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【TikTok 2020年上半期楽曲ランキング】が発表 拡散する独自のミーム/『鬼滅の刃』や『恋つづ』の影響/日常の“エモい”BGM



インタビュー

 世界中で人気を博すショートムービー・プラットフォーム“TikTok”が、音楽のヒットの新たな発信地として注目されている。フィッツ & ザ・タントラムズの「ハンドクラップ」を使った「2週間で10キロ痩せるダンス」は、TikTokでのバズがきっかけで大流行。楽曲のYouTube再生回数も急激に伸び、ビルボードジャパンの総合ソング・チャート“HOT 100”の動画指標において、2019年7月15日付で5位をマークして以来、今もなおトップ20入りをキープし続けている(2020年6月12日現在)。また、YOASOBI「夜に駆ける」、瑛人「香水」、Rin音「snow jam」など、TikTokに投稿された動画コンテンツが話題となり、認知度を一気に拡大させ、ヒット・チャートを急上昇する新人アーティストの楽曲も増えてきた。

 TikTokではトレンドを支える10~20代の若者をメイン・ユーザーとしつつ、最近はさらに高年齢層の利用者も増えている。ユーザーによる模倣(そしてユニークなアレンジ)を通じてインターネット上で広がっていくミームという現象があるが、幅広い世代がただ見聞きするだけでなく、自ら参加もできるインタラクティブなプラットフォームであるという点が、このアプリの強みであり、音楽のヒットに繋がる大きな要因と言えるだろう。

 そんなTikTokの2020年上半期楽曲ランキングのトップ20が発表された。楽曲の国内における再生回数や影響力などを総合的に判断して生成されたものだ。音楽シーンと密接に結びついた今年前半、TikTokを彩った楽曲を振り返っていく。

ミームの爆発的な拡散力

 上半期ランキング堂々の1位に輝いたのは、Dance Hits 2015「Gentleman」。「江南スタイル(GANGNAM STYLE)」が大ヒットした韓国人シンガー、PSYが2013年にリリースした楽曲のカバーで、TikTokではテキスト機能を使った“あるある動画”がミームとなった。そのほかにもハンドメイド、スポーツ、Vlogなど様々なジャンルの動画で使われ、毎週発表のTikTok週間楽曲ランキングでは、2019年12月のランキング発表開始以降、最多となる7度の首位を獲得している。2012年に「馬乗りダンス」で世界中の話題を席巻したK-POPスターが、再び流行のトップランナーとして躍り出た形だ。



 続く2位はYes「Roundabout」で、“#tobecontinued”というハッシュタグ・チャレンジが日本を中心として広がった。また、3位のJake Miller「Rumors」は“Vacation Switch”というMVモードのおすすめ楽曲に起用され、こちらもTikTokならではの広がりを見せた。


 そのほか、スカイピースの☆イニ☆(じん)やきゃりーぱみゅぱみゅなど、多くのインフルエンサーたちがダンス動画を投稿したPut a Donk on It「The New Sweet Groove」が7位、“#イエスorノー”というハッシュタグ・チャレンジが国内外で流行り、日本でも女優の桜井日奈子、THE RAMPAGE from EXILE TRIBEの長谷川慎らが参加したE-40「Choices (Yup)」が8位に入るなど、ダンスやチャレンジがミーム化することで、起用された楽曲の人気も高まっていく展開が続々と生まれた。いずれもTikTokにおける音楽の王道的ヒット・パターンだと言えるだろう。


時代の映し鏡

 こうしてTikTokがきっかけとなり、注目を集めた楽曲が多くある一方、逆に世相がTikTokに波及したケースもある。その筆頭が4位のLiSA「紅蓮華 -TV ver.-」だ。アニメ『鬼滅の刃』のオープニング・テーマとして起用され、2019年末の『NHK紅白歌合戦』でのパフォーマンスも大きな話題となり、先日発表されたビルボードジャパンの2020年上半期チャート“HOT 100”で見事4位をマーク、アニメ部門では1位を獲得するなど、彼女のキャリアの中でも空前の大ヒットを記録した。


 「紅蓮華」を使用したTikTok動画を見てみると、『鬼滅の刃』のコスプレからファン・アートまで、その多くが作品にちなんだものとなっている。漫画連載が5月18日発売の週刊少年ジャンプで最終回を迎え、大反響を呼んだことは記憶に新しく、社会現象を巻き起こしたタイアップ作品の人気、そして「紅蓮華」という楽曲本来の求心力が、新しいものやトレンドに敏感なユーザーが集まるTikTokにも飛び火した結果、今回の上半期ランキングで日本人アーティストとしては最高位となる成績をもたらしたと考えるべきだろう。


 同様のアクションとして、Official髭男dism「I LOVE...」も挙げておきたい。ドラマ『恋はつづくよどこまでも』の主題歌であり、ビルボードジャパンの上半期“HOT 100”で「Pretender」に次ぐ2位をマークした同曲は、TikTok上半期ランキングでは13位を獲得している。やはり“恋つづ”ブームの影響が強く、TikTokでも関連動画が多く投稿されたほか、ドラマの内容や「I LOVE...」の歌詞になぞらえ、恋人やペットへの愛情を表現した動画なども散見された。



日常を彩る“エモい”BGM

 TikTokと音楽の関係において、楽曲の汎用性の高さも大事な要素の一つ。特定のミームが生まれたわけでもなく、タイアップによる社会的浸透度が後押ししたわけでもなく、より自然発生的かつ段階的な広がりを見せるのが、日常のBGMのような形で愛される楽曲だ。中でも昨今のトレンドとして、シティポップやローファイ・ヒップホップなど、ムーディで落ち着きのあるサウンドが好まれる傾向があり、上半期9位に入ったiri「会いたいわ」などはその代表格。


 「会いたいわ 今すぐ会いたいわ」というパンチラインが耳から離れなくなる同曲は、気鋭の音楽プロデューサー、mabanuaの編曲による楽曲で、心地よいグルーヴを醸し出すスロー・バラードだが、こういった音楽性をZ世代の若者たちは「エモい」と感じる。実際に「会いたいわ」は、TikTokアプリ内の「エモい」プレイリストに入れられたことが認知拡大のきっかけとなり、「エモい」気分を引き立たせるようなアニメーションや、家族やカップルの日常を映した動画が人気を集めた。


 2019年のTikTok年間楽曲ランキングで15位に入ったindigo la End「夏夜のマジック」や、今回惜しくも上半期トップ20入りは逃したものの、週間では3月頃からロング・チャートインしていたRin音「snow jam」なども同様で、ロマンティックなシチュエーションや何気ないチルアウトの時間など、日常の1シーンをエモく、お洒落に彩ってくれるBGMとして支持を集めた楽曲も目立った。


音楽シーンの構造変化による影響

 さて、ビルボードジャパンでは2019年の年間楽曲ランキングを皮切りに毎週楽曲ランキングを発表し、TikTok内での音楽トレンドを定点観測してきたが、今年の春頃から顕在化してきた傾向として、TikTokとそのほかのプラットフォーム――Apple MusicやSpotifyなどの定額制(サブスク)ストリーミング・サービスやYouTubeなど――との相関性が徐々に強まってきたように感じる。


 週間楽曲ランキングを発表し始めた当初、例えばビルボードジャパンの“HOT 100”とは全く毛色の異なる顔触れがランクインしており、独自のカルチャーを生み出す土壌が形成されていたような印象を受けたが、本稿でも記述してきた通り、ほとんどTikTok内だけで伝播していくミームなどがある一方、社会的な話題性がTikTok内のトレンドに影響を与えたり、逆にTikTokから知名度を拡大させ、ストリーミング再生回数が急増する展開も増えたほか、中にはTVやラジオといったマスメディアでも紹介されるまでになったアーティストも現れ始めている。


 ビルボードジャパンの“HOT 100”で首位獲得経験もある瑛人「香水」、そして先日3連覇を達成したYOASOBI「夜に駆ける」など、それらのヒットにTikTokが寄与したことは間違いなく、今後もそういった事例は増えていくはずだ。世界中を襲うウイルス・パンデミックの影響で、パッケージ文化が根強い日本でもあらゆる領域のデジタル化/オンライン化が急スピードで進んでいるが、それは音楽シーンも例外ではなく、その変化にうまく適応できるかどうかが今後のカギだろう。引き続きビルボードジャパンでは、チャートの分析や取材などを通じ、音楽シーンの趨勢を占っていく。

TikTok 2020年上半期楽曲ランキング トップ20
1位「Gentleman」

Dance Hits 2015

2位「Roundabout」

Yes

3位「Rumors」

Jake Miller

4位「紅蓮華 -TV ver.-」

LiSA

5位「HIP」

MAMAMOO

6位「SOS (feat. Aloe Blacc)」

Avicii

7位「The New Sweet Groove」

Put a Donk on It

8位「Choices (Yup)」

E-40

9位「会いたいわ」

iri

10位「Laxed Siren Beat Loop」

Jawsh 685

11位「WOAH」

Krypto9095

12位「I'm Just a Kid」

Simple Plan

13位「I LOVE...」

Official髭男dism

14位「Lose Control」

Meduza

15位「ひまわり」

遊助

16位「なにをやってもあかんわ」

岡崎体育

17位「Astronaut」

Kris Roche

18位「HACK」

Shuta Sueyoshi

19位「Boss Bitch」

Doja Cat

20位「チューリングラブ feat.Sou (サビ Version)」

ナナヲアカリ

集計期間:2019年11月25日~2020年5月24日


Text by Takuto Ueda

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