常に完璧になるまで曲を磨かなければならないという固定概念

▲「Wild」MV
−−スタジオに入る前に、細部にまで及ぶデモを制作するそうですが、この制作方法に辿り着いた経緯は?
アレックス:まずこの方法には、利点と不利点が両方あって、利点は、自分が感動した瞬間を捉えることによって、その瞬間がその後もずっと生き続けることになる。でも悪い点は、スタジオ内で起こる即興性を邪魔してしまう。実はこれは今後はあまりしないようにしたいと思っている事のひとつなんだ。最初の頃は金銭的な問題で、スタジオにいる時間を短縮する為にこの方法でしか出来なかった。新たな日というのは、何か新しい事が起きるという可能性を秘めている。色々なことをもっと柔軟に、オープンに捉えることで、さらにクリエイティヴな作品作りが出来るということに歳を重ねることによって気付いたんだ。昔はその瞬間を捉えて、スタジオで再現することばかりに力を注いでいた。でも今後それも変わっていくことの一つだと思っている。
−−制作活動する上で、そこから生まれるものは無限大ですが、逆にその中から削って行く作業の方が困難なような気がします。
アレックス:過去の作品はかなりシビアに削る作業をしたね。常に完璧になるまで、曲を磨かなければならないという固定概念が2人の頭の中に出来てしまっていて、中々そこから抜け出すのが難しくなってきている。だから、今後はそこまで極端にすることはしない。僕的には、どのアルバムもサウンド面において類似しているものはないと思っている。このプロセスを落ち着かせることで、次のアルバムには特に大きな変化をもたらすと思ってるんだ。曲を完成させたいという、欲望が強すぎるのが問題なのかもしれない。必要以上にいじらないで、そのままにすることも大切なんだ、というのは今回のアルバムのレコーディングから学んだ教訓でもあるね。
−−では曲が、到達点に達したと感じる瞬間は?
アレックス:長年に渡ってヴィクトリアと僕が一緒に活動を続けて来れたのは、考え方は全く違うけれど、面白い事に感性がとても似ているから。ある曲があるとすると大体2人とも気に入るか、気に入らないかどちらかだ。基本的に曲が完成したかどうかが判断されるのは、何かを足しても、引いても仕上がりが悪くなる時だと思っている。その判断は、2人の合意にかかっていて、大体の場合僕らの意見は一致するね。
−−前作『Teen Dream』も手掛けたクリス・コーディ―を再びプロデューサーに起用していますが、既にしっかりとした基盤がある中、彼が作品へ及ぼす影響を教えてください。
アレックス:クリスは、素晴らしいプロデューサーだよ。僕たちとレコーディングする時は、むしろコラボレターという感じだね。近年限りなくゼロに近づいてしまったと感じるのが、バンドの一番のパフォーマンスを引き出してくれるプロデューサー。僕がテイクを終えて、「これで上出来じゃない?」と思っていても、彼にまだダメだと言われることが、レコーディング中に何度もあって…その時は何故だろうと考えるけれど、きちんとしたテイクが録れると、「あぁ、このことを言ってたんだ。」と気づかさせられることが多かった。フィーリング、サウンド、エネルギー、すべての面において到達点に着地した瞬間というのを彼ほどわきまえているプロデューサーはいないね。そこに辿り着くまで、後押ししてくれたり、時間を惜しまず待ってくれる。それは、ある種の才能でもあるよね。
−−直感的な部分も大きいけれど、経験も豊富ですしね。
アレックス:ひょっとしたら彼は12年ぐらいスタジオを出ていないんじゃないか、と思う時もあるよ(笑)。まるでスタジオに住みついてるネズミみたいなんだ。
−−ライブ・テイクされた曲の中では、やはりアルバムのラスト・トラック「Irene」が印象的でした。今回のアルバムは、すべてテープでレコーディングしたそうですが、この伝統的な方法で行った理由は?
アレックス:いくつかあって、まず音が素晴らしい。今色々なテイクの話をしたけれど、その一つ一つにより目をむけることが出来る。たとえば、ProToolsでレコーディングした場合、途中で間違えてしまっても、またその部分からやり直して曲をつなぐことが出来る。でもそうすると、その1曲を通してレコーデイングするという"行為"とその"体験"というものが薄れてしまうと感じるんだ。断片的にしてしまうと、一つの曲として持つフィーリングも変わってきてしまうし。
現代の音楽業界

▲「Lazuli」MV
−−今作は期待度が高かったこともあり、リリースよりかなり前にアルバムの音源が、ネット上にリークしてしまいましたよね…。尽力と時間をかけて作ったものが意図も簡単にネット上に出回ってしまうことに苛立ちは?
アレックス:もちろん感じるよ。自分たちの意に反した形で世に出てしまうんだから。でも僕が一番悲観視しているのは、そういうことに対する判断能力やクオリティが落ちているのが当たり前になっていること。世界には、美しいものがたくさんある。でもそのせいで正当に評価されなくなることは、悲しいね。アルバムを通して聴くというのは本来美しい行為なんだ。でも最近みんな忙しさのあまり、iPhoneや色々なデヴァイスでシングル1曲、ひどい時は30秒しかないクリップをクオリティの悪い音源のまま平気で聴いている。一人、友達、家族、愛する人、誰でもいいけど、ちゃんと座って、その作品の世界観やフィーリングに浸るという行為が、過去のものになってしまうのはあまりにももったいなさすぎる。
−−テクノロジーの進歩によりネットが普及し、10年前と比較すると世界的に情報のアクセシビリティが高まっていますが、このような悪い点もあれば良い点もありますよね。
アレックス:もちろん。美しくてレアな音楽は、ネット上に多く存在するし、もしその環境がなかったら誰も聴くことが出来ないようなものが大半だと思う。色々な情報が早く手に入るのは、素晴らしい反面、僕達のことを変えていっているのは間違いないね。
−−それに伴ったYouTubeなどの画像共有サイトやSNSの普及には、音楽業界も大きな影響を受けていると思います。でもそういうツールを使うことによって作品自体より、話題性や"ギミック"的要素が先行してしまうのも難点ですよね。
アレックス:『Bloom』のリリース後、自分たちが露出する"コンテンツ"を意図的に制限した。ミュージック・ビデオはいくつか作っているけれど、単に僕たちのことを撮影するだけのラジオのセッションやリミックスとかはやっていない。話題作りをすることには興味がないし、自分たちが本当に誇りをもてる作品しか作らないと決めたから。もし多くのバンドが、僕たちと同じ考えをもってくれたら、ユーザー側も大量にあるクズみたいな作品の半分も見ないで、もっと素晴らしい作品に出会える可能性が高まるはずだよ。
−−そんな中、アナログ・レコードの売り上げが年々増加している現状は興味深いな、と感じます。ほとんど何でもmp3で買える時代ですもんね。
アレックス:その点は、本当に素晴らしいよね。12インチのアナログ・レコードは、音はもちろん、視覚的にも美しいし、レコードを集めるという行為にも美学がある。それが若い子たちにも浸透していっているのは嬉しいよね。ライブを見に来てくれたファンの子にレコード・プレーヤーは、持ってないけど、ビーチ・ハウスのレコードは全部買ったよって言われることが増えた。それってすごくクールなことだよ。僕は、21歳の時に初めてレコード・プレーヤーを買った。理由は、アナログを売っている店に行けば、ほとんど1ドルでレコードを買うことが出来たから。ビートルズから初め、色々なバンドのレコードを全部揃えていったんだ。それまで、ずっとCDで聴いていたものをアナログで聴いた時の驚きは大きかったね。「Let It Be」のドラムとか、それまでに聴いていたCDとは全く違って、「本来はこういう音なんだ!」って。なんだか音オタクみたいな感じになっちゃってゴメンね(笑)。自分でもそんな風にはなりたくないけど、やはり比べてみると明確な違いがあるんだ。
リリース情報
ブルーム

- 2013/01/16 RELEASE
- Pachinko Records
- [UICO-1249(CD)]
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- ※日本盤ボーナス・トラック1曲収録
- 定価:¥2,300(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
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