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Hilcrhyme『THE MC』インタビュー
「音楽は不要不急なモノじゃない」と思っている―――
ラップとメロディーをミックスした自分のスタイルを追求していく―――
ラップとメロディーをミックスした自分のスタイルを追求していく―――
周知の通り、今年は新型コロナの影響によって政府から外出自粛や営業休止の要請があり、音楽業界もその例を漏れず、ライブ活動などの制限を強いられるようになった。が、しかし、そうした状況下でもネガティヴな発信は一斉せず、僕の仕事は「曲を作って、歌うこと。それを死ぬまで続けていくこと」と持ち前のミュージッシャンシップを一貫し、2019年末「最高のHilcrhymeを2020年に創ってやる」と宣言した通り、Hilcrhymeの「最高到達点」のアルバム『THE MC』を完成させてみせたTOCにインタビューを敢行した。ぜひご覧頂きたい。
喜怒哀楽のすべてを出した「SUN&MOON」ツアー
--メジャーデビュー10周年ツアー【Hilcrhyme TOUR 2019「SUN&MOON」powered by Anker】最終公演で「くだらない回顧主義者たちの“あの頃はよかった”なんて話にも耳を貸さない。回顧? 最高のHilcrhymeを2020年に創ってやる。誰にも邪魔させない。見とけ!」と宣言されていましたが、今振り返ると、今回のニューアルバム『THE MC』への布石となる重要なライブでしたよね。
Hilcrhyme - 「Be ZERO」Music Video
--明確な意思表示を打ち出したライブでしたよね。
TOC:ひとりでやっていく覚悟。その意思表明はずっとしてきてはいたんですが、そこにある喜怒哀楽のすべてを出したのが【Hilcrhyme TOUR 2019「SUN&MOON」powered by Anker】だったと思います。初めてひとりのHilcrhymeとしてステージに立った2018年の日比谷野外大音楽堂での再始動ライブでは、そこまで攻撃的で剥き出しな感情は出していなかったので。でも、そういう感情も出るように作ったのがあのツアーだったんです。それは、これまでのHilcrhymeを一区切りさせる為に必要なアプローチだった。--その先に打ち出されたアルバムが『THE MC』。タイトルからしてHilcrhymeと今まで以上に高い次元で対峙していかんとする想いが感じ取れます。
TOC:その対峙すべき対象=Hilcrhymeの形が変わったので。バンドだったらメンバーチェンジとかで体制が変わることって珍しくないのかもしれないけど、ラップユニットってそういうことが基本的にないんですよ。文化が違うから、誰かメンバーが抜けたらそのまんまだし、メンバーの入れ替えなんてないし、N.W.Aに「ドクター・ドレの代わりにNASが入りました」なんてことは絶対に有り得ないじゃないですか(笑)。だからHilcrhymeにも新メンバーが入るなんてことはないし、2人から1人体制に変わったHilcrhymeを背負っていくには、これぐらいの意気込みは示していかなきゃいけない。--並々ならない想いで制作されたアルバムなんですね。
TOC:でもね、決して苦しみながら作ったアルバムではないんですよ。むしろ「新曲を作るのがこんなに楽しいのか!」って思うぐらいだったんです。--その要因はなんだったんですか?
TOC:それはトラックメイカーが居なくなったことによって、トラックを自分で作らなきゃいけなくなって。これを「背負う」と捉えるか「楽しみ」と捉えるかで全く変わってくると思うんですけど、今回の制作は楽しかったんです。少し前までは「トラックも自分で作るのか。ちょっと重いな」と思っていたんですが、だんだんいろんなトラックを作れるようになってきて、それに伴って自信もついてきて。自分がやる部分が増えたことで楽しくなってきて、創作意欲がどんどん湧くようになっていった。あと、新型コロナの影響もあってスタジオに閉じこもる日々だったので、自ずと新曲が出来てくる。自粛期間すらもプラスに昇華できたので、とても良いプロダクションが出来たと思っています。- 「音楽は不要不急なモノじゃない」と思っている
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Interviewer:平賀哲雄
「音楽は不要不急なモノじゃない」と思っている
--コロナ禍によって活動が制限されたことによって、音楽業界全体的に危機的なムードが流れていますけど、その空気に飲み込まれて悪影響が出るようなことはなかったんですか?
Hilcrhyme「ヨリドコロ」Photo Video -Edited by TOC-
--いや、そう答えてくれる音楽人と出逢えて清々しい気持ちです(笑)。
TOC:今、少ないですよね。それに対しては「いかがなものかな?」と僕も思っています。アーティストの皆さんが不安なのはよく分かるんですけどね。……僕は「音楽は不要不急なモノじゃない」と思っているし、日常生活に必要なモノだと思っています。例えば、法律やコンプライアンスやガイドラインが変わっていったとしても、人間の本質として音楽は求め続けるモノなんですよ。それはこれまでの歴史が物語っている。だからこのまま音楽を披露する場所が奪われていくなんてことは、コロナでは有り得ないと思っています。だって、過去には億単位で人が亡くなるパンデミックもあったわけだから、それでも集団で音楽を楽しむ形は変わっていないので。だから、僕は不安を煽るようなアーティストにはなりたくない。それはワイドショーに任せておけばいい。--音楽家がワイドショーと同じ表現をしても仕方ないですからね。
TOC:僕らは希望や勇気や元気を発生させなきゃいけないと思っているから。真逆ですよね、不安を煽る行為なんて。アーティストが「食うのに困る」とインタビューで言ったりしている。信じられないですよ。だって、そんなの、音楽とか関係なく、みんなそうじゃないですか。それは心の内にとどめておいてもいいんじゃないかなって。アーティストなんて大体ニートから始まっているようなもんなんだし(笑)、元々何にもなかったゼロの人たちなんだから、たとえここでゼロに戻ってもバイトすりゃいいんです。お金に困ったら自分の生活を変えればいい。「ライブが出来ない。だから収入がない。今まで通りの生活が出来ない。あー、不安だ」なんてファンが見たり聞いたりする場で言っちゃダメですよ。結構、それで見る目が変わっちゃった人もいますからね。--それすらも創作の原動力に変えてほしいとは思いますよね。
TOC:そうなんです。芸人さんは笑いに昇華していますよね。でも、なぜかアーティストだけが深刻に落ち込んでしまっている。もちろん、希望を歌う方向へ向かっている人もたくさんいるけれども、そういう人たちは元々「ちゃんとしているな」と思っていたアーティストだったりしてね。--こういう時期だからこそ、社会への愚痴や批判じゃなく希望の歌を届けてほしい。そう思っているリスナーも多いでしょうし、Hilcrhymeは今回のアルバム『THE MC』でもその姿勢を一貫していますよね。
TOC:今までのキャリアで一度も政治批判や社会風刺を歌ったことがないんです。ラッパーはみんな歌っているし、それはそれで正しいと思っているし、むしろ日本はソレを歌うアーティストが極端に少ないと思っていますが、僕はそこにまったく興味が湧かないです。すごく限定的な歌になってしまうことがイヤなんだと思うんですけど、国によって社会は違うし、政治も文化も違う。でも「愛を歌う」となると万国共通じゃないですか。以前のインタビューでもお話しした通り、僕はラップでポップスが歌いたい。槇原敬之さんとかMr.Childrenとか……リスナーとして国民的なヒット曲を浴びてきた世代なので、万人に感動や共感を与えたい。だから政治批判や社会風刺より愛を歌う。もし政治や社会について歌うことがあっても、それはスパイスとして。メインテーマにして歌うことはこの先もないでしょうね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
「ラップで万人の共感を得る」という大主軸がある
--なるほど。
Hilcrhyme New Album「THE MC」Teaser Movie
--そのアルバム『THE MC』の収録曲についても触れていきたいのですが、MVも公開された今作のリードトラック「グランシャリオ」の仕上がりにはどんな印象を?
TOC:元々リードトラックになるなんて思っていなかったんですよ。アップテンポなトラックにあんまり挑戦したことがなくて、でも「四つ打ちもやってみっか」ぐらいの感覚で作ったんですが、ラフの歌を乗せた段階ですごく良い曲になって。まわりに聴かせてもみんな「これが良い」と言い出し、ドラマ『俺たちはあぶなくない ~クールにさぼる刑事たち』エンディング主題歌のタイアップの話が来ていたからこの曲を提出したら「これが良い」と言われて。--「良い」「良い」「良い」の連鎖が生まれていったんですね。
TOC:そうなんですよ。いちばん僕が苦手と思っていた分野だったんですけど、それをみんなが「良い」と言ってくれから、これはもう自信を持っていいなと思って。だからミュージックビデオも「グランシャリオ」で作ることにしたんですよね。Hilcrhymeには、6枚目のシングルに「トラヴェルマシン」という曲があるんですけど、それまでずっと「純也と真菜実」とか「春夏秋冬」とか「もうバイバイ」とかBPM遅めの楽曲をリリースしていたんです。ビートだけ聴いたらヒップホップトラック的で、だからラップも乗せやすいナンバー。そこから「トラヴェルマシン」で初めて128とかBPMが速いビートにラップを乗せて。今となってはライブで必須のナンバーだし、皆さんに愛されている曲なんですが、当時のセールス的には「ここまで差が出るんだ?」ってぐらいだいぶ凹んだ曲だったんです。だからあの手の曲にはトラウマがあって(笑)。--苦手意識が生まれてしまったと。
TOC:でも「グランシャリオ」でその苦手意識が解消できました。四つ打ちなんですけど、メロディーも歌詞も自分の中での満足度がかなり高くて、それを「良い」とみんなからも言ってもらえたから「イケんじゃん!」と思って、トラウマを克服できた。すごい分岐点になったと思っています。だって、今後はこの手の楽曲も自信をもって作れるわけですから。--先程の「トラックメイカーが居なくなったことによって、トラックを自分で作らなきゃいけなくなった」という話ともリンクしますけど、今回のアルバム『THE MC』は新しいチャレンジに次々と勝利することができた作品でもあるんですね。
TOC:そうですね。間違いなく「グランシャリオ」はそういう楽曲になったと思うし、3曲目「ヨリドコロ」は自分で初めてミュージックビデオを編集した楽曲になったし、4曲目「Jealous」みたいなタイプをゼロイチで仕上げて、しかも失恋歌でありながらライブで踊れるような方向へ持っていけたことも新しかった。アルバム用の新曲として作った「邪魔」「秒針」「THE MC」「By Everyone」もすごくクオリティの高い、アルバムを買って初めて聴く人たちが喜べる内容に仕上げられたと思います。本当に今回はあらゆる面でHilcrhyme史上最高のアルバムが出来たなって、そういう実感があります。--アルバム『THE MC』リリース後には、9月6日【Hilcrhyme Streaming Live「LIVE-X」~アルバム「THE MC」発売記念公演~】敢行、10月4日からは【Hilcrhyme TOUR 2020「THE MC」】開催、10月9日と10日には【TOC生誕祭 2020】もとライブを畳み掛けます。こういうご時世ですが、どんなイメージで臨もうと思っていますか?
TOC:特にこういうご時世だからといった感覚はないですね。いつもと違うのは配信ぐらいなもので、新しい試みを開発するまでもないと思っているし、それが正しいと自分自身でずっと思えています。慌てる必要もなく、不安を見せる必要もなく、縮小しつつも「ツアーを廻る」という選択をしているので、いつも通りの全力のライブを届けるだけ。すべてが後ろ倒しになっただけだからファンのみんなにもいつも通りアルバムを楽しんでほしいし、ライブを楽しんでほしい。ガイドラインだけはこちらでしっかり定めてあるから、そこさえクリアーしたら人の目を気にせず楽しんでほしいですね。Hilcrhyme New Album「THE MC」Teaser Movie
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