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TOKU&ジョヴァンニ・ミラバッシ対談~国際色豊かな作品がいま伝える愛の重要性~
日本を代表するフリューゲルホーン奏者でヴォーカリストのTOKUが3年ぶりとなるオリジナル・アルバム『TOKU in Paris』を発表した。この作品は、タイトルからも分かる通り、TOKUが実際にフランス・パリで制作し、レコーディングしたものだ。共同プロデューサーに、仏ジャズ・ピアニストのジョヴァンニ・ミラバッシを迎え、親交の深い二人だからこそ生み出せるハーモニーが誕生し、それを世界各国で活躍するプレイヤーとともに奏でる。
フランスでは国内発売に先駆けて、本作がリリースされたが、今年2月に行われたそのヨーロッパ・ツアー中にTOKUとジョヴァンニ・ミラバッシにアルバム制作の裏側について話を聞いた。
――7月1日~7月7日にレコーディングとミックスがされ、7月8日にはマスタリングと、かなり短期間で完成された作品ですね。レコーディング前にできる準備を全て済ませてからレコーディングされたのでしょうか? それとも、話し合いながらレコーディングするくらい、ある程度の余裕はありましたか?
ジョヴァンニ・ミラバッシ(以下:ジョヴァンニ):両方だね。芸術的側面をいくつか事前に準備したし、スタジオで作ったものもあった。ヒットした「Love Is Calling You」なんかは、レコーディングを始めた時は完成していなかった。TOKUがアイデアをいくつか出して、それをスタジオで形にした。プロダクションに関しては、きちんとできるように準備万端で挑んだよ、そこはかなり整理できてなければならなかったからね。ジャズの素晴らしいところは即興で音楽を作れることだ。
TOKU:「Love Is Calling You」は実は意図的に完成させてなかったんです。いくつかアイデアを思いついていたけれど、誰とレコーディングするのか事前に知らされていたこともあり、みんながいい仕事をしてくれるって分かっていたので、スタジオでまとめたかったんですよ。ドラムはキューバ出身のルクミル・ペレスで、彼にはアフリカン・ビートを演奏してもらいたいと以前から考えていました。そしてトーマス・ブラメリーのベース・ラインに関しては、スタジオでアレンジについて話し合ったらあのような感じになりました。メロディーとリズムはすでに頭の中にあったけれど、バンドと一緒にアレンジをして、煮詰めて完成させたかったんですね。
ジョヴァンニ:自分のソロ・アルバムの時もよくそうやっているよ。適任のミュージシャンたちとスタジオで仕事をする利点は、説明しなくても分かってくれるところだ。かなりの頻度で優れたアイデアを出してくれる。自分の楽器を本当によく理解しているし! 例えばドラムの場合、キューバ人にボレロを演奏してくれと頼むと、予想以上の、想像を遥かに超えたボレロを演奏してくれるんだ! それは刺激になるね。
TOKU:曲を作る際、メロディーを思いついていても、わざとギリギリまで曲を完成させないことがあります。我慢できない性格なんでしょうね。昨年、自宅のキーボードが壊れて新品が届くのを待っていたのですが、届いた日に頭の中にあったものを弾いたら、その曲がこのアルバムのために最初に書いた曲「Nuageux」になりました。
ボレロと言えば、僕はあの曲を誰とレコーディングしたいのか自分で分かっていました。頭の中で、「ルクミルならこうやって演奏するだろうな、トーマスはああやって演奏するだろうな」って。一緒にレコーディングするミュージシャンからは大きな刺激を受けます。彼らのことを考えると、曲が聞こえてくるんですよ。曲が形を成してきて、リズムやメロディーが聞こえてきて、全てが一体となるわけです。
――今回、なぜパリで制作しようと思ったのでしょうか? また、なぜパリなのでしょうか?
TOKU:パリに初めて行ったのは2007年。ここでダニエル・ミン・タン(Daniel Min-Tung)という人物について話しておかなければいけません。彼はもう天国に行ってしまったけれど、ジョヴァンニと僕を紹介してくれた人なんです。彼はビジネスマンだったけれど、ジャズを愛していました。仕事で来日するたびに、用事を終えるとジャズ・クラブに行って日本のアーティストを聴いて、彼らのCDを購入してフランスに持ち帰っていましたね。ジャズの大ファンだったわけです。
元ジャズ・プロデューサーでダニエルの友人のイヴ・シェンバーランド(Yves Chamberland)と、ドラマーのヒデヒコ・カンが僕をパリに呼んでくれました。僕は3週間ほど滞在して、毎晩ジャズ・クラブ、バー、レストランなど色々な場所で違うミュージシャンと演奏しました。ロンドンとブリュッセルにも行って、チェット・ベイカーと演奏していた偉大なギタリスト、フィリップ・カテリーンとも演奏しました。熟達したミュージシャンはもちろん、若いミュージシャンにも出会ったし、とにかくいい気分でしたね。ルーヴル美術館にもその時初めて行ったし、街そのものに目を見張りましたね。
それからパリとはしばらく疎遠になっていましたが、ジョヴァンニはしょっちゅう来日していて、そのたびに僕らは会うようにしているのですが、そんな中、ジョヴァンニがプロデュースする素晴らしいヴォーカリストでもありコンポーザーでもあるサラ・ランクマンと演奏してほしいとのことで、彼が10年ぶりに僕をパリに呼んでくれました。彼がサラに僕の音楽を紹介したら彼女が気に入ってくれて、あっという間に実現したんです。それが2017年4月で、翌月にはタイでサラのアルバムのレコーディングをしていました。
レコーディング・セッションのあとは夜にみんなで遊んで、短期間ながらバンドと親しく過ごせた時間でした。そしてサラのアルバムが発売されると、僕はパリでサラとジョヴァンニと演奏するためにまたパリを訪れるようになりました。彼らを介して、トーマス、ルクミル、アンドレ(・チェカレリ)、ローラン(・ヴァーネリー)といった他のミュージシャンにも出会えました。サックスのピエリック(・ペドロン)とは、ダニエルを介してずっと前にニューヨークで出会っていました。初めて会ってから10年くらいが経ったある日、僕たちはたまたま同じ日本のフェスティバルに出演していて、ホテルのロビーですれ違ったんです。互いに、「こいつ知ってるぞ!」ってなって、そこから再び連絡を取り始めて。こういった全ての出会いがつながり始めたことが、このプロジェクトに導いてくれたんだと思います。
――「TOKU」色を加えるのが大変だったとライナーノーツに記載されていますが、その「TOKU」色を言葉にすると、どんな音色、サウンド、雰囲気でしょうか? また、ジョヴァンニさんが考える「TOKU」色とは、どんなものだと思いますか?
ジョヴァンニ:それはかなり難しい質問だね。僕たちがやっていることにはたくさんの色がある。
TOKU:僕が一番好きな色は紫ですね。でも言わない方がよかったかな、ジョヴァンニ、君が僕のことを紫として見るようになるでしょう(笑)?
ジョヴァンニ:日本のアーティストはスタイルを織り交ぜるよね。そこに引き付けられる。僕たち(ヨーロッパのアーティスト)はあまりそれをしない。
このレコードには、“アーティスト=サウンド”という共通の色があり、さらに多種多様なスタイルもある。複雑なことをしたから、一つの色を選ぶのは難しいよ。虹のようだ。
TOKU:僕の場合は色々な種類の音楽を聴きながら育ったからだと思います。ジャズが最後に演奏し始めたジャンルだし。ドラム、ギター、ベースを弾いたし、フォーク・ロック、ポップ・ミュージック、ブラスなども演奏してきましたから。
ジョヴァンニ:それからマイルス・デイヴィスが近くを通り過ぎて、君の人生を奪ってしまったんだね(笑)!
TOKU:4年生の時に父がマイルス・デイヴィスのコンサートに連れて行ってくれたんです。色々な種類の音楽を聴きながら育ったからジャンルの壁はなくて、自分の中では全部一緒です。何をしても自分のやり方でやる。それが自分のスタイルってことかな。
このアルバムでは、リズムとかジャンルに関して多種多様なことをしようとしたのが自分にとって新しかったです。ワルツ、ボレロ、ソフト・ファンク、アフリカン・ビート、ストレイト・アヘッド、ビーバップ、ハード・バップ……全てがここにある。それをTOKU色という一色で彩ったということですね。
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リリース情報
『TOKU in Paris』
- 2020/5/20 RELEASE
- SICJ-30019 3,000円(tax out.) https://sonymusicjapan.lnk.to/TOKUInParisAW
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