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柴田淳 『COVER 70’s』インタビュー

柴田淳 『COVER 70’s』 インタビュー

 しばじゅんのインタビューは、毎回気付いたら話が恋愛トークにすり替わってしまうので、今回は冒頭に「ちゃんと良い恋愛してましたか?」という質問をぶつけ、前アルバム『僕たちの未来』リリース以降の1年2ヵ月、どんなモードで彼女が日々を過ごしていたのか確認。そこから初のカバーアルバム『COVER 70’s』を発表することになった経緯などを語ってもらった。

「中学生の恋愛を見ているみたい」って言われる

--柴田さんにインタビューするのは、アルバム『僕たちの未来』リリースタイミング以来1年2か月ぶり。この間、ちゃんと良い恋愛してましたか?

柴田淳:(笑)。えーっとね。……チャンスはあったのに、自分でチャンス逃しちゃったっぽい。アプローチされても「まさか私なんて」って思っちゃって、スルーしちゃって。みたいな。

--前回のインタビューでは、「竹内まりやさんみたいになりたい。主婦もできて、リリースが無くても離れていかないファンがいて、リリースしたら買ってくれるっていう。あそこまで確立したい」と仰っていましたが、今の話を聞く限りでは、まだしばらく叶いそうにないですか?

柴田淳:そうですねー。なので、休まずリリースしていきます。でもね、「幸せだなー」と思う瞬間もこの1年の間には結構あったかもしれない。10周年迎えて精神的余裕が出てきたというか、マイペースでやっていけるようなところも出てきて、穏やかな日々だったような気がします。

--そういうときに出てくる言葉や音楽ってどんなものなんですか?

柴田淳:それがプライベートだけでなく仕事でもいろいろあったので「次のオリジナルアルバムはどうなっちゃうんだろう?」って思うぐらい、30曲分ぐらいの歌詞ネタはあります。いつも私は曲から作って、曲の持つ世界観から歌詞を考えていくので、その歌詞ネタも曲を作らないことには使えないと思うんですけど、とにかくいろんな想いをダーって書いてあるんですよ。ケータイの中にもパソコンの中にもiPadの中にもすごくたくさんあって、そんなこと今までなかったので、今までとは違う感覚で、私自身がどんなアルバムになるんだろうと楽しみに感じています。

--これまでにそういうモードってなかったんですか?

柴田淳:どうですかね。あんまりなかったかもしれないです。プライベートは相変わらずで、愛されることにも慣れてないし、それの受け止め方もわからなくて、周りから「中学生の恋愛を見ているみたい」って言われるし。見ていて超じれったいみたいです。相談すると「面倒くせぇ!」ってみんなに言われる。だからすごく時間かかっているし、そんな状況なのでいろんなこと考えるから、いろいろ書けちゃうんですよ! だから歌詞ネタはたくさんあります。

--その内容は、今までみたいにネガティブだったりヘヴィだったりしないんですか?

柴田淳:仮にネガティブであっても孤独じゃなくて、ちゃんと相手がいる。本当に恋愛の歌。片想いで悶々とする歌じゃなくて、相手がいて、相手の反応によって生まれた涙とか。そういうものを書いていきたいなって思っています。

--でも今の話を聞いてると、そのアルバムは柴田淳の中で最もポップなものになるかもしれないですね。

柴田淳:うん! そんな気がする! 前向きさが増してるかも。

--それが一番売れちゃったらウケますね。

柴田淳:ハハハハハハ!

--でもあり得ますよね。今までと違うファン層からも「すごく共感できる!」みたいな。

柴田淳:そうかも。……でも作曲センスがねー。

--歌詞はポップだけど、メロディーは結局重い(笑)。

柴田淳:そうなっちゃうとねー! 頑張ります。でもね、この1年で何曲か作ったんですけど、気付いたら極上のバラード、日当たりの良いラブソングばっかり作ってた。全然成就してないのに(笑)。でもドロドロもしてないし、恋がしたくなるアルバムを作れるような気がするんですよ。

--いつかそれが聴けるかもしれないと。

柴田淳:いや、もう今月から本格的に作り出さないといけないんですよ。でもキーボードに布がまだかかってる、みたいな。ちょっと洗濯物も乗っかっちゃってて(笑)、キーボードのセッティングまでまだ行けてない。

--いつになったら洗濯物をどかそうと思うんですか?

柴田淳:「この日までに作って下さい」という〆切を与えられたときから、もう始まってはいるんです。布がかかっていても始まっているんですよ。私の意識の中で「このキーボードを向こうに持っていかなきゃいけないんだよな」とか「その前にコンセントを入れて」とか考え出すんですけど、逃げてるんですよ。テレビを見ていても頭はずっとセッティングのことを考えているんだけど、逃げてる。だからまた眠れなくなっちゃって。

--どんなタイミングでそこに立ち向かうんですか?

柴田淳:「よく頑張った」って自分で言いたくなっちゃぐらい、エネルギーを振り絞る瞬間があるんですよね。まぁでもセッティングしたら、その日はセッティングしただけで終わるんです。曲なんて絶対作んない!

--長いですね、道程が(笑)。

柴田淳:長いんですよ! エンジンかかるまでが。で、エンジンかかったら走り出すからなるべく切りたくないのに、急にオフにしなきゃいけない別の仕事が入ったりする。だからスケジュールに関しては「どうにかしてくれ」って言っているんですよね。あと、〆切に間に合えばいいので、気分転換とかネタ探しの為に遊園地や映画館に行くのもアリなんですけど、私の場合はそれも無理で。家でただただ見てないテレビをじっと見つめながら、頭ではキーボードにかかってる布のことを考えている。そういう自分の戦いからしかエンジンはかからないんです。

--それって、おそらく他者からは理解されない地獄ですよね。

柴田淳:そう! これは超昔話ですけど、楽しめなくてもいいからと思って、ひらめきを求めて外出してたら、それを目撃されて「時間ないって言っていたけど、時間あんじゃん」ってレコード会社の人から言われたことがあって。すべてのことは曲を作る為にやっていることなんだけど、端から見たら遊んでいるようにしか見えない。そこは物凄く難しいというか。だから今は前もって「こういうことをしますから」って伝えたり、「ここまでに提出してくれれば何をやっていてもいいです」って理解してもらえるように努力しています。。まぁでも創作期間は外に出るのもすごくエネルギーを使うので、滅多に出ませんね。

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--そこは10年前から変わらないんですね。

柴田淳:そのスタイルは変わらない。万が一、結婚したとしても「創作期間は別れてくれ」って言いますね。間違いなく別居してもらうことになるから、スタジオを別に持つと思います。生活の中でなんて絶対作れないから。汚いところに引き篭もってるので、そんな姿見られたくないし。家族でさえ近くに寄ると感電するぐらいビリビリになっているので、その期間は離れるんです。お互いの幸せの為に。昔、あるアーティストの方が彼女と同棲していて、篭もって創作活動をしていたとき、「気晴らしにどうぞ」ってコーヒーやお菓子を持ってきてくれるのが、すごく嫌だったという話をラジオで聞いて。「一緒だ」って思いました(笑)。

--さて、そろそろ『COVER 70's』について話を聞きたいのですが、このタイミングでカバーアルバムを発表することになった理由と経緯を教えて下さい。

柴田淳:元々、他の人の曲を歌うのが大好きなんです。で、デビュー当時から「しばじゅんの声でこれが聴きたい」みたいなリクエストもすごくあったので、いつかカバーはやりたいと10年前から思っていて。ただ、カバーをやるにも自分なりの表現に昇華できないと格好悪いと思ったし、周りから「歌手です」って言われるぐらいにならないと恥ずかしいものになると思ったし、原曲を聴きたくなっちゃようなカバーにはしたくなくて。だから今までもカバー企画は何度も上がってはきたんですけど、なかなか実現しなかった。現代のヒット曲も入れてくれって言われても、何の思い入れもない曲は歌いたくなかったし、ただでさえあまのじゃくなので「カバーブームなんかに乗るもんか」と思っていて。

--しばじゅんらしいですね。

柴田淳:ただブームに乗って年代を超えて良い曲だけ集める、みたいなやり方は考えてなかったんですよね。私は今の時代とか関係なく、本当に憧れている曲を歌いたくて。それでどうして今回出したかと言うと、10周年というアニバーサリー企画として出せるのが良いなと思って。あと、10年やってきてようやく歌手としてスタート地点に立った、自分のスタイルが築き上げられつつある今なら、ささやかだけど柴田淳というフィルターを通して、ちょっとは面白く聞こえるんじゃないかなと。

--今だからこそ出せる状況が整ったと。

柴田淳:10年の実績でどれぐらい表現力が増したのか、私自身も知りたかったですし。だから単にカバーを出すんじゃなく、歌手としてチャレンジしたかった。あとは、個人的にカバーってどんなアレンジを施されても「オリジナル、聴きたい」ってなるので、サウンドプロデュースに羽毛田丈史さんを迎えたんですけど、あまり原曲のイメージを変えたくないと伝えて。それでオリジナルに忠実なアレンジにしてもらったんですけど、その羽毛田さんから今回「歌い方変わったね」って言われたんです。でもその真相は変わったんじゃなく、こういう歌唱法ができる曲を私が書けてないだけで。オリジナルで表現できないところもカバーでは表現できているので、そういう意味では歌手・柴田淳を楽しんでもらえると思います。

--今回、柴田淳として勝負する要素は“歌”に集約されてますよね。そんな『COVER 70's』、自分的にはどんな評価なんでしょう?

柴田淳:私、オリジナルアルバムって聴けないんですよ。自分自身なので、辛いんです。YouTubeとかでたまにチラッと聴いても、さわりだけで「あぁ!」って拒絶してしまう(笑)。だから柴田淳を聴きながら寝るという人たちの神経が知れない。私、聴いたら覚醒しちゃうもん! レコーディングモードになって「うわぁ!」ってなっちゃうから。……あ、だったら目覚まし代わりにすればいいんだ!

--(笑)

柴田淳:オリジナルはそんな感じなんですけど、今回のカバーは聴けるんです。今回はスタジオも変えてエンジニアさんも変えて、イチからボーカルの音作りの構築をしたんですけど、それがすごく良い仕上がりで。本来の歌い方で歌えていたので、喉に力が入ってないんですよね。気持ち良く歌っているから、聴いていても気持ち良いんです。自分の歌ではあるんだけど、初めて柴田淳を客観的に聴けているような感覚になります。自分も楽しめちゃってる。今作って自分の歌唱力が試される、ボーカリストとして丸裸にされちゃう作品だったと思うんですけど、そこで気持ち良く歌えて、羽毛田さんからも「上手だね」ってしみじみ言われたときに、「あ、私にもボーカリストとして居場所ができたのかな」ってようやく思うことができた。

--それは自分も思いました。柴田淳っぽいボーカリストって他にいないなって。特に「青春の影」の「愛を知ったために」とか「君は女になっていった」とか、柴田淳が歌うと印象がガラッと変わります。ちょっとゾクッとする。

柴田淳:(笑)。ありがとうございます。

--あと、今作のジャケットについても話を聞きたいんですけど、初回限定盤の赤ちゃんは、70年代のしばじゅん?

柴田淳:そうです。70年代の私がカバーケースになっている。70年代カバーアルバムなので。赤ちゃんの頃の写真はいろいろあったんですけど、私が「可愛いなぁ」と思う写真は、パンツ穿いてなかったり、みんなに却下されるようなものばかりで。で、今回使用されているのは、私の中では全然可愛いと思っていない写真なんだけど、唯一ちゃんと撮影したっぽい写真だったんですよ。だからジャケットにはピッタリかなと思って。

--ちなみにこのシリーズって『COVER 80's』『COVER 90's』みたいな感じで続いていくんでしょうか?

柴田淳:うーん、あんまりカバーアーティストにはなりたくないんですよね。私、一応シンガーソングライターだし、やっぱりオリジナルを売らなきゃダメじゃん(笑)! だからこれはあくまでもアニバーサリーイヤーの〆のお祭りなので、もしまたやるなら15周年や20周年のときにやりたい。みんなには「またやってほしい」という気持ちをもっともっと大きくしてもらって、「待ちに待った」という時期に出したいなと思います。

--今作の次なる展開はオリジナルアルバムになるんですよね?

柴田淳:オリジナルアルバムを出して、その後にまたツアーをやる予定です。

--では、具体的に言うと、次なる展開はキーボードの上の洗濯物をどかす。

柴田淳:そうですね。じゃあ、今日の目標は、キーボードをパソコンのある場所に移動するところまでを……うーん、明日までに。

--今日じゃなくなった(笑)。

柴田淳:で、持っていったらセッティングしなきゃいけないから、コードをたくさん、MIDIとか繋げて……うーん、明後日までに。

柴田淳「COVER 70’s」

COVER 70’s

2012/10/31 RELEASE
VICL-63935 ¥ 2,934(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.異邦人
  2. 02.みずいろの雨
  3. 03.迷い道
  4. 04.あなた
  5. 05.木綿のハンカチーフ
  6. 06.飛んでイスタンブール
  7. 07.青春の影
  8. 08.秋桜
  9. 09.東京
  10. 10.スカイレストラン
  11. 11.22才の別れ
  12. 12.Mr.サマータイム

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