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<コラム>ベストアルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』特集 ~現在のMISIAのモードをレビュー



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 MISIAにとって7年ぶりとなるベストアルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』が1月22日にリリースされた。最近のMISIAに関するホットな話題としては、『NHK紅白歌合戦』でのライブが挙げられるだろう。紅組のトリとして出演したMISIAは、ステージにドラァグクイーンを登場させ、レインボーフラッグを掲げた演出を施した。また、楽曲もビートを効かせて披露。デビュー当時からアンダーグラウンドなカルチャーやクラブカルチャーと親和性を持ったアーティストであることが、改めてはっきりしたライブだったであろう。そして、このタイミングでのベストアルバムのリリース。詳細は後に譲るが、MISIAのこれまでを振り返りつつも、現在のMISIAも感じられる本作品のレビューを寄稿してもらった。

ジャズに接近したことは必然だった

 MISIAからベストアルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』が届けられた。

 2013年に発表された『MISIA Super Best Records -15th Celebration-』から約7年ぶりのベスト盤となる本作は、タイトル通り、“SOUL JAZZ”をコンセプトに制作された。「Everything」「つつみ込むように…」「アイノカタチ」といったヒット曲の再録に加え、「CASSA LATTE」「愛はナイフ」など4曲の新曲、堂本 剛、マーカス・ミラー、MIYACHIなど国内外のアーティストをフィーチャーした楽曲も収録。ほとんどの楽曲がビッグバンドのスタイルで録音されるなど、SOUL JAZZのスタイルをさらに進化させた内容となっている。一般的なベストの枠を超え、現在のMISIAのモードが端的に示された作品と言えるだろう。

 まずはMISIAが掲げる“SOUL JAZZ”について説明したい。トランぺッター・黒田卓也を共同プロデューサーに迎えた同プロジェクトがスタートしたのは、約3年前。きっかけは2016年9月に開催された【Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN】での共演だった。黒田を中心に、ニューヨークを拠点にジャズの最前線で活躍しているミュージシャンとのセッションはMISIAに斬新な刺激を与え、大きな可能性を感じた彼女はこのメンバーと一緒にプロジェクトを立ち上げることを即決。それが“SOUL JAZZ”だったというわけだ。


 R&B、ヒップホップ、ソウルミュージックなどをルーツに持つMISIAが、最先端のジャズ・シーンで活動を続けている黒田たちの演奏にインスパイアされた背景には、現在進行形のジャズとブラックミュージックの刺激的な関係がある。その起点となったのはやはり、2012年に発表されたロバート・グラスパー・エクスペリメントのアルバム『Black Radio』だろう。00年代初めからジャズとヒップホップを自在に行き来しながら活動していたロバート・グラスパーが、“ロバート・グラスパー・エクスペリメント”名義で初めてリリースした本作には、レイラ・ハサウェイ、ミシェル・ンデゲオチェロなどが参加。ヒップホップ、R&Bにさらに強くコミットし、2013年のグラミー賞で最優秀R&B賞アルバムを受賞した本作によってロバート・グラスパーは、00年代ジャズの方向性を決定づけた。そのスタイルを端的に言えば、“ジャズとブラックミュージックの融合”ということになるだろう。このアルバムにはMISIAがリスペクトを示し続けているエリカ・バドゥも参加。MISIAが黒田とのセッションをきっかけにジャズに接近したことは必然だったと言っていい。



 2017年にはミニアルバム『MISIA SOUL JAZZ SESSION』をリリース。「BELIEVE」「オルフェンズの涙」といった代表曲のセルフカバーを中心とした本作には、黒田が率いるミュージシャンのほか、世界的ミュージシャンのマーカス・ミラー(Ba)、ラウル・ミドン(G)なども参加。ジャズ、アフロビート、ネオソウル、ブラジリアンなどが混ざり合うハイブリッド感覚に溢れたサウンドは、音楽ファンの間で高い評価を獲得した。

 さらにSOUL JAZZを掲げたライブも積極的に行い、2017年に【MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2017】、2019年には【MISIA SOUL JAZZ SWEET & TENDER】を開催。そのなかで培ってきた音楽性を反映させ、SOUL JAZZのエッセンスをさらに追求しながら制作されたのが、今回のベストアルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』というわけだ。


▲【MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2017】short ver

 『MISIA SOUL JAZZ SESSION』と同様、黒田を中心にクレイグ・ヒル(Ts)、コーリー・キング(Tb)、大林武司(Key)、ラシャーン・カーター(B)、アダム・ジャクソン(Dr)といったニューヨークの凄腕ミュージシャンが参加した本作。MISIA、黒田、そしてミュージシャンたちの体に流れているルーツミュージック、既存のスタイルに捉われない奔放なアイデア、高度な演奏技術と独創的なプレイヤビリティが一つになったこのアルバムには、ジャンルや国境を越えた豊かな音楽がたっぷりと反映されている。

 アルバムの1曲目に収録されているのは、「Everything」の新録バージョン。言うまでもなくMISIAの代表曲であり、2000年代以降の音楽シーンを象徴する名バラードだが、大迫力のビッグバンドとともにリアレンジされることで、楽曲の新たな魅力を引き出している。軸になっているのはやはりMISIAのボーカル。原曲のメロディを踏まえながら、より自由度の高いボーカル表現やフェイクを加えることで、この楽曲の背景にあるソウルミュージックのテイストを強く押し出している。同じく彼女の代表曲の一つである「陽のあたる場所」もそうだが、SOUL JAZZのコンセプトを重ねることで、原曲のポテンシャルをさらに増幅させているのも本作のポイントだろう。

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交流を自由に楽しむダイバーシティ(多様性)

 初収録となる新曲も充実している。「CASSA LATTE」は、「INTO THE LIGHT」を手がけた松井寛の作曲によるダンサブルなナンバー。ハウスミュージックとビッグバンドジャズを結合させ、ナチュラルな高揚感に溢れたナンバーに仕上げている。ドラム、ベースの有機的なグルーヴ、ホーンセクションのライブ感に満ちた演奏、アメリカのゴスペル・クワイア“Sing Harlem Choir”による厚みのあるコーラスもこの曲の魅力だ。



 曲名からドキッとさせられる「愛はナイフ」は、切なくも愛らしいメロディラインを軸にしたバラードナンバー。“愛のナイフを相手の心の奥に突き刺し、いつまでも記憶に残したい”という切実な思いを込めた歌詞(作詞は「残酷な天使のテーゼ」を手がけたことで知られる及川眠子)をMISIAは、濃密なエモーションと正確なピッチを共存させたボーカルによって見事に描き出している。



 また、国内外の魅力あふれるミュージシャン/アーティストとのコラボレーション楽曲も本作の聴きどころだ。「Mysterious Love(feat.MIYACHI)」には、ニューヨーク在住の日系アメリカ人のラッパー、MIYACHIが参加。“英語わかりません”と連呼する「WAKARIMASEN」で注目を集めたMIYACHIは、この曲でも日本語と英語を交えた独特のフロウを披露。レゲトン~ラテンのフレイヴァ―を含んだMISIAの歌声と絡み合いながら、エキゾチックなムードを演出している。


▲MIYACHI「WAKARIMASEN (PROD. MIYACHI)」



 黒田のトランペットの独奏から始まる「オルフェンズの涙 (feat. Marcus Miller)」には、マーカス・ミラーが参加。ボーカルの旋律との距離を上手く取りながら、シンプルにして奥深いベースラインを響かせ、ソリストとしての魅力をしっかりと発揮している。独特の“訛り”を感じさせるドラムの演奏も素晴らしい。



 そして、堂本 剛が作詞・作曲を手がけた「あなたとアナタ(feat.Tsuyoshi Domoto)」も話題だ。MISIAのラジオ番組『星空のラジオ』(NHK-FM)でスタジオライブを行ったことをきっかけに交流が始まったという両者。ファンク、ブルース、ソウルをルーツに持つ堂本のメロディは、MISIAの声質、ボーカルのスタイルともきわめて自然に溶け合っている。二人の声が重なり、豊潤なグルーヴが生まれる瞬間もまた、この楽曲のポイントだろう。



 アルバムを通して感じられるのは、音楽を枠にはめることなく、出会ったミュージシャン、シンガー、ラッパーとの交流を自由に楽しみながら、生き生きとした躍動を感じさせる楽曲を生み出していくMISIAの姿勢だ。そのスタンスを言葉に置き換えるなら、ダイバーシティ(多様性)ということになるだろうか。人種、セクシャリティ、歴史、音楽性などの違いを受け入れ、自由に独創性を発揮し、前向きなパワーに溢れた音楽へとつなげるーーその在り方こそが彼女の最大の魅力であり、それは本作『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』にも強く反映されている。

 アルバムのリリース後には、本作を引っ提げたアリーナ公演【MISIA SOUL JAZZ BIG BAND ORCHESTRA SWEET & TENDER】を開催。“SOUL JAZZ”はMISIAの音楽観やキャリアにも素晴らしい影響を与えるはず。デビュー20周年を越えた彼女はここから、さらに豊かな音楽の世界を我々に見せてくれるだろう。




Text by 森朋之

MISIA「MISIA SOUL JAZZ BEST 2020」

MISIA SOUL JAZZ BEST 2020

2020/01/22 RELEASE
BVCL-30054 ¥ 3,630(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Everything
  2. 02.CASSA LATTE
  3. 03.来るぞスリリング (feat.Raul Midon)
  4. 04.Mysterious Love (feat.MIYACHI)
  5. 05.変わりゆく この街で
  6. 06.BELIEVE
  7. 07.オルフェンズの涙 (feat.Marcus Miller)
  8. 08.キスして抱きしめて
  9. 09.真夜中のHIDE-AND-SEEK
  10. 10.LADY FUNKY
  11. 11.陽のあたる場所
  12. 12.あなたとアナタ (feat.Tsuyoshi Domoto)
  13. 13.つつみ込むように…
  14. 14.あなたにスマイル
  15. 15.愛はナイフ
  16. 16.アイノカタチ

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