Special

今井美樹 アーティストデビュー35周年アルバム&コンサートへ向けて

 今井美樹が、11月11日にキャリア発のフルオーケストレーションによるレコーディング・アルバム『Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST』をリリース、そして11月22日からは東京と大阪にてビルボードクラシックスとコラボレーションした公演を全4公演開催する。アルバムへ寄せられた思い、そしてライブへの意気込みについて、インタビューを行った。

オリジナルの強度に劣る中途半端な焼き直しにはしたくなかった

 今年デビュー35周年を迎えた今井美樹。11月11日リリースの『Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST』は、「PRIDE」、「PIECE OF MY WISH」、「瞳がほほえむから」など、彼女がいま最も“届けたい”10曲をオーケストレーションで歌ったアルバムである。

 「「歌いたい」というよりも、いまの自分の声で「届けたい」、「遺しておきたい」と強く思う自分の歌がたくさんあったんです」(今井)

 編曲には武部聡志、服部隆之、千住明、さらには今年のグラミー賞ラージ・ジャズ・サンサンブル部門にノミネートされた挾間美帆と、日本屈指の音楽家が参加している。

 「服部さんはどんな時にも“雄々しい”スタイル。その上、どの曲も、こちらの期待の“倍返し”の迫力で興奮させられっぱなし。百戦錬磨の風を吹かせて下さいました。武部さんは私の活動初期の頃から、互いに違うプロジェクトで同時代を併走してきた間柄。「チェロ中心でトライしたい」という私からのリクエストに応えてくださいました。千住さんは繊細さとキラキラとした華やかさで、楽曲の魅力を最大限に引き出し、このアルバムにエレガントでゴージャスな魅力を。そして、ある意味、“飛び道具”的な編曲をお願いした挾間さんは、独創的な解釈と予想外のアプローチでモダンな風を運んでくださいました」(今井)

 今日まで広く親しまれるヒット曲を含めた10曲は、いずれも長年のファンの思い出と紐付いている。それは同時に今井の35年の道程とも重なる。

 「ファンの皆さんの多くは、(初出)当時のイメージやサウンドのカラーに愛着を持ってくださっている。尚且つ、特に私と同世代の女性たちは、洋楽ポップスの最盛期を通り抜けてきた、耳の肥えた音楽ファン。オリジナルの強度に劣る中途半端な焼き直しにはしたくなかった」(今井)

 同時に、この10曲は今井美樹という一人の女性が歩んできた人生そのもののサウンドトラックのようでもある。

 「そう感じていただけたら嬉しいです。私自身、映画のサウンドトラックが大好きなので、どの曲もひとつの物語のサウンドトラックを目指して歌ってきました。ロンドンに在住して8年。身体にも様々な変化も生じる歳頃です。35年の間で、結婚し、子どもが生まれ、自分の佇まいが音楽に反映されていくようになりました。自分はどう人を愛するのか。自分はどう孤独と向き合うのか。自分とはどんな色の人間なのか。そんな自問自答から他者という鏡に自分を映しながら、ラブソングだけではなく、日々の発見や、人生の慈しみを歌うようにもなりました」(今井)



▲ 「今井美樹『Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST』ジャケット撮影ドキュメンタリー」


 詞曲のクレジットにも注目したい。岩里祐穂、上田知華、MAYUMI、戸沢暢美、川江美奈子、秋元康、そしてもちろん布袋寅泰。今井美樹とは如何に良質な作家に恵まれてきたシンガーなのか。その点に、本作を通じて改めて気付くリスナーも少なくないはずだ。

 「本当に感謝しかありません。公私共にパートナーの布袋さんは、私が悩んでいる時や肩に力が入り過ぎている時、「君はのびのび、楽しく、気持ち良さそうに歌っている方がいい」と言って、昔も今も私の向かうべき道を見定めてくれます」(今井)

 オーケストラの荘厳な音色とともに聴こえてくるのは、かつてよりもたおやかで、力強い彼女の歌声である。

 「きっと多くの大人の皆さんがそうであるように、私にも若い時分に失ったものも、頑なだった頃の自分が置いてきてしまったものも、年を重ねる上で知らず知らずのうちに捨て去ってしまったものがある。それを振り返って拾い集めることはできないけれど、もう一方では、それでも自分が離さずにずっと抱いてきたものもある。いまの自分なりの新たな説得力で歌える歌もあれば、過去の曲だけど、奇しくもいまの年齢の自分を表現してくれる曲もある。長年のファンも新しいリスナーもきっと気に入ってくれる。そんな確信を胸に、全て “新曲”を歌うつもりでレコーディングに臨みました」(今井)

 その言葉通り、まさしく全ての曲が2020年の今日性を備えた“最高水準”の姿で生まれ変わった一枚である。

 「「PRIDE」、「瞳がほほえむから」、「PIECE OF MY WISH」といった“THE今井美樹”な曲は、長年のファンに私なりの“恩返し”を込めて歌いました。「幸せになりたい」や「Boogie-Woogie Lonesome High-Heel」は、これまで私と同時代を生きてきた女性の皆さんや、かつて私と一緒に泣いて笑ってはしゃいだ女友だちに聴いてほしい。「かげろう」は今も大好きなミシェル・ルグランの映画音楽のようなイメージで。ドラマティックに生まれ変わった「雨のあと」は、映画のワンシーンのように、その景色のなかにより澄んだ心持ちを描きたかった」(今井)

 選曲とレコーディングは新型コロナウイルスの感染拡大以前から進んでいたが、計らずもこの混迷する時代を生きる多くの人々と寄り添うようなメッセージにも繋がる言葉が歌われる結果となった。

 「「未来は何処?」、 「夕陽が見える場所」、「Goodbye Yesterday」 は、いままさにじっくり聴いてほしい曲として、この姿になりました。聴いていただく際の心境や琴線によって、様々な思いで捉えていただけるのではないでしょうか」(今井)

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 「まだまだ大変な時代ですが、少しでも贅沢なひと時を皆さんと共有できたら」
  3. Next >

関連キーワード

TAG

関連商品