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小室哲哉 『DEBF3』インタビュー

小室哲哉 『DEBF3』 インタビュー

 小室哲哉、約2年ぶりとなるソロアルバム『DEBF3(Digitalian is eating breakfast 3)』のリリースを記念して、今作についてはもちろん、TM NETWORK、安室奈美恵、trf、globe、自身が今の時代に受け入れられた理由、「SUKIYAKI」の記録を塗り替えたPSY、今後の音楽活動、ファンについて語る。

「○○みたいだね」の「○○」になれた最後の存在

小室哲哉 / DEBF3 - WATCH the MUSIC feat. Capitol A, Alain Clark
▲小室哲哉 / DEBF3 - WATCH the MUSIC feat. Capitol A, Alain Clark

--昨年4月 TM NETWORKの日本武道館ワンマンは、観客を如何に驚かすか。良い意味でどう裏切るかという発想に溢れていて、往年のTMらしさというか、小室哲哉ならではのエンタテインメントになっていたと思うんですが。

小室哲哉:あそこまで凝ったのは『CAROL』(TM NETWORKを代表するコンセプチュアルアルバム。同名の小説やコンサートと世界観を同期した)以来ですかね。あのときは、一番最初に「これがマルチメディアなんだろうな」と思って、ひとつのカタログ、コンテンツを作って。TM NETWORKはほとんど僕の脳内で描いたもの具現化しているグループなので、少し前にツイッターで「フィールド オブ ドリームス」と書きましたけど、まさにそういう感じなんです。武道館でもそれが出来たし、すごく幸せですよね。あと、僕がロンドンに1年ちょっと住んでいた1980年代は、ミュージカル全盛で。『キャッツ』『スターライト・エクスプレス』『オペラ座の怪人』……ロンドンはすごく盛り上がっていて。あと、『マンマ・ミーア!』が大成功していたり。そこの影響は大きいかなと思います。

--それは『CAROL』からも昨年の武道館ワンマンからも感じます。

小室哲哉:TM NETWORKはそれと、その逆側に位置するエレクトロ。今、EDMが流行ってますけど、略さなければエレクトロダンスミュージックで、それは元々あるものというか、TMもコンセントがないと何の音も出せない音楽でデビューしているので。で、僕の日本の師匠は冨田勲さんで、ヨーロッパの師匠がジャン・ミッシェル・ジャールさんなんですけど、98年ぐらいかな? 「テクノとか、全部総称してエレクトロでいいんだよ」って彼は僕に言っていて。「まだ日本では誰も“エレクトロ”なんて言ってないよ」みたいなことは言いましたけど(笑)。

--たしかに。

小室哲哉:そのエレクトロとミュージカルをTMで合体させたら、あんまり違和感がなくて。本当は違和感あるはずなんですけど、メンバーの出で立ちも含めて。オタクという感じでもないし。まぁちょっとしたサブカルなんでしょうね。独特な、TMだけの、という意味では。

--エレクトロとミュージカルを融合させたサブカルチャー。

小室哲哉:だと思います。何でも混ぜたがりというか、ミクスチャーが好きなんです。新しいシステムのPAもそうですけど、ライティングもそうだし、映像もそうだし、実験はたくさんしてきた。洋楽の人たちの肉食的な、あのパワーにはやっぱり敵わないんで。何をどうやっても。だからTMのスタイルはあれで良いんじゃないかと思います。

--それを改めて提示した武道館ワンマンを成功させたことで、リスナーとどう対峙していくのが面白いのか。ガッツリ掴んだ印象を受けていまして。あれ以前と以降では変わってきている部分もあるんじゃないですか?

小室哲哉:武道館だけで云々というより、ちょうどソーシャルネットワークの成熟期だったことが大きいと思うんですよね。一般のニュース番組でも「ツイッターで」「Facebookで」って普通に言うようになった。それは運が良かったなって。みんなが発信したり、聞きたいことを聞けたりする状況下で動き出せたから、例えば「小室哲哉って意外と面白い奴なんだな」とか「結構変わってる奴なんだな」って反応する人が急激に増えた。すごくコミュニケーションが取りやすくなったんですよね。タイムリーで良かったなと思います。

--なるほど。

小室哲哉:あと、いわゆる同窓会的なことを求めているのか。先進的なものを見せてもらいたいのか。どっちに振るかのサジ加減ですよね。個人的には、同窓会はやりたくないなとずっと思ってるんですけど、どれぐらいの行きすぎ感、行かなすぎ感だったらいいのか。それが分かるようになった。

--最近はそこのバランス感覚が見事ですよね。TM NETWORKで言えば『Major Turn-Round』の対極に「Get Wild」や「SEVEN DAYS WAR」があるんだとしたら、その中間を突いた上で新しいことをやる。

小室哲哉:『Major Turn-Round』の頃は追っ掛けられている時代だったということもあって、好きなことをやれるだけやっていて。趣味的というか。でも今は「音楽が本当に生活の一部になって、すごく大切にしている人たちがこんなにいるんだ」って、ツイッターとかで改めて分かったので。例えば、病気の人の精神的な救いになったり。社会の中での音楽って、衣食住とは別の嗜好品みたいに言われてきたけど、死活問題までいくぐらい重要度が大きいんだなっていう。それは最近感じるので、衣食住にまで入り込んであげないといけないなって。

--それは小室さんの歴史があるからこそ出来ることでもありますよね。親しまれる曲を生んできた、生んでいける、という意味において。

小室哲哉:これまで僕はライブラリを作ってきた訳ですよ。1980年ぐらいにシンセの本格的な打ち込みを始めた訳ですけど、それからずっと。で、そのライブラリ作りを出来たのは、僕らがギリギリ最後で。今はもうほぼ全部のカテゴリーが出来ちゃっていて、最近ではEDMという言葉が久々に生まれたぐらいですよね。だから僕ら以降の世代は、ふっと湧いたオリジナルのメロディや音が、たまたま僕が前に作ったヒット曲と同じで「小室みたいだね」って言われてしまったりする。そういう意味では「○○みたいだね」の「○○」になれた最後だったりして、僕以降にももっと出てきてほしいんですけど、なかなかドカーン!とはいかないですよね。

--その小室哲哉の歴史、ライブラリに触れたという部分では、昨年末の安室奈美恵史上初の全国5大ドームツアーにおける、小室哲哉プロデュース時代の名曲披露も感慨深いものがありました。

小室哲哉:スケジュールが重なっちゃって観に行けなかったんですけど、聴いてみたかったですね。残念ながら中止になってしまった沖縄でのアニバーサリーライブでは、サプライズ出演するのをすごく楽しみにしていて。しばらく会っていなくても、作品が残ることで節目のときに声をかえてもらえたりする。それ自体がアートに近いかもしれないですね。全くゼロの状態からクリエイトして、それをパフォーマンスという形でアウトプットして、エモーションみたいなものが付いて、人の心を揺さぶるところまでいかないと、そういう話にはならないので。で、そのプロセスってすごく細い道じゃないですか。これをすり抜けていけてる楽曲というのは、やはり少ない。知る人ぞ知るじゃなく、誰もが知る楽曲になるというのは、なかなか難しいことなので。

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TETSUYA KOMURO「Digitalian is eating breakfast 3」

Digitalian is eating breakfast 3

2013/03/06 RELEASE
AVCD-38667/8 ¥ 3,666(税込)

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Disc01
  1. 01.WATCH the MUSIC feat.Capitol A, Alain Clark
  2. 02.Piece Electro
  3. 03.Drive feat.Saffron Le Bon
  4. 04.Now1 -TK Remix-
  5. 05.The Generation feat.Zeebra, DABO, SIMON
  6. 06.Human Illumination feat.Silvio Anastacio
  7. 07.Golden Highway feat.Miss Pooja, U-zhaan
  8. 08.Don’t Stop Us Dancing feat.IAMX
  9. 09.Now1 -Album Mix-

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