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<コラム>秋山黄色「モノローグ」に見られる王道と「王道を裏返す」 ~1stフルアルバム『From DROPOUT』を紐解く~



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 秋山黄色が3月4日に1stフルアルバム『From DROPOUT』をリリースした。1996年3月11日に生まれた秋山は、2017年12月より宇都宮と東京を中心にライブ活動をスタート。2019年には【VIVA LA ROCK 2019】【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019】【SUMMER SONIC 2019】に出演し、2020年にはテレビドラマ『10の秘密』の主題歌「モノローグ」を書き下ろした。このことからも分かるように、秋山黄色は今まさに注目されている“新人アーティスト”と言えるが、“新人”という言葉からこぼれ落ちてしまう彼の音楽性があるのもまた事実。秋山黄色の繰り出す楽曲のサウンド・歌詞・展開、そしてその奥に見える彼の像を、ライターの蜂須賀ちなみに深堀りしてもらった。

秋山黄色のボーカル、サウンド、曲構成、歌詞

CD
▲『From DROPOUT』

 秋山黄色が1stフルアルバム『From DROPOUT』をリリースした。

 昨年にはKing Gnu、中村佳穂らとともにSpotify「Early Noise 2019」に選出され、各地のフェスやイベントに出演。今年に入ってからは、ドラマ『10の秘密』の主題歌「モノローグ」で初の書き下ろしに挑戦するなど、各方面からの注目が集まっているタイミングでのリリースとなる。今作はEPIC Records Japanからのリリースであり、このアルバムをもって秋山黄色はメジャーデビューすることになる。

 YouTubeやSoundCloudなどを通じて、ネット上で楽曲を発表するところから音楽活動を始めた秋山黄色。オフィシャルサイトのプロフィール欄には“専門学校フリーター”との記載があるが、同世代の友人たちが次々と就職していくなかで引きこもり状態だった彼の唯一の楽しみがDTMでの楽曲制作だったそうだ。アルバムタイトルにある“DROPOUT”というワードはそんな秋山自身の背景から取ったものだと考えられる。例えば、「やさぐれカイドー」の歌い出し、〈呆然、夜中の2時過ぎてやっと俺だ〉というフレーズは、バイト明けに仲間の溜まり場となっている居酒屋へ繰り出し安酒を食らっていたエピソードから来ているらしく、このフレーズのように、どこか退廃的な雰囲気を感じさせる描写も多い。


▲秋山黄色「やさぐれカイドー」

 さて、『From DROPOUT』の収録曲から秋山のミュージシャンとしての特色や楽曲の作風を改めて紐解いていきたい。

 最も特徴的なのはやはり歌声だろう。高音域でもファルセットを用いず、地声を張り上げるタイプの力強い歌声は、聴く者に強烈な印象を残す。その歌声が感じさせる下から上へ這い上がるようなエネルギーが“DROPOUT”の精神を表現しているようだ。また、「ガッデム」や「クソフラペチーノ」(後者は今回のアルバムには未収録だが初回限定盤DVDにMVを収録)をはじめとしたパンク系の楽曲とも相性の良い声質である。


▲秋山黄色「クソフラペチーノ」

 2つ目の特徴は、エレキギター・エレキベース・ドラムによるバンドサウンドを主とした曲が多く、特に秋山の弾くギターのフレーズが前面に出ている曲が多いこと。「やさぐれカイドー」のイントロ・アウトロのリフのような独特なフレージングも多く、YouTubeに上がっているPLAY MOVIEからも、ギタリストとしての拘りの強さが窺える。


▲秋山黄色「やさぐれカイドー」PLAY MOVIE (Guitar) short ver.

 アルバム特設ページで公開されたセルフライナーノーツによると、バンドメンバーとスタジオでセッションしながら作った曲も多いらしく、例えば「スライムライフ」のように、イントロの長い曲が多い傾向にあるのはそのためか。過去のインタビューでは「DTMは無限にやり直しができるから、何千回もループしていいリフを作るので、ゼロからイチを作ることに関して、人と比較できないくらい試している自信はあります」という発言も見られる。

 曲を分解してみると、A→B→C(サビ)というJ-POPでよく見られる構成をしていない曲も多い。例えば、「chills?」は2番終わりの間奏後にBメロに入り、ラストに向けて再び盛り上がるかと思いきや、その後サビには行かず、そのままアウトロに入り曲が終わる。「エニーワン・ノスタルジー」のように曲の終盤で転調する手法は邦楽でよく見られるものだが、通常は盛り上がりを演出するために用いられる手法であり、この曲のようにキーの下がるタイプの転調は珍しい。全体的にBメロは音数・言葉数が多く、音程の跳躍が激しくなる傾向にあり、それにより、Bメロがまるでサビのように聴こえる曲も多い。

 歌詞に関しては、語感の似た単語を羅列するパートが特徴的だ。分かりやすい例として「やさぐれカイドー」のBメロが挙げられる。

This is beams/慢性退屈/蛆のソープランド/Black line on eye/ミス 財布 何もない分/うちのモンスター/育っていくんだよ…/He 神父 完全トラップ/後ろ向けたらほんと良かったよ/いつからこここんなん建ってんの?

 ここで用いられる単語は文章としての意味性よりも発音時の語感が優先されている印象があり、ヒップホップのフロウともまた違うような、独自のリズム感、スピード感が生まれている。

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J-POPの王道と「王道を裏返す」の狭間

 以上、ボーカル、サウンド、曲構成、歌詞における特色を紹介したが、今回の作品ではフルアルバムだからこその曲数を活かし、これまで挙げてきた曲とは異なる挑戦が見られる曲も収録されている。

 例えば「chills?」はバンド編成的には他の曲と大差ないが、ミックス時に工夫することにより、他の曲とは異なる雰囲気のサウンドを作ることに成功したという。2本のガットギターの掛け合いにデジタルサウンドを掛け合わせた「Caffeine」の音像も新鮮。「クラッカー・シャドー」のように、ギターのフレージングではなくカッティングがメインになっている曲もありそうでなかった。


▲秋山黄色「Caffeine」


▲秋山黄色「クラッカー・シャドー」

 そして、「モノローグ」は「イントロの長さ、楽曲の構成、サビに入るときのギミックなど、ドラマ主題歌ってどうあるべきなんだろうということを、キャラじゃないように思われるかもしれないけど今回はその辺と凄く向き合いました」と本人もコメントしているように、J-POPの王道の構成に挑戦した曲である。先述の通り、秋山の曲はイントロが長い傾向にあるが、アルバム収録曲の中で唯一、この曲はボーカルから始まる。A→B→C(サビ)という型もおおよそ踏襲しており、最後のサビで転調し、キーを上げることによって、クライマックスにおける盛り上がりも演出している。


▲秋山黄色「モノローグ」

 歌詞を読んでみるとさらに興味深い。例えば、邦楽の歌詞に用いられがちな表現に「失ったあとに初めて大切なものの存在に気づいた」といったものや、「ふたりならば悲しみは半分に、喜びは倍になる」といったものがあるが、秋山はこの曲で〈「失った後にしか気付けない」という言葉を/嫌になるほど聞いてなお気付けなかった〉、〈悲しみは2つに 喜びは1つに/それすら出来ずにもがいていたね〉と歌っている。定型句的な表現を引用しつつ、「そうは言うけど実際はこうですよね」という角度から一歩踏み込んだ言い回しをしているのだ。先述のように、「モノローグ」では「王道をやってみる」というのが曲自体の一つのテーマになっている。そんな曲のなかで「王道を裏返す」ような歌詞を書いてみせたところに、作品をよくするために素直にインプット&アウトプットする柔軟性と、とはいえ考えなしにそうしているわけではないのだという意思の強さ、その両方を読み取ることができる。また、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドへと飛び出すメジャーデビューのタイミングで、このような曲をリリースすることに強いメッセージを感じた。

 アルバムを通じて感じられるのは、自身の真ん中にある軸をブレさせることなく、果敢に音楽的挑戦を続ける秋山黄色の姿勢だ。今後の活動にかける期待も膨らむ。




Text by 蜂須賀ちなみ

秋山黄色「From DROPOUT」

From DROPOUT

2020/03/04 RELEASE
ESCL-5362 ¥ 3,100(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.やさぐれカイドー
  2. 02.モノローグ
  3. 03.クラッカー・シャドー
  4. 04.スライムライフ
  5. 05.chills?
  6. 06.Caffeine
  7. 07.猿上がりシティーポップ
  8. 08.夕暮れに映して
  9. 09.ガッデム
  10. 10.エニーワン・ノスタルジー

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