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<コラム>音楽と喝采は鳴り止まない。~2020年の[ビルボードライブ]~ #bblthrowback
バンドが紡ぎ出すサウンドが響き、ヴォーカリストの歌声がクラブを満たす。そして客席からは拍手と歓声が鳴り止まない……ここに掲載したライブ写真のように[ビルボードライブ]では、そんな光景が連夜、当たり前のように繰り広げられてきました。
いま、その「当たり前」が叶わないという現実があります。新型コロナウイルスの感染拡大防止策、それに伴う渡航の制限などにより、公演の中止・延期を連日お伝えしなければならないことの申し訳なさと残念さ、訃報が伝えられたアーティストへの思いを胸に刻む日々が続いています。
▲Kamasi Washington (Photo/Masanori Naruse)
▲Jimmy Cliff (Photo/Yuma Totsuka)
しかし、新型コロナウイルスの世界的な蔓延の中で「音楽」は止まってしまったのでしょうか。もちろん答えは「ノー」。ライブという形では実現できなくとも「音楽」は鳴り止んではいません。例えば、ロックダウンとなったイタリアの街角で、自室にいながら窓を開けて音楽を一緒に楽しむ人たちの姿も2020年の記憶に刻まれています。
そして、国内外のアーティストからは、この事態を受けて、たくさんのメッセージが発信されています。特に、記憶に新しいのは、4月18日(日本時間では4月19日)に様々な動画配信サービスや、海外の放送局が合同で放映した「One World: Together At Home」。レディー・ガガが呼び掛け人となり、ポール・マッカートニーや、ローリング・ストーンズ、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、そしてビリー・アイリッシュなどなど、名だたる世界のスターたちが自宅からのライブ演奏を届けてくれたこの番組は、「現代のライブエイド」とも呼ばれ、今も最前線でウイルスと戦っている多くの医療従事者の勇気を讃えるとともに、世界中のリスナーに、癒しと希望を与えてくれました。
▲Patti Smith (Photo/Masanori Naruse)
▲Robert Glasper (Photo/Masanori Naruse)
もちろん、行動の自粛が要請された日本でも配信でライブを届けるアーティストが多数登場。また、[ビルボードライブ]でかつてパフォーマンスを披露してくれたエリカ・バドゥやベイビーフェイス&テディー・ライリーらも自宅からのライブを配信しています。
さらに、マドンナ、ショーン・メンデス、ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデ、リアーナ、YOSHIKIなど、国内外の多くのアーティストが医療機関や関連団体などへの寄付を行っています。日本では文化施設閉鎖への助成を求めた「#SaveOurSpace」の署名活動が行われ、数多くのアーティストが賛同人に名を連ねると共に、30万筆を超えるリスナーや関係者の署名を集めました。
もちろんアーティストが発信するメッセージがすべて「正しい」とは限りません。SNSがフェイク・ニュースや曖昧な情報の拡散の温床となってしまうことも、この状況の中であらためて浮き彫りになったことのひとつです。しかし、多くのアーティストは、その点もしっかりと見極めた上でメッセージを発信し続けています。そして、それが世界中のファンに届いているはずです。
▲Julien Baker (Photo/Yuma Totsuka)
▲Erykah Badu (Photo/Masanori Naruse)
アーティストの言葉に説得力があり、アーティストとファンのつながりがリアルである理由……それを突き詰めたときに、そこにあるのが「音楽」なのではないでしょうか。アーティストが奏でてきた「音楽」を信頼し、ときには泣き、ときには笑い、拍手喝采をしてきた音楽ファンが、「音楽」でつながることの意味をあらためて噛みしめているいま、そこには新しい喝采が生まれているのではないでしょうか。
SNSがそのつながりを生んだ場であることと同様に、[ビルボードライブ]は、ライブで「音楽」を届ける場所です。この機にその意味をあらためて問い直し、今後もさらに快適で喜びにあふれた「場」でありたいと考えています。
[ビルボードライブ]のステージには、ずっと「音楽」が鳴り続けています。「音楽」への喝采も鳴り止んではいません。当たり前の日々が早く戻るように祈りながら。
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ステージ写真:板橋淳一