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山下洋輔、スガダイロー、桑原あい、奥田弦〜世代を超えた4人のピアニストが、「ジャズピアノ Battle ジャム」への意気込みを語る

インタビュー

 神奈川県川崎市内の各所で、9月18日から11月15日まで開催されている大規模なジャズ・ファスティヴァル【かわさきジャズ2020】。そのフィナーレを飾るスペシャル・プログラムが、11月15日にミューザ川崎シンフォニーホールで行われる【ジャズピアノ Battle ジャム】だ。10代の奥田弦から70代の山下洋輔まで、世代を超えた個性的なピアニスト4人が、いったいどんなセッションを展開するのか? 打ち合わせを終えたばかりの4人に話を聞いた。

それぞれが感じる、ピアノ・デュオの魅力

ーー世代の幅が広い4人のピアニストが同じステージを分かち合う、というコンサートは画期的な試みだと思います。まさに4世代にわたる共演ですね。奥田さんはこの方々との共演は?

奥田弦:みなさんはじめてです。最初に山下さんを観たのは、消防服を着てピアノを燃やしながら弾いた映像で(一同笑い)、もったいないことをするなあ、って。とても熱いピアノを弾くので、すごく記憶に残っていました。今回一緒のステージに立てるということで、とんでもない人が来たなあ、という感じがします(笑)

ーー「ピアノ炎上」を2度なさったうちの2回目でしょうね、その映像は。

桑原あい:え! 2回もやったんですか?

山下洋輔:そう、最初は70年代の大昔で、2度目は海岸で消防服を着てやったけど(2008年)、最初のときはヘルメットだけでジーパンを履いていた。観られちゃうんだね、ああいうことは(笑)。フリー・ジャズをやっているんでね、やれることは何でもやるという態度でやってきてます。ちょっとそれは困ります、という言葉は僕にはないんです(笑)

桑原:怖い、とは思わないんですか?

山下:怖いというよりおもしろい、と思うんですね。ピアノの下からガソリン撒いて火をつけてね。

桑原:風上になっていたけれど、ときどき火がこっちに来て、アチチチ、と言いながら弾いてました。とりあえず、根底にあるのは”おもしろがり精神”なんですよ。

奥田:自分も、面白いことをしませんか、って言われたら、はい、って言っちゃうかもしれません(笑)

ーー桑原さんはピアノとのデュオは?

桑原:林正樹さん、それからシャイ・マエストロさんとやりました。それぞれ色が違うし、相手によってまるで違った方向に即興演奏が行くので、ピアノのデュオはすごい楽しいです。私はピアノの音色自体がすごい好きなので、ピアノ二台でやると、ピアノの音に包まれる感じが倍になるんですよね。アンサンブルという意味では他の楽器との共演と変わらないんですけど、感覚は違いますね。

ーー山下さんとスガダイローさんは何度もデュオをなさってて、CDも出していますが、デュオでの共演は久しぶりですよね。

スガダイロー:そうですね、4〜5年ぶりですね。久しぶりにやるとどんな感じになるかわからないので、それが楽しみです。練習にも身が入ってます。

山下:僕が洗足学園短期大学のジャズコースを立ち上げたときに、僕がいるっていうんで入ってきたとき以来の付き合いですから、一緒にやっていても、僕が弾いてるんだかダイローが弾いてるんだかわからない(笑)。あれ、俺が弾いてないのに音がする、って。だから今回も楽しみです。

ーーダイローさんは山下さん以外にも、ジェイソン・モランとか、他にも何人かのピアニストとデュオをやってますね。ピアノ・デュオがお好きなんですか?

スガ:いや、特に大好きというか……まあ、セッティングとしてもそう簡単にはできないし、特別なものだからワクワクするというのはありますね。一度パイプオルガンの人と共演して、容赦なくやってくれ、と言ったらほんとに容赦なく(笑)

ーーパイプオルガンとのデュオ! それはすごい。

スガ:ぐわーっと不協和音が鳴り響いてピアノが聞こえない(笑)。オルガンの音で箱鳴り(会場全体の共鳴)もありますし、あれはすごかったです。

ーー今日が初めての顔合わせと打ち合わせだったんですね。山下さんとスガダイローさんのデュオは、山下さんの曲とスタンダードで?

山下:ええ、僕の曲に付き合ってくれて、たとえば〈キアズマ〉

スガ:最近、〈キアズマ〉を演っている人は多いですよ。

山下:そうかい? それはうれしいね。あとは〈枯葉〉を二人でやったらどうなるかと。

スガ:〈枯葉〉はコード進行が鉄板ですからね。黄金律というか。

山下:あと、僕らのセットには平野公崇さんが入ってくれるので、彼を入れて〈ボレロ〉をやっちゃうか、って。そんなことが今のところ決まってます。

ーー平野さんはクラシックのサックス奏者ですが、山下さんは共演されてますね。

山下:平野さんはクラシックの人によくある”おもしろがり体質”の方で、即興もやるんですよ。

ーー桑原さんと奥田さんのデュオは、曲の相談はされましたか?

桑原:バド・パウエルの〈ウン・ポコ・ロコ〉と、ミシェル・カミロの〈カリベ〉をやろうかなと相談してました。山下さんとダイローさんが〈ボレロ〉とか〈枯葉〉なので、1部と2部では全然違う感じのピアノ・デュオになるといいかな、と思っています。明るい感じでいきたいと。

ーー奥田さんのプランはどうですか?

奥田:二人のどちらかがまずソロを弾いて、そこにもう一人が加わってデュオが始まる、ということをやりたいな、と思います。

ーー〈ウン・ポコ・ロコ〉はパウエルの曲の中でも、ちょっとラテンっぽい面白い曲ですよね。奥田さんはお好きなんですか?

奥田:もう大好きです。小学校5〜6年のときに初めて聴いて、これいいじゃん!って。いつかやりたいと思っていたんですが、1年前に井上銘さん(ギター)とのデュオで初めてやりました。〈ウン・ポコ・ロコ〉をやる人はほとんどいないと思うので、曲がかぶらないんですよね。

スガ:倖田まひるがやってるよ。齢同じくらいだっけ?

奥田:一度会ったことあります。同じぐらいですね。

スガ:その世代が好きな曲なのかな?(一同笑い)

奥田:自分は小学生だったので、曲名がなんとなく面白いな、と(笑)

ーーキューバ出身のトランペッター、ルイス・パシェさんが1曲参加されるんですよね。彼とは〈カリベ〉を?

桑原:そうです。彼ありきの選曲です。私はカミロが好きで、それこそ小学5年生ぐらいのときに、カミロの曲を練習していました。

ーーそれで、最後に4人で共演なんですね。

山下:ピアノ2台で、連弾をふたつ一緒に、ということになると思います。

ーーその連弾の組み合わせというのも楽しみです。

奥田:途中で入れ替わるというのもいいのかな。

桑原:好きなところに行く、とか。

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