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Interview:ムラカミカイエ 「それぞれ最適なものがその時々にある」
現在、日本のファッションやビューティー業界をはじめとしてさまざまな企業のブランディングを手がける『SIMONE』の代表であるクリエイティブディレクターのムラカミカイエ。SIMONEの立ち上げ以前には、ファッションデザイナーとして活躍するかたわら、パリコレのファッションショーでランウェイのための選曲も数多く手がけてきたムラカミ氏にとって、音楽は日常の中でどのような役割を果たすものなのか。数十人のメンバーがともに働くオフィスでの音楽環境も含め、映像との関係性なども話を聞いた。
教会のように上から降ってくるような感覚が好き
−−「SIMONE」のオフィスでは普段から音楽をかけられているのですか?
ムラカミカイエ:音楽で気持ちを上げて仕事をするタイプなので、必ず音楽はかかっています。あとは音の鳴りが、スピーカーからドン!というよりは、教会のように上から降ってくるような感覚が好きなので、天井高が高いところがよくて、オフィスの場所を選ぶ時にもいつも天井までの高さを重視しています。オフィスはここで3つ目になるのかな?ここが今までで一番高いですね。
−−たしかに、とても天井が高くて気持ちの良い空間ですね。オフィスにSonosを設置されたと伺いました。空間としてはいかがですか?
ムラカミカイエ:もうとにかくパワフルで「オーバースペックすぎないか!?」ってぐらい、すごいです。このうちのオフィス空間も十分に埋められますし。大きいスクリーンと一緒に使いたいかな。Sonosのことは2014年くらいにニューヨークで見て、ずっと欲しかったんです。当時はスマートスピーカー自体がまだ普及する前でしたが、その先駆けがSonosという感じで、ずっと使ってみたいなあと思っていて。
−−スマートスピーカーとして最初に見た時から、どういった点がムラカミさんの中では気になっていたのでしょうか。
ムラカミカイエ:とにかく音が良いということを、ニューヨークの友達たちがみんな言っていて気になっていました。確か、バーニーズに行った時にポップアップストアが展開されていて、僕もそこで実際聴いて「え、これすごい」と。それが2016年くらいだったような。その頃って、小さいスピーカーをいっぱいいろんなところに置くっていうスタイルがメインストリームだったように思います。だからSonosのようないわゆる“360度系”ってその当時はあまり無くて、新鮮に感じましたね。
−−ちなみにオフィスでかける音楽の選曲はどなたが?
ムラカミカイエ:僕自身もしますし、同じWi-Fi環境下で誰もがアクセスできるので、いつもAirPlayの奪い合いです(笑)。曲が2~3分かかっていないと、誰かが次!みたいな。しかも、今、誰がAirPlayを使っているかはわからないという感じで。なので、特に選曲のルールを決めているわけでもなんでもありません。でも月曜の朝にいきなりしんみりした曲とか聴きたくないなと思うので、その辺は空気読んで、っていう話はしていますけど(笑)。
−−色んな曲がかかって楽しそうです。ムラカミさんご自身は、どういったジャンルをオフィスでかけられていますか?
ムラカミカイエ:ファッションデザイナーだった時代から、ショーの選曲や演出を担当していたこともあり、その頃に幅広くなんでも聴くようになっていって。だからプレイリストとかもわりとジャンルなどは混ざっているかもしれない。デトロイトテクノからシカゴハウス、ジャズ、ファンクからヒップホップからR&Bから……でも個人的には、新旧問わずブラックミュージック全般が好きですね。
−−ロックなどが混ざってくることはないですか?
ムラカミカイエ:ロックも好きなんですけど(笑)。でもどっちかっていうとブラックミュージックを中心に聴いているかな。
Text:鈴木絵美里 / Photo:Masanori Naruse
映像と音のいいとこどりをして使えたら
−−オフィスの20代の方々がかけたもので新しい音楽を知るようなこともありそうですね。
ムラカミカイエ:世代によって違いや傾向があるのは本当に面白いですよね。今の若い子だと日本のシティポップと洋楽を一緒に混ぜて聴く、とか。日本のヒップホップも最近は洋楽と混ざっていても違和感がないし、そもそもiTunesやSpotifyのプレイリストがそうなってるじゃないですか?うちの若いスタッフとかは、そういったレコメンデーションで出てくるプレイリストで気に入ったものをそのままかけたい人も多いようで。
ファッションの仕事だし、イベントも多いからみんな音楽は切り離せないものなんじゃないかと思います。ファッションデザイナーはシーズンでコレクションのテーマを決める際、だいたい何十年代のミュージシャンの誰々からインスパイアされました、みたいな話が頻繁に出てきますしね。もちろん今もですが、昔って、ファッションとサブカルチャーの繋がりが強く“この人が作るこういうスタイル”という紐付きがより強かったように思います。話の中で音楽は必然的に出てくるし、洋服の勉強をしているなかでも、音楽アーティストの知 識っておのずとつくし、求められてしまうので。特に僕らの世代は、ファッションの知識と音楽の知識が、すべて一緒になっていましたからね。
−−若いスタッフの中にはDJをやられているような方も多いですか。
ムラカミカイエ:多いですね。みんな何かしらできるんじゃないかな?今はDJも簡単にできちゃいますからね。アプリも進化しているし。あと、僕らは映像も制作するので必然的に音楽はついてきちゃいますよね。
−−そうですね、知識とセンスが重要で、その音源を所有しているかどうかは重要ではなくなってきていますもんね。ご自身で作られるような方もいる?
ムラカミカイエ:いますね。たとえば半年前くらいまでうちに川口くんっていうスタッフがいたんですけど、GUCCIMAZEという名前で活動していて、フライング・ロータスとかニッキー・ミナージュのジャケのロゴとか、ポストマローンのマーチャンダイズのデザインしていて。で「カイエさん、会社をやめようと思うんですけど」と言われて「いいじゃん、早くやめてアメリカ行きなよ」って言って(笑)。彼は曲も作っていたし自分で服やポスターもつくるし、自分もそうでしたけど、できる子は昔から当たり前になんでもやりますよ。
−−そういう人はどんどん増えてきそうですね。今、SIMONEには、どういう職種・種類の方がいらっしゃるんですか?
ムラカミカイエ:グラフィックデザイナー、WEBデザイナー、映像ディレクター、プランナー、プロデューサー、……僕は今だに服のディレクションもしますが、グラフィックからプロダクトデザインも自分でしますしね。普通“ブランディング”というと、1から10までのことをやる会社が多いと思うんですが、SIMONEは0から10までをやる、というか。事業開発から入ることもかなり多いので、もう“自分たちで全部できる”という状況になっていて、わりと多種多様な人が集まっている会社です。
−−プロダクトそのものの開発からクライアントとともにされるわけですね。
ムラカミカイエ:ええ。だから最近は商業施設を作ったりとか、「そもそもこの土地が空いているんだけどここで何をやったらいいか」みたいなところからプロジェクトに加わったり、都内のターミナル駅周辺の都市モデルの再設計にも携わったりしていて。でもそういった色々な仕事のなかでも、僕は常に空間や音楽も含むカルチャーは繋げて考えていますね。
−−現在、ご自宅ではどのような音楽環境がありますか?
ムラカミカイエ:今、ベルリンにも拠点があって行き来しているんですが、向こうで借りている部屋は家具がすべて付いていて。そんな流れもあって、あんまりいろいろ物を持たず自分が常に身軽でいたいという気持ちが強いので、手軽に持ち運べるものにお金をかけることが多いです。昔からあんまり定住感覚がないんですよね(笑)。海外の友人の中にはSonosユーザーは多いんですが、もう少し小さいサイズがあればなと思っています。
東京ではホワイトキューブのような部屋に住んでいて、あまり大きいセットを家に置きたくなくて。スピーカーとプロジェクター機能がついたガジェットがあるんですが、最近はそれでNetflixとかYouTubeとかをずっとつけていて、それが部屋の照明の役割も果たしている感じです。できるだけ家具の存在感みたいなものがないほうがよくて、自宅ではHAYとコラボしたSonos ONEを使わせてもらっているんですが、色も上品なペールグレーでスピーカーという物としての存在感は消えているのでいいなあ、と。そのガジェットにもスピーカー機能はありますけど、やっぱり少し物足りなさを感じていて、このSonosの音の迫力で好きな音楽や映画を楽しんでいますね。映像と音のいいとこどりをして使えたらいいなって思っています。
Text:鈴木絵美里 / Photo:Masanori Naruse
それぞれ最適なものがその時々にある
−−よりシアターっぽくなる、ということですね。
ムラカミカイエ:断然、迫力が違います。家にいる時は、ほぼNetflixをつけてるので(笑)もう大体見てるんじゃないですかね。映画の仕事に関わるケースもあるので、今のネットドラマでの人の描き方とか演出の仕方とかは、すごく勉強になるんです。日本のテレビとか映画の演出論と全然違うんですよね。データマーケティングを基にしつつ人間のインサイトに対して訴えかける演出論みたいなものが、自然とあの場で醸成されていて、観ていて本当に面白くて。今、こういうの求められているよなあ、と。
でも、シアターといいつつ常に仕事をしている時に傍で流しているような状態なので、企画書を作っている時とかに気になったら顔を上げて観て、気になった部分をメモに記して、また本題の企画書に戻る、という。そういう感じです。なので、そうやって仕事をしつつ観ている環境を、より面白くできたらいいなと思います。
−−最後に、ムラカミさんが最近よく聴かれている音楽があれば教えていただきたいです。
ムラカミカイエ:僕はやっぱりフライング・ロータスとかケイトラナダとか、LAの、ジャズとかに影響を受けているんだけど音楽の表現形態としてはビート、みたいなものにすごく惹かれます。音楽を大きくかけて仕事をしたいっていうのも、そうやってグルーヴと一体化して自分の気持ちを鼓舞しながらデザインをするのとかがすごく好きなんだと思う。
ロックとかもすごく好きだったしかつては自分もバンドとかやっていましたけど、ロックの持っている衝動性みたいなものを受け取りたい時とそうじゃない時があるように感じていて。たとえば会社のオフィスとかもひとつのコミュニティとして捉えていくと、ブラックミュージックってわりと最大公約数を束ねられる音楽だなと思うんです。なんとなく、人間の根源的なところに訴えかけるビート感っていうのがあるんじゃないのかなあと。だから、自分ひとりでいる時に聴く音楽と、こういうオフィスみたいな環境で聴く音楽、あとは車の中で聴く音楽、などそれぞれ最適なものがその時々にあるので自然と選んでいます。
−−状況ごとのスイッチとして選んでいる、ということですね。
ムラカミカイエ:オフィスについては“ここにきて気持ちが切り替わる”みたいなことも大事だなと思いますし。Sonosを通して、ジェイムス・ブレイクとかフランシス・アンド・ザ・ライツをかけていると本当に教会みたいな感じになりますから。たとえば雨が降っている時とか、そういう音楽環境で集中して仕事したいなあ、みたいな。……まあ、こういうのも選曲家時代のくせなのかな(笑)。この場に合った音像ってあるな、とか。ああこういう体験ってあるな、とか。そういうことを音楽を通してみんなに知ってもらうことってできるんじゃないかなといつも思っていますね。
Text:鈴木絵美里 / Photo:Masanori Naruse