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<インタビュー>角松敏生、80年代の日本への郷愁、愛情と再認識、そして風刺 ~REBIRTHシリーズ第2弾『EARPLAY ~REBIRTH 2~』リリース~



 5月13日にリリースされた8年ぶりとなるREBIRTHシリーズの第2弾『EARPLAY ~REBIRTH 2~』は、ライブアレンジを中心としたリメイクアルバムだ。今回の新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言の影響で発売延期となっていたが、今回ついに発売。ステイホームの中、メールインタビューを敢行した。

80年代の日本への郷愁、愛情と再認識、そして風刺

CD
▲『EARPLAY ~REBIRTH 2~』

――過去の楽曲をリメイクするコンセプトのREBIRTHシリーズ。長年レーベルから依頼されていた2012年『REBIRTH 1』に続く第2弾『EARPLAY ~REBIRTH 2~』の発表となりました。

角松敏生:ここ数年、様々なライブ形態を恒例化するということに努めてきました。2017年の『SEA IS A LADY 2017』のリリースとインストツアー、2018年『Breath From The Season 2018』のリリースとビッグバンドツアー、2019年の『東京少年少女』のリリースとそれに伴う各地のダンスパフォーマーとの共演、といった形で具現化してまいりました。そして今年のツアーテーマにしたのが『REBIRTH 2』というわけです。2019年は今の私の「新しい表現のあり方の一つ」を提案したので、今年は昔ながらのファンにも喜んでいただけるオーソドックスな娯楽作品を目指しました。しかし、ただ懐古的なだけではなく、40年のスキルを総動員して制作しましたので、当然80年代とはまた違った成熟したアプローチをお届けできていると思います。他にも入れたい曲はありましたけどね、キリがないですね。あと時間もなかった(笑)。発売が5月に延期になると最初からわかっていれば、あと2、3曲は入れられたかも(苦笑)

――AORの名盤、AIRPLAY『AIRPLAY』のジャケットやタイトルをパロディーにしようとした理由を教えてください。

角松:アルバムジャケットを見て大笑いした方も多いと思いますが、これはデイビッド・フォスターとジェイ・グレイドンという二人の音楽家、音楽プロデューサーのユニットが、80年に発表したアルバム『AIRPLAY』のパロディーです。この『AIRPLAY』発表当時はまだ数少ない輸入盤店でしか手に入らなかったものでして、当時のお洒落な大人たちが好んで聴くタイプの音楽、という表現がわかりやすいのですが、日本人が「AOR」と呼ぶこのタイプの音楽は正確には米国本国ではアダルト・コンテンポラリーと、呼ばれるタイプの音楽です。「大人向きの」とか、「洗練された」などのニュアンスが込められていると思いますが、そういう意味では、日本人が考えた、アダルト・オリエンテッド・ロック「AOR」という表現も、あながち間違いではないかもしれませんね。とにかく日本では当時はそういうキザな大人たちが好んで聴いていた音楽の部類。大人たちと表現したのは、これらの音楽が生まれた時代、僕はまだ19やそこらでしたから、背伸びしたい若者だった私にとっては格好の教科書だったわけです。



角松:事実、この時代のアメリカの音楽シーンは、ロック、R&B、ジャズ、クラシック様々な音楽のジャンルがクロスオーバーする壮大で素晴らしい実験場でした。70年代終わりから90年代初頭までに創られた多くのジャンルの音楽が、そのまま現在の大衆音楽の礎となっているのは明白です。僕や今回一緒に遊んでくれたキーボードの小林信吾さんなどは、まさにこの時代の音楽の洗礼を受けてプロになった世代。僕らの世代は、今の若い連中たちと違って、何を聴いてきたとか、何に影響を受けたとかを「言わない」世代(笑)なのですが、僕は、自分が影響を受けてきたものを比較的わかりやすく表現してきました。ただ、ここまであからさまに「これ聴いていましたか? 聴いていましたよねぇ?」的なことやっちゃうのは今の年齢になったからこその余裕かもしれません。僕たちはプロなのでいつでも時代を客観的に凝視する視点を持っていました。この『EARPLAY ~REBIRTH 2~』は80年代の日本という、馬鹿馬鹿しくも偉大な時代への郷愁、愛情と再認識、そして風刺を込めた作品です。

――ジェイ・グレイドンは、9thアルバム『REASONS FOR THOUSAND LOVERS』(89年)でもギタリストとして起用していますが、どんな影響を受けたのか、そして実際に会ってどう感じたのか教えてください。

角松:とにかくロックという括りに知性を持ち込んだというか、ジャズ的なアプローチを含め幅広いロジックを持ち込むことで、ものすごくスタイリッシュなものになるのだということを教えられましたよね。色んな音楽を勉強しなくちゃいけない(笑)ということを学びましたよね。ジェイ・グレイドンさんは、実際に僕のアルバムにも数曲参加してくださっていますが、とにかく、職人さん的な印象ですね。とても個性的な不思議な(笑)人でしたが、仕事へのこだわりといいますか、自分のギターへの細部にわたるこだわりは、共感できましたね。

――今回洋楽カバーを2曲収録しています。AIRPLAYの「Cryin' All Night」を選曲した理由は何でしょうか?

角松:ジャケットでここまでパロったので中身でも何かやらなきゃ、と(笑)。『AIRPLAY』には他にも有名なメジャーナンバーが多く収録されていますが、あえて選んだのがこの曲。「Cryin' All Night」は『AIRPLAY』A面2曲目。この手のアレンジは本邦でも80年代、歌謡曲の編曲家が好んで模倣したもので、当時の時代を象徴するのに相応しい楽曲です。しかし、聴いていると本当にポップな曲ですが、解体、解析すると、実に緻密、複雑、高度な手法で作成された楽曲であることが改めて判明し、“AIRPLAY”はじめ、当時の米国のミュージシャンの先進性、優秀さを改めて感じましたね。僕と信吾さん、森君、鈴木君とで、再現実験室みたいな感じでスタジオで構築したのですが、本当に楽しかったですよ。ピアノのボイシングはこうだとか、ギターのフレーズはこうだったとか、シンセの音色はこれだったとかね。分かる人にしか分からない、オタクの部活みたいな感じでした(笑)。

――ブラコンのスタンダードでもある「Can't Hide Love」を選曲した理由は何ですか? 小林信吾さんと共同アレンジになっています。

角松:「Can't Hide Love」はEW&Fの隠れた名曲で、多くのアーティストがカバーしていますが、本作ではジェイ・グレイドンがプロデュース、デイビッド・フォスターも参加したディオンヌ・ワーウィックのカバーバージョンをテキストにして制作しました。このバージョンの「Can't Hide Love」は、まさにプロのミュージシャンが好む、いわゆる通好みのやつであります。小林さんも森くんも、よくライブのリハーサルの合間にふと手休めにこの曲のイントロ弾いていたりしましてね。それだけプロミュージシャンにとっても印象深いものなんですね。



角松:洋楽カバー曲は当初から信吾さんにベーシックアレンジをしてもらおうと思っていました。“AIRPLAY”の曲だけでなく、フォスター、グレイドンの表立たない一流の仕事にスポットを当て、それに対してのリスペクトをこういう形で取り上げるのは、プロがプロに対して払う敬意とは、かくあるべき、と思うからです。オリジナルのどの部分をコピー再現するかに拘ったのもそういう意味です。

――コーラスワークが聴きどころでもある曲です。今回初参加のコーラスの亜季緒さんとは、どういう出会いだったのでしょうか?

角松:亜季緒さんはこの夏やるはずだったツアーでバックシンガーを務めることが決まっていた小此木さんに紹介していただいた方です。まりちゃんの相方誰にする? 誰かいい人いませんかと。上手い人に「自分が一緒に歌うとしたら」という意味で紹介していただくという方法は理にかなっていて、上手くない人を紹介するはずがないのです(笑)。亜季緒さんはまだ20代後半ですが、素晴らしいシンガーとまた出会えました。もちろん、ライブを意識してのコーラスのパート分けをしましたが、この二人のブレンドはなかなかの出会いものでした。

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角松敏生「EARPLAY ~REBIRTH 2~」

EARPLAY ~REBIRTH 2~

2020/05/13 RELEASE
BVCL-1065 ¥ 3,300(税込)

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Disc01
  1. 01.I CAN GIVE YOU MY LOVE
  2. 02.Cryin’ All Night
  3. 03.DISTANCE
  4. 04.Take It Away
  5. 05.Can’t Hide Love
  6. 06.CRESCENT AVENTURE
  7. 07.Lost My Heart In The Dark
  8. 08.I Can’t Stop The Night
  9. 09.End of The Night
  10. 10.ALL IS VANITY

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