Special
<独占>ブラック・アイド・ピーズ グローバル・ヒットから10年…立ちはだかる壁・国境を乗り越え、再起をかけた最新アルバム『トランスレーション』
「アイ・ガッタ・フィーリング」のヒットから10年。2000年代を象徴するモンスター・バンドが当時発表する楽曲は軒並みヒットし、世界中のクラブ、ラジオ、テレビで彼らの曲が流れない日はなかった。しかし、圧倒的な人気を誇った紅一点メンバーのファーギーの不在や、ソロ活動など、4人が同じステージに立つ姿が見られない時間が長くなると、入れ替わりの激しいこの音楽業界では、怖いものナシだった彼らでさえも端に追いやってしまった。
しかし、そんな状況を目で、耳で、肌で感じていたブラック・アイド・ピーズは、先見の明を持つウィル・アイ・アムのもと、先を行くサウンドと性別・国・ジャンルを混ぜ合わせたグループの特色はそのままに、トレンドを見事に反映させて、現在「リトモ」が音楽チャートを席巻中。誰もが “ブラック・アイド・ピーズ完全復活” と言える目前のところまで来ている。
米Billboardで掲載された独占インタビューでは、再起をかけたニュー・アルバム『トランスレーション』ができるまでの過程を赤裸々に告白。メンバーを愛するがゆえに、ここまで来るのに幾分の年月がかかってしまったが、ウィル・アイ・アム、タブー、アップル・デ・アップの3人は前を向いている。『トランスレーション』、そして9月に開催の大型音楽フェスティバル【SUPERSONIC 2020】のステージで再び日本を揺らしてくれる日が楽しみだ。
最新アルバム『トランスレーション』ができるまで
BEPショートバイオグラフィー
かつて世界最大だったポップ・グループが、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”のトップ40に返り咲くまでには、約10年の年月と、英語とスペイン語のバイリンガル曲が必要だった。だがブラック・アイド・ピーズ(BEP)が、ラテン・ミュージック界で最も需要があるアーティストの一人をフィーチャーしたスペイン語のタイトルがつけられた楽曲でチャートに戻ったのは、あまり驚くべきことではなかったのかもしれない。
チャートを席巻するアリーナ級の4人組になる前、BEPは米ロサンゼルス在住のアフリカ系アメリカ人(ウィリアム・“ウィル・アイ・アム”・アダムス)、メキシコ系アメリカ人(ジェイミ・ルイス・“タブー”・ゴメズ)、そしてフィリピン人(アラン・“アップル・デ・アップ”・ピネダ)からなる、高校の仲良し3人組だった。ポップ・ラジオを制覇することを夢見始める以前から、彼らはヒップホップを幅広い多文化的な物の見方で制作し、民族やジャンルの境界線を認識できなくなるほど曖昧にした。
ウィル・アイ・アムは、「最初の頃、ヒップホップやアーバン・ミュージックはBEPと全く関わろうとしなかった。俺らにはハードさが足りなかった。ギャングスタ味が足りなかった。」と振り返る。彼が育った公営住宅があるL.A.東部のボイル・ハイツは、主にメキシコ系アメリカ人が多い地域だ。「俺はこれ以上ないくらいストリート(育ち)だけど、そういう音楽を作りたくない。自分にとってそれは痛みとか苦悩とか、友人たちが撃たれたりドラッグをオーバードースしたりしてたことを想起させる。俺はファンタジーや、フィーリンググッドな、人が世界を旅するような音楽を作りたいんだ。」と彼は語っている。
1990年代後半に中道左派のラップ・トリオとしてスタートを切ったBEPは、2000年代後半で大ブレイクを果たした。成功の一因は米国外のマーケットに重点を置き、欧州と中南米(ラテン・アメリカ)を絶え間なくツアーしたことだ。2002年にステイシー・“ファーギー”・ファーガソンが加入したことでメインストリーム人気が爆発したが、ポップ・ラップのヒット曲「ブン・ブン・パウ」と「アイ・ガッタ・フィーリング」が合計で26週間もHot 100の首位に君臨した2009年にピークを迎えることとなった。
昔から国境を越えたヒットを飛ばしてきた彼らだが、ニュー・アルバム『トランスレーション』ではその多元性がより際立っている。2020年6月19日(国内盤は7月22日)にリリースされたこのアルバムには10曲ものコラボ曲が収録されており、これはBEPのどの作品よりも多い。フィーチャーされているのは米ラッパーのタイガやフレンチ・モンタナをはじめ、マルーマ、オズナ、シャキーラ、ニッキー・ジャム、ベッキーG、Piso 21、エル・アルファ、J.バルヴィンといった、ラテン音楽界における正真正銘の有力者たちがずらりと並んでいる。J.バルヴィンとのコラボ「リトモ」は、BEPが9年ぶりにHot 100のトップ40に返り咲くきっかけとなった楽曲で、26位を獲得した。また、オズナと新メンバーのJ.レイ・ソウルをフィーチャーした「ママシータ」は、最高62位にランクインしている。
20年在籍したインタースコープを離れ、エピック移籍後第1弾となった『トランスレーション』は、2010年以来、さらにはファーギーの脱退後初となる商業作として3人にとって新たな始まりを示す作品だ。2013年に息子のアクセルを出産したファーギーの脱退理由は家族との時間を作るためだった。このダウンタイム中、ウィル・アイ・アムはソロ作品をいくつか発表したり、ブリトニー・スピアーズなどのアーティストをプロデュースしたり、自身のi.am.angel foundationを通じて多種多様な教育プログラムを行った。一人で短期間ツアーにも出たが、嫌だったと彼は言う。一方で、2014年にタブーが精巣がんと診断されたことも、グループが無期限に戦線離脱を強いられた理由の一つだったが、正にこの“喪失の亡霊”と言える出来事が、この友人3人を再結成へと駆り立てた――今度はトリオとして。
2011年にBEPが出演したヒット曲満載の【NFLスーパーボウル】ハーフタイム・ショーから、一生のようなかなり長い年月が過ぎた感じがあるが、彼らはグループとしてのアイデンティティーを何とかあらためて表明することができた。まず2018年に、インタースコープからのラスト作品で、より実験的な『マスターズ・オブ・ザ・サン VOL. 1』で様子をうかがった彼らは、次に、フィリピン版『ザ・ヴォイス』でアップル・デ・アップが見いだしたJ.レイ・ソウルを新しい女性ゲスト・ヴォーカリストとして迎え入れ、世界中で新たに芽生えていたラテン音楽人気に、計画的にではあったがそれでも意義深く賭けることにした。と同時に、現在人気絶頂期にあるアーティストたちが、9年間もチャートインすることがなかったグループとコラボしてくれる可能性という、自らのポテンシャルにも賭けたのだ。
ウィル・アイ・アムは、「『トリオのBEPだって? 成功しないと思う』ってみんな言ってたよ。でも俺たちはそいつらが間違っていることを証明しなければなかった。(協力者たちは)大丈夫だと信じて賭けてくれたんだ。」と話す。この中には、エピック・レコードのシルヴィア・ローン社長も含まれる。ローン社長は、エピックのエグゼクティブVP A&R担当者エゼキエル・ルイスがスタジオで「リトモ」を聴いたあとにBEPと契約。映画『バッドボーイズ フォー・ライフ』のサウンドトラックにも収録されている「リトモ」は、米ビルボード・ホット・ラテン・ソングス・チャートのトップに21週間も君臨し続け、次にリリースした「ママシータ」にその座を譲った。
「『アルバム全部をラテンにするの? どうして?』ってシルヴィアに聞かれたよ」とウィル・アイ・アムは振り返る。「『あのジャンル、あの世界が、今一番クリエイティブな世界だから。』って俺は答えた。あと、エピックにはソニー・ラテンがあって、あそこは優秀だからね。」と彼は説明している。ソニー・ラテンは、エピックの米国におけるラテン音楽部門であり、BEPのニュー・アルバムの販売と宣伝を手伝っている。BEPの長年のマネージャーで、高校からの友人でもあるポロ・モリナは、「音楽において、ウィルは絶対に軽視できない男だ。時代に最適なものができたとき、俺たちには分かるんだよ。」と語る。
そんなBEPのメンバーたちが、米ビルボードとの数回にわたるZOOMインタビューで、キャリアを振り返ると同時に、彼らの音楽が今こそ異文化の懸け橋になりうる理由について語った。
リリース情報
『トランスレーション』
- 2020/7/22 RELEASE
- SICP-6328 2,400円(tax out.) https://lnk.to/bep_translationBJ
来日情報
【SUPERSONIC 2020】
- <大阪>
- 2020年9月19日(土)
- 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
- <東京>
- 2020年9月21日(月)
- 千葉県ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園 https://supersonic2020.com/
関連リンク
ブラック・アイド・ピーズ 公式サイト
ブラック・アイド・ピーズ 国内レーベル公式サイト
Q&A by Leila Cobo / 2020年6月19日Billboard.com掲載
世の中に必要なのは“架け橋”と“翻訳”
左から:タブー、ウィル・アイ・アム、アップル・デ・アップ
――BEPは2018年に『マスターズ・オブ・ザ・サン VOL. 1』を発表していますが、『トランスレーション』の方が、そのレパートリーやトーン、(フィーチャーされている)スターなどから、カムバック・アルバム的な位置づけであるように感じられます。皆さんはこの作品をどのように捉えているのですか?
ウィル・アイ・アム:カムバック(・アルバム)だよ。2年前の俺たちは、「なあ、俺らの原点とか起源を反映させたアンダーグラウンドなジャズ・レコードをやろうぜ。あえてストリーミングとかラジオでパワープレイされるような曲を作らないようにしよう。社会派の音楽を作ろうぜ。」って感じだった。大抵そういう曲はヒットしないものだ。
このレコードは、「じゃあ、あれをやったことだし、今度は自分たちが得意なことに集中して、国際的な楽曲を作ろう。」って感じだった。「リトモ」はハードドライブに入ってたんだけど、「これは『マスターズ』には入れられない、だってヒットするから」って言ってたんだ。
――では、ラテン界のスターたちを主にフィーチャーした『トランスレーション』(翻訳/通訳)というタイトルのバイリンガル・アルバムでカムバックを果たしたわけですが、世の中に何か伝えたいメッセージがあったのでしょうか?
タブー:自分たちがインスパイアされてきたラテン・アーティストにちゃんと集中できたことがすごくクールだった。J.バルヴィンとかマルーマとかオズナみたいな人たちのことだ。(ラテン・アーティストと)曲でコラボするのは、自分たちにとって自然な成り行きだったんだ。1990年代の初期作から、ずっとラテンのリズムの影響を受けてきたのだから。「カルマ」とか、『エレファンク』の「ラテン・ガールズ」みたいな楽曲だ。フアネスやダディー・ヤンキーといった人たちともコラボしてるしね。
ウィル・アイ・アム:2003年から2011年の間、BEPは米国よりも中南米やスペインの方が人気だったんだよ。(米ロサンゼルスの)ローズ・ボウルでコンサートができる前に、(メキシコの)アステカ・スタジアムでやったくらいだ。(当時)米国で開催したスタジアム公演はマイアミだけで、そこはラテン系の人たちがたくさんいる。コロンビア、ベネズエラ、スペイン、パナマ、ニカラグア、グアテマラのスタジアムで公演を開催した。俺たちが成功していたのはそういった場所で、スペイン語で歌う必要もなかったんだ。
世界のほかの地域も取り入れてほしい、ラテン・コミュニティーの素晴らしいところは、いい曲だったら何でもかけてくれることだ。才能ある(ラテン界の)新しいアイコンたちから刺激を受けたのは確かだけれど、俺たちの音楽を受け入れ、かけてくれて、キャリアを与えてくれたラテンの国々の全ての人たちにもありがとうと言いたかった。
――今ではあらゆる人が人気のラテン・アーティストたちとコラボしたがっていますが、10年前はそう思う人はあまりいませんでした。ここ数年の間でラテン音楽が世界的に大ヒットしたことに驚きはありましたか?
ウィル・アイ・アム:驚かないよ。だってずっと前からティト・プエンテのような人たちがいて、あらゆるところのポップ・カルチャーでラテン音楽は人気だった時期があったわけだし。ただ、今起きていることに触発はされているよ。(ラテン系の人々の)パーティーは美しい。みんな最大限のお洒落をするし、女性たちと同じくらい男性たちも自分たちのファッションを見せつける。素晴らしい環境だよ。みんなスーパー・クリエイティブだ。あと、(今のラテン・アーティストたちは)、「いや、英語でなんか歌わないよ」って感じじゃないか。エンリケ・イグレシアスの時代を覚えているかな。彼は英語で歌わなければ仕事にならなかった。今のアーティストたちは、「あのさ、俺たちは英語でなんか歌わないから。コーラスをスペイン語で歌うのは自分だ」って感じだ。
タブー:俺たちはL.A.で育ってるし、ウィルは生まれた時から公営住宅で暮らしていた。だから彼は(コロンビアの)ラ・ソノーラ・ディナミタ、(メキシコの)フアン・ガブリエル、ロス・ブキスとかを聴くことに慣れていた。俺たちの幼少時代のこういった全ての楽曲や影響は、ずっとDNAの一部としてあったんだ。
アップル・デ・アップ:さらに言えば、俺の苗字はピネダだ。フィリピン人のピネダ。フィリピンには、大多数の人たちがスペイン語を話す地域があるから、俺は特にワクワクするんだよね。
――BEPは“グローバルであること”を象徴しているグループですが、それは現代において特に意味があることだと思いますか? 今こうやって表出していることは運命だと感じますか?
ウィル・アイ・アム:俺はメキシコ系の地域で“橋を架けてきた”黒人男性だ。そして今、世の中は人種問題の真っ只中にいるわけだけれど、いまだにこんなことが起きているなんて信じられないよ。世の中に必要なのは“橋を架けること”と“翻訳すること”だ。翻訳するには、寛大でなければならないし、思いやりを持たなければならないし、共感的でなければならない。日本に行くとさ、通訳してくれる人は本当に寛大で、心が広いんだよ。俺たちは皆、翻訳者/通訳者になる必要がある。
――「外国へ旅することを義務にすべきだ」と、誰かが述べていたインタビューを最近読みました。
ウィル・アイ・アム:パナマに行って、自分みたいな黒人たちが皆スペイン語で話しているのを見た時のことを覚えているよ。「俺もパナマ人だ!」って思ったね。ドミニカ共和国に行けば、親戚が皆ドミニカ人にそっくりなんだよ。L.A.で育つとさ、親戚がメキシコ系の人と子どもを作るとドミニカ人に似るんだよね。
――J.レイ・ソウルという新メンバーが加入しましたね。あえてお伺いしますが、ファーギーはもうニュー・アルバムを聴いたのでしょうか?
ウィル・アイ・アム:まだ聴いてないよ。彼女が聴くのは、ほかの人が聴く時だ。気に入ってくれるといいな。お互いに連絡を取り合うようにはしているよ。時々連絡して挨拶して、誕生日おめでとう、メリー・クリスマス、ハッピー・イースターとか伝えたりしてる。俺たちがどこにいるのか、彼女は知ってる! 俺たちがスタジオにいるってことも。みんな彼女のことを愛しているし、彼女は母親業に集中している。大変な仕事でも、彼女が本当にしたいことだし、みんないつでも力になるし、彼女がちょっと逃避したくなったり離脱したくなったら、こっちに連絡できるって知っている。本当にファーギーが描いたとおりになっていて、俺たちは彼女のデザインを尊重しているんだよ。ファーギーを愛しているし、彼女には素晴らしいことしか起きてほしくないって俺たちは思っている。
アップル・デ・アップ:ファーギーは俺たちの姉妹だ。だから、こうしたちょっとした繋がりだけでも、彼女はずっと俺たちの姉妹であり続ける。ただ、彼女は最高の母親になりたがっていて、それに集中したがっているから、残念ながらスケジュールの都合が合わなくなってしまった。ウィルが言ったように、俺たちは100%彼女を支持している。
タブー:あとさ、J.レイ・ソウルのことをすごく誇りに思っていることも言わせてもらいたい。きっと「誰だよ、このアーティスト?」って思っている人が多いだろうからさ。いつも「ファーギーはどうしてる?」って聞かれるし、それも理解できる。でも言わせてもらいたいのは、(6月)19日にニュー・アルバムがリリースされて、その次の週に6月24日がやってくる。その日で俺は6年間がんのない状態が続いたことになる。あの時期から俺たちは長い道のりを歩んできた。今いるところにたどり着くまでとても努力した。自分と向き合ってきたし、モチベーションを保つためにできることを全てしてきたし、過去を振り返らないようにしてきたし、前だけを見据えてポジティブに前向きでいるようにしてきた。そして俺たちはJ.レイ・ソウルという新しいアーティストを誕生させつつあると思っている。俺は本当に彼女に最大限の賞賛と敬意を与えたい。ほかの二人が言ったこと、ファーギーが母親業をしてるってこと、それはそのとおりだけど、俺たちには今育てている素晴らしいアーティストがいるんだ。彼女はこのアルバムの一部、「ママシータ」の一部なんだ。
ウィル・アイ・アム:想像してみてよ。自分が23歳で、ステージに立った時に観客から、「あれはファーギーじゃない!」って言われるところを。それでもステージに立って自分のベストを尽くし、懸命に歌うんだ。オズナはさ、「あんな娘知らない。誰か有名人を使ってよ」って言おうと思えば言えたわけで。でも(彼を含めたゲスト・アーティストたちは)、彼女がしてきたことじゃなくて、彼女ができることを見て判断したんだ。
リリース情報
『トランスレーション』
- 2020/7/22 RELEASE
- SICP-6328 2,400円(tax out.) https://lnk.to/bep_translationBJ
来日情報
【SUPERSONIC 2020】
- <大阪>
- 2020年9月19日(土)
- 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
- <東京>
- 2020年9月21日(月)
- 千葉県ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園 https://supersonic2020.com/
関連リンク
ブラック・アイド・ピーズ 公式サイト
ブラック・アイド・ピーズ 国内レーベル公式サイト
Q&A by Leila Cobo / 2020年6月19日Billboard.com掲載
俺とアップルとタブーじゃなきゃダメなんだって気が付いた
――前回のアルバムから現在までの間で得た、一番の教訓は何ですか?
ウィル・アイ・アム:また成功を掴みたいなら、(過去の)成功を忘れてもいいってこと。成功したことを覚えていると、自分があるべき状態になれなくなってしまうからだ。自分があるべき状態というのは、謙虚になって、生徒になって学ぶ姿勢だ。
俺は怖かった。『The E.N.D.』を2009年に出して、そんなに受けるとは思っていなかったのにものすごくヒットしてしまった。次に『ザ・ビギニング』を(2010年に)リリースした。それから(勢いが)止まってしまった。俺たちは止まりたくなかった。俺は、「とにかく音楽を出し続けたいから、ソロ・レコードをやりたい」ってなったけれど、(やってみたら)嫌だった。自分一人だけでツアーするのは嫌だった。「アップルに会いてぇ! タブーに会いてぇ!」って言ってた。それが2014年に終わったと思った途端に、ドーン! タブーががんと診断された。そこで気付いたんだよ、俺とアップルとタブーじゃなきゃダメなんだって。
ある日、納税手続きをやりながらイライラしてたら、アップルに、「ウィル、イライラすんのは自分のせいだ。お前が上の空だからだよ。BEPを昔みたいにしたいんだろ? だったら集中しろよ」って言われた。厳しい現実だったよ、だってアップルと俺は、友達になってからこれまで一度もケンカなんてしたことなかったんだから。こいつとはファッキン30年の付き合いになるってのに。
(そこで)俺は、「なぁ、タブー、お前はトリオに戻って来れそうか? どうやってその決断を下せばいいのか、俺には分からないんだ。俺にはその判断ができない。お前に強くなってもらわなければならない」って言った。そうしたら彼は「よし、やろうぜ」って言ってくれた。アップルが「俺の番組に出演した、あるフィリピンの娘がいるんだ。彼女を(米国に)連れてこよう」って言った。でも俺は、「念のため、まずはアンダーグラウンドなレコードをやろう。だって最初から超ポップなものを出してうまくいかなかったら、それこそもうおしまいだ。ポップなやつは後回しにしよう」って言ったんだ。そして今回のこれが“ポップなやつ”ってわけ。
アップル・デ・アップ:自分の場合は、ハングリーであり続けること、ほかのアーティストたちのファンでいること、そして自分の殻をやぶることが教訓になった。この休止のおかげで、ほかの人のことを考えるようになった。以前やっていたように、自分たちのプラットフォームを活用して、新しいアーティストを発見したかった。俺は子どもの頃に保護されて、フィリピンから養子になった。そうやって兄弟たち(仲間)と出会ったんだ。養父に倣い、自分が米国に移住できた礎を踏襲することは容易だった。「自分も同じことをする」と決めたんだ。
タブー:俺の場合は授業料が高くついたな。化学療法を受けながらベッドで横になっている時に、「あぁ、この最悪な病に打ち勝って、またステージに上がれるなら何だってくれてやるのに」って考えていたことを覚えている。妻と子どもたちに加えて、ウィルとアップルは俺の人生そのものだ。兄弟たち(ウィルとアップル)と毎回ステージに立つ時ほど嬉しくて、誇らしくて、チャンピオンのような気持ちにさせてくれるものはない。ステージに復帰するという目標が、俺に闘い続ける気力を与えてくれた主な要素の一つだった。
――このアルバムは、アイコニックなダンス・トラックを多くサンプリングしていますね。「リトモ」は(イタリアのグループ)コロナの「リズム・オブ・ザ・ナイト」、マルーマとのコラボ曲「フィール・ザ・ビート」はリサ・リサ&カルト・ジャムの「キャン・ユー・フィール・ザ・ビート」、ニッキー・ジャムとタイガとの「ヴィダ・ロカ」はリック・ジェームスの「スーパー・フリーク」をサンプリングしています。きっかけは何だったのでしょうか?
ウィル・アイ・アム:この作品を、アルバムというよりはプレイリストとして扱いたかったんだ。プレイリストをキュレーションするときは、全部の曲がお気に入りでなければならない。もちろん、新しい音楽を作らなければならないけれど、チャートインするような音楽をやりたいわけだから、リスナーが楽しめるように、(新しい曲を)補完する曲も入れたいよね。全てが繋がったセットなんだ。
「リトモ」の次に来たらいいのは何だ? 俺がDJだったら「フィール・ザ・ビート」。で、そこから「ママシータ」に入る。あれは(マドンナの)「ラ・イスラ・ボニータ」に触れていて、つまり白人から見たラテン音楽。ラテン音楽に対する我々の審美眼の連続した点という感じだ。そこで混乱させる――「スーパー・フリーク」でだよ。俺がラテンのコーラスを歌うんだ。みんなが知ってる一番典型的なスペイン語のフレーズって何だ? 「ヴィダ・ロカ」だ。でもアフロビートにして、タイガもフィーチャーしよう。その次はエル・アルファの曲に突入。彼はラテン・コミュニティーで一番クリエイティブなアーティストだ。こんな感じで、全てがレトロ・フューチャーって感じなんだよ。90年代や80年代を未来のサウンドやラテンのリズムでアップデートしてるから。
――私はベッキーGがフィーチャーされた「ドゥーロ・ハード」がとても好きです。
ウィル・アイ・アム:ベッキーGと一緒に作っていた別の曲があったんだけれど、“芸術的アーバン”って感じだったんだよ。そうしたら彼女に、「ウィル、この曲は認められない。これはヒット曲じゃないよ、あなただって分かってるんでしょ?」って言われてしまった。俺は、「まぁ、ヴァイブス重視の楽曲だな。全ての曲がヒット曲じゃなくたっていいじゃないか」って言った。すると彼女は、「私はBEPと仕事をしているわけ。もし『リトモ』のあとに私の曲がヒット曲みたいに聞こえなかったら、格好悪いじゃん」って言うんだ。(だから)俺は、「OK、君の率直さに感謝する、何とかしてみる」って言って、そこからできたのが「ドゥーロ・ハード」だった。
――シャキーラと仕事をするのはどんな感じでしたか?
ウィル・アイ・アム:ものすごく刺激になったよ。「私からのメモ届いてる?」、「届いてるよ」、「OK。始めよっか。メモNo. 1:その単語を言う時、ちょっと後方にスイングしてくれる? 私が“Girl like me”って言う時、リヴァーブの最後の方の音をほんのちょっとだけ大きくしてくれる?」って感じだった。(シャキーラは)音楽そのものだね。ホイットニー・ヒューストンとかマイケル・ジャクソンとか、あらゆる人たちと仕事をしてきたけど、あんなに細部にこだわる人は経験がなかった。まるで教師のようにセッションを行うんだよ!
▲シャキーラは自身のインスタグラムに「ウィル、あなたと一緒に仕事をできて私も光栄だわ! この曲の裏にあるストーリー、あなたのビジョン、才能そして情熱のおかげで、この経験は私のキャリアでのハイライトになったわ!」と投稿
――エル・アルファのような、世界的にはまだ無名のアーティストと仕事をするのは、BEPとしては思い切ったことをしたとも言えますね。
タブー:幸運にも、数人のアーティストで似たようなことがあったよ。メイシー・グレイとは彼女が今みたいに有名になる前に仕事をしたし、デヴィッド・ゲッタもクールなアンダーグラウンドDJだったけれど、「アイ・ガッタ・フィーリング」をプロデュースしたあとにスーパースターになった。エル・アルファは素晴らしいアーティストだから、世界は彼のエネルギーを知るべきだ。
ウィル・アイ・アム:美しいのはさ、今は立場が逆転しているってことだよ。(ニュー・アルバムのフィーチャー・アーティストたちは)「BEPなんてカムバックできるのか?」って容易に言えたわけだ。だって「アイ・ガッタ・フィーリング」の直後なんかじゃなかったんだよ。(あれから)8年も経ってるんだぜ。
アップル・デ・アップ:人から、「調子はどうだい、レジェンド!」って声をかけられたら、それには二通りの意味あるかもしれない:本当にレジェンドだってことか、年寄りだってことだ。
タブー:バルヴィンが俺たちの可能性に賭けてくれたことは、彼の謙虚さと心の広さの一例だ。オズナも同じだ。彼らは皆、「(BEPが)過去にやったことは見てきた。(BEPの)グルーヴは分かっている。一緒にロックして魔法を生み出そう」って言ってくれたんだ。
――このアルバムは、米国におけるここ数年で最も重要な人種問題についての対話の最中に発表されました。BEPは多民族的、多文化的ですが、この瞬間の重要性は皆さんにとってどのようにのしかかっていますか?
ウィル・アイ・アム:今アメリカで起きていること、その最も極端な部分は、俺の祖母や祖母の母や祖母の祖母の時代からずっと存在していたことだ。俺は幸運にもメキシコ系の地域で育てられたから、「あぁ、メキシコ人も自分と変わらないんだな」という認識で世の中を見ている。アップルに初めて出会った時、彼は英語を話せなかった。そしてタブーは“ポチョ”(pocho:米国文化に同化し、スペイン語をほとんど話せないメキシコ系アメリカ人に対する、大抵は侮辱的な表現)で、スペイン語をあまり知らずに育ったメキシコ系だ。彼には黒人の彼女がいて、俺はメキシコ系の彼女がいた。彼は黒人文化で生活し、俺はメキシコの文化で生活していた。
アップル・デ・アップ:(肌の)色の境界線はないね!
ウィル・アイ・アム:人と人が仲良くして、お互いを尊重し合って、寛大さや忍耐や理解や敬意を持って誰かの文化を本当に理解しようできることの一例だよ。
タブー:俺がこのパートナーシップから受け取ったのは、マルーマやバルヴィンとかがラテン系であることに誇りを持っていて、それを世界に知らしめていることだ。「何があろうと俺らは変わらない。これが俺たちだ」ってね。自分も含めてアメリカで暮らしている多くの人たちはそこから学ぶ必要がある。品位を持って態度を示して最後までやり通すことを知るべきだ。
――ウィルとアップルはブラック・ライヴズ・マターの抗議集会に何回か参加していますよね。二人にとって実際にストリートに出ることが何故重要だったのでしょうか?
ウィル・アイ・アム:前提としてあったのは、「集会に行って、(BEPの2003年のシングル)『ホエア・イズ・ザ・ラヴ』を歌おうぜ」ってことだったんだけど、マスクをして拡声器を持って現場に到着したら、「アップル、お前も同じこと感じてるか? この歌を今歌うべきじゃない」って言った。
アップル・デ・アップ:自分たちが達成したかった目標とは違って、ご都合主義的な感じがしたんだよな。運動の一部になることが重要なんだ。俺たちは皆、不平等を是正したい。皆に声を上げてほしいし、投票してほしいと思っている。投票に行っても意味がないとか、警察による蛮行や、過剰な武力行使や、(警察官が)慣れてしまっている市民の扱い方のような問題に注目すると、絶望的だって思ってしまうこともあるだろうけど。ひど過ぎるもん。
タブー:俺は(米国の先住民居留地に石油パイプラインが通される計画に抗議する2016年の)スタンディング・ロック運動に参加していたよ。新型コロナウィルスが存在する以前から、先住民族集会に出ていた。ただ、自分の免疫力が(がん闘病で低下してしまっていると)分かっている状態で(新型コロナ感染の恐れがある)あの集団の中に入って行くのは無理だった。(ウィルとアップルが)尊重してくれて本当にありがたかった。
リリース情報
『トランスレーション』
- 2020/7/22 RELEASE
- SICP-6328 2,400円(tax out.) https://lnk.to/bep_translationBJ
来日情報
【SUPERSONIC 2020】
- <大阪>
- 2020年9月19日(土)
- 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
- <東京>
- 2020年9月21日(月)
- 千葉県ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園 https://supersonic2020.com/
関連リンク
ブラック・アイド・ピーズ 公式サイト
ブラック・アイド・ピーズ 国内レーベル公式サイト
Q&A by Leila Cobo / 2020年6月19日Billboard.com掲載
関連商品