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U2、ストーンズらを手掛けた名プロデューサー、スティーヴ・リリーホワイトが語るLUNA SEAの新作『CROSS』



Steve Lilywhiteインタビュー

 LUNA SEAの約2年ぶりとなるニュー・アルバム『CROSS』が、2019年12月18日に発売された。結成30周年のメモリアル・イヤーに放つ通算10作目の新作は、LUNA SEAの進化の先にある音楽性を提示するアルバムとなっているが、大きな話題のひとつが、これまでセルフ・プロデュースにこだわってきた彼らが初めて外部の共同プロデューサーを起用したことだ。しかも、それが世界的音楽プロデューサーであり、これまで5度の【グラミー賞】を受賞してきたスティーヴ・リリーホワイトだというから驚きである。

 U2、ザ・ローリング・ストーンズ、XTC、ザ・キラーズなど大物アーティストの数々を手がけてきた彼を得て、『CROSS』はさらに鮮明にLUNA SEAのロック・サウンドを浮き彫りにしている。彼にとっても、日本人アーティストとの作業は初めての経験だ。世界のトップ・プロデューサーがLUNA SEAをどう見たか? リリーホワイト氏に語ってもらおう。

5人のバラバラの個性が集まると
“グッド・クレイジー”になる

――『CROSS』でのLUNA SEAとの共同作業はどのようなものでしたか?

スティーヴ・リリーホワイト(以下スティーヴ):『CROSS』に関わることが出来たのを、誇りにしているよ。現在の私はプロデューサー業からほぼ引退しているんだ。5年間インドネシアのジャカルタに住んでいるよ。だから復帰するとしたら、最高のアーティストの最高のアルバムでなければならなかった。『CROSS』はまさにそんなアルバムだった。LUNA SEAは素晴らしいよ。

――LUNA SEAとはどのようにして知り合ったのですか?

スティーヴ:5年ぐらい前に、音楽業界のコンベンションで東京を訪れて、INORANと知り合ったんだ。とてもクールな人で、私が手掛けた作品を何枚も聴いていて、(私のことを)好きなプロデューサーだと言ってくれた。それから数年して、LUNA SEAが外部プロデューサーと一緒にやりたいと言っている話を聞いたんだ。それは彼らがデビューしてから30年で初めてのことで、メンバー全員が異なったヴィジョンを持っていたけど、結局すべての道が私に向かっていた。みんながフェイヴァリット・アルバムを挙げていったら、どれも私がプロデュースしたアルバムだったんだよ。彼らと初めて直接会ったのは、(2016年に)彼らがさいたまスーパーアリーナでショーをやったときだった。

――彼らと会って、どんな印象を持ちましたか?

スティーヴ:私はアーティストをプロデュースするとき、必ず事前にライブを見るようにしているんだ。CDでは誤魔化すことが出来るし、ライブでこそバンドの真価が判るものだ。LUNA SEAのライブを見て、卓越した演奏力と情熱があることが判った。もちろん一緒にやれるかは、彼らの人間性によるものだった。それで会って話してみたけど、みんな最高に楽しい人々だったよ。1人1人がマンガのキャラクターみたいだった。SUGIZOは“ミスター・ディテール”だ。真矢は“ミスター・ハッピー”。いつもジョークを言っていて、ハッピーなんだよ。Jは“ミスター・ロックンロール”で、INORANは“ミスター・スロッピー”だ。“スロッピー=ズボラ”といっても決して悪口ではないよ。“ミスター・ディテール”と絶妙なバランスを成して、最高のケミストリーが生まれるんだ。そしてRYUICHIは“ミスター・フランク・シナトラ”だな。彼は根本的にバラード・シンガーなんだよ。シャウトするタイプではなく、ロマンチックなんだ。そんな5人のバラバラの個性が集まると、もちろんクレイジーになる。でもそれは、“グッド・クレイジー”なんだ。


――彼らはあなたにどんな要素を求めましたか?

スティーヴ:ジョークだな。いろんな冗談を話してもらいたがった……(笑)。それはあながちウソではないんだ。チームワークを円滑にするのが、私の役割のひとつだった。3人のメイン・ソングライターがいて、SUGIZOの曲の場合、ドラム・トラックはSUGIZOと真矢の2人で録るんだ。INORANの曲の場合も、同様のパターンだった。

――レコーディング・セッションの間は日本に滞在していたのですか?

スティーヴ:いや、基本的に私はジャカルタにいたよ。トラックを送ってもらって、日々のコミュニケーションはFaceTimeで取っていた。それでもレコーディング・セッションには3、4回顔を出したよ。主にミーティングのためにね。大きなテーブルに集まって、エンジニアがプレイバックする。そんな作業のすべては撮影されていたし、何らかの形で世に出るかもね。

――プロデューサーとしてのあなたの役割はどんなものでしたか?

スティーヴ:私の仕事は、アーティストが誇りに出来て、ファンが満足するアルバムを作ることだった。そんな作業において最も不必要なのは、私のエゴだよ。私はミュージシャンに何テイクも録らせて、その中からベスト・テイクを選ぶタイプのプロデューサーではない。1テイク、ベストなものを録ったら完成だ。レコーディングにおいて、私のエゴなんてどうだっていいんだ。たったひとつ重要なのは、ベスト・テイクを得ることなんだよ。プロデューサーという人種は、一度ヒットを飛ばすと自分が大物だと勘違いする傾向があるけど、私はそういう人種ではないんだ。私が手がけたアルバムは、必ずしもすべてがヒットしたわけではない。でも、どのアーティストも私と一緒に作ったアルバムにはハッピーでいてくれるようだ。「酷いアルバムになってしまった!」と言われたことは、私の知る限り一度もないよ。アーティストが自分の孫にも聴かせたくなるアルバムを作るのが、私の仕事なんだ。

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U2なんて4人とも
INORANの100倍ぐらいズボラ(笑)

――日本人アーティストの作品を手がけるのは初めてだそうですが、イギリス人やアメリカ人アーティストとの作業とはどのように異なりますか?

スティーヴ:日本人アーティストは作業が丁寧で、細部まで入念に作り込むと感じた。“ミスター・ディテール”のSUGIZOはもちろんだけど、“ミスター・スロッピー”のINORANにしても、イギリス人やアメリカ人アーティストよりはるかに細かいところまでキッチリしている。U2なんて4人ともINORANの100倍ぐらいズボラだよ(笑)。SUGIZOは微生物学者に近いディテールへのこだわりを持っていた。ギター・トラックでいえば、INORANは10テイクぐらい持ってきて、私に選ばせるんだ。その一方で、SUGIZOは1テイクしか持ってこないけど、それは完璧な出来なんだよ。SUGIZOはあらゆる時代の、あらゆる音楽に精通している。INORANは飲むのが大好きだ。それが最高のコントラストになっているんだ。SUGIZOのディテールへのこだわりは、彼のコーヒーカップにまで行き届いている。昨日は一緒にインタビューを受けたけど、彼はわざわざデヴィッド・ボウイのプリントが付いたコーヒーカップを持ってきていた。それが彼の美学であり、こだわりなんだ。


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――これまで世界の数々のアーティストをプロデュースしてきましたが、初めて日本人アーティストを手がけるにあたって、LUNA SEAを選んだのは何故ですか?

スティーヴ:たったひとつの、シンプルな理由だよ。どうせやるなら、日本で最高のアーティストとやりかったんだ。私にとって大事なのは、過去にどんなアーティストと仕事をしたかではなく、現在、そして未来にどんな仕事をするかなんだ。「30年前にU2をプロデュースしたんだ。どうだい、クールだろ?」なんて言う気にはならない。今だってプロデュース作業は緊張するよ。すごい責任を伴うからね。バンドは私を信頼して、彼らの世界に招き入れてくれるんだ。しかもLUNA SEAは過去30年、外部プロデューサーを自分たちの世界に呼んでこなかった。大物プロデューサー顔なんて出来やしない。無茶苦茶緊張したよ! LUNA SEAのメンバーもみんな「これまでずっとセルフ・プロデュースしてきたポリシーを変えるんだから、特別なプロデューサーが必要だった。あなたが興味を示さなければ、セルフ・プロデュースに戻るだけだよ」と言っていた。まあ、お世辞なんだろうけどね(笑)。

――かつてあなたはプロデュースを手がけるにあたって、シンガーの歌唱を最も重視すると語っていましたが、RYUICHIのヴォーカルについてはどう感じましたか?

スティーヴ:その通り、私はヴォーカルにこだわるんだ。シンガーは歌えなければならない。実は初めてRYUICHIのヴォーカルをLUNA SEAの過去作品で聴いたとき、違和感を覚えたんだ。それが彼の声質なのか、それともプロダクションの仕方が悪いのか判らなかった。でも、さいたまスーパーアリーナでのショーでRYUICHIのヴォーカルを聴いて、すべての疑念は消えていった。彼の生の歌声は素晴らしい。私がやるべきことは、それを誰もが聴ける形にプレゼンテーションすることだったんだ。


――ヴォーカルが日本語ということで、言語の壁は感じましたか?

スティーヴ:いや、まったく感じなかった。RYUICHIのヴォーカルには、ありったけの感情が込められていた。彼が何に対して感情を込めているかは、あまり気にしないんだ。大事なのは、感情が込められていることだよ。クリエイティヴな作業は、壁にぶち当たりがちだ。プロデューサーとしての私の任務は、その壁にドアと取っ手を付けて、向こう側に行くことが出来るようにする作業だったんだ。

――イギリス人のあなたの視点から見て、LUNA SEAはイギリスの音楽から影響を受けているでしょうか?

スティーヴ:うん、随所でイギリスの音楽から触発されてきたことが判るよ。INORANは1980年代の音楽から影響を受けてきたし、SUGIZOは1960年代まで遡る。キング・クリムゾンなどのプログレッシヴ・ロック。彼らは若い頃からロンドンへの憧れがあったそうだね。20歳の頃、初めてやったフォト・セッションがロンドンだったそうだ。さらにU2の出身地であるアイルランドの音楽にも興味があると話していた。「LUCA」は(U2の)「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地)」と「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」を思わせるし、「You’re knocking at my door」を聴いて「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」を連想する人もいるだろう。同じ混沌としたムードが出ているよ。ただ、サウンド的には全然異なるんだ。影響元から脱皮して、新しいものを生み出すんだよ。

――あなたとLUNA SEAの関係は、今後も続くでしょうか?

スティーヴ:うん、私はそれを望んでいるよ。『CROSS』はLUNA SEAを再び強く結びつけた作品だ。彼らはこれからもアルバムを作り続けるだろうし、きっとまた私にも声をかけてくれるんじゃないかと考えている。彼らにこう言ったんだ、「次のアルバムでは、もっといろいろ違うことをやってみよう」ってね。もちろん『CROSS』は素晴らしいアルバムだけど、彼らは異なったことも出来るバンドだと確信している。彼らがどこに向かっていくのか、これからも見届けていたいね。


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