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『アナと雪の女王2』 OST特集~大ヒット中の主題歌「イントゥ・ジ・アンノウン」手掛けたロペス夫妻に注目



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 『アナと雪の女王2』が日本公開から3週連続で興行成績1位を記録した。初週末興行収入19億円でディズニー・アニメーション史上歴代No.1オープニング成績を樹立と、早くも社会現象化に向けてロケットスタートしている。『アナ雪2』は公開から17日間でディズニー・アニメとピクサー・アニメとして史上最短の60億円超えとなり、動員466万人を記録。日本と同日公開となった全米でも好スタートを収めており、前作に匹敵するようなヒットを記録中だ。今回、『アナ雪』シリーズを語る上で外せない劇中音楽の魅力を、それらを手掛けたロペス夫妻にフォーカスして紹介しよう。

『アナ雪』旋風から5年―新たな名曲が誕生!

 2014年の前作『アナと雪の女王』(全米公開は2013年)は社会現象と言われるまでのヒットとなり、日本だけで興行収入255億円を売り上げた(興行通信社調べ)。未就学の小さな子供が「レリゴ~♪」と歌いながら街を歩く姿を目にするたび、そのかわいさに笑顔になったが、同時に社会現象とはこういうことかと何度も思ったほどだ。

 前作の公開から5年、先に観た人は「よく出来ている」と口を揃えていたが、期待値が高いだけに続編で何が展開されるのか不安もあった。しかし、実際は期待を上回る作品だった。今の時代に必要なメッセージが随所に盛り込まれ、前作で多少唐突感があった両親の外遊中の死や、エルサの魔法の謎、姉妹間の違いなど、気持ちがモヤモヤしていた疑問がまた、アナとエルサの疑問でもあったことがわかった。

 その謎を解く道標として、今回も音楽が大きな役割を果たしている。エルサにしか聴こえない、幻想的な響きの歌声(ノルウェー出身のシンガー、オーロラが担当)に導かれるように歌い始める楽曲「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」をはじめ、登場人物のセリフでもある歌は、前回に引き続きロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻が手掛けている。



 この5年の間に、ロペス夫妻は、映画『リメンバー・ミー』に提供した淡い感情がせつなく空間に漂うような主題歌「リメンバー・ミー」で、『アナ雪』に続いて2度目の【アカデミー賞】に輝いたが、海外の記事によると、その多くの時間を『アナと雪の女王』のために費やしていたことが明らかに。1994年のミュージカル第一弾『美女と野獣』以降、ディズニーが力を入れている映画の舞台化に、夫妻はまず着手し、現在もブロードウェイでヒット中のミュージカル『アナと雪の女王』のために新たにオリジナル・ソングを書き下ろしている。



 当然ながら、当初から「レット・イット・ゴー」を超える楽曲というプレッシャーがつきまとった。しかし、ロバートによると、すぐに作曲を始めることはなかったという。今回制作サイドからの依頼で、夫妻はストーリー作りから作品に関わることになり、リサーチのために架空の民族のノーサルドラのモデルになったサーミ人が住むノルウェーやアイスランドにも赴いた。それらのプロセスのなかで、2人は曲作りのアイディアを熟成させていったという。そして、ストーリーを具現化させていく段階で、歌が必要となってきた時点から満を持して作曲に取り掛かったという。

 ミュージカルにおいて、歌はセリフだ。前作の「レット・イット・ゴー~ありのままで」も、今作の「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」も、ずっと苦悩を胸に抱えてきたエルサが前に進むための決意や心情を激白する歌で、それが英語版のイディナ・メンゼル、日本語版の松たか子の心からの熱唱を生んだ。それぞれ物語が大きく展開するシーンで歌われるだけに、ドラマチックな構成でありつつ、壮大になりすぎず、サビでは高音域の声を力いっぱい響かせているため、歌うのは簡単ではないかもしれないが、耳馴染みがよくとてもキャッチーだ。ここにロペス夫妻の巧さが表れており、問題に立ち向かうエルサの果敢な姿をより象徴的に際立たせているのは間違いない。



 声優のキャスティングも素晴らしい。英語版のイディナ・メンゼルは、『レント』などブロードウェイで実績を積み上げてきたミュージカル出身の実力派女優。以前からシンガーとしても活動していたが、「レット・イット・ゴー」をきっかけに世界中で注目され、日本では2015年6月に日本武道館を含む東名阪で初来日公演を行い、名声を確かなものにした。

 また前作は、世界各国で吹替版が公開されたが、今作はノーサルドラのモデルとなったサーミの言葉でも吹替版が制作されるなど、前作より言語数が増えている。世界25か国語で歌いつないだ「レット・イット・ゴー」のミュージッククリップは、語感の違いが楽しめたのと同時に、世界中の人が自分達の言語を通して、同じ物語に夢中になれる素晴らしさを感じた。そして、松たか子の気高くありつつ、ピュアな歌声が海外でも高く評価された。



 日本では『レ・ミゼラブル』をはじめ、海外のミュージカルを翻訳した作品が多く公開されているが、オリジナルが英語詞の場合、意味を変えずにメロディーに合うよう日本語に翻訳するのは至難の業であり、それを歌うにはさらに高度なテクニックが求められる。それに見事に応えているのが松たか子だ。セリフから入る「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」で<未知の旅へ、踏み出そう!>と感動の絶唱を聴かせてくれる。



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ポスト“アラン・メンケン”と名高いロペス夫妻の功績

 さて、これらの楽曲を生み出しているロペス夫妻の手腕は、当然ながらアメリカのショービズ界で大いに評価されている。その功績は数々の名曲を世に送り出してきたディズニー音楽の巨匠アラン・メンケンを彷彿させる。ロペス夫妻は『アナと雪の女王』で彗星のごとく現れた作曲家チームと思われがちだが、そうではない。1998年に作曲のワークショップで知り合い、2003年に結婚した2人は、今では映画音楽界随一の最強チームになったが、ロバート自身は独身時代から単独でも活躍し、名誉ある記録の保持者でもある。

 その記録とは、【エミー賞】、【グラミー賞】、【アカデミー賞(オスカー)】、【トニー賞】の4つを全て受賞した音楽界のグランドスラム【EGOT】制覇者であること。これまでに【EGOT】を達成したことがあるのは、ウーピー・ゴールドバーグやリタ・モレノ、メル・ブルックスといったレジェンドを含む15人しかいない。ロバートは2004年にブロードウェイ・ミュージカル『アベニューQ』で【トニー賞】、2008年にTVアニメ『Wonder Pets!(原題)』で【エミー賞】、2012年にミュージカル『ブック・オブ・モルモン』で【グラミー賞】、2014年に「レット・イット・ゴー」で【アカデミー賞】を受賞し、最年少の39歳で、しかも10年という最短期間で【EGOT】を制覇。さらにロバートはその後も再び同4つの賞を受賞し、初めてダブル・グランドスラムを達成した人物として、その名を残している。

 さらに、ロバートはアニメーション映画を対象とした【アニー賞】を『アナと雪の女王』と『リメンバー・ミー』で受賞。残念ながらノミネーションで終わってしまったが、2011年の『くまのプーさん』では妻のクリステンがカンガの声優を務めて話題を呼んだ。そんな偉業を成し遂げながら、インタビューなどで目にするロバートとクリステンは、いつもにこやかで、温和な人柄の仲のいい夫婦という感じにも好感が持てる。



 ここで、もう一度『アナと雪の女王2』に話を戻したい。前述したようにクリス・バック監督は、オリジナルスコアの作曲家クリストフ・ベックのことも『アナと雪の女王』のDNAと語っている。彼が担当するオリジナルスコアで注目なのは、サーミ人の伝統音楽であるヨイクをモチーフにした音楽だ。前作でも「ナーナーナヘイヤーナ~♪」と歌い始めるノルウェーの女声合唱団カントゥスの歌がオープニングで使われ、幻想的な雰囲気を作り上げたが、今回もまた彼女達の歌が使われている。また、ノーサルドラの人々が森で歌う合唱曲がとても印象的で、あの無垢な歌が映画の空気感を大きく変え、それまで敵対関係にあった人々が融和し、ひとつになる団結力の象徴としてシーンを彩っている。表現の違いはあるが、「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」と同じように雄弁に、観る人の心に訴えかけてくる。合唱という音楽が持つ特別な力をあらためて感じられ、心を奪われる。

 冒頭でも触れたように『アナと雪の女王2』には、今の時代に必要なメッセージが随所に織り込まれており、それを理解するためのナビゲートを歌がしてくれる。アナが歌う「わたしにできること」も、クリストフとトナカイのスヴェンが歌う「恋の迷い子」も、エルサとイドゥナ王妃の「みせて、あなたを」も、意味を深く掘り下げて、聞いた人それぞれが独自の解釈ができる一方で、子供にも理解できる歌詞になっている。ぜひ歌詞にも注目してほしい。





 また、本作は前作同様、人気アーティストが歌うポップヴァージョンも登場。パニック!アット・ザ・ディスコが歌う「イントゥ・ジ・アンノウン」は、先日ミュージックビデオが公開されたばかりだが、公開から約3週間で1,600万回再生を超えるなど、再び『アナ雪』旋風を巻き起こしている。この曲と、よりドラマチックに仕上がったウィーザーの「恋の迷い子」、優しい歌声が何とも心地よいケイシー・マスグレイヴスの「魔法の川の子守唄」はエンドロールで流れるため、ぜひとも最後まで聞いてほしい。





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