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クリストファー・オウエンス 『リサンドレ』インタビュー
幼年期をカルト教団「チルドレン・オブ・ゴッド」と共に様々な国で過ごし、16歳で教団から逃亡、サンフランシスコに行き着き、チェット"JR"ホワイトと共にガールズを結成したクリストファー・オウエンス。デビュー作『アルバム』がメディアから高評価を得て、一躍インディー・シーンを代表するバンドに。昨年リリースされた2ndアルバム『ファーザー、サン、ホーリー・ゴースト』でその人気を不動のものにした。だが今年7月にガールズから脱退をすることを電撃表明したクリストファー。
そんな彼が来年1月にリリースするソロ・デビュー作『リサンドレ』は、「音楽的に最も集中して努力を注いだ作品」と公言する、今までで一番パーソナルなアルバムに仕上がっている。デビュー当時からの変化、親友のライアン・マッギンレーやソロ・アーティストとしての未来について訊いた。
自分にとって重要なことについて書くこと
??今回の新作『リサンドレ』は、ガールズとして初めてワールド・ツアーを行った2008年に制作を開始したそうですね。
クリストファー・オウエンス:ツアー中に、あまり曲を書くことはないんだ。ちゃんと考える時間もないし、環境も良いとは言えないから。実際に曲を書き始めたのはツアーが終わった数カ月後で、その時は特に出来上がったものをどうするかは考えていなくて、ただ感じたことを音楽という形にしただけだった。でもこのツアーでは様々な出来事があったから、記録として残したいというのは思っていた。僕が、ソングライターとして一番興味を持っているのは、人生で起こった出来事や出会った人々など、自分にとって重要なことについて書くこと。書きはじめたら、かなり早く出来上がったよ。1晩のうちにね!
??なぜこの作品を今リリースしようと思ったのですか?
クリストファー:タイミングの問題だよね。出来上がってから、長い間リリースをしたいとは思っていた。でも単純に機会がなかったんだ。それに、とてもパーソナルな内容だし、一人称で綴られていてある意味、物語だから、ソロ・アルバムとしての方がしっくりくるんじゃないかと感じた。僕がソロ・アーティスト、ソングライターとして、今後どのような作品を作っていきたいかを理解してもらうには、最適なアルバムに仕上がったと思っているよ。
??今少し話してくれましたが、アルバムは、物語のような構成となっていますね。これは意図的だったのですか?
クリストファー:まったく意図的だよ。曲は、アルバムのままの順序で書かれていて、それを変えることは絶対にしたくなかった。こういう作品は少ないよね。というか、こんなアルバムないよね!この日は、これとこれが起きた、次の日はこうで…って言う具合に(笑)。まるで絵本や、もしくは映画のサウンドトラックみたいだ。そして作品を他から差別化するユニークな部分だと思っているよ。
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Photo: Ryan McGinley
作品をインスパイアする"ミューズ"の存在
??「ローラ」、「アレックス」、「ジェイミー・マリー」などガールズとしてリリースした作品の中にも、特定の女性についての曲が数多くあり、そして今回のアルバムのタイトルは『リサンドレ』と言うことですが、"ミューズ"の存在についての考えを教えてください?
クリストファー:最終的には、自分のことを書いているけれど、個人的に他の人がインスパイアしてくれると曲が書きやすいというのは感じるね。彼らが、僕をどのような気持ちにさせるか、彼らと出会った時に起こった出来事、その時に僕がどのようなことを感じていたか。すべて連鎖しているんだ。
??理想像としては、クリストファーにとって様々な感情を呼び起こすことが出来る人物。
クリストファー:そうだね。それが僕の作品のインスピレーションや動力となっているから。
??でもポジティヴな面だけでなく、悪い面や人間の弱い部分も浮き彫りにされてしまいますよね。
クリストファー:もちろんだよ。でもそれは人間だから仕方がないし、むしろそういうダークだったり、弱い面こそ、人が興味を持ってくれる部分だと思うんだ。誰でも1度は経験していて、共感出来ることでもあるはずだから。あまり保守的になってしまうと、それが作品にも反映されて内容のない物になってしまう。それって作る側もそうだけど、聴く側にとっても面白くないよね。
アーティストとしての原点とデビュー当時からの変化、成長
??アルバムを締めくくる「パート・オブ・ミー (リサンドレのエピローグ)」は、愛する人を手放すことについての曲ですが、辛い反面、結果的に成長にも繋がり、これはアルバムの中のテーマの一つでもありますよね。デビュー当時と今を比べて、自分の中で変化した部分や成長したと感じる部分は?
クリストファー:難しい質問だね(笑)。デビュー当時と今やっていることは同じな気がするな。やっと見つけることが出来たクリエイティブな場所だから、ここから出たくないという部分があるんだ。でも経験値は着実に増えていっている。始めたことを最後までやり通す信念だったりね。アルバムごとに、スタジオで色々な人と作品づくりを行って、経験を積むことも、とても有意義だと感じている。
??今回プロデュースをガールズの『ファーザー、サン、ホーリー・ゴースト』を手掛けたダグ・ボームが担当しているのもそのような理由で?
クリストファー:そうだね。ガールズから脱退して、僕の周りでは様々な変化が起きていた。でもその変化にすべてをゆだねないことも重要だと感じたから、あえて彼を起用したんだ。ダグなら信頼できるし、彼となら心置きなく作品づくりが出来ると分かっていたから。ナイーヴでいることに抵抗はないし、ある意味好きだ。僕には、まだまだやりたことがたくさんあるから、まだスタート地点にいるような気がする。もちろん色々なことを学んで、成長するのは重要だと思う。でも自分の原点に留まり、あらゆる変化に自分が飲み込まれないようにすることも、同じぐらい意味があることだね。
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『リサンドレ』を再現したソロ・ライブ・デビュー
??「ラヴ・イズ・イン・ジ・イア・オブ・ザ・リスナー」は、自身の音楽が観客にどのように受け取られるかについての曲ですが、今でもステージに上がる前はナーバスに?
クリストファー:残念ながらね(笑)。これも初めた頃から変わっていないこと一つ。でも逆にいいことだと思うんだ。
??慣れてしまうと演奏することに対しての新鮮味がなくなってしまうから?
クリストファー:そう、ルーチン化して飽きてしまうのは嫌だ。じゃないと、もう同じことやったことあるよ、どうでもいいや~って思っちゃうから。だから今でもナーバスになるのは、緊張感をもって心がこもった演奏をしようと思っている証拠なんだと思うね。
??では11月にサンフランシスコにて行われたソロ・デビュー・ライブでは、特に緊張したのでは?
クリストファー:そうだね。特に長らく人前で演奏していなかったのもあるし、僕にとってまったく新しい試みとなったアルバムをそのまま再現しなければならなかったから。新しいバンドだったしね。でもいいチャレンジだったと思ってる。最初は緊張していたけれど、2、3曲演奏したら、みんな気に入ってくれているみたいだったし、サウンドも良かったから、ちょっとはリラックス出来たよ(笑)。
??観客の反応をもう少し詳しく教えてください。
クリストファー:とてもポジティヴだったよ。以前とは違うショーをしようとしていることを理解して、温かく受け入れてくれた。それにまだアルバム全体を通して聴いたことがない人々ばかりだったから、ライブに来てすべてを聴けるというのは面白い試みだったんじゃないかな。
??会場や観客に配布された曲名が載ったプログラムなど、演出も趣向を凝らしたものでしたよね。
クリストファー:会場選びには、特にこだわったよ。ちゃんと選ばないと、とんでもない所で演奏するはめになったら嫌だし、音楽によって合う会場と合わない会場があるからね。ゆったりした音楽だから、気が散らずに座って聴けるムードがいい会場を選択した。
友人であり、同志のライアン・マッギンレー
??アルバムのアートワークに使用された写真は、友人でもある写真家のライアン・マッギンレーが撮ったものですが、彼を起用した経緯は?
クリストファー:今まで、僕がガールズのアルバム・アートワークをすべて手掛けてきた。今回もデザインやレイアウトは、僕が担当しているけれど、アルバム・カヴァーはセルフ・ポートレートと決めていたんだ。このアルバムは、まさに自分のポートレートだから。でも自分で自分の写真を撮るのは、気が引けたし…(笑)。素晴らしい写真家と友達なのだから、もう彼に撮ってもらうしかないよね。幸運にも、時間が合ったから何枚か撮ってもらうことが出来たんだ。
??彼は、今年日本で初の個展を開いたのですが、その中のシリーズの一つに「Reach Out, I'm Right Here」というものがありました。これはガールズの「ローラ」の歌詞から付けられたものですよね。
クリストファー:そうなんだよ!とても嬉しいことだよね。
??作品の形状は異なりますが、テーマ、ダイレクトなメッセージ性など、二人の作品には共通する部分が多くあると感じます。
クリストファー:アメリカの中でも、まったく正反対の場所に住んでいるし、会う機会は限られているけれど、連絡は頻繁にとりあっている。色々な話もする。お互いの作品を参照するのは、友達のゆえの事だと思う。テーマにおいても、人を観察してそれに反応したり、"若さ"や大人になりきれない大人だったり、重なる部分が多くあるね。彼みたいに成功している人が、僕の作品を聴いて、同志だと感じてくれているのは、今の僕のキャリアの到達点を考えると名誉なことだよ。
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拠点を置くサンフランシスコの魅力
??現在サンフランシスコを拠点として活動しているのも要因の一つかもしれないのですが、ヨーロッパ的な感受性が作品の中から見受けられるのは?
クリストファー:そう、僕はサンフランシスコをアメリカで一番ヨーロッパ風の街と呼んでいる。子供の頃、実際にヨーロッパに住んだり、日本や世界中を旅して暮らした。でもその中でヨーロッパ色が強いと感じてくれるのは、とても興味深いね。特に意識していることではないけれど、それが作品を通じて表れているということは、僕らしさが出ていて、真実味があるということだよね。
??では、サンフランシスコという街の良さは?
クリストファー:フランスやデンマークなどヨーロッパの小さな国で育ったから、長い間住んだにも関わらず、テキサスでは、いつも場違いな気がしていた。だから2005年にサンフランシスコに引っ越したことは、とても新鮮だったし、何故かすぐに落ち着いたんだ。街並み、景観、歴史だったり、幼い頃に慣れ親しんで来たものに近かったから、安心したんだと思うね。今となっては、気候もいい点の一つだよ。僕は、暑いのが苦手だから、一年中快適な気候なのが気に入ってる(笑)。あと住んでいる人々が自由なのも好きだね。クレイジーなやつがいっぱいいるんだ。とてもモダンで進んでいるけれど、同時に小さな町に住んでいる気もするからそのバランスがいいよね。
??市内で、作品づくりのインスピレーションの為に行く場所などはありますか?
クリストファー:僕は、ゴールデン・ゲート・パークの近くに住んでいるから、ほとんど毎日行くよ。後は、よく夜出かけるね。さっき話したように、人に影響を受けることが多いから、外に出て人を観察したり、人と触れ合ったりできるチャンスが多くあるナイトライフは重要だね。でも住んでるアパートが一番落ち着くし、仕事ははかどるかな(笑)。
??サンフランシスコ以外にも、インスピレーションの面で興味を持っているアーティストや作品などはありますか?
クリストファー:今は、自分が対面している変化に集中しているんだ。ライアンを始め、エディ・スリマンなどクリエイティブな友人が大勢いるから、彼らからは少なからず影響は受けているけれど、僕のヒーローは、大体が年上で、ほとんど死んでしまった人か盛期を過ぎてしまった人が多いね。
??最後に、改めてソロ・アーティストとしてデビューした意気込み、そして野望を聞かせて下さい。
クリストファー:ソロ・アーティストになって一番良かったことは、自由がきくことだ。バンドだと、そのバンドとして確立したサウンドを、少なからず求められてしまう。その点においては、ソロだともっと自由だし、融通が利くようになった。試してみたい色々なアイディアがあるから、これを機に少しずつそれを実現していきたいと思っているよ。今後、僕が想像しているような方向へ物事が進めば、アーティストとして様々な変化がみえると思うし、『リサンドレ』のように、ある考えやコンセプトを元にしたアルバムごとにまったく違う作品が聴けるはずだから楽しみにしていて欲しいね。
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