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ザ・ストロークス 7年ぶりの新作『ザ・ニュー・アブノーマル』を解説



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 ザ・ストロークスの7年ぶりとなるニュー・アルバム『ザ・ニュー・アブノーマル』が4月10日に全世界同時リリースされる。2000年代に“ロックンロール・リバイバル”を巻き起こしたインディー・ロック・バンドの最新作のリリースに合わせて、これまでのバンドの功績と最新アルバムの聞きどころをピックアップしてご紹介する。

英米チャートを席巻、その人気は日本でも

 1999年に米ニューヨークで結成され、2001年にEP『ザ・モダン・エイジ』、そして名盤として受け継がれる1stアルバム『イズ・ディス・イット』でデビューを飾った5人組インディー・ロック・バンド=ザ・ストロークス。気づけば来年デビュー20周年という節目を迎えるわけだが、彼らが2000年代以降のロック・シーンにおいて重要な役割を果たしたということは言うまでもない。“ロックンロール・リバイバル”と謳われた独自のセンスは、後のアーティストのみならず先陣等にも影響を与え、辛口の各音楽メディアからも絶賛されている。

 2002年の初来日公演はチケットが即完売し、急遽会場の規模を大きくするという伝説を残したザ・ストロークスは、翌2003年は【サマーソニック】で2年連続の来日を果たし、2006年には【フジロック】にヘッドライナーとして出演。2011年には2度目の【サマーソニック】でヘッドライナーを務め、大成功を収めた。このことからも、彼等の日本での人気がいかに高いかを物語る。日本のみならず、世界中で多くのファンを獲得しているザ・ストロークスだが、特に高い人気を誇るのがイギリスで、これまで発表した5枚のスタジオ・アルバムは全てトップ10入りを果たしている。そのチャート含め、彼らの功績をアルバムごとに振り返ってみよう。

『イズ・ディス・イット』(2001年)

 ローリング・ストーン誌による「2000年代ベスト・アルバム100」の2位に選ばれた、ロックの歴史における重要作品。全英アルバム・チャートで最高2位を記録し、アイルランドやオーストラリア等の主要国でもトップ10入りを果たしている。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”では33位どまりだったが、アメリカだけで累計100万枚を突破するロングヒットとなった。ガレージ・ロックを主としたまさに“ロックンロール・リバイバル”なサウンドが満載。翌2002年の【ブリット・アワード】では、<ベスト・インターナショナル・ニューカマー>を受賞した。



『ルーム・オン・ファイア』(2003年)

 ファンの間で人気の高い「レプティリア」や、全英チャートでシングルとしては初のトップ10入りを果たした「12:51」(英7位)を含む2ndアルバム。前作の大ヒットとアワード受賞効果もあり、イギリスでは前作に続き2位、全米アルバム・チャートでは最高4位を獲得。アメリカでもトップ10に初ランクインした。前作を継承したような内容に賛否の声もあったが、プレッシャーを跳ね除けこれだけのクオリティを保つことができたのはむしろ快挙。プロデュースは、前作同様、ゴードン・ラファエルが担当した。


『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』(2006年)

 全米では前作に続き4位、全英アルバム・チャートでは初のNo.1を獲得した3rdアルバム。先行シングルとして発表した「ジュースボックス」は、米オルタナティブ・ソング・チャートで9位、UKシングル・チャートでは5位を獲得し、現時点での最高位を記録。同年の【NMEアワード】では、<最優秀ビデオ賞>にノミネートされた。前2作はジュリアン・カサブランカス(Vo.)が主導で作られたアルバムだったが、本作はメンバー全員が制作に関与し、プロデューサーも新たにデヴィッド・カーンを起用したことで、サウンドにも革新的な変化がみられた。


『アングルズ』(2011年)

 前作同様、メンバー全員が制作に参加した4thアルバム。全米アルバム・チャートでは3作連続の4位、全英チャートでは3位を記録した。ゴールドディスクに認定された先行シングル「アンダー・カヴァー・オブ・ダークネス」は、ビルボード・ジャパン総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で9位にランクインし、日本における初のトップ10ヒットとなった。トラブル続きで制作がスムーズにいかなかったそうだが、ニューウェイブやシンセ・ポップといった今までにないサウンドが楽しめる。プロデュースは80年代初頭から活躍するベテラン、ジョー・チカレリが担当。


『カムダウン・マシン』(2013)

 わずか2年で完成した5thアルバム。一切のプロモーション活動をしなかったにもかかわらず、全米・全英両アルバム・チャートで10位にランクインした。従来のサウンドと新しいアレンジが混合した楽曲は高く評価され、メディアやファンのコメントには「カムバック」という表現も多くみられた。プロデューサーは、前作にも参加したガス・オバーグ。それから3年後の2016年にリリースしたEP『フューチャー、プレゼント、パスト』も、小粒ながら良い作品。そして今年、その『カムダウン・マシン』から7年ぶりとなる新作『ザ・ニュー・アブノーマル』がリリースされる。


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伝説的プロデューサーが参加
全曲がストロークスの在り方を明示する佳曲

 前作『カムダウン・マシン』から約7年ぶり、通算6作目のスタジオ・アルバム『ザ・ニュー・アブノーマル』が遂に完成。本作は、レコードレーベル<Def Jam>の創設者としても知られるリック・ルービンがプロデュースを担当している。リック・ルービンは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやスリップノットといったロックバンドの他、カニエ・ウェストやジャスティン・ティンバーレイクなど、ジャンルをクロスオーバーして著名アーティストを多数手がけてきた重鎮。それだけに、これまでとはまた違う表現と進化が伺える。

 レコーディングは、U2やボブ・ディラン、ニール・ヤング等トップ・アーティストが多数使用した米カリフォルニア州マリブにあるシャングリラ・スタジオで行われ、カバー・アートには彼等と同じニューヨーク・ブルックリン出身の画家、ジャン=ミシェル・バスキアの『バード・オン・マネー』という絵が使われている。いずれも妥協を許さないザ・ストロークスならではのこだわりだ。

 アルバムからは、3曲の先行シングルがリリースされている。1stシングルの「アット・ザ・ドア」は、細やかなサウンド・プロダクション、壮大な展開、ジュリアンの情感的なボーカルが相まった大傑作で、聴き終えた後はひとつの短編映画を観終えたような充実感に浸ることができる。キャリアを重ねたからこそ醸せる余裕と、底力を見せ付けられた。全編アニメーションで構成されたミュージック・ビデオは、『ヒーマン・アンド・マスターズ・オブ・ザ・ユニバース(原題)』という古いアニメにインスパイアされたものだそう。曲と歌詞の世界観を見事に表現した、こちらもすばらしい作品に仕上がっている。同曲は、11月の米大統領選に挑む同ニューヨーク出身のバーニー・サンダース氏による政治集会で初披露され、話題を呼んだ。


 「アット・ザ・ドア」の早1週間後には、2dnシングル「バッド・デシジョンズ」をリリース。ビリー・アイドルの「ダンシング・ウィズ・マイセルフ」(1981年)をモチーフにしたアップ・チューンで、原点回帰ともいえる仕上がりに歓喜の声が沸き上がっている。発売同日に公開されたミュージック・ビデオも、70~80年代のMVを彷彿させるレトロでユニークな作品。“誰か”のために悪い決断をしてしまうという内容の歌詞は、幼少期に離婚したジュリアンの両親が絡んでいるとの説も? なにはともあれ、この曲で新作『ザ・ニュー・アブノーマル』への期待値が高まったことは間違いない。メンバーが「We're Back!」とコメントしていただけはある。そしてアルバム・リリース直前にダンサブルなナンバー「ブルックリン・ブリッジ・トゥ・コーラス」を発表している。



 アルバムは、スピード感あるポスト・パンク「ジ・アダルツ・アー・トーキング」で幕を開け、都会的で洗練されたミディアム「セルフレス」、ギター・ロックバンドらしさを強調した、地元愛に溢れる「ブルックリン・ブリッジ・トゥ・コーラス」と、冒頭からセンス抜群のタイトルが並ぶ。7年間待ち続けた鬱憤も、一気に解消されるだろう。ファルセットを強調した80年代NW風味の「エターナル・サマー」、THEローファイというべく「ホワイ・アー・サンデイズ・ソー・ディプレッシング」、マイナー・コードが哀愁を漂わすグラム・ロック「ノット・ザ・セイム・エニモア」、静と動を巧みに使い分けたドラマティックな展開の「オード・トゥ・ザ・メッツ」。9曲すべてが、彼等の在り方を明示する佳曲と太鼓判を押す。

 進化するロック・シーンにおいて、またひとつ名作を生みだしたザ・ストロークス。アルバム毎に挑戦と進化を遂げてきた彼等だが、甘美なメロディラインや良質なグルーヴといった骨格はそのままに、さらに成熟したボーカルや演奏を聴かせてくれた。これまでの作品もそうだが、本作はアルバム全体の流れもすばらしい。長い期間を経て一つの境地に辿り着いた、バンドの魅力と凄まじさを実感させられる。及第点を超えた本作以降、これからも我々ファンを魅了し続けてくれることだろう。

 本作を引っ提げて、2020 年8月21日(金)~23日(日)に苗場スキー場で開催される【フジロック・フェスティバル '20】 の2日目のヘッドライナーとして出演するザ・ストロークス。同ヘッドライナーを務めた2006年以来、14 年ぶり、二度目の出演となる【フジロック】のステージで、またひとつ伝説を残してくれるだろう。


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