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サンボマスター 『ラブソング』 インタビュー
もう声は君には届かない 奇跡がおきるなら もう一度 もう一度だけ―――。今はもうそこにいない"美しすぎた人"へ贈る、バンド史上初のバラードシングル『ラブソング』。これまでのサンボマスターと一線を画す、優しきその音楽に込めた想いを3人にじっくりと語ってもらった。
ピアノの弾き語りで出そうと思っていた
--7月の渋谷CLUB QUATTROでの公演を観させて頂きましたが【君を守って 君を愛して ライブもやって】は自分たちにとってどんなツアーになりましたか?
山口隆:面白かったですね。ケガ人が出るとかそういうことも全くなかったし、いつもそうならないようには言ってるんですけど。ケガしちゃつまらないですからね、本当に。で、新しくライブに来てくれる人も増えて、更には新曲のウケが良くて。それは嬉しかった。特に『世界をかえさせておくれよ』はウケてましたね。ほんと、みんなが楽しそうでよかった。僕ら的にも真剣に爆発できましたし。
--あと、残念ながら観れなかったんですけど、個人的に一番興味のあった【ティッシュタイム.49 ~放課後の性春レコ発Vol.2~】。オナニーマシーンとのイベントはどんな内容になりましたか?
山口隆:イノマーさんと会うのは久々だったんですけど、相変わらずでしたね。イノマーさんだけはほんとにもう……最高でした。ライブ前に久々にメールでやり取りしたんですけど、やっぱり最後には「よろしく○○○○○」って書いていましたよ。
--(笑)。
木内泰史:オノチンさんも相変わらず本番5分前は怖かったしね。
山口隆:怖かった。
木内泰史:本番5分前まで来なくて、俺らのライブ良かったって言ってました。
山口隆:俺のこと見て「お!サンボマスターだ!」って言ってましたよ(笑)。あと、打ち上げにすげぇたくさんの人がいらっしゃって「すげぇな、イノマーさん。いっぱい知り合い増えたんだなぁ。大人になったなぁ」って思って、それで「イノマーさん、あの人たちはどういう関係の方々なんですか?」って聞いたら、「知らない」って。
--(笑)。
木内泰史:スタッフもみんな「知らない」って言ってて。誰だったんだ?っていう。
山口隆:なんで知らねぇ人がそんなにいっぱいいるんだ?と思って(笑)。でもすげぇ良かったですよ。ラママでライブやるのも久々だったし。もうね、ギュウギュウ過ぎてモッシュ&ダイブできないぐらいだったんですよ。逆に安全でよかった(笑)。
--また、今年のサンボマスターのライブを観ていていつも思うのが『君を守って 君を愛して』『世界をかえさせておくれよ』『ラブソング』といった新曲がとにかく良くて。
山口隆:嬉しいですね。さっきも言いましたけど、ウケが良いですからね。『君を守って 君を愛して』は夜中に書いたラブレターみたいなもんなんですけど、夜中に書いたラブレターって朝見ると恥ずかしいって言うじゃないですか。でも夜中のうちに出した方が良いと思って出したヤツだから、ライブで歌うときは恥ずかしいからワァ~!ってやろうと思って。ただ、1回だけやらなかったライブがあったんです。福島のフェスだったんですけど、時間があんまりなかったんですよね。そしたら福島は僕の故郷だから友達が来てて、そいつが「俺の甥っ子は『君を守って 君を愛して』を楽しみで来たのに、なんでそれをやんないんだ」って言ってくれて。そいつは怒ってるつもりだけど、俺にはその言葉がすげぇ嬉しくって。「あ~、やっぱりこういう歌詞って、世の中に対して恥ずかしいと思わずに書くに限るなぁ」って思いましたね。だから勇気付けられましたよ、すごく。
ラママのときも『I love you & I hate the world』っていう新曲をやったんですけど、そのライブが終わってイノマーさんとかと喋ってて、夜中の1時ぐらいに外に出たら待っててくれる若者がいるんですよ。男だったんですけど「俺、今日山口さんのほっぺに2回チューしたんです!」とか訳分かんないこと言ってて(笑)。でもそういう奴が新曲を憶えててくれるんですよね。「I love you & I hateとか言って、愛したい、憎いとか歌ってるヤツ、すげぇ良かったです」って。そういうのが力にはなりますからね。本当にひとりふたりの声なんですけどね、でもそれが非常に励みになったりしますよ。それは若い人だろうがオッサンだろうが関係なく。
--近藤さんは今年のサンボマスターのライブにどんな印象を持たれていますか?
近藤洋一:今年はライブの本数が少ない分、1本1本に濃さがあるんですよね。だからイベントとかも1本1本堪能しながらライブができてる。
山口隆:昔は「ライブやってダメだったら死のう!」って言ってやってたんですよね。いや、死ぬとか軽々しく言うのはよくないことは分かってるけど、でも本当に思ってたんですよ。でも近ちゃんが途中で言ったんだよね、「これじゃないんじゃないか」「そればっかりでやるのは違うんじゃないか」って。それは言ってもらって良かったなと思って。で、今年は「ダメだったら死のう!」なんて思わなくても、ワァ~!って爆発しながら1本1本ライブができているので、それが嬉しい。あと、今年の渋谷CLUB QUATTROで憶えているのが、皆さんが2回か3回アンコールをして下さったんですよね。だけどあそこでまたやったら、今までやった爆発がちょっと落ちる気がしたんですよ、さすがに。それはいかんと思って。質が低いライブをせっかく来て下さった方に見せる訳にはいかないから、それで結局は押し止まったんですけどね。そうやって1本1本に対して厳しくできたことは良かったなぁって思ってます。
--で、その今年のライブの中でも新鮮かつ胸にグッと来たのが『ラブソング』で。何故にここに来てこうしたバラードを打ち出すことになったのか、改めて聞かせてもらえますか?
山口隆:「失った人に歌いたかった」っていう想いが1番にあったんです。生き別れ、死に別れがいっぱいあったから。公の人ともプライベートの人とも。その人に向けて歌いたいと思って。で、1年以上前から歌ってるんですけど、そうするとどんどん増えていくじゃないですか。別れる人が。それで歌詞もどんどん変わっていって。で、この曲はまず近ちゃんと木内が「良い」って言ってくれて、皆さんも「良い」って言ってくれて、どんどんこの曲が伸びていったと言ったらおかしいですけど、レコーディングを実は4,5回ぐらいしてるんですよ。最初は『ソウル・コア』ってタイトルで、ハードコアとソウルを足したみたいな曲にしたかったんですね。でも「歌詞を美しくしたい」とか思ううちにだんだん変わっていって、今回の形に落ち着く前はピアノの弾き語りで出そうと思っていたんですよ。ギターもベースもドラムもなしで。とにかく美しくやりたかったから。魂に歌うって言ったら偉そうですけどね、別れてしまった魂に呼びかけるっていうか、そういう風にしたいなと思って。
Interviewer:平賀哲雄
僕がその人の名前を出すと汚すことになる
--確かに『ラブソング』はとにかく不変的なメロディで。イントロからピアノで、更にはストリングスも大フィーチャーされていて。
山口隆:そうですね。美しい曲にしたかったことと、あとメロディをこういう風に歌ってみたかったんです。うるせぇ曲はいっぱい歌いましたからね。まぁ今作は2曲目で早くもうるさい曲になっていくんですけど(笑)。まぁ何て言うのかな……昔の焼き直しをしたくないっていうのがすごくデカい。4枚アルバムを出してきて、それから何か録音で新しいことをやろうと思っても、前の自分がもうやってるというか。それがすごく嫌で。
--では、今回は自分たちの中でも新しいモノが生まれた実感というのは、強くあるんでしょうか?
山口隆:これはありますね。ギター弾いてないですからね。でもこの曲はギターを弾かない方が美しかったんですよね。
--でも山口隆がサンボマスターでギターを弾かないって、なかなか考えられないことですよね。
山口隆:でも弾かないことに何の抵抗もなかったですね。ただ「俺は弾かないでいられる奴なのか?」っていうのはありました。音楽のためにそういうことを捨てられる奴なのか、どうか。それを自分に問うてましたね。でも今回「なんでギターを入れてないんですか?」ってよく言って頂けるんですけど、それが嬉しかったです。何でかって言うと、ビートルズが何十年も前に『イエスタデイ』とかやってて。その何十年後かに、ギターを入れなかったっていうことだけでこれだけ言って頂けるって、すげぇ光栄なことなんですよ。それは嬉しかったですけどね、逆に。でも『ラブソング』はこれでよかったと思います。
--こんなに美しい曲が出来てしまった、バンドとして、表現者としての喜びは大きかった?
山口隆:大きいですね。これができて良かった。「バンド結成しよう」と思って、近ちゃんがオッケーしてくれて電話を切ったときの感覚を思い出したというか。「あ~、これで行ける」っていう。木内に電話して、木内がパチ屋で「やるよ」って答えてくれた瞬間を取り戻した感じですね。
木内泰史:パチ屋じゃなかったけどね。
山口隆:あれ?パチ屋じゃなかったっけ?
木内泰史:パチ屋じゃねーよ。俺、家だよ(笑)。
山口隆:ちょうど出てるとき、木内が「やるよ」って言ってくれたんですよ。
--歴史が改ざんされていますが。
山口隆:(笑)。
木内泰史:そっちでもいいですよ。
--話を戻しますが『ラブソング』の仕上がりにはどんな印象や感想を?
木内泰史:今までの3人のバンドサウンドとは違うじゃないですか。ギター、ベース、ドラムが元になっている曲とは違う、その手触りがすごく面白い。あと、制作過程でいろいろ姿を変えていって、3ピースのバンドだからギターを入れなきゃいけないという拘りよりも「この曲としてはこの形が一番良い」というところを優先できた自分たちが嬉しい。そっちの選択肢をちゃんと選べたところが良かったなって思います。
近藤洋一:この曲は全部生演奏なんですよ。ピアノもストリングスも。それが良いなと思って。しっかりと心が込められている。すごく良いトラックができたと感じてます。
--とりあえず僕も編集部の連中にさりげなく聴かせたんですけど「これがサンボマスター?」ってポジティブなイントネーションで反応してくれる感じが嬉しくて。なんだか勝手に"サンボマスターの新たな代表曲"になっていく気がしています。
山口隆:ありがとうございます! 俺も似たようなことで嬉しかった話があって。手塚さんっていう、以前カメラマンをやってくださった方が、ラジオで『ラブソング』を聴いて「あまりにも良すぎた」ってわざわざフェスで訪れてた福島県までそれを伝えに足を運んでくれたんですよ。3年ぶりぐらいに会って「昨日ラジオ聴いてさ」なんて言って。なんか、そういう曲ができて良かったなぁって。
--あと、先ほど「失った人に歌いたかった」と仰っていましたが、最終的にこの歌詞に辿り着くまでにはどんな想いや考えがあったんでしょう?
山口隆:自分だけが分かる歌詞にしたくなくて。結局、僕だけじゃないですからね、失っていく人って。みんな誰かと生き別れたり死に別れたりしている訳で、だからどっちにも歌いたかったんですね。自分にもそういう人にも。もっと言えば、失った魂にも。生き別れも死に別れも区別なく。で、それをやりたいなと思ってどんどん歌詞が変わっていったと言うか、難しいと思うようなことをなるべく簡単にシンプルにしようと思って変わっていったっていうのはありますね。ギターもそうなんですけど、なんかね、表現エゴってあるんですよ。で、僕はその権力を乱用できる立場に居る訳ですよね。歌詞を書いて曲を作る訳ですから。で、近ちゃんと木内は基本的には尊重する立場として居てくれる。特に歌詞に対してはそうですよね。でもこの曲に関しては、例えば「僕はまるで○○になってしまった」の○○が自分だけの分かる記号だったら嫌だと思ったんですよね。だから僕にも呼び掛けるんだけど、みんなに呼び掛けられて、魂にも呼び掛けられる風にやりたかった。
--そういう行程を踏んで生まれた歌詞って今まであったんですか?
山口隆:本当に最近ですよ、今言ったようなことを考え出したのは。でもバンドが始まったばかりの頃もそんな感じだったんですよ。でも「もっと違う何かがあるんじゃないか」みたいなところでいろいろやって、それが元に戻ってきた。曲も実はそうで『ラブソング』を書いたら近ちゃんが、僕が大学生の頃に歌っていた感じに似てるって言って。だから自分が気付かない間にいろいろと取り戻す作業があったんでしょうね。
--それもあってか、先ほど「特定した記号を使いたくなかった」的なことを仰ってはいましたが、山口さんこの曲において歌っている"君"からは、山口さんが完全に愛している誰かがいる。ということがヒシヒシ感じられます。妄想やイメージの膨らましだけでは書けなかった曲だし、歌えない詞であることがよく分かる。
山口隆:そうですね。公の人にもプライベートの人にも浮かべる人はいます。ただ、僕がその人の名前を出すと汚すことになると思うんですよ。それで金儲けをしようっていうね。だってこれが売れたら僕らにお金が入ってくる訳ですから。それもあって特定した記号を使わなかったっていうのはあります。まぁでも実際に悲しい別れはあったし、落ち込むと言うか、本当に心に穴が空くような別れっていうのはあったじゃないですか。それで歌詞は変わっていったし、その想いをまとめるのは大変でしたね。
Interviewer:平賀哲雄
ウーロンが“ギャルのパンティ”をお願いする崇高さ
--ちなみにこの曲の"美しすぎた人"ってどんな人なんでしょう?
山口隆:僕は"美しい"って言葉をいろんなときに使うんですけど、何て言うのかなぁ? 例えば、スパルタローカルズが今年解散しましたけど、彼らの解散ライブの素晴らしさは、僕はやっぱり"美しい"って思ってますね。美しすぎるぐらい美しかったから、そういう意味での"美しすぎた人"ってことですけどね。だからと言って『ラブソング』がスパルタローカルズに捧げた曲っていう訳ではないですよ。彼らが解散を発表したのは、この曲が出来た後なんで。ただ"美しすぎた人"っていうのは、そういう所作であるとか、失って思い出すときの美しさとか、儚さとか。そういうのを含めての"美しすぎた人"かなぁ。
--今後この曲がこのピアノとストリングスのバージョンで生披露されることはあるんでしょうか?
山口隆:それは僕がピアノを一生懸命覚えるとか、そういうことが必要になりますよね。
近藤洋一:自動演奏にすればいいじゃないですか。
山口隆:(笑)。前もって録音したやつを流しておけばいいのか。
近藤洋一:それじゃあ、カラオケじゃないですか(笑)。歌も流れてくるやつにしましょう。
山口隆:俺、口パクやっちゃうの!?
--ここに来てサンボマスターが口パクって、ちょっと面白いですけどね(笑)。
山口隆:ハハハハハ! でもバレちゃうでしょ? だって俺、演奏中に喋っちゃうから!
木内泰史:「あれ?この曲、喋んねぇ」みたいな。
近藤洋一:じゃあ、喋りもあらかじめ入れておいて。
山口隆:喋りも口パク? 難しいよ!
一同:(爆笑)
--続いて『世界をかえさせておくれよ』の話も聞かせてください。こちらも全くもって新しいサンボマスターだし、歴代のアッパーチューンに勝る熱量を持った曲だと思うんですが、こちらもすげぇ曲ができた手応えがあったんじゃないですか?
山口隆:あったんです。これはジェットコースターみたいな群像劇にしたかったんですよ。いろんな登場人物がいて、例えば「仁義なき戦い」とかそうじゃないですか。いろんな人がいて、みんなボコボコボコボコ殴りあったりしちゃって、ああいう勢いが良いなと思って。あと僕は中二病ってよく言われるんですね。でも僕は中二病という言葉を全くネガティブに捉えたことがないんですよ。一生掛かっていたいんですよね、中二病。「最高じゃねーか」って思って。だから『世界をかえさせておくれよ』には、仰ぎ見る女性が必要だったんですよね。クラスでキャピキャピグループからは嫌われているんだけど「別に」みたいな感じで。で、大人と付き合ってるみたいな、在らぬ噂が立てられていて。なんか、俺が聴いてるイギー・ポップとかチラッと見て「これ、3枚目もいいよね」とかって言って。
--(笑)。
山口隆:それで帰っていくような女の子が必要だったんですよ!どうしても!それでいい人がいないか探していたら、たまたま近ちゃんが映画で共演していたので、伊藤歩さんという素晴らしい女優さんに歌って頂くことになったんです。CharaさんとかYUKIさんとMean Machineっていうバンドでボーカルも務めていた方なんですけど。だからこの曲ぐらい、本当に上手くいった曲はないですね。僕は大体レコーディングは一発、ワンテイクで録りきるんですけど、伊藤歩さんが来たときだけは本当にレコーディングを終わらせたくなかった。ちょっとでも長く喋っていたかった(笑)。あと、この曲ではハードコアなスカよりも、ジャズから来たオーセンティックスカをびゅんびゅん速くするヤツでやってみたくて。あとダブを入れたかった。で、群像劇にしたかった。それが全部できたからちょっと嬉しいんですよね。
それと歌詞をね、ツッコミどころ満載にしたかったんですよ。「世界をかえさせておくれよ そしたら君とキスがしたいんだ」ってフレーズがありますけど「おまえ、世界をかえてやりたいことソレかよ?」みたいな。「ドラゴンボール」でウーロンが神龍(シェンロン)に"ギャルのパンティ"をお願いするじゃないですか。あの崇高な心が欲しかったんですよ! それが上手く歌詞にできたから、だからこのシングルは相当気に入ってるんですよ。ジャケットもすごく素敵にやってくれて。歴代のシングルの中でも1,2を争うぐらい、気に入ってます。ただ、あれだけ「い・ろ・は・す」のCMで流れて「B面にしたのかよ!」とは自分たちでも思いますけど(笑)。
近藤洋一:夏も過ぎたこの時期に(笑)。
--あと、原作の大ファンなのでお聞きしたいんですが、映画「ソラニン」の撮影はいかがでした?
木内泰史:そうですね、あれは~。
山口隆:おまえじゃねーよ!おまえは俺とスタジオに入ってただろ! バカヤロー、おいしいことしやがって。で、僕が出たときは~。
--(笑)。
山口隆:ありがとうございます(笑)。
--すみません、お願いします。
近藤洋一:撮影は本当に漫画と同じロケーションで撮ってましたよ。ハードでしたけど、楽しかったです。ただ、レコーディングとガチかぶりしていたんで! そこがどうなるのかは心配でしたね。
山口隆:ただ、近ちゃんに映画の話が来たときに「やっぱり2人の意見を聞いてみないと、出るとか出ないとか言えない」って言っていたんですけど、巨人からオファーが来たときの星野監督と同じ目をしていたんだよな。
一同:(爆笑)
山口隆:まぁでも嬉しかったよね。俺らの仲間が出るっていうのは。しかもあの原作読んでると「これ、近ちゃんじゃね?」みたいなさ!
Interviewer:平賀哲雄
失った人と失っちゃったあなたのために
--それは思いました。
近藤洋一:「ソラニン」ってマンガを知ったのは、ライブで出待ちしてる子たちから「近藤さん、これは絶対パクってますよ」って言われて(笑)。それで初めて読んだんですけど、だからオファーが来たときはビックリしましたよ。
山口隆:僕らの学生時代の一部が描かれているような気がして、僕ら的にもすごく誇らしげっていうか。あと、また中身のない話なんですけど「近ちゃん、フィッティングとかやってんの?」って聞いてみたら「俺、ジャージ10着ぐらいの中から合うヤツ着せられて、テレビゲームやってるんですよ。それで監督が「イイネ!近藤くん、ハマってるね!ハマってるね!」って言われながら映画撮ってるんです」って言ってて、俺可笑しくなっちゃって!
近藤洋一:しかもそのジャージ10着の中には、実際に俺が持ってるヤツと同じのがありましたから。
--衣装いらなかったと(笑)。
近藤洋一:そう。でもだから単純に昔に戻ったような感覚になれました。
山口隆:で、俺と木内はその間にスタジオ入ったんですけど、3日ぐらい2人でやってみてダメだったら止めようと思って。でもすげぇ上手く行ったんだよね! だけど近ちゃんが戻ってきたら8割ぐらいボツになっちゃって!
木内泰史:進んじゃって進んじゃって「めちゃめちゃ進むわ~」って言ってたのに!
近藤洋一:ちゃんと記録しておかないから忘れちゃったんですよ。
--(笑)。
山口隆:「なんだっけ?」とか言って。近ちゃん来ないからデジタルで録るヤツがなくて、俺らカセットテープでずっと録ってたから、カセットのどこに入ってるのか分かんなくなっちゃって。
木内泰史:その上からまた録っちゃったりして(笑)。
山口隆:でも『世界をかえさせておくれよ』の展開とかはそこで作ったのが元になってるんですよ。元はね(笑)。
--話を戻しますが「ソラニン」の原作者である浅野いにおさんは、青春や若さ故の盲目さ、そういうモノからやがて卒業していかなくてはならない悲しみを描く人だと思うんですけど、サンボマスターはその卒業手前でずっと抗い続けていますよね。
山口隆:俺はね、その証書をもらった奴、ひとりも見たことないんですよね。大人証書を。みんなそれをもらった体(てい)でいるじゃないですか。でも俺は偽造だと思ってるんですよ。もらってねーんだから「もらってません」っていう話で。で、僕らのことを見たり、僕らの音楽を聴いてくれている人って、行き忘れちゃったと思うんですよ。それこそ田町とかで配っていたそれを取りに行くのを。俺らは取りにも行かなかったけど。でも社会はそれなのにみんな行った体にして、キャトルミューティレーションじゃないけど、記憶をコントロールしてる。でも俺らは取りに行ってないから。
近藤洋一:僕はもらいに行ったんですけど「単位が足らない」って言われたんですよ。
山口隆:大学のとき「やべぇ、俺、単位30だよ」「俺、28だよ」ってみんな焦ってたんですけど「近ちゃんいくつ?」って聞いたら、「僕ですか? Bひとつです」って。
一同:(爆笑)
山口隆:涼しい顔でね。ひとりだけ単位が違うの(笑)。あれは凄かったね! そういう思い出がいっぱいありますよ。で、そこからまだ抜け出していないというか、抗い続けているというか、自然にそう。でもずっとみんなそうなんじゃないかなぁ。どうですか?そんなに変わってないんじゃないんですか?
--変わらないと思っていたんですけど「ソラニン」を読んだり、年齢的な部分から結婚とか子供のことを考えてみると、なかなか一生青春って訳にもいかないのかなと。
山口隆:でも結婚しても子供できても、両立はできるじゃないですか。それは全然大丈夫だと僕は思うんですけどね。僕は「いつまでも少年の心を、っていうほど綺麗じゃない」っていう気持ちが好きなんですよ。いつまでも乙女のままじゃいられないしね。でもその「綺麗じゃねーな」って思ってる人が僕は好きなんですよ。「だけどここでやるしかねーだろ」みたいな感じがすごく好き。
--なんか、救われます(笑)。ただ僕は「もう声は君には届かない 奇跡がおきるなら もう一度 もう一度だけ」みたいなフレーズを全身全霊で歌うなんて、もしかしたら若いうちにしかできないコトなのかもしれないなと思っていたんですよ。けど、サンボマスターは今も全身全霊で歌えますよね。これって実は簡単なことじゃないと思うんです。
山口隆:なんでそういうことを歌っちゃうんでしょうね。でもよく「こういうフレーズを歌っていて照れたりしませんか?」みたいなことを言われるんですけど、それは最高の褒め言葉だと思って。だって何か表現するって恥ずかしいことですからね。「ソラニン」もそうだし「アイデン&ティティ」もそうだけど、人が見てワァ!って思うのって、嘘がない表現だと思うんですよ。良いところも悪いところも全部見てもらう。それができる内はそれをやりたいですね。自分の中の恥ずかしいところだけを隠す訳にはいかないと思うんですよ。わかんねぇけど、人間ってどうやったって滑稽な部分って消えないと思うんですよね。でも滑稽だからこそ美しいとか、上手く行ってないからこそ美しいとか、絶対あると思うんですよ。だから僕はこのまんまやりたいです。だって「あいすみません、洋子さん」ってジョン・レノンは歌ってましたからね。で、歌詞見たら「あいすません」だからね(笑)。これはね、凄いことですよ、本当に。そういうのがいいなぁって思いますけど。
--簡単に言うと、ずっと素直にってことなんですかね?
山口隆:そうですね。自分の身の丈のことしかできないし、思っていることしか言えませんからね。だから別れた自分と別れたあなたに呼びかけるっていう。でもそれで僕は「幸せだな」って思ってるんですよ。これで策を上手く弄せる奴だったら世間的な富とか名声とかあるのかもしれないけど、でもそれは富と名声じゃないでしょ、多分。偉そうですけど、失った人を想ったりするときに生まれるモノが本当の富なんでしょうからね。なんかおぼろげながら多分そうっぽいじゃないですか。こんなに欲にまみれてても。だからそれしか歌えなくて良かったと思いますよ。
--ちなみに今作『ラブソング』のリリース後はどんな展開が待っているんでしょう?
山口隆:アルバムですよ。アルバムも聴いて頂きたいですね。とりあえず演奏は1stアルバムより早く録ろうと思って。あんまりにもみんな真剣だったし、全日寝れないぐらいやっちゃいましたから。これはね、みんなの期待を裏切ってみんなの期待を裏切らないっていう、恐ろしいアルバムになってると思いますよ。良いと思いますよ。
--では、最後になるんですが『ラブソング』を聴いてもらいたい人々へメッセージをひとつお願いします。
近藤洋一:人と接して生きていく中でこういう気持ちになることは一度や二度じゃないはずなんで、みんな自分のことのように聴けるんじゃないかと思ってますんで、ぜひ聴いてみてください。
木内泰史:物凄く良い曲なんで、皆さんに聴いてもらえたら嬉しいし、口ずさんでもらえるような曲になったらすごく嬉しいんで、ぜひ聴いてください。
山口隆:失った人のために聴いてほしいですね。失った人と失っちゃったあなたのために、その2人のために聴いてほしいです。僕もそうやって歌っていくので。
Interviewer:平賀哲雄
ラブソング/世界をかえさせておくれよ
2009/11/18 RELEASE
SRCL-7157 ¥ 1,282(税込)
Disc01
- 01.ラブソング
- 02.世界をかえさせておくれよ
- 03.ラブソング (Instrumental)
- 04.世界をかえさせておくれよ (Instrumental)
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