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ステムで聴くOfficial髭男dism 「I LOVE...」と「HELLO」対照的な2曲のアレンジの妙
Official髭男dismが、8月5日にニューEP『HELLO EP』をリリースした。今作には、『めざましテレビ』テーマソング「HELLO」のほか、映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』主題歌「Laughter」、2020年カルピスウォーターCMソング「パラボラ」、インディーズ時代の楽曲を新録した「夏模様の猫」の4曲が収録されている。本EPは、Billboard JAPANのシングル・セールス・チャート“Top Singles Sales”で自己最多となる初週売上枚数を記録。総合ソング・チャート“HOT100”では、「HELLO」が最高4位(2020/8/24付)、「Laughter」が10位(2020/7/27付)を獲得した。
さらに、2019年10月にリリースしたメジャー1stアルバム『Traveler』は、リリースから10か月経った現在も、総合アルバム・チャート”HOT ALBUMS“でトップ10を維持している。チャートを構成するCD売上、ダウンロード、ルックアップ(PCによるCD読取数)のどの指標も高いポイントをキープしていることから、さまざまなリスニングスタイルのリスナーに長く作品が親しまれていることがうかがえる。
そんなOfficial髭男dismが、『HELLO EP』より「HELLO」と、“HOT100”で通算7回の首位を獲得し、2020年上半期チャートでも「Pretender」に続いて2位を飾った「I LOVE...」のステムプレイヤーを公開した。ステムとは、楽曲を構成する楽器を用途ごとにまとめたトラックデータのことで、通常、リスナーは手に入れることができないデータである。今回公開されたステムプレイヤーは、それぞれのパートを個別に聴いたり、自由に音量調節をすることができ、ファンはもちろん、楽曲分析が好きなコアなリスナーや、楽曲制作をするユーザーにとっても嬉しいデータだ。本稿では、対照的な魅力を持った「HELLO」と「I LOVE...」それぞれのステムプレイヤーで聴いてみてほしいポイントを挙げていく。
「HELLO」キーワードは“力強さ”
「HELLO」は、骨太なビートとそれに負けない思い切りのいい歌が、聞いてて力が湧いてくるような楽曲だ。まるで人海戦術のように、入れ替わり立ち代わりさまざまな音が耳を貫いていく感覚は痛快。どこか切なさを感じさせるメロディに乗せ、それでも前を向いて進んでいこうと歌うソングライティングにも心打たれる。
楽曲の肝となる“力強さ”を最も表しているのは、ドラムとベースだろう。シャッフルのハネたリズムは、軽快さを感じさせ過ぎない絶妙なグルーヴをキープ。加えて、ベースが屋台骨として常に低域を支えているおかげで、どっしりと構えた印象を受ける。試しにステムプレイヤーでドラムとベースをオフにして聴いてみると、かなり物足りない感じになるのがわかるだろう。
また、ラストのサビからアウトロへ、盛り上がりがピークに達するセクションにも注目したい。ラスサビの後半(「決まり文句も座右の銘も」の部分)では、1番、2番とは異なるコードを使用している。J-POPでは王道の手法だが、これによりその後に続く「笑い合えただけで どんな場所へも肩を並べて行けるよ」という、この曲の命題とも言うべきメッセージがよりグッとくるのだ。
「I LOVE...」に見る“引き”の美学
アプローチが盛りだくさんの「HELLO」に比べ、「I LOVE...」は“引き”の美学を感じる一曲だ。ステムプレイヤーの画面を見るとわかりやすいが、「HELLO」では常に複数の楽器が鳴っているのに対し、「I LOVE...」は要所要所に音を差し込んだような、すっきりとしたプロダクションに仕上がっている。
まず、この曲を頭の中で思い出そうとする時、多くの人がイントロのブラスセクションを思い浮かべるだろう。しかし、意外にもブラスはイントロ以外では1番のAメロにしか使われていない。キャッチーなメロディもさることながら、序盤にしか出てこない音だからこそ、リスナーの頭に強烈なインパクトを残しているに違いない。
またギターパートは、最大3本同時に鳴らしていた「HELLO」に対し、本曲では1本しか使われていない。それだけに、テクニックの巧妙さや音色の良さが際立っている。特にサビのアンビエントな響きは、永遠に聴いていたいくらい心地良い。
そして、「I LOVE...」を語るに外せないパートがピアノだ。音の余白が多い本曲のなかでも比較的ずっと鳴っており、その分、曲の雰囲気を左右するパートである。イントロとサビではパキッとした音色で煌びやかな印象を受けるが、1番のサビが終わった後の歌とピアノだけになるセクションや、落ちサビ(ラストサビ前の静かなサビのこと)では一転、温かみのある音色で曲のムードをガラッと変えている。音域が広く、ダイナミクスの変化もわかりやすいピアノパートは、「I LOVE...」が持つドラマティックなイメージの多くを担っていて、その表情の多彩さは、歌詞の中で歌われている<愛の形の多様性>を、音で表していると言える。
パートを1つずつ聴いてみるも良し、複数パートをまとめて聴くも良し、パートを1つずつ抜いてみるも良し。ステムプレイヤーの楽しみ方は無限大だ。現在、ヒゲダンの公式サイトでは、サウンドにフィーチャーしたオフィシャルインタビューが公開されている。また、8月25日発売の『Sound&Recording magazine』では、今回のステムプレイヤー公開に込めた想いや、最新EPのレコーディング秘話も語られている。さらに、ベース・マガジン及びリズム&ドラム・マガジンのWebサイトでは、楢﨑誠(Ba.)と松浦匡希(Dr.)の個別インタビューが掲載中。ステムプレイヤーを使いながらこれらのインタビューを読めば、もっとOfficial髭男dismの楽曲を楽しむことができるだろう。
関連リンク
リリース情報
EP『HELLO EP』
- 2020/8/5 RELEASE
- <CD+DVD>
- PCCA 04960 / 3,000円(tax out)
- <CD Only>
- PCCA 04961 / 1,500円(tax out)
- [CD]
- M1. HELLO
- M2. パラボラ
- M3. Laughter
- M4 .夏模様の猫
Text:Mika Fuchii
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