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<インタビュー>還暦迎えた杉山清貴の“新たな王道” 意欲作『Rainbow Planet』を語る



インタビュー

 杉山清貴がじつに2年ぶりとなるスタジオ・アルバム『Rainbow Planet』を完成させた。前作から引き続いてプロデューサーにマーティン・ナガノを迎えた今作は、思わず80年代を回想せずにはいられないシティ・ポップから、60歳となった現在のリアルな心境を反映させた大人のバラッドにいたるまで、杉山のスウィート&テンダーなヴォーカルをさまざまな角度から堪能できる1枚。今回はその新作について伺うべく、ZOOMにて取材を敢行。オンラインで杉山に話を聞いた。

Text by 渡辺裕也

ボーカリストとしてチャレンジしたくなった

――ライブの開催も難しい状況が続いてますが、杉山さんはインスタライブやブログなどを通じて、日々ファンとの交流を重ねていらっしゃいますね。

ええ。オーディエンス、ファンの方々に何も約束ができない状況ではありますけど、ありがたいことに今はソーシャル・メディアや動画配信があるので、それをフルに使ってなんとか凌ぐしかないかな、というのが正直なところですね。僕らはライブをやってこそですから、それこそインスタライブとかを通じて、みなさんに少しでもライブを観にきたような気持ちになってもらえたら、僕としてもありがたいんです。

――ブログによると、杉山さんの娘さんはLAにお住まいだそうですが、ご家族とはどのような連絡をとっていますか?

娘は旦那さんとLAで働いてるんですけど、その仕事も今はできなくなってるみたいですね。でも、娘はその間に普段できないことをやりたいと言ってました。彼女はけっこう楽観的というか、今は自分たちだけじゃなくて、みんなが大変な状況なんだから、そんなに悲観的になっていられない、と言ってましたね。

――今回のアルバムに収録されている「Daughter」は、まさにその娘さんにあてた楽曲ですよね。

「Daughter」の詞曲を書いてくれた澤田かおりさんもLAで暮らしている方で、それこそ彼女はうちの娘と年齢が一つしか変わらないんですよ。つまり「Daughter」は、自分の娘と同年代の方が「杉山さんが娘のことを歌ったら素敵だな」と思いながら書いてくださった曲なんです。




――今回のアルバムは杉山さんの心境をそのまま表しているようにも聴こえるのですが、実はその歌詞の多くは他のライターさんが提供したものなんですよね。

そうなんです。僕が自分で歌詞を書くと、基本的には心象よりも情景を描写することが多いので。ただ、今作では1曲だけ自分の哲学みたいなものも書いてみたんです。なんかそれがタイミング的にも面白いというか。まさかこういう事態になるとは思っていませんでしたからね。

――近年の杉山さんはプロデューサーのマーティン・ナガノさんとタッグを組んで、さまざまな作家さんと楽曲を制作されています。それまでのセルフ・プロデュースから離れて、こうした体制で制作を続けている理由を改めて教えていただけますか?

2016年に『OCEAN』というアルバムを作り終えた時、なんというか、腑に落ちる感じがしたんですよ。詞の世界にしても、サウンド面にしても、「ああ、俺はこういうアルバムがずっと作りたくて今まで試行錯誤してきたんだな」と思えたというか。こうして毎年アルバムを作っていると、その度に「ああ、もっとやれたな」みたいな気持ちになるんですけど、『OCEAN』の時はそれが一切なかった。そういうのもあって、次は自分では作らないような楽曲をさまざまな作家さんからいただいて、ボーカリストとしてチャレンジしたくなったんです。

――『Driving Music』以降のアルバムはすべて、ボーカリストとしての表現を突き詰めてきた作品だったと。

というか、自分のクセってだいたい決まってくるじゃないですか。だから、自分で作った曲のレコーディングはそんなに冒険しなくてもすんなりいけるんですけど、人からいただいた曲にはその人の思いとかも入ってくるので、やっぱりそこは丁寧に考えて表現しなければいけない。そこがやっていて面白いんですよね。

――なるほど。

あと、自分で曲を作ってると、つい「このキーはちょっと高すぎるかな」みたいな感じで、自分で限界を決めてしまいがちなんですけど、人から提供していただくとなると、そこで「キーを下げましょう」とは悔しくて言えませんから、「よし、このまま歌ってやろう」と思うんですよね(笑)。しかも、そこで発声の仕方を変えたりしてみると、意外と歌えちゃったりするんですよ。そういう発見があるのも楽しいし、刺激になるんです。


等身大の自分をどう表現していけるか

――マーティンさんと継続してタッグを組んできたなかで、阿吽の呼吸も生まれつつあるのでは?

そうですね。彼と最初に作った『Driving Music』は、お互いがまだ探り合ってる感じだったけど、その次の『MY SONG MY SOUL』から「杉山さん、こういうのをやってみたら面白いんじゃない?」みたいなことが増えてきて。今作は「ここはもう、杉山清貴の王道でいきましょう!」みたいな感じでしたね(笑)。いずれにしても、僕はマーティンさんたちに杉山清貴を面白がってほしいんですよ。「杉山にこれを歌わせたらどうなるんだろう?」みたいな視点で、僕に楽曲を預けてほしいというか。

――それぞれが思う杉山清貴を曲にしてほしいと。

そうですね。マーティンさんは本当に人脈が広くて、僕が出会うことは多分ないような作家さんやミュージシャンたちをたくさん紹介してくれる。今回も20代の作家が二人参加してくれてるんですけど、彼らがまた、僕らに一番しっくりくるような曲を書いてくれたんですよ。そういうのもクセになるというか。

――たしかに今作は、サウンド的にも非常に杉山さんらしい作風だと感じました。

自分が昔ハマっていたような80年代の音楽って、僕にとってはすでに通過してしまったものでもあるから、それを今の自分がやろうとしても、なんか違うんですよね。でも、若い子たちはそれを原体験として受け止めているので、結果的にそれが杉山清貴っぽくなる。「たしかに俺、昔こういう感じの曲を書いてたな」みたいに思えるというか。

――近年は80年代の音楽が「シティポップ」という言葉とともに再定義されていますよね。

ええ。だから今、20代の彼らと話をしてると、なんか同世代と喋ってるような感覚になるんですよね。「Rainbow Planet」を作ってくれた宮野弦士くんは、スティーリー・ダンが大好きらしくて、僕からすれば「そうだよね~!」みたいな感じだし(笑)。かと思えば、ブルー・ペパーズの福田直木くんが70年代のウエストコーストっぽい「Other views」という曲を持ってきたり。



杉山清貴「Other Views」ミュージックビデオ

――その流れに「誘惑のChaChaCha」のようなラテン・ナンバーが入っているのも新鮮でした。

「誘惑のChaChaCha」を作ってくれた成田忍さんは僕の一つ年上なんですよ。そういう方があんなに攻めまくった曲を持ってきてくれた。それぞれの世代観が今作にはよく表れてますよね。

――杉山さん自身が作曲した「もう僕らは虹を見て、綺麗だとは言わない。」は、まさに杉山さんの世代だからこそ歌える大人のバラッドですね。

そういうところもしっかり出していきたいと思ってます。というのも、こうして還暦を迎えると、さすがに甘ったるい恋愛の歌は書けないんですよ(笑)。使い古された言葉かもしれないけど、等身大の自分をどう表現していけるかってことが、これからの課題なんじゃないかなと思ってます。


今の時代にまた20代がやりたい

――アルバム1曲目の「Omotesando'83」は、杉山さんのデビュー当時を回想したような曲で、サウンド的にもまさにシティポップ。こちらは杉山さんが歌詞を手掛けていますね。

僕がデビューしたのはまさに83年のことで、当時の事務所が表参道にあったんです。それで毎日のように表参道に足を運んでいたんですけど、松下昇平さんからいただいたデモテープを聴いたら、その光景がフラッシュバックのように浮かんできてしまって、「うわ、懐かしい!」みたいな(笑)。なので、これは音からインスパイアされた歌詞ですね。

――当時の表参道って、きっと今とはまったく違うムードだったんでしょうね。

そうですね。80年代の表参道はファッションもパステルカラーが流行ってたりして、20歳くらいの学生が生意気にもスーツを着て歩いてたり(笑)。とにかく街がきらびやかだったんです。そういう特別な時代の記憶が、あの音によってすべて蘇ったというか。しかも、当時の僕らはこれからデビューするっていう状況でしたからね。高校生の頃からの仲間たちと同じバンドでプロとしてやっていけるっていうワクワクがあった。そういう時代ですね。

――オメガトライブの再結成も、当時を回想するきっかけになったのでは?

それはありますね。やつらとの時間を共有したことによって、当時の記憶が気持ち良く鮮明になった。あと、この曲は歌詞のなかに「レコード」が出てくるんですけど、今の時代は「レコードって古くない?」みたいな感覚もなくなってきてるじゃないですか。僕自身、ここ2年くらいは家でもずっとアナログで音楽を聴いてるので、やっと普通に歌詞にレコードという言葉が書けるなって(笑)。




――実際、今回のアルバムはアナログ・レコードを意識したような構成になっているようにも感じました。

まさにそこは考えてました。今はシャッフルで聴かれる時代ですから、曲順なんかどうでもいいのかもしれないけど、やっぱり僕らの思いはそこに込められるんですよね。特にアナログで作っていた頃はA面の最後やB面の始まりを意識しながら物語を考えていたし、レコードをひっくり返すという行為があると、やっぱり作品に対する気持ちがぐっと高まるんですよね。ただ流しているだけじゃない、自分もそこに参加しているという感覚になれる。だから、今また若い世代がアナログで音楽を聴き始めているのはとても良いことだと僕は思ってるし、そこに思いを込めるってことを忘れちゃいけないなと最近また思ってますね。

――アナログ・レコードへの変わらない愛着を抱きつつ、どうやら杉山さんは今の時代をとても楽しんでいらっしゃるようですね。

いやもう、できることなら僕は今の時代にまた20代がやりたいですよ(笑)。もし僕が20代の頃にYouTubeがあったら、間違いなくガンガン使ってたでしょうね。あと、最近いいなと思ってるのが、80年代から90年代にかけて時代が移り変わっていった頃って、例えば70年代っぽいサウンドにしようとすると、周りから「今はそんなの古いよ」とか言われちゃってたんです。でも、今はそんなことないじゃないですか。古いとか新しいとか、そういう価値観じゃないところでみんなが表現できている。

――今はインターネットを介してどの時代の音楽にもアクセスできますからね。すべての音楽が横ならびになっているというか。

まさにそう。今の時代はそれぞれの趣味嗜好でやりたいことを選べるんですよね。最近は大ヒット曲がなくて寂しいという大人もなかにはいますけど、僕はそんなのなくたって別にいいと思ってる。だって、今は自分が好きなものをとことんやれる自由があるんですから。僕は自分が聴きたいと思える音楽を作りたいとずっと思ってるし、やっぱりそれが理想なんですよね。

――その視点でいくと、マーティンさんとの3部作の手応えはいかがでしょうか。

ものすごく手応えがありますね。『Driving Music』の時は、「え、これ俺が歌うの?」みたいに感じたこともあったんですけど、それがいざやってみると「イケるじゃん!」と思えたり。やっぱり何事もやってみないと分からないんですよね。

――となると、マーティンさんとの体制は今後も継続されていくのでしょうか?

お互いが飽きるまではやりたいと思ってます(笑)。一人じゃできないこと、彼がいるからこそできることがたくさんありますからね。

――今は音楽関係者すべてが難しい局面に立たされていますが、杉山さんは今後どのような活動を展開しようと現時点で考えてますか。

これからもいろいろ模索していこうと思ってます。時代が変われば人間も変わるわけで、そこで若い人たちに古いものを押し付けても意味はないと思う。だから、僕らが変わっていかなきゃダメなんですよ。もちろん不安はあります。いつからライブができるようになるかも分からない状況ですしね。でも、それを考えてたら何も進みませんから。さまざまな選択肢が目の前に広がっているなかで、自分はどう動いていくか。そこを楽しみながら考えていきたいですね。


Interviewed by 渡辺裕也

杉山清貴「Rainbow Planet」

Rainbow Planet

2020/05/13 RELEASE
KICS-3897 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Omotesando’83
  2. 02.二人の色彩
  3. 03.誘惑のChaChaCha
  4. 04.Daughter
  5. 05.暗闇を照らす微笑み
  6. 06.Rainbow Planet
  7. 07.Fall in you
  8. 08.Other Views
  9. 09.君がどんな遠くにいても
  10. 10.もう僕らは虹を見て、綺麗だとは言わない。
  11. 11.Velvet Moon (2019 Christmas concert ver.) (Bonus Track)

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