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『音楽の未来』レポート 谷和博(KKBOX)×本堂清佳(アマゾンジャパン) ~ストリーミングへの移行に伴うプロモーションの在り方とは?



株式会社ニューズピックスとBillboard JAPANによる、これからの音楽のあり方について考える「音楽の未来~NOW PLAYING JAPAN~」が、2019年8月から10月にかけて、全3回開催される。8月27日に開催された第1回目のカンファレンスでは、モデレーターに音楽ジャーナリストの柴那典氏を迎え、アジア大手の音楽聴き放題サービスKKBOXの国内展開を行うKKBOX Japan LLCより代表の谷和博氏、現在世界各国でストリーミングサービスAmazon Music Unlimitedを運営するアマゾンジャパン合同会社デジタル音楽事業部レーベルリレーションズ部長の本堂清佳氏の3名が登壇。世界のストリーミング市場の現状と、国内アーティストが世界で勝つための戦略をテーマにセッションが繰り広げられた。

ストリーミングへの移行に伴うプロモーションの在り方

柴 那典:従来の音楽は“売る”モノで、発売日に向けてプロモーションをし、CDを何枚売るかがひとつのゴールでした。それが今、音楽の売り方がCDなどのフィジカルからストリーミングへと変わってきています。また、かつては日本で売れてから海外進出するケースが多かったですが、現在は、もちろん言語や情報の壁はありますが、基本的に日本も他国も同じタイミングで展開されています。ストリーミングサービスが展開されるようになって音楽市場の在り方はどう変わったと思われますか?

谷 和博(KKBOX):台湾のマーケティングチームとの共通見解なのですが、K-POPはアジアそして欧米を含めたマーケティング・プランを組んでいて、リリース直後に世界を廻ります。台湾でライブをした時も、グループの中に中国語を話せるメンバーがいて、現地の言葉で盛り上げていました。TWICEも日本に来た時、日本語を話していましたが、ああいうアプローチを、楽曲リリースから世界に広がっていく前提のアプローチとしてしっかり準備・プランニングされているところが、音楽ストリーミング以降、楽曲が一気に世界中に広がっていく状況をきちんと捉えたマーケティングになっていると思います。

本堂 清佳(Amazon):フィジカルからストリーミングへの移行に伴うプロモーションの在り方という観点で言うと、“まず聞いてもらう”ための施策はどちらもあまり差異はなく、テレビ露出などの新譜プロモーションを中心に行われていると思います。一方、今の日本のストリーミングにまだ足りていないと思うのは、お客様に継続してもらうための施策ですね。フィジカルですと商品単価も高いので発売日付近の売上をドンっと最大化できればいいのですが、ストリーミングではお客様にずっと継続して聴いてもらう必要があります。もちろんサービスプロバイダー側はお客様に継続的にサービスを利用していただけるように様々な施策を打っていますが、もう少しアーティストと一緒に取り組めることがあるのではと思っています。例えば、日本のフィジカル市場では、好きなアーティストがランキング上位を獲得するための応援目的や、握手会などのイベントへの参加目的のために同じCDを複数購入するファンがいます。ストリーミングにおいても、アーティストのファンが継続的に聞き続けることでベネフィットを得られるような施策を強化することで、収益を伸ばすことができるのではと思っています。

:音楽ジャーナリストとしての僕の視点から、本堂さんがおっしゃられたことに関して言うと、ヒットの認識や概念が変わってきていると思うんです。かつて、ヒット曲といえば瞬間的な流行やブームのように、すぐに移り変わっていくものでした。その一方で森山直太朗さんの「さくら」のように、10年、20年ずっと聞かれているような楽曲などをロングヒットと呼んでいました。しかし近年、ストリーミングサービスの上位に入り続けているあいみょんの「マリーゴールド」のように、ヒット曲はすべからくロングヒットになってきています。この点について谷さんはどう思われますか?

:まさに今年象徴的だったのが、あいみょんの「マリーゴールド」でした。昨年末から今年の5月くらいまで連続してストリーミングチャートで1位を獲得しており、Official髭男dismの「Pretender」によって1位は交替しましたが、引き続き上位にランクインいます。これは同じリスナーが繰り返し聞いているからだと思いますが、このように長く聞かれる傾向がどんどん広がっていると思うんです。またこれらのランキングについては、単純にCDだと何枚売れた、ストリーミングだと何回再生されたというところに注目されがちですが、もっと深く見ると“何人のユーザーが”何回聞いたかという、アーティスト楽曲に対するユニークユーザー単位でのエンゲージメントが可視化されるようになってきているので、これは持論ですが、こういったデータをより深くで分析し評価することで、もっと新しい発見があるのではと思っています。


▲あいみょん「マリーゴールド」

:ちなみに、アーティスト側は何人が何回聞いたというデータを見られるのでしょうか?

:個人情報までは分からないのですが、ダッシュボードというかたちで、実際にどういう人たちにどうやって聞かれているのかをグラフで見られる環境になっています。

:アマゾンジャパンさんはいかがでしょうか?

本堂:フィジカル・デジタルをまたぎ、カスタマーがどうアーティストにエンゲージをしているのかがわかるようなデータを提供できるよう、現在開発を進めています。

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各レイヤーがもっとオープンに連携できれば

:今までは売ったら終わりだったのが、現在は楽曲がどこまで深く刺さったか、ライブに来てくれるファンがどれだけいるかが見えてきているということですね。先ほど、谷さんがアジアの視点からK-POPのマーケティングについてお話されましたが、同じくグローバルで展開されているアマゾンジャパンさんのサービスでも、こういうことは見えるでしょうか?

本堂:そうですね。EDMやポップといった様々なジャンルのグローバルプレイリストがある中で、K-POP NOWというグローバルプレイリストは非常に聞かれているプレイリストの一つで、K-POPが世界的に注目されているジャンルのひとつであることを実感します。今まで現地の人は現地語の音楽を聞く傾向が強いと思っていましたが、日本でも韓国語で歌われているK-POPが非常に聞かれています。そのようなカスタマーの視聴傾向からも、言語によるコンテンツの壁が無くなってきているように感じますね。

:ちなみに、ここ5~10年くらい、僕はK-POPを語る時に「韓国は音楽市場が小さいから、グローバルに出る必要があった」と言っていたのですが、最近K-POPの専門家から「その認識はちょっと古い」と言われました。最新のデータを見ると、韓国の音楽市場はどんどん大きくなっていて、もはや世界6位になっています。しかし自国の音楽市場が小さいという認識が韓国の音楽業界内でドグマのように根付いて、それが繰り返し語られているがために日本の音楽業界でもそれが信じてられているようなんです。

:我々が韓国でサービス提供をしていないため、韓国マーケットについて若干不勉強なところがありますが、明らかに台湾や香港に対する日本のアーティストのアプローチと韓国アーティストのアプローチの温度差や、非常に熱心に練られた戦略でタイムリーに展開されている、という違いは感じています。

:お二人にもう一つお伺いしたいのですが、日本でもここ数年でストリーミングサービスのシェア市場が広がってきています。この先さらにシェアが増すと予想していますが、そうなった時に日本の音楽市場にどんな変化が起こると思われますか。

本堂:先ほど申し上げた内容の繰り返しにはなってもらいますが、継続的なプロモーションの重要性が増してくると思います。ストリーミングのビジネスの構造としては、いかに顧客を獲得して、いかに辞めてもらわないかに尽きます。顧客獲得に関しては、ストリーミングへ楽曲を解禁するアーティストも近年急激に増えていますし、ストリーミング自体への認知に伴って各サービス会員数が右肩上がりになっていますので、当分はそこまで苦労しないと思います。大事なのはその後だと思います。顧客が辞めないための思考を凝らさないと、音楽市場全体の売上を維持していくのは厳しくなると思います。パッケージや所有を好む日本の音楽ファンの需要をストリーミングで解決する方法をより考えていくことになるのではと思っています。

:現在の日本の音楽産業においては、コンテンツやプラットフォーム、そしてオンライン/オフラインも含めて、全てが水平分離されていると言いますか、コンテンツ制作、配信、プラットフォーム、ライブ制作、プロモーター、チケットなど、一つ一つがしっかりと大きなビジネスとして成立してしまっているがゆえに、なかなか垂直統合的なアプローチが起こりづらい部分があると思っています。我々の母国である台湾がそこまで大きなマーケットではないこともありますが、あらゆるレイヤーのビジネスをグループ内で直接取り組んでいることで、垂直統合した、新しいユーザー体験をスピーディーに提供できています。自らアーティストのプロデュースも、ライブ制作やチケット、ストリーミング上でのプロモーションも一体的に様々なチャレンジやトライアンドエラーが出来ます。ただ日本においては、それぞれのプレイヤーがすごく大きくて、かつストリーミング事業社が10社以上と競合しているため、なかなかここが統合しづらい。先日、イープラスさんとSpotifyさんが提携発表をされましたが、僕自身の希望では、各レイヤーがもっとオープンに連携できればと思っています。自分が使っているサービスが何であれ、聴いているのがどんなアーティストであれ、シームレスに繋がれる音楽体験を作っていかないと、ユーザーが「なんだか面倒くさい」と感じてしまっては普及しきれないのではと少し思っています。

:なるほど。各社がローンチする際、聞き放題として浸透して顧客を獲得していったその先、つまりアーティストのライブに行ったり、繰り返しその楽曲を聞いたりと、音楽が生活の中に根付いている動線や、サービスが一過性のものではなく日常の中で繰り返し浸透していくための施策が必要になっていくということですね。短い時間でしたが、現状の音楽ストリーミングサービス、そしてアジア/グローバル市場、日本の音楽市場のこの先について語っていただきました。どうもありがとうございました。

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