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2019年上半期・下半期チャートから考察する「アーティストのヒット・フェーズ」



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アーティストのヒット・フェーズを考察

 複数のデータから構成されるビルボードジャパンの総合チャート。前回のコラムでは、ソング・チャートとアルバム・チャートを合算し、アーティスト別で集計したランキング“TOP ARTISTS”の2019年上半期結果を用い、指標別の総ポイントにおける各アーティストの占有率を計算、その値が大きい指標順(Type1、Type2…)にアーティストのタイプ分類を行った。

 今回は計8種類のデータからなるソング・チャート“JAPAN HOT 100”から、2019年上半期および下半期集計の結果を抽出し、楽曲別でタイプ分類する。とりわけ本稿では昨今の音楽市場の動きを踏まえ、今後ますます増えていくであろうストリーミング型の楽曲を中心とし、それぞれのType1およびType2の推移から各アーティストが置かれているヒットのフェーズについて考えていきたい。

<集計期間>
2019年上半期:2018年11月26日(月)~2019年5月26日(日)
2019年下半期:2019年5月27日(月)~2019年11月24日(日)

<チャート構成データ>
CD=CDセールス DL=ダウンロード STRM=ストリーミング R=ラジオ
MV=動画再生 LU=ルックアップ(PC等によるCD読取数) TW=ツイート K=カラオケ

あいみょん、Official髭男dismに続くのは…?

 まず上半期タイプ分類でストリーミング型となり、なおかつ下半期チャートで総合100位内に入った楽曲を見てみる。該当するのは以下の17曲だった。

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表1

 あいみょんが4曲を送り込む形となっている。「マリーゴールド」は2018年夏にリリースされた楽曲で、この年に一気にブレイクし、年末には『NHK紅白歌合戦』初出演を果たすまでになった彼女にとって、まさしく人気の火付け役となった代表曲だ。また同時に、リリース当時はサブスクリプション型音楽ストリーミング・サービスが今ほど普及していなかったこともあり、日本でストリーミングから生まれた最初のヒット・ソングと言われることも多い。

 さらに「マリーゴールド」は、新曲のリリースが過去曲の掘り返しを促進させるという、膨大なカタログにアクセスできるストリーミング・サービスならではのヒット・モデルも確立させた。「マリーゴールド」以降のストリーミング発ヒット・ソングとして筆頭に挙がるであろうOfficial髭男dism「Pretender」は、下半期タイプこそストリーミング型となったが、配信開始された4月17日が上半期チャート集計期間終盤だったこともあり、上半期タイプはラジオ型だったので、表1には入ってない。ただ、それでもOfficial髭男dismは「ノーダウト」「115万キロのフィルム」「Stand By You」の3曲がストリーミング型となっており、すでに上半期時点で「Pretender」を起点とした複数曲ヒットの兆しが表れていたことが分かる。

 次に下半期タイプがストリーミング型となった楽曲を見てみよう。

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表2

 総合100位内に入ったのは22曲で、そのうち6曲がOfficial髭男dismだった。やはり「Pretender」のヒットが過去曲のチャート・アクションにも波及する形となり、上半期のあいみょん同様、複数曲がストリーミングで上位をマークする結果となった。こういった事例から、ロング・ヒットするアーティストの傾向として、話題の新曲が一人歩きするのではなく、そのアーティストの様々な音楽性に触れさせ、ファンを増やしていく動きが重要なのだと考えられる。

 あいみょん、Official髭男dismの例を踏まえると、ここで複数曲がエントリーしているMrs. GREEN APPLEは、ストリーミングを起点として2020年以降、さらに飛躍する可能性が高いのではないだろうか。ヨルシカは100位内では1曲に留まったものの、300位内では3曲がストリーミング型としてエントリーしていることから、ポテンシャルは高いといえるだろう。また、ちゃんみな「Never Grow Up」は黎明期に分類されがちなラジオ型がType2となっており、非常に速いスピードで訴求が進んだことが窺える。

カラオケ型はロング・ヒットの先に

 さて、次に注目したいのは、上半期から下半期にかけてストリーミング型からカラオケ型に移行した「マリーゴールド」の動きだ。同タイプの楽曲は下表3の通り、米津玄師「Lemon」や菅田将暉「さよならエレジー」から、back number「高嶺の花子さん」「HAPPY BIRTHDAY」、スキマスイッチ「奏(かなで)」、MONGOL800「小さな恋のうた」などで、国民的な知名度を誇る楽曲が並ぶ。中には「マリーゴールド」のように、上半期から下半期にかけてタイプ変化した楽曲も。

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表3

 カラオケ指標では上位の顔ぶれが週間単位で大きく変化することは少ない。それは、その指標に影響するユーザーのモチベーションが“買いたい”や“聴きたい”の先にある“歌いたい”といった欲求であり、楽曲がロング・ヒットし、マスに対して広く浸透し、そして定着してから初めて、この指標での長期的な上位チャートインを見込むことができるからだ。だからこそヒット・チャートの観点において、カラオケ型への移行は“殿堂入り”にも似た意味を持つといえる。

 ならば、次に“殿堂入り”を果たす楽曲はどれか、予想してみたい。下半期のタイプ分類で、全ポイント占有率が2番目に大きい指標(Type2)がカラオケ型になっている楽曲は表4の通り。

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表4

 Foorin「パプリカ」はキッズソングとして、レンタルショップのコアユーザー層だと考えられるファミリー層から絶大な支持を受けていることもあり、現状はPC等によるCD読取回数をもとにしたルックアップ指標での強さが先行しているようだ。とはいえ、同曲はストリーミング指標やダウンロード指標でも1年以上にわたってチャートインし続けていることからも分かる通り、キッズソングの範疇に留まらない、幅広い層からの認知度を誇っているので、国民的ヒット・ソングとしてカラオケ型に移行する日はそう遠くはないだろう。

 残りの8曲はストリーミング、SNS、動画投稿サイトなどのデジタル・メディアを通じ、若者を中心に訴求してきた楽曲だが、一方でカラオケ指標のポイントも順調に積み上げてきており、こちらも様々な音楽リスナー層でヒット・ソングとしての共通認識が広まりつつあることが分かる。

 以上、これらの9曲は浸透から定着へ、ヒットのフェーズが移り変わりつつある楽曲であると予想できる。また、その多くがストリーミング型になっていることから、現在は楽曲の浸透経路として最も主要なメディアがストリーミングとなっていることも改めて実感させられる結果だ。

 最後にもう少し範囲を広げ、下半期300位内でType2がカラオケ型となった楽曲を見てみよう。ただし、100位以下の順位は一般非公開なので、並びは五十音順だ。

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表5

 2020年、これらの楽曲の中で“殿堂入り”を果たすのはどれか。今年リリースの楽曲でこのフェーズにまで突入するヒット・ソングは生まれるのか。これからの時代、音楽のヒットとは長期的な視点をもって定義し、考察していく必要があるということだ。

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