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<インタビュー>ポーター・ロビンソン 苦悩を乗り越え完成させた『ナーチャー』を語る
ポーター・ロビンソンが約7年ぶりのアルバム『ナーチャー』をリリースした。J-POPやアニメといった日本文化に対するリスペクトや愛、そしてそれから受けた影響を積極的に音楽に取り込み、日本人クリエイターともコラボレーションするポーターが作詞・作曲・歌唱・楽器演奏を担当した渾身のニュー・アルバムには、『おおかみこどもの雨と雪』のサウンドトラックを手掛け、自身にとって“音楽界におけるヒーロー”と呼ぶ高木正勝の存在を感じられる曲「ウィンド・テンポ」を収録と、ポーターとジャパニーズ・カルチャーの関係は切っても切り離せない。さらに国内盤ボーナス・トラックには、大ファンと公言する水曜日のカンパネラとコラボした「フルムーン・ララバイ」が収録され、本人の強い希望により、ブックレットのデザインや日本語の曲タイトル、メッセージ訳、歌詞対訳の全てをポーターが監修するという、かなりの力の入れ具合で、彼の変わらない日本愛を感じることができる。
2014年のデビュー・アルバム『ワールズ』のヒットを皮切りに、世界各国を飛び回り、度々の来日公演も大成功におさめるなど、若くして名声と人気を得たポーターだったが、この数年間は苦悩と向き合う非常に辛い時期だったようだ。一瞬にして“次世代を担う天才DJ”と評され、期待に応えようと自分に厳しくなってしまったことで、負のループに陥り、遂には大好きだった音楽さえもやめようと思ってしまうほど思い詰めてしまったと明かしている。しかし、恋人や家族の存在、友達と好きなゲームをするといった“自分の”生活を送ることで、そこから抜け出すきっかけを見つけ、本作を完成することができたという。3月末にZoomインタビューに答えてくれたポーターから、完成までの道のりやSNSの付き合い方、高木正勝と過ごした1日など、大いに話を聞くことができた。何事も自分のペースで、頑張りすぎないことが大切だと改めて感じられる、重要なメッセージを含んだ約1万字に及ぶ大ボリュームのインタビューをお届けしよう。
――まずデビュー作『ワールズ』から7年ぶりのアルバム『ナーチャー』が完成した感想を教えてください。よりパーソナルで内省的な作品に仕上がっていますね。
ポーター・ロビンソン:完成できてとても嬉しい。クリエイティブ面において、かなり激しいスランプに陥った後だったから、完成できたことは自分にとって純粋に祝うべきことなんだ。制作には何年も費やした。僕にとっての最大の喜びだったのは、アルバムが完成したと思った時が、パンデミックの影響が出始めていた頃だったこと。もちろんパンデミックは喜ばしいことではないけれど……過去のプロジェクトにも言えることなんだけれど、完成したと思うと、そのプロジェクトのためにさらなるアイディアが次々と浮かんでくるんだ。今回の場合は、パンデミックの影響で1年近く時間があった。だから、その時間を有効に使って、アルバムの修正に集中することができた。この期間にお気に入りの曲をいくつか書くことができたのは、素晴らしいフィーリングだったね。
――スランプに陥ったとのことですが、どのように乗り越えていき、自分にとって大切なことを見出したのですか?
ポーター:本当に困難な問題というのは、大半の場合、解決策も難しいものだと思うんだ。自分の場合は、様々な要因があった。肝心なことの一つは、より健康的で、バランスのとれた生活を送り、仕事に執着しないことだった。音楽制作がうまくいかず、自分が納得できる作品を作れなくなった途端に、自分に厳しくしてしまった。これは自分の失敗だ、もっと頑張らなきゃ、努力が足りてないんじゃないか、って。これは、実際に自分が必要としていた正反対のことだった。働き詰めになっていて、新しいインスピレーションが生まれるようなことを全くしていなかった。人に会ったり、映画を見たり、アルバムを聴いたり、新しいゲームに挑戦したり、単純に新しい人生経験を積んだり、これらはすべてインスピレーションが生まれる肥やし、原材料になるものだ。それを自分に与えず、プレッシャーや期待ばかりかけて、仕事量も増やしていた。けれど、やらなければならなかったことの一つは、もう少しリアルな人生を体験することだったんだ。
自分にとって役立ったのは、素晴らしいガールフレンドのリカと恋に落ち、彼女についてもっと知ることだった。彼女の存在は、僕を救ってくれた。生まれつきシニカルで悲観的なんだけれど、彼女は根っから楽観的で、心優しく、希望に溢れている。彼女は様々な問題を解決する手助けをしてくれた。そして場合によっては、諦める前にもう少しだけ希望を持ち続けることが突破口になる可能性もあると教えてくれた。
もう一つ触れておくべきだと思うのは、このアルバムでは自分で歌い、自分ですべての詞を書くと早い段階で決めたことだった。当たり前なことに思えるかもしれないけれど、歌詞やコーラスを書くのが上達するまで少し時間が必要だった。10年間音楽を作ってきたけれど、これまではドロップを中心としたソングライティングを行っていた。ヴァースやプリコーラスがあって、そこからドロップへ持っていくような感じで。でも、このアルバムではきちんとしたコーラスを書くことを学ばなければならなかった。自分が納得できるまでに何年もかかった。なので、様々な要素があったと言えるね。バランスのとれた生活と真の幸福を見つけなければならなかった。そしてより自分の腕を磨く努力をして、自分がやりたかったことで上達することが必要だったんだ。
ーーアルバムからの1stシングル「ゲット・ユア・ウィッシュ」も突破口の一つだったのではないかと思うのですが、この曲を書いたことで再び自信を持って前進することができたという実感はありますか?
ポーター:ある意味、真の創造的自由から生まれた曲だと言える。少しばかりボサノヴァ風の音楽を作ろうと思っていて、そうすることで自分のキャリアを気にせずに、実験したり、楽しんだりという場所に戻ることできた。曲のイントロを書いた時、まるで遊びのように楽しんでいたんだけど、同時にとても広大で、広がりのあるフィーリングをコーラス部分に持たせたかった。誰かが鏡に向かって叫んでいる、または反射した自分自身の姿に向かって叫んでいるようなイメージだ。
当時は、スランプにおいて最悪な地点の付近、または最悪な地点から抜け出そうとしていた時期だった。何もかも疑っていて、有名人であることに苦悩し、プライベートが全くなくなってしまったことを不満に感じていた。そういう人生を歩めるのは素晴らしいけれど、多くのプレッシャー、批判、期待が伴う。すでにDJとして世界中をツアーしたから、自分が人生から何を得ることを期待しているのかを自問した。音楽のリリースを続けることで、何が起きることを期待しているのか、そうすることでやっと自分を修復できるのか、それとも自分を幸福にしてくれるのか。それまでは多くの痛み、不安、困難を生んだだけだったから。
自分にとっての音楽面のヒーロー、大好きなバンドや史上最高のアルバムについて考えると……例えばダフト・パンク。彼らは僕の人生に数え切れないほどの喜びをもたらしたし、存在しているだけで、世界が少し明るくなったと僕は信じている。誰にでも、そういうアーティストがいるよね。だから、この曲では自分にはこだわらなかった。自分の人生が良くなるかじゃなくて、自分の音楽を通じて人々を手助けできる方法は何かを問う必要があったんだ。
――先ほど、今作では自分で歌うことが重要だったと話していましたが、その理由は? 例えば「ブラッサム」や「ミラー」など、デュエットのような構成の楽曲でも、自分の声にエフェクトをかけて両方のパートを担当しています。
ポーター:特に「ブラッサム」は、僕が歌う必要があった。ラブ・ソングで、最愛の人に向けて歌っているから、他の人には歌って欲しくなかった。自分の感情だから。『ナーチャー』では、できる限り心のもろさを見せ、自分の感情をオープンに表現したかった。過去のアルバムでは、美しい別世界という設定にした。夢の中にある、手の届かない場所を。『ワールズ』をリリースしたあと、本当にひどい状況にあったから、現実の世界も同じように美しいものだと自分に理解させなければならなかった。それを音楽で体現する最適な方法が、自分を前面に押し出し、可能な限りオープンで、誠実で、もろくあることだと思った。
自分で歌っているのは、自分のことを素晴らしいシンガーだとか、『アメリカン・アイドル』で優勝できるほどの美声の持ち主だと思っているからじゃなくて、心のもろさに関して行動で模範を示したかったからなんだ。もし他の人が歌うために書いていたとしたら、完成したものと全く違う曲になっていただろう。おそらく遠い夢の国についての曲になっていたと思う。自分で歌うと決心したことによって、自分がポジティブだと思う方向へ音楽の制作方法が変化していったんだ。
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リリース情報
『ナーチャー』(国内盤)
- 2021/4/28 RELEASE
- 2,200円(tax out.)
- 歌詞、対訳、解説つき
- ポーター・ロビンソン監修による対訳、日本語オリジナル・デザイン仕様
- https://lnk.to/PorterRobinson_NurtureBJ
『Nurture (Deluxe Vinyl Box Set)』(輸入盤)
- 2021/5/14 RELEASE(予定)
- 28,178円(tax in.)
- ※Sony Music Shop限定、完全生産限定盤
関連リンク
ポーター・ロビンソン海外公式サイト
ポーター・ロビンソン国内レーベルサイト
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