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平野綾 『TOxxxIC』インタビュー
ネット騒然! ボカロ歌マネが話題の新作、遂にリリース
今年の元旦にニッポン放送『ミュ~コミ+プラス』で公開され、“歌っているのはボカロか人間か?”と話題を呼んだ新曲「ミライボイジャー」を収録した移籍第1弾シングル『TOxxxIC』。
声優でのキャリアが活きたという「ミライボイジャー」で、どのようにボカロの声を作り上げていったのか。骨格まで考えるという分析力や、またしても新境地を開拓した「TOxxxIC」で見せる挑戦者としての覚悟について訊いた。
歳を重ねるごとに若い役が増えていってる
--年明け早々から「ミライボイジャー」がネットで話題になりました。
平野綾:曲が一人歩きしているような感覚があって、話題になって欲しいと思っていたんですけど、これほどまでにヒートしてもらえるなんて思っていなかったのでビックリしました! 私、声優業ではそんなに声のレパートリーが無いので気付かれることが多かったんですよ。だからどこまで気付かれないのかは、歌手としてよりも声優としての挑戦でした(笑)。
最初、全然気付かれなくて“スキルが上がったのかな?”って嬉しい所もありましたけど、平野綾だと分かってから“確かにここは平野っぽい”とかネットに書かれていたりして、やっぱり……って(笑)。
--あの、個人的にはレパートーリーが少ないというイメージがまったくないのですが……。
平野綾:代表作のイメージが強いからだと思うんですけど、求められる役が今までけっこう似たものが多かったんですよ。確かに引き出しはあるんですけど、それがまだ形になっていないというか、残っている引き出しがいっぱいある感覚ですね(笑)。
あと、歳を重ねるごとに若い役が増えていってるんですよね(笑)。昔は大人っぽい役の方が多かったんですけど、どんどん年齢に反比例していくのが不思議だなって。最近は男の子の役も増えてきてますし。
--また、「ミライボイジャー」でボカロっぽい声を出す時は、声優でのキャリアが活きたと仰っていましたよね。
平野綾:元々、声優の仕事の中で機械の声をやることがあるので、いつ言われてもできるように練習していたんです。あと、昔から「はじめてのチュウ」の声真似をしてたりとか(笑)。何かしらを真似することはすごく大事で、声の引き出しを増やしていけるんです。まず真似してみて、自分の声で同じことをやるならこうなるって考えながら引き出しを作っていくんです。
ボカロっぽく歌うコツは、その骨組みを考える?
--では、カラオケなどでボカロっぽく歌うポイントを挙げるとすると?
平野綾:えっと、たぶん2種類あって、“自分がミクをやってみたら?”みたいな形でいくのか、完全にミク寄りな発声にするのか。それでだいぶ変わってきますね。自分を機械っぽくするのか、それとも機械を演じるのか、みたいな所で。自分を機械っぽくする方が声を変えなくていいので、そこからちょっとずつ練習していけたら巧くなると思います。
--練習すればラジオでも生で歌えるようになる、と。
平野綾:この前、生で歌った時はレコーディングスタジオではない環境だったので精度は落ちたんですけど……。あの、例えば背の高い人の声を演じる時って、自然に背筋がピンと伸びるんですね。誰かに話しかける時は目線が下がるイメージで発声するんです。
同じように背の低い人の声を演じる時も、ヒールのないぺったんこな靴を履いたりして、人を見上げる体制を取れるようにします。そのものになってみないと分からないことがたくさんあるので、機械がどうやって動いているのか、“その骨組みを考える”っていうのが分かりやすくお伝えできるポイントかもしれないです。
--機械の声が出る仕組みを想定するということでしょうか?
平野綾:例えば人の骨格とかを考えて、骨に対してどれくらいの肉が乗っていて、筋肉が何処にあるのかを考えながら話すんです。それと同じで、機械を演じる時も骨組みを考えて、“筋肉が無いから動きがいびつになるはず。だからここの関節は止めておこう”とか、骨の一部の動きを抑えていくんですよ。顔の自由をなるべく無くして、スムーズに行かないようにしゃべると機械らしい発声になるんです。あと、私はパソコンで音楽を作っていた時があるんですけど、音を編集する時に波形が出るじゃないですか。
--DTM(デスクトップミュージックの略)までやってたんですか!?
平野綾:はい(笑)。だからどうすればそのデータが作れるのかを何となくイメージして、この波形は声にするとこういうイメージかなとか思いながら、頭の中ではDTMだと思ってやってました。
リリース情報
TOxxxIC
- 2013/02/20 RELEASE
- 初回限定盤[UMCK-5422(CD+DVD)]
- 定価:¥1,260(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
同年代の子たちがどう遊んでいるかが分からない
--よく、役者には演じる役柄になりきって私生活にまで影響を及ぼすような憑依型と、役どころを分析していって創り上げていく自力型(※1)とがあると言われますが、ご自身はどちらだと思いますか?
平野綾:演じている時は割と冷静ですね。どうしても役にのめり込まなければいけない時は憑依型になるんですけど、そうすると全体感が分からなくなってしまうんです。私は演じている自分を分かった状態で周囲を把握していく方だと思うので、そういう意味では憑依型ではないのかもしれないですね。
歌でも歌詞の主人公を演じていると思っている部分が凄く大きくて、“私がこの子を演じるならこうなるな”って。それは歌詞を書いていてもそうなんですけど、やっぱり一つ一つ分析していく感覚が強いです。
--過去にはご自身で作詞された楽曲も多かったですよね。
平野綾:私は小さい頃から仕事をしていたので、経験すべきことをして育ってきていなくて日常生活で分からないことが多いんですよね(笑)。本当に自分の感覚でしか語れないので、共感よりも“私ならこう思う!”って所を常に書くようにしてました。だから他の方の詞を読むと“なるほど!”と勉強になったりします。
--いわゆる“みんな”と共感できない寂しさはありますか?
平野綾:あ、全然そういうのはなくて、むしろ勉強だなって! 同年代の子たちがどうやって遊んでいるかとか分からないから、“みんなこういう所で遊んでるんだ!”とか“やっぱり夜は飲みに行ってるんだ!”とか(笑)、知っていけるのが楽しいんです! 昔からインドア派だったのもあって、ずっと本ばっかり読んでいたし本の中で色々経験していく感じだったので。
--また、平野綾という存在が他と違う要素の一つに、挑戦することへの意識の高さがあると思います。
平野綾:あ、ありがとうございます。音楽だけじゃなくてどのジャンルのお仕事でも、基本的に“やって”って言われたことに“できない”って答えるのが嫌なんです! ちゃんと人に見せて良いレベルでできるようになりたいし、私っていうものをこれだけ表現しても、たぶんまだ表現し切れていないので。私から出るものなら常に何でも出したいって思っているのはありますね。
声が楽器だと思ってやっていた部分が大きい
--そういう意味では昨年に海外でのライブにも挑戦し、また新しい扉を開けましたよね。
平野綾:それがきっかけで英語や韓国語を習ってみたりとか。全部に繋がると思っていて、音楽から言葉を学んだら、言葉から歴史に行ったりとかするじゃないですか。自分を知っていただいている国に対して、それくらい知っておかなきゃダメだよなあって。たぶん知識欲があるんですよ!
それに音楽って言葉が違っても世界共通ではあるじゃないですか。でも、どういう部分でその音楽がみんなの中で成り立っていて理解し合えるのかは歴史を紐解かないと分からないし、そこにいる人たちの生活を知らなければ分からないことだと思うんです。--また、挑戦するという点においてもう一つ。ファンの中には、現状維持というか今の平野綾を求め続ける人もいますよね。
平野綾:ただ、凄くありがたいことに、ずーっと私についてきて下さっているファンの方々は、挑戦を楽しみにして下さっている方が殆どなので、だからこそ安心して色々出せるっていうのも凄くあって。ファンの方から「次は何やるの?」って言われるのでハードルは自然と上がるんですけど(笑)。
--昨年発表した『FRAGMENTS』は全ての曲を違った歌声で歌うという、自らハードルを引き上げる作品でしたよね。
平野綾:『FRAGMENTS』は良い意味で賛否両論だったんですよ。自分がそれこそ“欠片”の一部になって、声が楽器だと思ってやっていた部分が凄く大きくて。「この曲のこの楽器に合う音質はどれだろう?」って自分の声を探していくみたいな所がありました。だから今回の「TOxxxIC」も「ミライボイジャー」も、また違った所を引っ張り出していますし、『FRAGMENTS』の延長線上にある新しいことを打ち出していければと思って取り組みました。
--その「TOxxxIC」には“肉食系LOVE SONG”という謳い文句が付いていますが、また一つ新しい挑戦になっています。
平野綾:以前の私の曲だと、ガッついた歌詞の曲が多いんですよ! ファンの方からも“頭にSが付く曲はドSの曲”って言われてて(笑)。かなり攻めの曲が多いんですけど、「TOxxxIC」は今までと違ってちょっと策士というか、計算が入っている。そういう所で楽しんでもらえたらなって。
“TOxxxIC”は中毒っていう意味ですけど、昔、「Maybe I can't good-bye.」っていう曲(※2)で全英詞を書いたことがあって。その曲と似た感覚の歌詞になっていて、私の中でのテーマが“中毒”だったんです。相手の男の人と別れたいんだけど別れられなくて……みたいなことを書いたんですけど、当時よりも大人になっているのが「TOxxxIC」ですね。
リリース情報
TOxxxIC
- 2013/02/20 RELEASE
- 初回限定盤[UMCK-5422(CD+DVD)]
- 定価:¥1,260(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
その遊びというか余裕感は、今までの私にはなかった
--これはライブにしてみてもそうですが、いわゆる平野綾のパブリックイメージを持って見ると驚く所ってありますよね。
平野綾:人それぞれ色々なイメージを持たれているんですけど、やっぱり一番強いのは代表作のハルヒ(※3)のイメージだと思うんです。でも、私自身は凄く大人な歌詞やバラードを歌っていたりもするので、違った面を見せられればいいなって思います。
--では、「TOxxxIC」を歌う上で最も意識した部分は?
平野綾:バックサウンドとは真逆なようにボーカルを設定しなきゃいけないなって。とにかく脱力している感じで歌えるように努力しました。私って、キメようと思うとカッチリ決まりすぎちゃうんですよ!(笑) 音に対して的確にキメていってしまうんですけど、この曲はちょっとしたズレ感が楽しいじゃないですか。それを出したくて、あえてリズムをきっちり取らなかったりとか、ちょっとズラして歌ってみたりしました。
その遊びというか余裕感は、今までの私にはなかった所なんです。やっぱり今までと同じことをやっていたら、私の歌は成長しない。深みを増すためのポイントを考えた時に、“キッチリ考えすぎない”ってことなんじゃないかと、……これは歌に限らずですけど(笑)。それにダンスはキッチリやりつつ歌がラフだったら、めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!?
--その分、難しくなりそうですね(笑)。
平野綾:ミュージックビデオでも抜けた感じの表情にしているんです。ずっとガツガツいくと本当の肉食系になると思うんですけど(笑)、その抜けた瞬間にクレバーさが出て、同時に「それがこの人の本心なんじゃないか?」って思わせるポイントになって、さらにこの主人公はそれを計算してやってると思ったんですよ。
相手がどう出るかは分かってるけど、その理想に対して忠実に演じてあげるのも主人公の手の内で、“あたしだけに本当の君を見せてよ”って言いながら自分の本性は一切出さない。どこまでがお芝居なのか分からない女の子にしたかったんですよね。
--演じる人物やキャラクターをしっかり咀嚼して、平野綾として表現するという作業は、歌でもしっかり行っているんですね。
平野綾:平野綾を出して良い場合と出してはいけない場合があるんですけど、基本的にどの仕事もその2つのやり方でやっています。ただ、音楽は言葉じゃ言えないことを歌に乗せて自分の主張として出せるもので、自分の一番パーソナルな部分が分かるものだと思っているので、全部かもし出るように歌わなきゃなって思ってます。
点と点が繋がって線になっている
--そういう意識を持っていると知ることで、平野さんの音楽が今までと違って聴こえる人はたくさんいると思います。
平野綾:年齢的なものもあったかもしれないんですけど、やっぱり今まではキャピキャピしているイメージがあったと思うんです。深くまで知って下さっている方々は“根はそうじゃないよね”って分かって下さっているんですけど、パッと見の私はどうしてもそうなので。
--個人的な意見ですけど、変にカテゴライズせずに平野綾という存在自体に興味を持っていくと、見ていて本当に面白いんですよね。
平野綾:ありがとうございます! やっぱり何か一つピックアップして見ると、「何やってんのコイツ?」ってなると思うんですよ(笑)。でも、私の中では点ばっかり打っているんじゃなくて、点と点が繋がって線になっているので、それを早く伝えられるといいなって思います。
--では、歌手 平野綾としての2013年の目標は?
平野綾:去年の早い段階から今年の流れが決まっていて、今後リリースする曲も何曲か仕上がっているんですよ。だから去年の段階から「早く来年にならないかな!」って待ち遠しかったんですよね(笑)。いずれ発表する曲の中には歌手としての力量が問われるというか、凄く難しい曲もあって。そこで初めて平野綾という素材自体に触れて頂けるんじゃないかって思いますね。
--やっぱりどこかでご自身を楽器として捉えている部分が強いんですね。
平野綾:それは声優をやっているからなのかもしれないけど楽器っていう側面があるし、でもライブでは全体でパフォーマンスしなければいけないからまた違う印象があったりとか……、不思議ですね。さっきの顔の筋肉の話じゃないですけど、自分の身体をパーツで分けて考えている所はあります。
--あと、2月24日にはリリースイベントも決定したようですね!
平野綾:はい! やるんですよ~! リリースイベントはかなり久々で、最初1曲だけ歌えばいいんじゃないかって案もあったんですけど、「せっかくやるんなら来ていただいた皆さんに盛り上がってほしい!」っていう私の変な欲が(笑)。踊れる曲ばっかり集めてクラブらしいイベントをやろうかと思ってます!
リリース情報
TOxxxIC
- 2013/02/20 RELEASE
- 初回限定盤[UMCK-5422(CD+DVD)]
- 定価:¥1,260(tax in.)
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Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
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