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Billboard Styleの言葉からvol.1「異空間としての六本木」──Billboard Live Newsの既刊号から“音楽のあるライフ・スタイル”を再考する。



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 ビルボードライブ東京が発刊する月刊フリーペーパー[Billboard Live News]。2007年の創刊号から巻末を彩ってきたのが、コラム&インタビューを掲載する[Billboard Style]です。ここでは、約150回にわたって続いているそのページで語られてきた数々の「言葉」をピックアップ。[Style]のタイトル通り、あらためて「音楽のあるライフ・スタイル」を探るシリーズをお届けします。

2007年8月、東京・六本木に[ビルボードライブ東京]がオープンしました。東京ミッドタウンという新たなランドマークに新たな「音楽の場」の誕生、しかも、クラブ&レストランという、いわゆるライブハウスとはひと味違うスタイルで大きな話題を呼びました。第1回目の「Billboard Styleの言葉から」は、その誕生の地である「六本木」にフォーカスして、この街にまつわる言葉をピックアップ。「六本木と音楽」のヒストリーも探ります。

Billboard Live
▲Billboard Live TOKYO


六本木はバンドの「仕事場」だった

 [ビルボードライブ東京]がオープンして2年が経った2009年。日本のロック/R&Bのレジェンド・アーティストのひとり、小坂忠さんが[Billboard Style]に登場。自身の[ビルボードライブ東京]ライブ・ステージへの思いと共に、六本木の思い出を振り返ったインタビュー・コラムの中で、こんな言葉を残してくれています。

『僕がミュージシャンとしてプロデビューをしたバンド=フローラル、そこに細野(晴臣)君と松本(隆)君が合流する形で結成されたエイプリル・フール。二つのバンドのボーカリストとして過ごした1960年代後半、僕にとって六本木は「仕事場」でした。』(小坂忠/Billboard Live News 2009年11月号)

 今のクラブとは違って、60年代当時はバンドが入っているのがディスコの常識。ディスクジョッキーがレコードを回すDJタイムとは別に、バンドのショウタイムが一晩に何回もあって、そこで腕を磨いたアーティアストも数多くいました。それが小坂忠さんの「仕事場」という言葉につながります。

『ロックバンドが演奏できる場所は限られていた当時、仕事といえばディスコのハコバンくらいしかなかった。その中でも六本木の交差点近くにあった[スピード]は、僕たちにとってレギュラーで演奏させてもらえる貴重な場所の一つでした。早熟な高校生だったユキちゃん(高橋幸宏)や小原(礼)、ユーミン(松任谷由実)などもお客さんとして出入りしていましたから、後に日本を代表するミュージシャンなる顔ぶれが、狭いディスコに集まっていたことになります。』(小坂忠/Billboard Live News 2009年11月号)

 まさに奇跡のようなメンバーが集っていた60年代から70年代にかけての六本木。「キャンティ」や「ハンバーガーイン」などのレストランやダイナーも集いの場でしたが、「六本木と音楽」と言えば、やはりダンスフロアを抜きには語れません。「アフロレイキ」「ソウルエンバシー」「クレイジーホース」などに代表される「踊り場/ディスコ」が憧れの地となり、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が大ヒットした70年代後半にはスクエアビルを中心にサーファー・ディスコも乱立。そして「マハラジャ」「レキシントンクイーン」が一世を風靡していきます。

 また、現在のミッドタウンの敷地内にあった日本で最初のソウル・バー「ジョージス」をはじめソウル・バーも数多く、また六本木〜西麻布には「レッドシューズ」「トミーズ・ハウス」、さらに「イエロー」など、多くのクラブが出現して、80年代以降のクラブ・ミュージック・シーンで中心的な役割を果たしました。

 DJカルチャーを生んだという意味では、ソウル・レコード・ショップ「ウィナーズ」と、今ではその品揃えが伝説となっている大型CD&レコード・ショップ「六本木WAVE」の存在も忘れられません。

 さらにライブという意味では、「バードランド」などジャズ系を中心としたライブハウス、1977年に開店した「六本木ピットイン」、1982年オープンの「インクスティック六本木」、そして「STB139」など、無数の感動を生で届けてくれました。

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▲Billboard Style 2009年11月号誌面より。表紙はクリセット・ミッシェルでした。


人が人を呼ぶ「サロン」としての六本木

 そして、もう一人。放送作家であり、現在は数々のプロデュース業などで多彩に活躍する小山薫堂さんは、プレ創刊号のBillboard Styleに80年代の六本木の思い出を寄稿してくれています。まず、高校時代に立ち寄った六本木では「面白いところなど全く見当たらない。それが、昼間だったせいもあるだろうが(中略)完全に肩透かしを食らい、僕は初の六本木体験を終えたのである。」という経験をした小山薫堂さん。そんな彼が大学時代に「背伸びをして、現在のミッドタウン横の桧町公園に面したマンション」に住むようになり、毎晩のように遊びに出かけたという六本木をこう綴ります。

『当時の六本木の魅力は、サロン的なところにあった。六本木の街そのものが面白いのではなく、ここに集まってくる人々が面白かったのだ。面白い人が面白い人を呼び、その結果として街が面白くなった。だからヨソモノがふらっと立ち寄ったところで、何の魅力も感じなかったのだ。』(小山薫堂/Billboard Live News 2007年プレ創刊号)

 人が人を呼ぶという意味では、さきほどの小坂忠さんは、当時、俳優、カメラマン、ミュージシャンなどの仲間と一軒家を借りての共同生活も体験。小山薫堂さんの世代に先駆けた先輩は、「六本木は、ヒッピーの若者たちも受け入れてくれる街でした」と出会いの場としての街を振り返っています。

『当時の六本木にはハイソな社交場という面もあり、僕自身はそんなムードに生意気にも多少の抵抗感を抱いていましたが、大人たちはヒッピーを温かく見守ってくれて、クリエイティブな可能性を秘めた若者には惜しみなく支援をしてくれました。』(小坂忠/Billboard Live News 2009年11月号)

 古くは米軍施設という「ある時代の象徴」があったからこそ、そこにカルチャーが生まれ、ヒップな人間が集ってきた……。時代は変わりましたが、世界中の異文化が交わる、眠らない交差点のDNAは、現在も生き続けているのではないでしょうか。
 小坂忠さんは、そんな六本木への想いをこんな言葉でまとめてくれました。

『思えば「ハンバーガーイン」も、アメリカという「異空間」に誘ってくれる場所でした。仲間たちと暮らした一軒屋は、日常生活の場でありながら、毎日がお祭りのような「非日常」的な空間でもありました。約40年の年月が過ぎて、街並は大きく変わってしまったけれど、僕にとって六本木は今なお変わらない刺激を与えてくれる街なのかもしれません。』(小坂忠/Billboard Live News 2009年11月号)

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▲Billboard Style 2007年プレ創刊号誌面より。
表紙は当時のこけら落としを飾ってくれたスティーリー・ダン。



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