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<インタビュー>chay、8年分の“ハート”が詰まったベストアルバムについて語る「無償の愛に感謝」
デビュー8年目を迎えたchayが初のベストアルバム『Heart Box』をリリース。「こんなときだからこそ、ハートフルな感情を呼び起こす曲を届けたい」という思いで制作された本作には、デビュー曲「はじめての気持ち」や代表曲「あなたに恋をしてみました」「好きで好きで好きすぎて」、彼女自身の結婚ともリンクした新曲「花束」「永遠の針」などを収録。愛らしさ、切なさが詰まったラブソングを中心に、chayのタイムレスなポップスを堪能できる作品に仕上がっている。「すごく濃密な8年間。無償の愛を注いでくれた皆さんに感謝です」と笑顔で話す彼女に、デビューからの日々を振り返りつつ、本作『Heart Box』の制作について聞いた。
そのときに感じたことを形に
――初めてのベストアルバム『Heart Box』がリリースされます。デビューから8年の軌跡が詰まった作品ですね。
ベストアルバムは一つの目標でもあったので、リリースが決まったときはすごく嬉しかったですね。ちょうど制作に入った頃にコロナウイルスが流行し始めてしまったんですけど、「こんなときだからこそ、ハートフルな気持ちを呼び起こす曲を届けたい」と思って、それを基準にして選曲したんです。chayには“陽”なイメージがあると思うし、せっかく発信できる立場にいるんだから、「リスナーの皆さんに明るさや温かい感情を届けたい」という使命感に近いものがあって。色んなハートを詰め込んだベストという思いを込めて、『Heart Box』というタイトルにしました。ハートにもいろいろな形があるけど、愛情や恋心を感じてもらえるような楽曲が中心になっていますね。
――過去の楽曲だけではなく、新曲「花束」「永遠の針」が収録され、新しいchayさんの表現が感じられるのもいいな、と。
ありがとうございます。5月に結婚を発表させていただいたんですけど、結婚後、最初にリリースする新曲が「花束」と「永遠の針」で。どちらもウェディングを意識しながら制作しました。これまでの楽曲も“いま”を大事にしてきたんですよ。そのときに感じたこと、そのときにしか書けない言葉、その瞬間を切り取って表現してきたので。過去の曲を聴き直すと「懐かしい」とか「こういうことに悩んでたな」って色々思い出したり(笑)。年齢を重ねたり環境が変わったりすれば、価値観や考え方が変化しても当然。だからこそ、そのときに感じたことを形にしたいんですよね。
chay「花束」 MUSIC VIDEO
――結婚はもちろん人生の一大イベントですからね。「花束」は心地よいビートと<当たり前の時間を、ゆっくり歩いていたいよ>という歌詞が印象的なナンバー。
シンプルなラブソングなんですけど、私自身の結婚するに至った思いも込められてます。どんな綺麗な花束より、どんな輝きより、何気ない日常や何気ない時間を大切にしたいし、それが私にとっての幸せなんだって。作詞のヤマモトショウさんとは「恋はアバンチュール」(アルバム『chayTEA』収録)でもご一緒したんですけど、今回も素敵な曲にしていただきました。この曲、歌い方も今までとかなり違うんですよ。これまでは歌い上げることが多かったんですけど、「花束」はそうじゃなくて。「ビブラートはかけないほうがいい」などのアドバイスもいただいて、私自身もすごく新鮮でしたね。
――そして「永遠の針」はオーセンティックなバラード・ナンバー。
コロナ禍の最中に作曲したんですけど、「意外とバラードは歌ってないな」と思って。アレンジや歌詞も含めて、ウェディング・ソングを意識したし、まさに今だからこそできた曲だなと。「花束」と「永遠の針」のアレンジはどちらもリモートで進めたんですよ。ミュージシャンの皆さんと会えなかったのは寂しかったけど、こういう形でも制作できるということが分かったし、いつも以上に制作の時間が取れたのも良かったですね。ベストの制作を含めて、じっくり向き合えたので。
「ここで終わる私じゃない!」
――ベスト盤の1曲目は「Together」。この楽曲もCD初収録ですね。
デビュー前、路上ライブをやってた頃からライブで歌い続けている曲ですね。音源になるのは初めてなので、ライブに来てくれてる方々からは「嬉しいけど、ライブでしか聴けなかった曲だったので寂しい」という意見もあって。私にとっても、思い出があり過ぎる楽曲です。私が通っていた音楽塾の西尾芳彦さんと一緒に作った曲なんです。私の師匠というか、すごく大切な存在なので、こうやって形にできたのはすごく嬉しいです。少しは恩返しができていたらいいなと思います。
――まさに音楽キャリアの原点。
そうですね。19才のときに音楽塾に入って、ギターも毎日6~7時間くらい練習して。西尾さんの音楽に対するストイックさにもすごく影響を受けました。心の底から音楽を愛しているし、すごく熱くて、いい意味で厳しい方で……。音楽以外のこともすごく学ばせていただきましたね。悔しさや大変なことを乗り越えたときの達成感だったり、不可能を可能にできるという経験だったり。あの頃の経験がなければ、私はもっと甘ちゃんだったと思うし、全く違う人生を送っていたと思います。
――chayさん、すごくガッツありますよね。路上ライブも強い気持ちがないとできないだろうし。
それも「Together」のおかげなんですよ。どうしても聴いてほしくて、「この曲を届けたい!」という気持ちで路上ライブを始めたので。
chay「Together」 MUSIC VIDEO
――普遍性のある楽曲ですよね。<君と出会えたことが 何よりも嬉しくて、ずっとそばにいるよ>という歌詞も、まるで今の状況に対するメッセージみたいで。
ホントですよね。当時は“ピュアなラブソング”というイメージだったんですけど、8年間歌い続ける中で、色々な思いが重なって。ファンの皆さんとの繋がりも感じられるし、私自身もこの曲と一緒に成長させてもらえたと思います。
――デビュー曲「はじめの気持ち」についても聞かせてください。8年前を振り返ってみて、どんなことが印象に残ってますか?
デビュー当時は……世の中は厳しいなと思ってました(笑)。「はじめての気持ち」はすごく好きな曲で自信もあったんですけど、全然結果が伴わなくて。「知名度がない新人がヒットを狙うってこんなに難しいのか?」と目の当たりにして。しかも、その後1年くらいリリースがなかったんです。
――不安ですね、それは…。
めちゃくちゃ思い悩んでいました。このままだと契約が切れると思ったし、「ここで終わる私じゃない!」ってなんとか自分を奮い立たせて。まずは知ってもらうきっかけを作らなくちゃいけないと思って、たまたまテレビで目にした『テラスハウス』に応募したんです。
――目的は自分の歌を届けるため?
完全にそうです。「この状況を打破したい」と思っていたので。自分が出演した回が放送された翌日、「ウソでしょ?」と思うくらい状況が変わったんですよ。ブログのアクセス数が200から260万に急増したり、外で声をかけられるようになったり。自分の行動一つで世界は変えられると実感したし、その気持ちはベストにも入っている「Twinkle Days」にも込めてますね。
無償の愛を注いでくださった
――さらに「あなたに恋をしてみました」がヒット。
「あなたに恋をしてみました」を制作していた時期は、すごくプレッシャーを感じていました。月9ドラマ(『デート~恋とはどんなものかしら~』)の主題歌だったし、周りのスタッフの皆さんも“この曲にかけている”感がすごくあって。レコーディングもフルオーケストラで、それまでの曲とは規模が全然違っていて、「これがヒットしなかったら、私は終わる。この勝負に勝たないと、もうチャンスは巡ってこないだろうな」と思って。ドラマの最初の放送で曲が流れたときは泣きましたね。一緒に見てた母も泣いてました(笑)。その直後にiTunesで1位になって……もともと力のある曲だと思っていたから、結果が出たときはすごく嬉しかったです。「やっぱり間違ってなかった!」って思いました。
chay 「あなたに恋をしてみました」(short ver.)
――『テラスハウス』出演時の大変さは当時も語ってましたけど、「曲を届ける」という目的は達成できたのでは?
そうですね。あの頃は正直すごく辛かったけど、行動を起こしたことは良かったと思います。もし何もしていなかったら、全く別の人生を送っていたと思うので……。当時の自分に対しては「もうちょっと考えてから行動したら?」と言いたいけど(笑)。
――(笑)。「いい曲を届けてこられた」という実感もあるのでは? ベストアルバムの収録曲も、流行に左右されないポップスばかりだし。
そう言ってもらえると嬉しいです。そこはずっとこだわってきたし、王道のポップスを意識しながら制作してきたので。良くも悪くも流行を気にしないんですよ、私。お洋服もそうで、流行っているものより自分が好きなものを着たいので。ただ、最近一つ変わったところがあって。自粛期間中に流行っているJ-POPに向き合ってみたんです。インスタライブをやったときにリクエストを募集して、Official髭男dismさん、あいみょんさん、King Gnuさんたちの楽曲をカバーさせてもらって。聴き込んで、譜面に起こして分析したんですけど、「皆さん、自由に作ってらっしゃるんだな」ってすごく刺激を受けたんですよね。
――なるほど。
8年間の活動を振り返ってみると、「メジャーでやる以上、売れる音楽を」と思っていた部分もあって。でも、今ヒットしている曲を分析してみると「ヒットソングとはこういうもの」というセオリーに捉われず、自由に作られていて。そのことに気づいたときに、「もっと自由でいいんだな」って肩の力が抜けた感覚があったんです。
――自分らしさを突き詰めていきたい、と。この後の活動については、どんなビジョンがあるんですか?
今の目標は歌い続けることですね。精神的にも体力的にも、第一線で歌い続けるって本当にすごいことなんだなって。そのことを実感したのは、Crystal Kayさんとコラボレーション(「あなたの知らない私たち」)させてもらったのがきっかけです。Crystal Kayさんは20周年を迎えられたんですけど、すごく努力されているし、しっかり芯を持っている方で。私はまだまだですけど、まずは10周年、その先の15周年、20周年を目標に頑張っていきたいです。……それにしても私、本当に出会いに恵まれているなと思うんです。西尾さんをはじめ、深沼元昭さん、多保孝一さん、武部聡志さん。皆さん、本当に音楽に対してストイックだし、私にも無償の愛を注いでくださって。皆さんとの出会いが8年間歌ってこられた所以だし、本当にありがたいです。感謝感謝のベストアルバムですね。
Photo by Yuma Totsuka
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