも簡単に変われる訳がなく、やっぱり前の嫌なこととか、過ぎて遠くなってもどこかずっと消えないで残っている。で、ずっと残ってるんだったら、それについて書こうと思って。書くなら中学のときの自分の頭に戻そうと思って……。
--なるほど。
新山詩織:で、前の自分を思い出したときに、一番最初に出てきた言葉が「変わりたいよ 変われない」で。そこから中学時代の情景とか、学校へ行くまでの気持ちとか、全部言葉にしていって。途中、前の自分に戻りすぎて泣きながら書いたりもしたんですけど…………前の弱かった自分みたいな子、今までの自分を変えたくても何の行動も起こせなくて変われない子はいっぱいいると思うから、そういう子たちに届いたらいいなと思って。
--この曲には「抜け出せない」「変われない」「逃げ出せない」「動き出せない」という言葉が出てきますけど、最後には「動きだすよ きっと」とも歌える自分がいる。というのが、現状の新山詩織なんですかね?
新山詩織:毎日どうしようもなく過ごしていても、絶対どこかで良いことっていうのが必ず来ると思うから。「そんなの、来ない」ってことは絶対にないと思うから、それがやってきたときに自然に切り替われる。「どうしよう、どうしよう?」って左右に揺れているような状況がパッと開けて、変われる瞬間はあると思うから。だから「動きだすよ きっと」って書いたんですけど。先のことは分かんない。でもどこかで何かが起こるっていうことを書きたかったんです。
--先日お会いしたときに「どんなアーティスト、歌い手になっていきたいと思いますか?」と聞いたら、「代弁するとか、あからさまに背中を押すとかじゃなくて……ただ隣にいるだけ。そんな人になれたらいいです」と答えてくれましたよね。そう思うのは何故なんだろう?
新山詩織:嬉しいときとか、悲しいときとか、すごくイライラしているときとか、独りのときってポツンとしている感じだけど……ちょっとでも誰かが、会話をしなくても隣にいてくれるだけで安心できる。そういう瞬間がたくさんあるから、私の音楽もそういう存在に。ロックでもバラードでも、隣で座っていられるような曲になったらいいなぁって。私も気持ち晴れないときとか、絶対に電車の中とかで音楽聴くし。…………自分の隣に、いつも音楽だけは絶対にあるから。
Music Video
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
関連商品