Special
阿部芙蓉美 『HOW TO LIVE』インタビュー
「まずはルールをぶち壊せ」
阿部芙蓉美、革命前夜。ルールもカテゴリーも要らない、これが音楽じゃないと言われるならそれでも構わない、そんなフラットな境地から生まれた新作『HOW TO LIVE』について。音楽や音楽シーンの既成概念に捕われない、目が覚める話をたくさんしてくれた。全音楽関係者、必見です。
みんな結構自分のことが好きですよね。見てて疲れる。
--2008、2010、2011、2012年と、これまでのインタビュー読み返したんですけど、阿部芙蓉美って特異なタイプですよね。誰も言わないことばかり言ってる。
▲A ZIG/ZAG SHOW vol.2 - Permanents with 阿部芙蓉美
阿部芙蓉美:そうですか。
--新作『HOW TO LIVE』の紹介資料に「孤高のシンガー」って書いてあったけど、そりゃ孤高になるよなって(笑)。自分では阿部芙蓉美ってどんな人だなと感じているんですか?
阿部芙蓉美:阿部芙蓉美っていうのは、表に出てる阿部芙蓉美なのか、表に出ずに普通の暮らしをしている阿部芙蓉美なのか。そこは明確に分かれているので、どっちの話をしたらいいですか?
--どっちも聞きたいですね。
阿部芙蓉美:表に出てない阿部芙蓉美が表に出る阿部芙蓉美をコントロールしている。行け、やれって。で、それを言う為には支えなきゃいけないし、守らなきゃいけないし、厳しくしなきゃいけないし、甘やかしたりもしたいし、そういう関係性。阿部芙蓉美をどうやって活かすか。どういう風にすると面白いことになるかな?っていうのはすごく考える。
--裏の阿部芙蓉美が表の阿部芙蓉美をプロデュースしていると。
阿部芙蓉美:裏も表も曖昧って言えば曖昧なんですけどね。そんなにオン/オフがあるかって言うと、オン/オフっていう変え方もちょっと違う気もする。そんなにエンタテイナー的なものでもないというか。素材を使ってどう料理するか、みたいな感じに近い。そんなに光を浴びるタイプではないというか、本当に素朴な扱い方というか。芋を似るか焼くか、みたいな。
--いつからその感覚で音楽活動をするように?
阿部芙蓉美:元々あったとは思うんですよね。ただ、その手法って自分個人の感覚だから、メジャーレーベルから出てきたときは、周りに居た人たちとの関係性とか、ヴィジョンとかあったので、それにそぐわないこともあったのかなって。自分の個人的なバランスよりも周りの力が大きかった時期もあったから、そこから離れた今は一番自然というか、フリーというか、フラットな感じですね。
--その今の阿部芙蓉美に対して“孤高”や“特異”という感覚は、自らも持っていたりします?
阿部芙蓉美:私が思う“孤高”っていうのは、周りに圧倒的な数の人とか何かがある中じゃないと得られないもの。ただ独りポツンといるとか、一匹狼みたいなものを私は孤高じゃないと思う。本当に数多くの中で役割が明確だったりとか、そういうものが孤高なんじゃないのかなって思うんですね。それが自分と結び付くかというのは、あんまり感心はない。そうやって映るとしても、孤高のイメージなんて人それぞれだから、正解もないし……。私、どう見られてるのかな?
--なんて言われたりします?
阿部芙蓉美:……ユーモアとかって言われるけど、歌詞だったりとか。でもユーモアっていう言葉もなんか……ユーモアって何なんですかね?
--今回も始まりましたね、禅問答(笑)。ユーモアも抽象的な言葉ではありますよね。面白いという意味と……
阿部芙蓉美:あと、ちょっと癖があるとか、ちょっと取っつきにくいとか。だから「ユーモアがありますね」とか言われると、考えるんです。ただ、そういう風に周りから発せられる言葉がピッタリ来ちゃったら、それはそれでもう別に音楽をやる意味もないのかなって。しっくり来ないからまた「何なのかな?」って自分で考えて、また物作りするのかなと思うし。
--リスナーが「ユーモア」とか「孤高だ」って言うこと自体にも抵抗はある?
阿部芙蓉美:それはないです。「私はそれじゃない!」とか言うようなことでもないので。ユーモアとか孤高とか言う人もいれば、それは違うと言う人もいた方が面白いから、そこはもっといろいろバリエーションが出てきたら、それはそれで楽しいと思うし。ただ、いわゆる“女性シンガーソングライター”ってわりと「こういうものである」っていうイメージがあるじゃないですか。ちょっと暗いとか寂しそうとか。そう決めつけられてしまうのは、あんまり面白くないなと思うけど。もっともっといろんなタイプの、いろんな味のある人がいるのかもしれないし、みんな幅広く扱ったらいいのになって。
--“女性シンガーソングライター”って一緒くたにされがちですからね。
阿部芙蓉美:それはあんまり好きじゃない。“女性シンガーソングライター”という言葉に対して、リスナーの想いとかが濃いじゃないですか。そういう聴き方はあんまりよくないんじゃないかなって思う。
--そのイメージを壊す必要はありますよね。ちなみに阿部さんって「誰のようにもなりたくない」という感覚は持っていたりするんですか?
阿部芙蓉美:誰もが親しみやすいものに対してアプローチするよりも、みんなが避けて通るものとかを書きたいっていうか。その中から使えるものを探す。なんだろう? 性格悪いのかな。
--別に性格は悪くないですよ(笑)。視点の違いですから。
阿部芙蓉美:もちろん、みんなが「良いね」「素敵だね」っていうものに対しても興味はあるんだけど、そこの役割をちゃんと果たせる人は、私以外に適役の人が遥かにたくさんいる……っていうのはなんとなく分かるので。私は私みたいな人間がわざわざそこらへんにあるものをチョイスして、「こんなのもあったよ」っていう役割の方がまだ向いているのかなっていう感覚はある。
--なるほど。
阿部芙蓉美:あと、ルールがありすぎて。音楽をやるということにまつわるすべての部分で。音楽を作るときはスタジオに入って、ミュージシャンを呼んで……そういうルールみたいなものが、もう意味を果たしていると思えなくて。音楽って人が何人か集まってコントロールしようと思って扱えるものでは、そもそもないはずだなって今すごく思う。全然コントロールなんてできない、巨大なもの。圧倒的なものであってほしいというか。スタジオに人が集まって「はい、音楽でした」っていうことじゃなくて、もっと得体が知れなくて、もっとワクワクゾクゾクするような。で、全然しょうもなくてもいいし……っいう想いが、今強い。
--「音楽ってそもそもこうでしょ?」っていうことを当たり前のようにやりたがってますよね。阿部さんって、きっと。
阿部芙蓉美:そう。……まぁ私の基準だと、気持ち良いか、気持ち良くないか。理解するとか、みんなで共有/認識してみたいなものでは全然なくて。「これ、いいじゃん」って体がノってきたりとか、また聴きたくなるとか、その判断しかない。気になるか、気にならないか、とか。無理して「これ、流行ってるから聴く」みたいな人も結構いるじゃないですか。そういうことじゃなくて、気に入るか気に入らないかだけで、どんどん切り捨てていっていい。私の作るものもそうであっていいし。
--少し話を変えます。阿部さんに初めてインタビューしたとき、非凡と平凡の話になりまして。で、非凡ぶってる平凡な人に「うわっ」って思ったとか、自分は平凡だとか、そんな話をしていたんですが、今の自分も平凡だなと思います?
阿部芙蓉美:何の設定もない。今、自分の中のブームとして“フラット”っていうのがすっごくあって。元々持っていたものだとも思うんですけど、基準をフラットに合わせたいから、自分もやっぱりフラットに届く立ち位置にいなきゃいけないっていう。だから平凡も非凡も今は興味ない。あと、これは平凡、非凡に通ずるかは分からないんですけど、みんな結構自分のことが好きですよね。
--多いかもしれませんね。
阿部芙蓉美:見てて疲れる。自分の基準とか「自分はこうだ!」っていうところで立ち回ってる人が多くて、それを見てるとすごく窮屈そうだなって思う。よくわかんないなーって。
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リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
HOW TO LIVE
2013/04/03 RELEASE
JHCA-1014
Disc01
- 01.革命前夜
- 02.poets
- 03.live in glory
- 04.アンアン
- 05.広い世界を見な、寝るのはまだ早い
- 06.8月
- 07.i love rock and roll
- 08.daddy
- 09.生き方
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