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<コラム>Chara+YUKIが20年ぶりに再始動 こだまし合うなかで生まれた作品『echo』
Chara+YUKIがシングル『楽しい蹴伸び』を1月31日に、ミニアルバム『echo』を2月14日にリリースした。1999年11月26日、シンガーソングライターのCharaと、当時JUDY AND MARYのヴォーカリストであったYUKIが、コラボレーション曲『愛の火 3つ オレンジ』をリリースしてから20年の年月が経ってのコラボレーションとなる。本コラムでは、今回リリースした『楽しい蹴伸び』や『echo』に加え、これまでの20年間にもスポットライトを当てて紐解いていく。
1999年とは全く別のフェイズ
Chara+YUKIが20年ぶりに再始動する。90年代からこの国のポップ・ミュージックに親しんできたリスナーにとって、これは予想だにせぬ朗報だった。あるいは当時を知らない世代からしても、この両者の共演には相当な期待を寄せているはず。その理由はいうまでもないだろう。CharaとYUKIは2020年の現在も日本の音楽シーンを牽引しているトップ・アーティストであり、今回のコラボレーションのもつ意義は、かつてのそれよりも確実に大きいのだから。
そんなChara+YUKIがこのたび世に放つのが、8曲入りのミニアルバム『echo』。その全容を解きほぐすにあたって、まずはふたりが初めてタッグを組んだ20年前を振り返るところから、本稿を始めてみたい。
国内市場におけるCDの総売上がピークに達し、インターネットの普及が加速していた1999年。そんな時代の変わり目に、Chara+YUKIは1stシングル『愛の火 3つ オレンジ』を発表している。当時といえば、YUKIはヴォーカルを務めていたJUDY AND MARYの活動休止期間中。そんなJUDY AND MARYのプロデューサーである佐久間正英、そして彼と同じく元プラスチックスの島武実を中心としたユニット=NiNaへの参加を経て、YUKIはCharaとのコンビ結成に至っている。
▲Chara+YUKI「愛の火 3つ オレンジ」
その後、JUDY AND MARYは解散。2002年にYUKIは日暮愛葉プロデュースのシングル『the end of shite』でソロ・デビューを果たしている。そう、いま思えばChara+YUKIはソロ・アーティスト=YUKIの誕生を用意したプロジェクトでもあったのだ。
▲YUKI「the end of shite」
一方のCharaは、この時点で7枚のアルバムをリリース(YEN TOWN BAND『MONTAGE』を含めると7枚)。ひとりのシンガーソングライターとして確固たるキャリアを築いていた彼女は、出産を控えていた最中にYUKIとのコラボレーションを実現させている。その記念すべき1stシングル『愛の火 3つ オレンジ』のアレンジを担当していたのが、デビュー時からCharaと制作を共にしてきた浅田祐介。こうした制作体制および両者の状況からすると、当時このプロジェクトはまずCharaがリードする形で動き始めたことがうかがえる。
▲Chara「Sweet」
Chara+YUKIとしての活動は、ひとまず「愛の火 3つ オレンジ」1曲のリリースにとどまるが、両者の共演はその後も引き続いていく。それが2001年にデビューした女性5人組のロック・バンド、Mean Machine。98年から水面下で活動を始めていたこのバンドで、YUKIとCharaはなんとツインドラムを担当。メイン・ヴォーカルを俳優の伊藤歩に委ねていることもさることながら、ガレージ/オルタナティヴ・ロックを起点としたささくれ立ったサウンドは、ふたりのディスコグラフィのなかでもかなり異色だが、じつはこのMean Machineも今回のChara+YUKI再始動と無関係ではない。そこについてはまた後述したい。
それから現在にいたるまでの両者の動向については、あえて細かく説明するまでもないだろう。YUKIがこれまでに発表したスタジオ・アルバムは9枚。ソロ・アーティスト=YUKIの音楽的な充実ぶりは、既にバンド時代を凌駕していると言っていい。一方、そんなYUKI以上のペースで2000年代以降もリリースを重ねてきたCharaは、シンガーとしてはもちろん、自身のサウンド・プロデュースにおいても作品を追うごとに進化を遂げている。音楽家として、現在の二人は初めてタッグを組んだ頃とは全く別のフェイズにいるのだ。
そんな二人がChara+YUKIとして再び動き出すトリガーとなったのが、2019年に発表されたYUKIの最新アルバム『forme』。同作に収録されている「24hours」の作曲を手掛けているのがCharaで、このときに改めてケミストリーを感じた両者は、そのままCharaの自宅で制作を続行。そこで生まれたいくつかのデモがきっかけとなり、二人は約20年越しのミニアルバム『echo』をついに完成させたのだ。
リリース情報
ミニアルバム『echo』
- 2020/2/14 RELEASE
- <通常盤(CD)>
- ESCL 5219 2,500円(tax out)
- <完全生産限定盤(LP(12インチアナログ))>
- ESJL 3117 3,500円(tax out)
- 1. 愛の火 3つ オレンジ(2020version)
- 2. You! You! You!
- 3. ひとりかもねむ
- 4. 楽しい蹴伸び
- 5. YOPPITE
- 6. 鳥のブローチ
- 7. Night Track
- 8. echo
ライブ情報
【Chara+YUKI LIVE “echo” 2020】2020年4月8日(水)、9日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
東京・Zepp Tokyo
2020年4月22日(水)、23日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
大阪・Zepp Osaka Bayside
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二人から生まれたアクチュアルなサウンド
▲Chara+YUKI Mini Album『echo』Teaser
『echo』のオープニングを飾るのは、Chara+YUKIのデビュー曲「愛の火 3つ オレンジ(2020version)」。しかも、それはイントロの勇壮なトランペットがさっそく示しているとおり、現在の彼女たちによってアップデートを遂げた最新バージョンだ。
同曲のサウンド・プロデュースを担ったのは、東京とLAを拠点とするヒップホップ・クルー「CIRRRCLE」のトラックメイカー、A.G.O。マーチング・バンドが賛美歌を奏でているかのようなオリジナル版のムードを継承しつつ、今回のリアレンジでは現行のヒップホップに迫るファットなビート・プロダクションが搭載。そこにCharaとYUKIはみずからツイン・ドラムを重ねている。そう、Mean Machineの経験がここでまた活かされたのだ。
ふたりはこの曲の終盤に新たなヴァースも書き加えている。即興で歌ったテイクをそのまま採用したという、この楽しげなアウトロは、20年のときを経て生まれ変わった「愛の火 3つ オレンジ」を何よりも象徴している。
つづく「You! You! You!」は、BPM130前後のエッジーなテクノ・ポップ。サウンド・プロデュースを担当したのはSeihoで、ここで二人のヴォーカルには大胆なヴォーカル・エフェクトが施されている。フロアで一心不乱に踊るCharaとYUKIの姿が思わず目に浮かぶ、ストイックでクールなビート・ミュージックだ。
3曲目「ひとりかもねむ」は、大沢伸一が作曲とプロデュースを手がけたハウシーなダンス・トラック。これまでCharaと幾度も共作を重ねてきた大沢なだけに、もはやその相性は疑うべくもないだろう。そんな都会的できらびやかなサウンドにYUKIの甘い声とガーリーなボキャブラリーが加わった、非常に洗練されたナンバーだ。
そして、ミュージック・ビデオも公開されたリード・トラック「楽しい蹴伸び」。Charaの最新作『Baby Bump』にも参加し、その後のツアーのバンマスも勤めた気鋭のプロデューサーTENDREによるメロウなシンセ・ブギーに乗せて、CharaとYUKIは<新しい水着に気づいて>と挑発的に歌ってみせる。その可憐なハーモニーには思わず身もとろけそうだ。
▲Chara+YUKI「楽しい蹴伸び」
GREAT3の白根賢一がサウンド・プロデュースを手掛けた「YOPPITE」は、今作でも随一のスウィートな1曲。聴きどころはなんといっても、CharaとYUKIが重ねるウィスパー・ヴォイスだろう。アンビエントな音像に浮かぶ二人の気だるげな歌声が、この作品にチルなムードを演出している。
「鳥のブローチ」のサウンド面を託されたのは、Kan Sano。Charaの近作を支えてきた気鋭のキーボーディストである彼に加えて、この曲にはTHE NOVEMBERSの小林祐介(ギター) と吉木諒祐(ドラム)、そしてCurly Giraffeこと高桑圭がベースで参加し、さらにYUKIもドラムを披露。エレクトロニカ/シューゲイザーの意匠を踏まえた、キュートで幻想的なトラックに仕上がっている。
アルバムも終盤。7曲目の「Night Track」を手掛けているmabanuaは、2010年代以降のCharaの諸作(「Toy Soldier」「恋文」など)に深く携わってきたキーパーソンだ。ネオソウルを思わせるつんのめったビートが鳴り響くなか、ふと聞こえるYUKIの<なんかCharaと踊りたいんだよね>という声。どうやらこれはプリプロ中にYUKIが発した言葉をmabanuaが録音し、それがそのまま採用されたらしい。彼女たちの仲睦まじいやりとりと現場のプライヴェートなムードさえも作品に収めてしまう彼の手腕は、あらためて見事だ。
▲Chara「恋文」
そして、エンディングはタイトル・トラック「echo」。この静謐なフォーク・トラックはCharaがみずからサウンド・プロデュースを手掛けている。岸田繁(くるり)がギターとベース、ミックス・エンジニアでtoeの美濃隆章が参加しているが、それ以外の演奏はすべてCharaとYUKIによるもの。「Night Track」のYUKIに反応するようにCharaがささやく<歌ってよYUKI>という一節がとても印象的だ。
このアルバムのサウンド面を指揮したのはChara。そしてリリックでイニシアティヴを発揮したのがYUKI。ソロ・アーティストとしてそれぞれの道を歩んできた彼女たちの現在地がここには刻まれている。『echo』とはその名の通り、YUKIとCharaのクリエイティヴィティがこだまし合うなかで生まれた作品なのだ。そう、ここに20年前を懐かしむようなムードは微塵もない。新しい音楽と戯れ、その喜びを謳歌するChara+YUKI。そんな二人から生まれたアクチュアルなサウンドが、『echo』には収められている。
リリース情報
ミニアルバム『echo』
- 2020/2/14 RELEASE
- <通常盤(CD)>
- ESCL 5219 2,500円(tax out)
- <完全生産限定盤(LP(12インチアナログ))>
- ESJL 3117 3,500円(tax out)
- 1. 愛の火 3つ オレンジ(2020version)
- 2. You! You! You!
- 3. ひとりかもねむ
- 4. 楽しい蹴伸び
- 5. YOPPITE
- 6. 鳥のブローチ
- 7. Night Track
- 8. echo
ライブ情報
【Chara+YUKI LIVE “echo” 2020】2020年4月8日(水)、9日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
東京・Zepp Tokyo
2020年4月22日(水)、23日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
大阪・Zepp Osaka Bayside
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