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奥華子 『good-bye』インタビュー
“声だけで泣ける”と称される奥華子が、ニューアルバム『good-bye』を携えて初登場。
“失恋ソングの女王”とも言われる彼女にとって、恋愛とは何なのか? なぜ失恋ソングを歌うのか? そして、被災地で出逢った女の子とのやり取りから生まれた名曲『悲しみだけで生きないで』や、自身の心境の変化について。様々なことを語って頂きました。
幸せすぎると怖いんです
--今回のアルバム、1曲目から泣きました。
奥華子:アハハハハ! 切ないですよねぇ。
--そもそも、奥さんの作品に失恋ソングが多いのは何故ですか?
奥華子:もともと恋愛ソングは多かったけど、失恋ソングに関しては強く意識していなかったんですよ。ただ、ライブをやっていくうちに、アンケートやお客さんの反応を見て、『恋』や『楔』とか失恋ソングが人気だと知って。そこから意識して書くことが増えました。
--自分の感情を吐き出したい、という想いで書いているわけではない?
奥華子:昔はそうでした。実体験というか、リアルタイムで吐き出したい想いが曲になっていたけど、それを続けているとネタが尽きてしまうので、「どういう曲にしよう」って考えてから作るようになりましたね。
--これだけ失恋ソングを生み出せるということは、それだけ恋もしているんですか?
奥華子:恋愛の数=失恋ソングの数ってわけではないですからね。一つの失恋から何曲もお世話になっているし(笑)、色々な角度から曲を書いていくので、数は関係ないと思います。ただ、自分自身は凄く恋愛体質。常に恋をしていたいタイプですね。
--人生にとっても恋愛は重要な要素だと?
奥華子:重要というか、そのものだと思っています。恋愛=生きていること。「恋愛」って言うと少し違うかもしれないけど、誰かを必要としたり誰かに必要とされることは1番の生きる原動力になるし、それは仕事等で得るものとは別だなと思うんです。
--じゃあ、奥さんにとって恋愛とは?
奥華子:自分を見る鏡ですね。友達でも親でも分かり得ないものを見つけることが出来るのが恋愛。自分自身が一番出る所だと思うし、新たな自分を知ることも出来る。恋愛ほど他人と一対一で向き合う事はないのかなと思うし、相手に教えてもらうことがたくさんありますよね。だからお互いに高めあっていける鏡というか。逆のパターンもありますけど(笑)。
--ただ、収録曲『愛してた』の歌詞には、「恋に迷ったり 溺れたり 自分を見失うことなんて バカなことだと思ってた」とあります。奥さん自身そう思っていたということですか?
奥華子:「こんなはずじゃなかった」ということですね。入り口はもう少し軽い気持ちだったのに、いつの間にかこんなに好きになってしまった、という。本当に人を好きになると自分でも制御できなかったり、知らなかった自分に出会ってしまうじゃないですか。そういう想いを描いているんですよね。
--奥さんの曲の主人公って、自分の気持ちを抑えようとする女の子が多いですよね?
奥華子:あ~…確かにそうかも。自然と自分が反映されているのかなぁ? 曲自体は自分自身を書いたものと、相手の男性から見た自分を書いたものとか色々あるんですけどね。なんか、私、幸せすぎると怖いんですよ。失う恐怖が出てくるんです。で、自分から別れて後悔することがよくあるんですよね。幸せな時はその大切さをあまり実感できずに、失ってからようやく大事さに気が付く。そういうところが凄くあります。
--こういう失恋ソングを歌う女性アーティストは他にも大勢います。その中で奥華子の失恋ソングが支持される理由は何だと思います?
奥華子:端から見ると少しいきすぎているところかなぁ。こういう女の人は嫌だよねって思われる感じというか。それくらいストーカーチックだったり、引きずりすぎている歌詞なのかなって自分では思います。でも恋愛して別れたりする時って、本当に恥ずかしい自分になるし、口には出せない気持ちが芽生えるじゃないですか。その恥ずかしい部分を言葉にして歌っているところに共感してもらっているのかなぁって思います。というか、そうだったら嬉しいです。
--個人的には聴き終えた後の感覚だと思っていて。奥さんの曲はどこか優しい気持ちになれるんですよ。あと、「苦しい」「悲しい」よりも「切ない」って言葉が合うなぁと。
奥華子:「切ない」って悲しいとも違うし、日本独特の言葉なんですかね? その切なさは幸せな時期があるからこそ「切ない」って感じると思うんですよね。元々、恋愛ソングを書くときは幸せだった頃も描くようにしているんですよ。私自身そういう曲が好きだからなのかもしれないんですけど、例えば大好きな槇原敬之さんの歌は、切ないけど常に優しい気持ちになれる。相手への恨み節じゃなくて感謝の想いが溢れているんですよね。
Interviewer:武川春奈
全部を持ったまま新しいモノは持てない
--また、最新シングル『シンデレラ』のタイミングで“赤いメガネ”や“カーゴパンツ”を封印しましたね。
奥華子:この曲は振り切ったアレンジで、新しい奥華子に挑戦した曲でもあるので少し変わってみようかと。「そういうのもありかもね」って思える自分になれたんです。前から「スカート履いたら?」とか言われてはいたんですけど、「いや、それだと奥華子じゃない!」っていう気持ちが強くて。そこにはそれなりの理由や拘りがあったんですけど、別にそこで勝負しているわけじゃないなぁって思い始めて。色々と違うことに挑戦してみてもいいのかなって気持ちになりました。
--そういった変化はアルバムにも反映されていますよね。『春色の空』や『GOOD BYE!』を聴いて、新たに殻を破りたい気持ちがあるのかなって思いました。
奥華子:そうですね、2011年に作った曲が多いですし、震災の影響は絶対に受けてますね。自分が生きていることを改めて考える1年だったので。いつまでも続くと思っていた日常や、あることが当たり前だと思っていたものは、そうじゃなかったって気付かされたし、幸せに慣れすぎていたなぁって。だから、自分はどう生きたいんだろう? とか、何が必要で誰にいて欲しいとか、そういうことを考えたんです。その中で「変わりたい」というよりも、なんていうか……………「もっとちゃんと生きたい」って思ったんですよね。
今までの自分は毎日やらなくちゃいけないことに追われて、とにかく突っ走ってきたなと思うんです。それはそれで大事なことだし、その7年があるからこそ今の自分がいるんですけど、もう少し地に足を着けて自分を見つめ直したい。見つめ直さないといけないと思って。この『GOOD BYE!』も一度いらないモノはグッバイして、新しい自分を探そうっていう想いを書きました。この曲は怖い者知らずですね。もし全て無くしたとしても大丈夫という、強い気持ちが込められている。
--だから、アルバムタイトルも『good-bye』?
奥華子:というよりも、13曲出来た段階でアルバムタイトルを決めて、最後に『GOOD BYE!』という曲を作ったんですよ。この曲を抜きにしても、別れの曲が多いうえに、全部がそこから始まっているなぁって思えたんです。やっぱり、始めるにしても、いらないものは捨てないとスタートできない。全部を持ったまま新しいモノは持てないじゃないですか。この13曲を振り返ったときにそう思ったんです。で、昨日までの自分に“good-bye”という想いを込めた。
--その捨てる行為って、勇気が必要だったりしません?
奥華子:そうですね、年齢も関係あるのかもしれないんですけど、後回しにしないで、その時の自分の気持ちに正直に生きたいなと凄く思うようになりましたね。
--また、『悲しみだけで生きないで』は被災地で出逢った女の子とのやり取りから生まれたそうですね。
奥華子:震災後、宮城県の避難所で歌っているときに出逢った女の子から、後日「あの時は来てくれてありがとうございました」ってメールをもらったんです。それと同時に「復興とか応援歌とか、前向きに頑張れとか、もう世の中はそういう方向を向いているけど、実際は前を向きたくても向けない人がいっぱいいて、私自身すごく苦しい」「だから、応援歌とかじゃなくて、そういう人達の心に寄り添ってくれるような曲を作って頂けませんか?」っていう内容のメールも頂いて。ただ、私は自分が体験したわけでもないのに、あの大きな悲しい出来事を歌にすることはできないと思ったんです。だから、もしよかったら、あの時経験したこと、今思っていること、何でもいいので私に教えてくれませんか? という返事を書きました。その後しばらくして、長いメールを送ってきてくれました。そのメールを読ませてもらって、自分なりに曲を作らせて頂きました。
Interviewer:武川春奈
“人は孤独だ”って考えが根本にある
--この曲を作って、歌って、世に出すということに対して、覚悟も必要だったのでは?
奥華子:この曲はCDに入れるために作ったわけじゃないし、アルバムに入れていいのかな? って迷ったりもして。でも、みんなが経験したことだし、忘れてはいけないことだと思うから、アルバムに入れようって決めました。
曲が出来たとき、一番最初に聴いて欲しくてその子に送ったんですね。そしたらすぐにメールで返事が来たんです。「本当にありがとうございます」「この曲を聴いて、頑張れとかじゃなくて“生きて”って言葉が、自分の中に素直に響いてきました」って。--それは嬉しいですね。
奥華子:嬉しかったですねぇ。あと、この曲は自分自身にも言い聞かせている部分があるかも。チャリティライブとかをやらせて頂いたとき、私は結局その人たちの悲しみを絶対に分かることはできないし、その人たちの代わりに何かをやれるわけでもない。じゃあ、自分は何だろう? って思ったんですよね。“誰かのために頑張る”って何だよと。でも、思ったんです。この曲の歌詞に「あなたを生きて あなたにしかできないこと」ってあるんですけど、人は他人の痛みを完璧に理解したり、その人の代わりになることはできないけど、だからこそ自分自身ができることを精一杯やるんだなって。仕事とか、自分の家族を守るとか、そういうことを一生懸命やることで、結果的に誰かのためになっていたり、社会が繋がっていくのかなって。私は2011年の中でそれを感じたから、この曲も私ができることの一つとして作りました。
--昨年末にライブで披露した際、歌唱後に数秒の沈黙が起こるほど聴き手を釘付けにしましたよね。
奥華子:あんな沈黙は初めてでしたね。どうしようって思いましたもん(笑)。こんなに直接的に書いちゃっていいのかな?って迷いはあったんですけど、曲にするって決めたとき、そうじゃなくちゃいけないような気がしたんですよね。直接的であろうと何だろうと、そのままを歌わないとって。
--話しを伺っていて思ったんですけど、奥さんってとても誠実な方ですよね。物事や人と真っ直ぐ向き合おうとする姿勢を感じます。
奥華子:フフフフ。なんか照れますね(笑)。……あ! なぜか今思い出しましたけど、“人は孤独だ”って考えが根本にあるんですよね。どれだけ仲が良くても、どれだけ一緒に居ても絶対に人は孤独だと思う。だからこそ、分かり合いたいと思うし、恋愛って、両想いって凄いことだなって思うんですよね。自分と同じくらい人を好きになれるって凄いことじゃないですか。
--孤独だという考えは小さい頃からあったんですか?
奥華子:これを言うと「イジメに合ってたんですか?」とか言われるんですけど、本当に普通だったんですよ。小さい頃から何の不満も苦労も無く生きてきたんです。だから、反対にそれが物足りない。満たされているから物足りない、みたいなところがあるかもしれない。何が欲しいかも分からないんですよね。
--言ってしまえば無い物ねだり?
奥華子:そうです、そうです。常にそうです。“孤独”とか感じたことはないくせに、“人は孤独だな”って凄く思うんですよ。自分の中でのテーマになってますね。17歳の頃から曲を作り始めて「何を歌いたいんですか?」って聞かれた時も「孤独です!」って答えていました(笑)。
--あと、ちょっと話題は変わりますが、奥さんは熊木杏里さんと仲が良いんですよね?
奥華子:はい。あっ、知ってます、hotexpressさんの編集長の方が、以前から杏里ちゃんの長~い理解者さんなんですよね?
--そうなんです。過去の対談を読みましたけど、性格も正反対ですよね?
奥華子:真逆! 全然違いますね。曲の作り方も考え方も。
--奥さんから見て、熊木さんはどんなアーティストだと思います?
奥華子:もの凄くアーティスト。自分を信じているし、自分の言葉を持っているし、“作る人”って感じがします。
--そういう自分とはスタイルの違う女性シンガーソングライターに対して、羨ましいと思ったり憧れたりすることもあったりするんですか?
奥華子:凄いな~と思う事はたくさんありますけど、杏里ちゃんに限らず他の人に対してあまり羨ましいという感情はないですね。
--ただ、奥華子と熊木杏里の両方を好きなリスナーは多いです。共通点などあると思いますか?
奥華子:女性ソロアーティストってことだけで、実はあまり無いんじゃないかと思います。むしろ全然違うと思いますね。たまたま同じライブに出たり、仲が良いことで共通のファンの方はいらっしゃるかもしれないですけど、杏里ちゃんって私よりも全然癒やし度が高いと思うんですよ。声やサウンドにしても。私の場合は癒やしとはまた違う気がする。
--分かりました。では、最後に今回のアルバムはどんな1枚に仕上がったと思いますか?
奥華子:言葉にするのは難しいんですけど、弾き語りからライブ感のあるバンドサウンドも、聴くたびに色が変わっていく曲が入っていて、色々な奥華子を楽しめる、バラエティに富んだポップ度の高いアルバムになったと思います。
--バスツアーなど新しい企画もスタートしますけど、今後の目標などありますか?
奥華子:これはデビュー当初から思っていることですけど、教科書に載るような曲を作りたいです。ずっと時代に残る、歌い次がれる曲を作りたい。まだまだ全然その夢に届いていないので、そこを目指したいですね。
Interviewer:武川春奈
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