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シンガー・ソングライター/音楽プロデューサー=ジョシュ・カンビーのキャリアを紐解く
米カリフォルニア州アナハイム生まれ、アーバイン出身。学生時代から楽曲制作に打ち込んでいたという、根っからミュージシャン気質のシンガー・ソングライター/音楽プロデューサー=ジョシュ・カンビ―。名門・南カリフォルニア大学(USC)を飛び級で卒業したという、輝かしい経歴も見逃せない。
輝かしい経歴といえば、これまで多くのアーティストに提供・プロデュースしてきた楽曲の数々も、またしかり。本格的なキャリアのはじまりは、エストニア出身の女性ポップ・シンガー=ケルリの「イモータル」という曲にサウンド・プログラマーとして参加した2012年で、翌2013年にはショーン・ポールの「ポルノスター feat.ナイラ」や、セレーナ・ゴメスとプリンス・ロイスのデュエット曲「オールレディ・ミッシング・ユー」といった、人気アーティスト等の楽曲にもプログラマーとしてクレジットされる。「ポルノスター」が収録されたアルバム『フル・フリークエンシー』は、2015年開催の【第57回グラミー賞】で<最優秀レゲエ・アルバム賞>にノミネートされ、ジョシュの知名度をさらに高めた。
同2015年には、スペイン・マドリッド出身の女性ラテン・シンガー=ナタリア・ヒメネスのアルバム『クレオ・エン・ミ』にソングライターとして参加し、本作が【第16回ラテン・グラミー賞】の<最優秀アルバム賞>にノミネートされるという、幸運が続く。同年には、マドンナの「ジャンヌ・ダルク」やクリス・ブラウンの「ノー・フィルター」、シーアの「アライヴ」(アフシーン・リミックス)、ジャネット・ジャクソンの「ノー・スリープ feat. J. コール」(アフシーン・リミックス)といった、トップ・スターのシングルにも参加し、更に活躍の幅を広げていく。
▲ 「Creo en Mi」 / Natalia Jiménez
シンガー・ソングライターとしての才能を探りつつ、中国の女性シンガー=クリス・リーや、日本人を含む韓国の男性アイドル・グループ=NCT、SUPER JUNIORのリョウク、BoAや東方神起といった、日本でも人気のアジア系アーティスト等の楽曲を手掛けるようになる。昨2019年は、それらK-POPアーティストや前述のケルリ、アダム・ランバートの「フィール・サムシング」や、カイゴとリタ・オラのコラボ曲「キャリー・オン」(映画『名探偵ピカチュウ』提供曲)の制作を担当し、3月には再びアーミン・ヴァン・ブーレンとルーカス&スティーヴのコラボレーション「ドント・ギブ・アップ・オン・ミー」にフィーチャーされ、確かな歌唱力を訴えた。トロピカル・ハウスに通じるタイトなサウンドに、ファルセットを交えたしなやかで爽快なジョシュのボーカルが心地よい傑作に仕上がっている。
▲ 「Carry On」 / Kygo & Rita Ora
才気が一気に高まった絶好のタイミングで、同年6月、いよいよ日本のメジャーレーベルとのアーティスト契約を締結する。キッカケをつくったのは日本で仕事をした経験のある現マネージャーだそうで、当時の繋がりを軸にジョシュをプッシュしたのだそう。キャリアの幕開けを告げると同時に、米ビルボード・ソング・チャート“HOT100”で6週1位をマークした「ボーン・ディス・ウェイ」(2011年)の他、レディー・ガガの楽曲を多数手がけるフェルナンド・ガリベイのソングライティング・チームに加わり、制作陣としての活動も継続する意思・意欲をみせた。さらに8月には、オランダのエレクトロニック・デュオ=ゾンダーリンの「ライフタイム」に、LAの音楽プロデューサー=デーモン・シャープと参加し、ソロ・デビューへの期待値を高めていく。
そして2020年2月14日、ソロ・デビュー・シングル「サウンド・オブ・ユア・ネーム」を遂にリリース。これまでに携わった楽曲や、アーミン・ヴァン・ブーレンとのコラボレーションからも、フロア映えするダンス・トラックで満を持して…かと思いきや、いわゆる哀愁系エレクトロで勝負という、ある意味大胆な戦略にアーティストとしての拘りや、媚びない余裕みたいなものを感じた。デビュー曲にしては若干地味な印象を受けるものの、ソングライター/プロデューサーとして自己分析した結論からすれば、むしろ大成功といえるのではないだろうか。ミックスは、グラミー賞のノミネート経験もあるデルバート・バウワースが、マスタリングはロンドンのベテラン・エンジニア=スチュワート・ホークスが担当している。
▲ 「Sound Of Your Name」 / Josh Cumbee
「サウンド・オブ・ユア・ネーム」のテーマは、失恋による女々しい男心…というべきか。男子は共感、女子は母性本能をくすぐられるフレーズが満載で、歌詞においてもプロデュース力の高さが、うかがえる。タイトルには「傷心している時にその人の名前を思いがけず耳にした際の動揺」が込められているようで、共作した親友のジェイ・デントンとのボーイズ・トークから、ヒントを得たのだそう。声質や心に響く優しいメロウ・グルーヴ、そしてこの歌詞からも、ジョシュ・カンビ―の繊細さが滲み出ている。曲の世界観や歌詞を、そのまま映像にしたような美しいミュージック・ビデオは、新潟の妙高高原で撮影されたもので、著名アーティストのMVやCM等を手掛ける丸山雄大が監督を務め、モデルの大社カリンがアーティストとして出演した。共作・共演した両者のコメントからも、ジョシュの人柄が感じられる。
さらに翌3月13日には、セカンド・ソロ・シングル「ブレイブ・イナフ」を連続でリリースし、ファンを沸かせた。この曲も「サウンド・オブ・ユア・ネーム」路線のミディアム・メロウで、よりセンシティブな歌詞の内容含め、絶頂期のザ・チェインスモーカーズを彷彿させる、切ないムードに包まれたナンバーだ。ワン・フレーズ毎に感情を絵文字で表現したリリック・ビデオや、インストゥルメンタルを強調したサウンド・プロダクションも、彼等の後を追ったような仕上がり。そのインスト部分には、車の衝突音を逆再生したユニークなアレンジが施されているとか。情感とやさしさを込めた歌いっぷりは、身を包んでくれる清々しさでいっぱいだ。
「ブレイブ・イナフ」から約4か月の期間を経て、7月3日にサード・シングル「ワース・ミッシング」を発表したジョシュ・カンビ―。「通常は考えられないフル・オーケストラ、オーガニックなポップ・ロック・コーラス、そしてヴォーカル・サンプルが合わさっており、孤独さや自尊心といったものを切迫感と抑制のない誠実さで表している」と本人がコメントしたとおり、前2曲にはなかったコーラス・ワークやスケールの壮大さ、圧倒させられるサウンドのエネルギーに満ちていて、これまで培ってきた美味しいところだけを集約した充実感に、改めてその才能を思い知らされた。歌詞においては、前2曲に引き続き、大切な人を失った喪失感やソフトな恨み節、立ち直る術などを独自の目線で綴っている。高圧的な言い回しや、粘り気のあるメンタルヘルスっぽさのない、控えめな表現も聴き心地良く、聴き手への思いやりが感じられる。
▲ 「Worth Missing」 / Josh Cumbee
「ワース・ミッシング」のミュージック・ビデオは東京を舞台とし、監督は引き続き丸山雄大が担当した。ジョシュは、「人が多くて慌ただしいけど不思議と静かで、混沌としているのに穏やか」と、東京の街の印象を的確に捉えていて、同ビデオもそういったコンセプトを基に制作したのだそう。日本人が制作したから…ということもあると思うが、原宿や浅草のような華やかな印象を抱きがちな「TOKYO」という街の、本来の姿を非常に上手く捉えている。同ビデオには、エンターテインメント集団「Team Black Starz」のYutakaと、振付のプロフェッショナル集団「左 HIDALI」に所属するNao USUIがダンサーとして登場。街の空気と喧騒を個性的なコンテンポラリー・ダンスで見事表現した。ジョシュは、彼等とこの作品について「ダンサーの振り付けには圧倒されたよ。自分の出演シーンと同じぐらい、オーディエンスとして彼らの出演シーンも楽しめた。とにかくたくさんのやりがいのある挑戦に満ちた撮影で、その結果、期待以上の作品が生まれたと思っているよ」とコメントしている。日本については、マネージャーを通じて話をたくさん聞いていたようで、実際に訪れた際には「驚異的な場所で、近未来的な感じに圧倒させられた」と、人や景色、カルチャーにも夢中になったそう。日本語も現在勉強中とのことで、来日の際はカタコトの挨拶が期待できるかも? 7月31日には、フェデ・ル・グランド・リミックスのデジタル・リリースも予定されている。
今後も「ワース・ミッシング」に続くシングルも制作する予定とのことだが、こういったご時世であるが故、状況をみて発表すると共助の精神にあふれた人間性をうかがわせているジョシュ。3曲のシングルにもあるように、困難を乗り越えた先にこそ見えてくるものがあると、ジョシュらしい持論を述べている。変わりゆく世界情勢にも、音楽は必ず必要。ジョシュ・カンビ―の曲を聴き、困難な現状の中でどう思うことがあるのか、体感し、その想いを届けて欲しい。
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Text:本家一成